ゴルフ産業は、コロナ禍による需要増に恵まれた。他の多くの産業が塗炭の苦しみを味わう中、数少ない好況を謳歌しただけに、今後に向けて正確な長期予測が必要になる。山高ければ谷深し・・・・。そんなシナリオもあながち否定できない。
前号では〈表1〉の前提条件により、4種類のゴルフ将来需要計算結果〈グラフ1〉を示した。
<img src="https://cms-backend-gew.com/wp-content/uploads/2023/02/table1.jpg" alt="" width="788" height="400" class="size-full wp-image-75766" /> 表1
<img src="https://cms-backend-gew.com/wp-content/uploads/2023/02/2302yamagishi_graph1.jpg" alt="" width="788" height="707" class="size-full wp-image-75749" /> グラフ1
楽観的なシナリオ3では、コロナ後の参加率、活動率、加齢係数が今後も継続するとした前提条件であり需要は増加し続ける。最も可能性が高いのは、コロナによる影響が時間と共に減衰するとしたシナリオ2だろう。
シナリオ1、2ともに2035年のゴルフ需要量は対2016年比▲34%減、対2020年比▲35%減となる。この予測に対して読者諸兄から「驚かすな。15年先が予測できるものか!」とお叱りを頂くかもしれない。しかし前号で説明したように、
・ゴルフ需要公理(将来対象人口×将来参加率×将来活動率)
・年齢別将来人口予測(国立社会保障・人口問題研究所)
・参加率、活動率変動モデル(2006年~2021年社会生活基本調査実績値による)
・5歳間隔同一年齢集団別の計算による計算結果である。年齢別将来参加率、活動率は社会生活基本調査過去の年齢別データから導かれた「ゴルフ需要変化法則」に基づく。
論理的な将来予測には、これ以外の手法は考えられない。予測結果の年齢別ゴルフ需要量推移を〈グラフ2〉とした。
<img src="https://cms-backend-gew.com/wp-content/uploads/2023/02/2302yamagishi_graph2.jpg" alt="" width="788" height="724" class="size-full wp-image-75750" /> グラフ2
なぜ需要が減少し続けるか?
将来の需要が減少する原因は変動モデル〈表2〉にある。
<img src="https://cms-backend-gew.com/wp-content/uploads/2023/02/table2.jpg" alt="" width="788" height="1598" class="size-full wp-image-75768" /> 表2
このモデルは、
・ゴルフ人口は20~29歳に最大となる(参加率1・0以上)
・30歳以後、ゴルフ人口は5年間に20%のペースで減少する
・存続したゴルフ人口は30歳以後5年間に20%のペースでプレー回数を増加させる。
以上を端的に示している。〈グラフ3〉それに加えてゴルフ誕生人口年齢の20~29歳人口は〈グラフ4〉のようにゴルフ対象人口の合計よりも大きく減少する。
以上によりゴルフ需要は年々減少し続ける計算結果となる。勿論20~29歳以外でゴルフを始める人数は存在するが、同一年齢全体の参加率加齢係数に影響するボリュームではない。
<img src="https://cms-backend-gew.com/wp-content/uploads/2023/02/2302yamagishi_graph3.jpg" alt="" width="788" height="739" class="size-full wp-image-75751" /> グラフ3
<img src="https://cms-backend-gew.com/wp-content/uploads/2023/02/2302yamagishi_graph4.jpg" alt="" width="788" height="710" class="size-full wp-image-75752" /> グラフ4
<h2>変動モデルはゴルフ文化の本質を体現する</h2>
変動モデル(ゴルファー加齢による参加率、活動率変化の法則性)は意図的に形成されたものではない。日本社会にゴルフが普及した結果であり「するスポーツ」としてのゴルフの特質が強く反映している。日本社会が大きく変動しない限りこの変動モデルは今後も持続するだろう。
<h2>変動モデル他スポーツ比較</h2>
比較のため野球、サッカー、テニスの変動モデルを社会生活基本調査より作成した。〈グラフ5〉
<img src="https://cms-backend-gew.com/wp-content/uploads/2023/02/2302yamagishi_graph5-1.jpg" alt="" width="788" height="850" class="size-full wp-image-75753" /> グラフ5
<img src="https://cms-backend-gew.com/wp-content/uploads/2023/02/2302yamagishi_graph5-2.jpg" alt="" width="788" height="850" class="size-full wp-image-75754" /> グラフ5
<img src="https://cms-backend-gew.com/wp-content/uploads/2023/02/2302yamagishi_graph5-3.jpg" alt="" width="788" height="850" class="size-full wp-image-75755" /> グラフ5
<img src="https://cms-backend-gew.com/wp-content/uploads/2023/02/2302yamagishi_graph5-4.jpg" alt="" width="788" height="850" class="size-full wp-image-75756" /> グラフ5
それぞれ明確に異なっている。野球、サッカー参加人口は10~14歳で最大となり「学校スポーツ」の特徴を示す。テニスの場合は、
・20~29歳の参加率加齢係数がゴルフより小さい
・参加率、活動率ともに年齢による落ち込みがない。
ゴルフは将来需要減少が不可避としても日本社会で最大、唯一無二の「生涯スポーツ」である。
<h2>ゴルフ市場活性化とは変動モデル意図的改造</h2>
ゴルフ産業界はこの需要変動の法則性を尊重、熟知して、市場活性化に当たらなければならない。
人口減少が不可避ならば、ゴルフ需要の増大には変動モデルの意図的な改造が必要となる。求められる改造ポイントはゴルフ市場活性化委員会発足のスローガン「始めよう、続けよう、もっとゴルフを!」にきっちり集約されている。〈グラフ6〉
<img src="https://cms-backend-gew.com/wp-content/uploads/2023/02/2302yamagishi_graph6.jpg" alt="" width="788" height="789" class="size-full wp-image-75757" /> グラフ6
<h2>最重点とすべき「続けようゴルフ」</h2>
ゴルファー誕生最大年齢である20~29歳人口は、全体ゴルフ対象人口以上に減少する。また70代まで増加し続ける活動率増加も今以上の増加は困難であろう。活性化策最重点は「ゴルフ参入後参加率低下の防止(続けようゴルフ)」に絞られる。
<h2>続けるゴルフアーの特質は何か</h2>
一度はコース、練習場を利用したが、その後中断、停止する顧客と、連続来場し続け加齢と共に利用回数を増加させる顧客の相違点把握が重要である。そのためには年齢、所得、身体能力、健康状態、会員権の有無、到達平均スコアなど比較したい属性点は多くあるが、信頼できるデータがない。前号までも活用した「ゴルフ練習場複数施設2019年~2021年全来場者データ」を利用する。
その年の来場回数を横軸、翌年連続来場率(止めなかったゴルファー率)を縦軸とする〈グラフ7〉が得られる。
・2020年、2021年間に殆ど差がない。
・来場回数が増えるほど連続来場率が高くなり、12回を超えると80%以上で安定する。
練習場利用回数はゴルフ熱中度の良い指標である。その年12回以上の来場顧客を安定ゴルファー、12回未満を不安定ゴルファーと定義する。各年の安定・不安定ゴルファー比率推移を〈グラフ8〉とした。
<img src="https://cms-backend-gew.com/wp-content/uploads/2023/02/2302yamagishi_graph8-1.jpg" alt="" width="788" height="638" class="size-full wp-image-75758" /> グラフ8
<img src="https://cms-backend-gew.com/wp-content/uploads/2023/02/2302yamagishi_graph8-2.jpg" alt="" width="788" height="638" class="size-full wp-image-75759" /> グラフ8
<img src="https://cms-backend-gew.com/wp-content/uploads/2023/02/2302yamagishi_graph8-3.jpg" alt="" width="788" height="638" class="size-full wp-image-75760" /> グラフ8
・安定、不安定比率ともに変化は小さい。
・その年実動顧客の25%に過ぎない安定ゴルファーに来場数の80%を依存している。
ゴルフ産業の業績は安定ゴルファー量で決定し、「ゴルフ需要増加対策の『続けようゴルフ』」とは「不安定ゴルファー安定化対策」である。
<h2>安定ゴルファーの特質、要件</h2>
ゴルフ界には安定ゴルファーの特質、要件の解明が重要課題だがデータは不足している。
ゴルフ練習場の複数施設全来場者データから得られる2021年安定ゴルファーの特徴を〈グラフ9、10、11〉とした。
<img src="https://cms-backend-gew.com/wp-content/uploads/2023/02/2302yamagishi_graph9.jpg" alt="" width="788" height="696" class="size-full wp-image-75761" /> グラフ9
<img src="https://cms-backend-gew.com/wp-content/uploads/2023/02/2302yamagishi_graph10.jpg" alt="" width="788" height="1027" class="size-full wp-image-75762" /> グラフ10
<img src="https://cms-backend-gew.com/wp-content/uploads/2023/02/2302yamagishi_graph11.jpg" alt="" width="788" height="696" class="size-full wp-image-75763" /> グラフ11
・顧客数、来場回数ともにボリュームゾーンは40~59歳にある。
・60回以上来場する来場量が圧倒的に大きい。安定ゴルファーを12回以上ひとまとめではなく階層を細分化した分析が必要である。
・60回以上の階層でも来場回数の中心は40~59歳である。
<h2>コロナ後の安定化率</h2>
「ゴルフ参入後参加率低下の防止(続けようゴルフ)」とは前年休眠ゴルファー、不安定ゴルファーの翌年安定化にあることが立証された。コロナ前後3ヶ年の安定化率は〈表3〉である。「現在安定化率」は14%しかない。
<img src="https://cms-backend-gew.com/wp-content/uploads/2023/02/table3.jpg" alt="" width="788" height="988" class="size-full wp-image-75769" /> 表3
安定化率向上はゴルフ産業の使命、生命線といえるため、安定化率向上にあらゆる施策を集中させなければならない。たとえばゴルフスクールもその収益だけではなく、安定化率向上の貢献度で判断されるべきだろう。
「現在の安定化率14%」は、まだ不安定な潜在安定ゴルファーが大量に存在することを意味しており、「ゴルフ需要増加対策(続けようゴルフ)」には1143万人の大きな未開拓分野が存在する。
<h2>安定ゴルファー人口量推定</h2>
実動顧客とは全顧客(コロナ前後3年間に一度でも来場した全顧客)から休眠顧客を除いた、その年実際に来場した顧客数である。社会生活基本調査をはじめ各種ゴルフ調査のゴルフ人口は、すべてこの実動顧客数を調査している。強引であるが複数ゴルフ練習場実績から全ゴルフ人口中の安定ゴルファー数、安定化人数を推計した〈グラフ12〉。
<img src="https://cms-backend-gew.com/wp-content/uploads/2023/02/2302yamagishi_graph12.jpg" alt="" width="788" height="867" class="size-full wp-image-75764" /> グラフ12
ゴルフ界、ゴルフ産業界は、
・2021年ゴルフ人口1300万人
・安定ゴルファー188万人
・不安定ゴルファー585万人
・休眠ゴルファー527万人
であることをしっかりと共有すべきである。
<h2>不安定ゴルファーの細分化</h2>
安定化率向上は対象ゴルファーを細分化し、それぞれ最適な対策が必要である。筆者は、
・1回のみ来場(ジャストビギナー)
・2~4回来場(コース未体験、ラウンド準備中)
・5~11回来場(コース体験済み、楽しさ未体験)
に三分割すべきだと考える。その推計人口と需要依存率を〈表4〉とした。
<img src="https://cms-backend-gew.com/wp-content/uploads/2023/02/table4.jpg" alt="" width="788" height="459" class="size-full wp-image-75767" /> 表4
ジャストビギナー集団のほとんどはクラブセットも未購入であり、翌年68%消滅する。この金の卵の再来場を誘導する強力な対策が求められる。
コース未体験、ラウンド準備中の集団には、ハッピーなコースデビューへのサポートが必要である。
以上の2集団に対してゴルフ界はゴルフ練習場でしか関与できない。日本のゴルフの将来、安定ゴルファー化には、ゴルフ練習場の役割が極めて重要である。
<h2>不足する必要データ</h2>
今回の連載でゴルフ界・ゴルフ産業界が直面している問題点をある程度定量的に明示できた。それは同時に「するスポーツゴルフ」の定性・本質に迫るものでもあった。いやしくも文化にビジネスとして携わるならば定性的判断が重要だが、そのためにはどうしても統計データが必要である。
ひるがえってゴルフ界・ゴルフ産業界の統計データは誠に心もとない。まず自助努力によるデータが殆ど無い。連載第1回で提示した調査結果はスポーツ全般に対する比較調査でありゴルファーを母集団とする調査ではない。最も重要な年齢別参加率、活動率にしてもゴルフ界がゴルフフィールドで直接ゴルファー対象に調査すれば小さな費用で精度の高いデータが得られる。そのような理念、覚悟、体制はいまだかつて存在しない。連載を終えるにあたり不足するデータを列挙する。
・社会生活基本調査5年間隔を補完する毎年データ
・ゴルフ人口定義拡大(少なくとも過去3年間コース、練習場利用者)
・ゴルフ人口の定義拡大による、単年だけではない複数年間変化分析による安定化率調査
・利用税コース利用者数に並置できる練習場利用者数大規模調査
・社会生活基本調査以上に精度の高い年齢別参加率、活動率調査
・年齢、所得、身体能力、健康状態、会員権の有無、到達平均スコアなど安定ゴルファー実態調査
データはないが「安定ゴルファーイコールシングルプレイヤー」でないことは誰もが確信できる。つまり「競技力の強化」だけでは「するスポーツの文化」は開花しない。ゴルフ関連団体は、このことを肝に銘じるべきである。
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この記事は弊誌月刊ゴルフ・エコノミック・ワールド(GEW)2023年2月号に掲載した記事をWeb用にアップしたものです。なお、記事内容は本誌掲載時のものであり、現況と異なる場合があります。
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