片山晋呉が日本ゴルフツアー選手権のプロアマ大会で起こした問題が、世間を賑わせている。SNS上では真偽入り乱れた情報が飛び交っており、片山バッシングに拍車が掛る。
日本ゴルフツアー機構(JGTO)は6月6日、報道関係者向けに簡単な経緯と謝罪文を配信し、その翌日、JGTOの副会長で選手会長の石川遼が、以下の謝罪文を配信した。
<blockquote>
今回のプロアマで起きてしまった件に関しまして、不愉快な思いをされたプロアマのお客様をはじめ、スポンサーや関係者の皆様に大変なご迷惑をおかけし、またファンの皆様にもご心配をおかけしましたことをジャパンゴルフツアー選手会として深くお詫び申し上げます。
</blockquote>
続けて、ツアー改革に着手した矢先の出来事だけに「遺憾であり、とても残念でなりません」と苦衷を明かしている。文面に、片山への批難を込めた印象もあるが、ツアー改革に挑む石川にすれば怒り心頭となるのも頷ける。
とはいえ、事実確認が終わる前の「公式謝罪」は様々な波紋を広げそうだ。片山のファンサービスに対する姿勢は以前から疑問視されており、もっと言えば評判が悪い。しかし、傷害を伴う日大の「暴走タックル」とは異なり「不愉快な思い」が発端だ。
2日続きの公式謝罪は、果たしてそれだけの大罪を片山が犯したのか? 仮に数試合の出場停止を含む重い処分が下されたら、選手会の紛糾を招きかねないなど、波乱含みの様相なのだ。
「早すぎる」公式謝罪の背景には、スポンサー企業(森ビル)への配慮があった。
トーナメントの開催には冠スポンサーが必要であり、長期低迷にあえぐJGTOは、スポンサーへの営業で「プロアマ」を売り物にしている。プロアマの参加者は主催企業の得意先が招かれるなど「接待効果」を期待するため、「不愉快な思い」はご法度だ。JGTOのトーナメント規程(36条)には、
<blockquote>
プロアマトーナメントに出場する同伴アマチュアに不適切な対応をしたり、不快感を与えるような態度をする行為
</blockquote>
を違反とし、初回は30万円の罰金、3回目以降は懲戒及び100万円など段階的に重くしている。
むろん、これ自体は選手の意識向上を図る上で必要だろうが、今回の片山のケースでは同伴アマが途中でプレーをやめ、帰ってしまったことから騒ぎが大きくなった。JGTOは6月末に詳細を公表する予定だが、急いで謝罪文を出したことが事態を複雑にした面は否めない。スポンサーへの配慮から自発的に行ったもので、日本のツアーが如何にスポンサーに依存しているかを改めて白日に晒した格好だ。
そもそも、男子ツアーはどのような成り立ちになっているのだろうか? ツアーを統括するJGTOの収支構造を見ることで、まずはこの点を明らかにしたい。
海老沢前会長が話したこと
GEWは2014年4月号で、当時JGTOの会長だった海老沢勝二氏の取材記事を掲載している。4年前のインタビューだが、組織構造と規模感は現在と変わらないため参考になるだろう。なお、2018年度事業計画の最新数字をカッコ内に付記している。
<strong>JGTOの成立基盤を確認します。2013年度の収支予算を見ると、「受取会費」が1億2000万円ほどありますが、具体的にはどのような中身になっていますか。</strong>
「我々は選手が得た賞金の4%(現3%)をトップオフとして預かっており、試合会場に派遣するフィットネスカーの管理や選手会の事務局運営費もここから出しています。そのトップオフと正会員の年会費1万円を合わせて、1億2000万円(9000万円)ほどあるということですね」
<strong>JGTO全体の規模感はどうなります?</strong>
「そうですねえ、全体の賞金総額は33億5000万円(35億500万円)ほどですが、賞金は選手にいきますので機構の収益には入りません。チャレンジツアー15試合(現AbemaTVツアー12試合)と合わせて賞金総額は35億円(36億8800万円)ほどになります。で、これ以外にQTへの参加費や放映権料など、大会関連の収益もあるんですね。
全体の事業規模という意味では、我々の収益に賞金総額を合わせて49億円ぐらいかな。以上がJGTO全体の規模感です」
<strong>つまりJGTOは50億円規模の事業を運営していて、その4分の1程度が収益というイメージですね。経費面はどうですか。</strong>
「職員35名分の給料もありますが、一番掛かるのは競技の運営管理費です。海外と国内の全試合に競技委員を派遣するため、かなりの出費になるわけですよ。ただし、剰余金は4億数千万円(5億円)残っておりましてね、赤字になったこともなく、健全経営です。不景気が来ても大丈夫、ご安心ください(笑)」
<strong>JGTOの運営費は、選手の稼ぎに頼る部分が多いわけですが、機構と選手会、どちらの立場が上なんですか。</strong>
「それは、なかなか難しくてねえ。親子関係みたいなもんだけど、我々の人事権は向こうがもっています(笑)」
<strong>すると、会長が選手に罷免されることもある?</strong>
「そういうこと(大笑)。まあ、どっちが上ということじゃありません」
以上が記事の抜粋である。
<h2>男女ツアーの逆転現象</h2>
今季25試合の男子ツアーは、ピークの1982年に46試合を開催していた。バブル景気が頂点に向かう90年が44試合など、安定的に40試合台をキープした。それに比べればほぼ半減だから、凋落傾向が否めない。
賞金総額は約35億円で、1試合当たりの平均は1億4000万円。一方、今季38試合の女子ツアーは総額37億円を超え、6年連続で過去最高を更新中だが、1試合当たりの賞金は9800万円と男子に比べ3割ほど安くなっている。
賞金を含めたトーナメントの開催コストは、賞金額の4倍程度を概算とするのが一般的だ。すると、スポンサー企業の出費は女子で4億円弱、男子で5億5000万円超となる。女子は3日間、男子は4日間競技と拘束日数が異なるため、それがコストに反映される面もある。
スポンサー企業はその経費を販促・接待や宣伝費等で計上するが、仮にその企業の利益率を10%とした場合、5億5000万円のトーナメント費用を捻出するには55億円の売上が必要という見方もできる。企業がこれに見合う効果を期待するのは当然のことで、費用対効果を考えれば低コストの女子ツアーに人気が集まるのも頷ける。
その女子ツアーは、スポーツ興行として特殊なコンテンツといえるだろう。一時は不人気にあえいでいたが、2003年に宮里藍が女子高生V(ミヤギテレビ杯ダンロップ女子)を遂げ、プロ転向した翌年の初戦で地元優勝(ダイキンオーキッドレディス、沖縄県)を飾るなど、一躍時代の寵児となっている。
これによりテレビ視聴率が上昇し、日本女子プロゴルフ協会(LPGA)はプロアマ施策に注力する。参加プロは同伴競技者へのラウンドレッスンだけではなく、前夜祭やプロアマの表彰式で招待客の歓心を得るため、化粧や接遇・テーブルマナーに「ビールの注ぎ方」まで指導され「接待スキル」に磨きを掛けた。
純粋に、プロスポーツの在り方としてどうなのかという議論は別にして、ゴルフを媒介にした総合的な「社用興行」として地歩を固めているため、男子ツアーが「目指せLPGA」となるのも当然だろう。
<h2>プロアマの決め方</h2>
トーナメントの数だけプロアマがある。今季は男女合わせて63試合が運営されるため、プロアマも63回ということになる。1回につき40組が定番で、スポンサー企業が40名のプロを選ぶ。プロアマに参加する招待客は、主催企業の重役や得意先、中継するテレビ局の関係者、試合会場となるゴルフ場関係者などに大別される。
プロとアマの組み合わせは前夜祭での「抽選」で決まるケースが大半だが、今回のツアー選手権ではアマがプロを指名する形で組み合わせが決まっている。
片山が関わった「プロアマ問題」では、トーナメント運営会社が招待客とプロの「相性」を事前に調べ、問題が起きにくい組み合わせをするべきだったとの指摘もある。
プロアマの招待客は「選ばれた存在」ではあるものの、すべてが一流の企業人というわけではない。たとえば「ゴルフ場枠」ではそのコースを代表する「強いアマ」が選出されることもある。プロアマの競技方法はベストボールによるチーム戦が一般的だが、「腕自慢」のアマがプロと張り合って、和気藹々のムードが壊れることもあるという。
プロゴルファーは「我」が強い。そのような男子プロと120名ほどの多様な招待客が一日を過ごすプロアマだが、翌日に本戦を控えるプロの一部が「余計な接待などしたくない」と思っても不思議ではなく、同伴アマの性格によっては「不適切な対応」が怒りに発展する場合もあろう。
途中で帰ったケースは今回が初めてということだが、そう考えるとプロアマは、常にクレームと背中合わせという面がある。
以上、男子ツアーの現状とプロアマの位置づけを見てきたが、「片山問題」では図らずも男子ツアーのアキレス腱が露呈した格好だ。プロスポーツ本来の収入源である入場料や放映権料ではなく、ゴルフはスポンサーへの依存度が極めて高い。
JGTOが「プロアマ需要」の掘り起こしに邁進するほど、さらに依存度は高まってしまい、綻びを露呈する可能性も高くなる。その一端が、「早すぎる」謝罪文の発表にも表れている。
<h2>「片山問題」が投げ掛けるモノ</h2>
<img src="https://www.gew.co.jp/wp-content/uploads/2018/06/shingo1.jpg" alt="片山晋呉の「プロアマ問題」 その本質を考える" width="788" height="525" class="aligncenter size-full wp-image-44815" />
JGTOは6日、コトの詳細が明らかになる前に「謝罪文」を配信した。「日大広報部」の問題に触発されて迅速な対応を心掛けた面もあるだろうが、プロアマを重視するあまり、事実確認の前に謝罪するという「前のめり」の対応になった次第。
今回のケースを巡っては、片山を槍玉に挙げて溜飲を下げるネット社会特有のバッシングが賑やかだが、プロスポーツは人気稼業であるだけに、単なる流言飛語では片付けられない。その対応を含め、JGTOには解決すべき課題が多い。
どのような招待客が来たとしても、プロは一律、高いホスピタリティで同伴競技者を満足させる必要があるなら、教育制度の充実が不可欠だ。また、「不愉快に思わせる態度」が処罰対象になるならば、その行為を細かく規定することも必要だろう。セクハラを巡る議論と似ており、極論すれば、プロアマの全40組にビデオ撮影のスタッフをつけて、証拠映像を残す必要があるかもしれない。
コトは「処罰」を伴うだけに、罰せられる側の納得度も無視できない。これを怠ると「選手会」の離反を招きかねず、逸早く謝罪した石川選手会長がハシゴを外される可能性も否めないのだ。
同時に、過度な「スポンサー依存」を見直すべきとの声も高まっている。プロスポーツとしての魅力を高め、プロ野球やJリーグと同様、入場料と放映権料で運営を賄うべきとの主張である。正論だが、ここにもいくつかの課題がある。
ゴルフの場合は試合会場が遠隔地にあるため、アクセス面で大きなハンディを負っている。また、テレビ視聴率を高めるには見応えのある映像作りが欠かせないが、これには中継カメラの台数やスタッフの増員などコストアップを覚悟しなければならない。ひとつのボールをスタジアム内で追う野球やサッカーなどと比べ、ゴルフの特殊性を指摘する声は多いのだ。
また、世界基準の強い選手を輩出すればツアーは盛り上がるという「そもそも論」にしても、日本のゴルフ界には是正すべき課題がいくつもあり、そのひとつが「ゴルフ振興金」の在り方だ。
県単位のゴルフ連盟は、「県の選手強化」等を名目に、ゴルフ場来場者から1人数十円の「振興金」を徴収している。日本ゴルフ場経営者協会の調べによれば、都道府県の7割ほどがこの制度を導入しており、その総額は年間8億~13億円と推計される。10年間で100億円規模という莫大なものだ。
しかし、県連の大半は任意団体なため、多くはその使途を公表していない。霧消している可能性もあるのだが、これを一元化して強化費に充てればどれだけのことができるのか?
少年期に体験する機会が少ないゴルフは、その参入障壁の高さゆえに優れたアスリートが入りにくい。
その結果、練習場経営者や富裕層の子どもなど「人材」は限定的になる。この中で好成績を収めた者は「エリートジュニア」と呼称され、名門倶楽部にも出入りする。タニマチ気分の会員が昼食に「鰻重」をご馳走するなど、少年野球やサッカーではありえない光景だ。そのような環境が「上手ければ偉い」という土壌を生み、スコア至上主義による改ざん問題も散見される。
<h2>「賞金王」の時代遅れ</h2>
今回の「プロアマ問題」は、単に片山が「やらかした」という話ではなく、プロツアーの在り方や日本のゴルフ界そのものを見直すきっかけにすべきだろう。過度なスポンサー依存からの脱皮は、多くの難問を抱えており、これをやれば解決するという単純な構造にはなっていない。
しかし、本質的な部分ではすぐにできることもある。それは、本気で「ファン目線」に立つことであり、時代遅れともいえる「拝金主義」的な在り方を一新することも必要だろう。
国内男女ツアーは毎試合、表彰式で高額な賞金をプリントしたボードを手渡している。それを受け取る優勝者は誇らしげに「金額」を掲げ、副賞の高級外車や地元産品1年分など、贅沢な贈り物がわたされる。パー3ではホールインワンで100万円、過去数年達成者がいない場合は累計数百万円など、諸事、銭金の色を漂わせる。
ゴルファーである壮年の視聴者は、日々懸命に働きながらもそれだけの収入を得られない者が大半だ。あの表彰式の光景を、どのような心情で眺めているのだろうか。
賞金ランクも同様だ。成績を金銭で評価して、「皆さんのお陰で賞金王になれました」と本人は感涙する。六本木あたりの高級レストランで近親者に囲まれ、「祝・賞金王」の宴をSNSなどで配信する。
誰がいくら稼ごうと、そんなことは「ファン」の知ったことではない。ゴルフ界特有の拝金的な嫌らしさが、随所に垣間見えるのだ。
評価をポイント制に切り替えれば、簡単に片付く話だが、なぜかそれをやろうとしない。その一点をもってしても、ファン目線の欠落が如実に表れているのである。
ファンがいるからスポンサーがつく。そしてファンは、様々なジャンルのスポーツヒーローを目の当たりにしている。
メジャーリーガーの大谷翔平(23歳)は、凄味のあるプレーと「爽やかなスマイル」で人気だが、あと数年待てば多額な契約金を得られるにも関わらず、それを蹴って「最低保障金」(2億6000万円)で渡米した。25歳未満の外国人選手に課せられる上限規制等が理由だが、金銭的な価値を歯牙にもかけず、夢と理想を優先した。ファンはそのことを知っているから、あの笑顔に魅了される。
退潮傾向の国内ツアーで、賞金プレートを誇らしげに掲げるプロゴルファー。両者は雲泥の差といえるだろう。
ファンは鈍感ではない。まして、人生で様々な経験を積んだ壮年が視聴層の大半を占めるゴルフの場合、小手先のファンサービスなどには騙されない。
ファンを心底感動させ、応援してもらうのは至難の業だが、それを真剣にやらなければ今回のような問題は何度も起きる。そしてその都度、平身低頭することになる。
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