楽天は前期決算(2018年12月期)で初めて総売上1兆円(1兆1014億円)の大台を突破した。展開するサービスは約70と幅広く、「楽天経済圏」の拡充を目指すなど、すべての生活シーンに入り込む狙い。
同社は楽天市場や楽天トラベルが属するコマース事業、楽天カードや楽天証券、楽天銀行が属するフィンテック(金融技術)事業など4つのカンパニー体に分かれており、ゴルフ場予約を主業務とする「楽天GORA」はコマースカンパニーに属している。
ゴルフ事業の従業員は約100名、これを束ねるのが執行役員の反町希一氏だ。同氏は「5年後を目処にゴルフの総合サービス企業を目指す」と意気軒高。さて、どのように? その詳細を聞いてみた。文末の「動画インタビュー」と併せてご覧頂きたい。
<h2>楽天経済圏におけるゴルフ事業</h2>
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<strong>約70のサービスを展開する楽天は「楽天経済圏」の構築を目指すそうですが、その基本思想は何ですか。</strong>
「一番大事なのは、楽天IDですべてのプラットフォームを一気通貫できることでしょうね。これは生活の全てを『楽天化』するという考え方で、最近はインターネットじゃない事業も立ち上げています」
<strong>その中でゴルフ事業の位置づけはどうなりますか?</strong>
「我々は子会社ではなく事業部の位置づけですが、2003年にGORAを買収して、その翌年から楽天GORAとしてサービスをはじめたという経緯です。元々、楽天の中で小さな予約サービスをしていましたが、2004年から統合して市場に対応しています」
<strong>ゴルフ事業単体の売上は?</strong>
「特に公表していません」
<strong>ライバルのGDOが260億円規模ですが、比べてどうです?</strong>
「あのぉ、あちらにはクラブ販売等も含まれるので、一概に単純比較はできなくて・・・。当社の事業収益は、ゴルフ場から頂く送客手数料が95%以上を占めますが、年間の利用者数も公表していません」
<strong>事業規模をイメージできるファクトをください。</strong>
「そうですねえ。たとえば契約コースは全国2250分の2000なので、大半のゴルフ場をカバーしています。内訳は、楽天GORAから予約してゴルフ場へ送客するコースが1900強。
これとは別に、2年ほど前に名門コースを対象に予約サービスを行っていたスポニチゴルファーズ倶楽部(現・楽天SGC)を買収しており、そこが当社に未加盟のコースを100程度もっていましたので、併せて約2000という感じです」
<strong>御社がゴルフ場から得る送客手数料は、1人700円ぐらいが相場ですか。</strong>
「料金は契約コースによって微妙に変わるので非公開ですが、まあ、予約市場のビジネスモデルはどこもほとんど一緒でしょう」
<strong>ゴルフ場の「予約市場」には複数の競合企業がありますが、御社の位置づけはどうなりますか?</strong>
「あのぉ、そこは恐らく、ウチがナンバーワンというか、日本最大級の予約サイトと言い切れるでしょう。当社の優位性として大きいのは楽天IDを使えること、そしてポイントです。あとは楽天市場というサイトがあるので、システム的な安定感を含めて利用者のハードルが低いのかな、と。
まとめれば、約2000コースをオンライン予約できて、楽天IDが使えて楽天スーパーポイントも利用できる。先ほどの『楽天経済圏』の話じゃありませんが、買い物にも旅行にも使えるので、そのあたりが他社との差別化になると思っています」
<strong>今後の予約ビジネスの可能性をどう見ますか?</strong>
「そうですねえ。来場者全体に占めるネット予約の割合は恐らく2割、場合によっては25%ぐらいでしょう。つまり少ないわけですよ。現状、ゴルフ市場の中心はネットに疎い60~70代なので、我々が伸びる余地は十分あるし、最終的には4割程度になると思ってます」
<strong>「4割」の根拠は何ですか。</strong>
「まず、ゴルフ市場自体はそれほど伸びないと思うんですね。今後ネットを使わない団塊の世代が引退してきて、その反面、今の30~50代はネット予約が普通になっています。世の中的にこの世代が中心になれば、ネットでの成約率は高まるだろうと。4割は、なんとなくのイメージですが(笑)。それと、ベースになるゴルフ人口もなんとなくの類推ですが、700万人程度だと思っています」
<strong>本誌は「800万人規模」を主張しています。</strong>
「なるほど、それもありでしょうね。以前、先進国はゴルフ関与率が人口の8%という話を聞いたことがありましてね、いずれにせよ700万~800万人規模がいいところじゃないでしょうか。特に今は、団塊の世代あたりが牽引しています」
<h2>インバウンドの促進で市場を支える</h2>
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<strong>その団塊の世代が間もなく後期高齢者に突入する。そこでナイアガラの滝が現れて、ゴルフリタイアが激増する。これ、最大の課題ですね。</strong>
「なので猶予はあと5年だと思ってます。5年もある、5年しかない、印象は解釈によって分かれますが、今から5年が勝負でしょう」
<strong>御社の解釈はどちらですか。</strong>
「まず、もの凄く自己本位的な考え方をすると、インターネットを使わない世代がリタイアしても当社の業績へのインパクトはほとんどないでしょう。その意味では、ネガティブにはまったく捉えていませんし、むしろ相対的にシェアが上がるので、当社への依存度は高まると思います」
<strong>まあ、局面的にはそうでしょうが、今後5年でプレー人口が減れば、比例してゴルフ場も閉鎖する。プレーの場がなくなると、世代に関係なく母数が急減します。</strong>
「そう、普通に放置したらそうなるでしょうね。ゴルフ場がなくなると我々の『在庫』(送客先コース)もなくなるので、そこにソリューションを提供する必要があると考えています。
その際いくつかの側面があるんですが、ひとつはインバウンドへの期待がもの凄く大きいんです。実は一昨年10月、韓国に三大予約サイトがあるんですが、この3社と契約して日本のゴルフ場の予約枠を提供してるんですよ。
社内シェア的にはまだ地味だけど、人数は着実に増えています。特に冬の九州と夏の北海道ですね。韓国のゴルフ熱はもの凄くて、プレー人口は600万人、そのくせ、というか、その割にコースは400~500しかありません。
LCCが九州の主要空港に来ているので、この地域の冬のゴルフ場は3割が韓国人というケースもあって、特に空港から近いコースが人気です。なのでインバウンドを厚くして、日本のゴルフ場を下支えする、これが我々のミッションだと思っています」
<h2>企画は走りながら考える</h2>
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<strong>一方、国内ゴルファーの需要創造という意味では「予約のバリエーション」も大事になる。予約の敷居を下げる、あるいは多様な予約スタイルで需要喚起を促しますが、現状、企画数は何種類ぐらいあるんですか。</strong>
「そうですねえ。当社は4人1組での予約を『通常予約』と呼んでいますが、これ以外に好評の『一人予約』や『海外予約』(ハワイ、グアム、タイ、ベトナム)、パブリック協会等の『競技エントリー』も当社を窓口にして予約できます。
それ以外にも『電車でゴルフ』みたいな企画モノが無数にあって、週一程度のミーティングで誰かが思い立ったら提案する、という感じですね」
<strong>個人的には「電車でゴルフ」がいい企画だと思ってます。これは、駅からのアクセスがいいゴルフ場を集めて予約を受けてますが、クルマ離れの風潮と併せてタイムリーですね。</strong>
「ありがとうございます(笑)。あれは根強い人気があるから残っているんですが、ダメな企画はどんどん消えていきます。とにかく、生まれた企画をどんどん形にして『走りながら考えろ!』と。
企画の数に目標はありませんが、毎週何かしらリリースしているから週一で生まれる感じですね。それと、技術は日進月歩だからキャッチアップするのが大変で、まったく時間が足りません」
<strong>「技術」への対応とは?</strong>
「まず、スマホの登場は革命的だったし、そのアプリ開発だけでも大変な作業なんですね。恐らく今後、デバイスはサイズの違いやスマホとタブレットの違い、ブラウザーによっても違うため細分化すると思いますが、今は5Gの話をしていまして、するとコンテンツ自体の在り方がどんどんリッチになってくる」
<strong>なるほど。5Gは高速・大容量を飛躍的に高めるから、コンテンツの表現力も格段に上がる。</strong>
「そうなんです。あのぉ、予約事業で凄く大事なのは、ゴルファー自身にそこでプレーしている姿をリアルに想像させることなんですよ。で、それを意識した当社の人気コンテンツに『フォトギャラリー』というのがあって、約1800コースの全ホール写真を自社で撮ったものなんです。まずは写真でイメージさせる。さらに一歩進めると、」
<strong>ドローンの可能性もありそうですね。上空からの俯瞰映像だけじゃなく、例えばドッグレッグホールの曲がり際に高い木立があって、その高さから撮った映像とか。リアル感が一気に増すでしょう。</strong>
「それと、ユーザーマインドという意味では『口コミ』も大事な要素ですね。ウチへの投稿量は多分、競合他社と比べてかなりのボリュームだと思いますが、つまりデータ量が豊富にあるわけです。この口コミもイメージを醸成する手段になるし、これらを総合的に絡ませればリアリティが膨らむでしょう」
<strong>脳は勘違いしますからね。5GやVRを絡ませれば、いずれシーサイドコースの潮風がPC画面から漂ってきたりして。</strong>
「あはははッ。でもね、限りなくその方向に近づくと思います」
<h2>5年後はゴルフの総合サービス会社</h2>
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<strong>ところで、御社は若者需要の掘り起こしを目指す「楽ゴル」という企画をやってます。練習場やゴルフ場など、業界団体と連携して安価にゴルフ体験をさせるものですが、捗々しい成果は聞こえませんね。</strong>
「う~ん、我々みたいなサービス業がゴルフ未経験者にリーチするのは凄く難しい。これ、『楽ゴル』やって正直な感想です」
<strong>徒労感が満載ですか。</strong>
「というほどでもないんですが、要するにこれまではボランティアベースだったわけですよ。そこが問題で、ビジネスとして定着しないものは市場にも定着しないと思うので、ここはもっと肉食になっていいのかなって。
もうひとつ、業界の課題はレディス対策ですが、ゴルフ場からは『楽天経由の予約は女性が多い』と言われるんですね。楽天トータルの買い物やポイントの絡みもあるんでしょうが、ここも視点の置き方が大事になってくる。『電車でゴルフ』なんかは女性の需要開拓に有効と思えるし、今後は女性に向いてるゴルフ場を推奨する企画もあり得ます。
クラブハウスが綺麗、食事が美味しい、距離が短いとかですね。男性には狭くてトリッキーと思われているコースでも、飛ばない女性は意外と意識してないんじゃないか。つまり、個々のゴルフ場への評価に従来とは違った視点を与えるのも大事な作業かなと思ってます」
<strong>という話を総合すると、ゴルフ場に対するコンサルビジネスもできそうですね?</strong>
「そこは、イエスです!」
<strong>ビッグデータを構築して、AIに食わせるとかの話につながっていく。</strong>
「つながっていきます」
<strong>そこに放り込むデータはどんな中身になりそうですか?</strong>
「どうでしょう。楽天トータルから見たデータもあるでしょうが、それだけではなく、外部との連携やゴルフ関連企業との関りも考える必要があるでしょうね。たとえばインドア施設って沢山あるじゃないですか。具体的には何も進んでいませんが、当社の開発部と連携してショットデータを集めるとか、これをフィードバックすることを含めて可能性がある。
一方でゴルフ場向けのコンサルは、現状でもほぼほぼ行けると思っていて、先ほどの『口コミ』の話でいえば個々にバズられるワードが違うので、そこに着目した提案をしたり。あと、ゴルフ場自体のウェブサイトにも返信機能はありますが、ゴルファーからの書き込みにほとんど返信してないのが実情なんですね」
<strong>そこはもったいないですね。いちいち返信するのは面倒だし、ただでさえゴルフ場は人手不足に喘いでいる。でも、せっかく客がコミュニケーションを取ろうとしてるのにスルーしたら、「無視された」という悪感情が残りかねない。</strong>
「そうなんです。現状、このあたりにゴルフ場のサービスマインドが表れているのかな。ですから、返信する文化(の伝達)を含めて当社がやれるかもしれません」
<strong>トイレが汚い、鰻重を頼んだら30分も掛かったとか。書き込みには改善のヒントが沢山あって、定性分析に生かせます。</strong>
「そう、改善のヒントは確実にあると思いますね。だから新たなソリューションを作れると思っていて、それが5年後、2023年が目処になると思うんです。恐らくこの時、後期高齢者問題が業界を直撃するはずだから、それまでに回答を用意しておきたいと」
<strong>5年後に理想とする企業像は?</strong>
「はい。予約サービスでひとつの柱は作れましたが、これを大事にしながら総合ゴルフサービス企業になりたいと。我々は業界の人から見れば『異質な奴』とか、黒船扱いされるんですが、」
<strong>ていうか、GORAの買収時は「黒船感」が満載でしたが、あれから十数年経っても予約会社のままですよね。もっと刺激的なことをバンバンやると思ってましたが。</strong>
「なので、これからは市場全体を俯瞰したゴルフサービスの商品をバンバン出していきたいと。業務内容に境界線を設けずやっていきたいですね。わたし自身ゴルフ・ラブがありますし、業界愛もありますから(笑)。とにかく期待してください!」
*月刊ゴルフ用品界(GEW)6月号「VIPの視点」から抜粋・要約。以下、反町氏との動画インタビューを掲載する(約7分間)
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