前回は「委託」のゴルフスクールを「直営」にするための手順について書きました。委託よりも直営のほうが様々な面で利便性が高く、売上や利益面で優位に展開できるからです。そこで今回は、自社運営のスクールをどのように展開していくかについて詳述しましょう。
スクールの運営者は、どうしたら生徒を増やせるのか、売上を増やせるだろうかと日々考え、取り組んでいることと思います。
筆者は過去35年間、スクール運営に取り組んできましたが、そのような経験からスクールと「数字の関係性」ともいえる構図がおぼろげながらわかるようになりました。今回はそうした「スクールの数字」を中心に説明します。
まずは数字の前提となる料金体系について考えてみましょう。
スクールの料金は「ボール代込み」と「ボール代別」の料金があり、ボール代が別の場合は、地域の価格競争で通常の「ボール代」が安くなると、スクールの料金も影響を受ける。そのため「ボール代込みのほうが良い」と前回書きました。
ちなみにボール代は東京など大都市圏で1球20円前後、地方都市で10円前後が多いようです。
次は「月謝」の払い方についてみてみます。これには3種類の方法があり、具体的には「月会費制」「チケット制」、さらに月会費とチケットの「併用制」となります。
運営側の管理がもっとも楽なのは、何回でもレッスンを受け放題という月会費制で、次にチケット制の順となり、月会費とチケットの併用制は一番手間がかかります。ところが筆者は「併用制」を推奨しています。なぜでしょう?
スクールの売上は「生徒数×客単価」で成立しますが、「客単価」を上げようとしても、月会費の定額制ではなかなか上げられません。また、チケット制は生徒が習いに来なければ売上が下がり、ヘタをすればゼロにもなりえます。
ところが、併用制の場合は生徒の受講の有無にかかわらず定額の月会費が入り、受講回数が増えればチケット代が増えて客単価が上がります。だから売上確保には、月会費とチケットの併用制がもっとも優れているのです。
ここでいう「生徒数」とは、当月分の月会費をきちんと入金した生徒のことです。月会費の支払いを停止した「休会者」などは生徒数に含みません。筆者がスクールの運営者から相談を受ける場合、もっとも重視するのが生徒数とスクール客単価です。
売上はそれを掛け合わせた結果にすぎません。
<h2>一定水準を超えると急増</h2>
それでは生徒数を増やし、客単価を上げるためにはどうしたら良いでしょうか? まず、客単価の方から説明しましょう。筆者が指導しているスクールの売上は、
「入会金+月会費+チケット料+ラウンドレッスン料」
から成り立っています。
「入会金」と「ラウンドレッスン料」の売上は、全体に占める割合が多くないので「月会費」と「チケット料」が重要です。このうち月会費は定額なので、売上や客単価を増減させる最大の要因はチケット料です。そして、受講者が増えればチケット料も増えるため、受講者をいかに増やすかが重要です。
では、受講者をどのように増やすのか? 今回は「数字の話」なので、「レッスンの質」は横に置きます。ここで注目されるのが「月間利用回数」です。これは、一人の生徒が月に何回受講したかを表わすものですが、あくまで結果的な数字であり、この結果を導く直接的な数字が「充足率」と「予約率」になるわけです。
充足率は1クラスの定員に対して何名が受講したかを表わす数字で、定員6名に対し3名の受講が50%。筆者の指導先では、平均充足率80%を目指しています。
この充足率に関係するのが予約率です。毎週月曜の朝の時点で、1週間の予約者数を調べた定員に対する比率です。予約率と充足率の差は10%程度なので、充足率80%を目指すには、予約率70%が必要となります。予約率が75%を越え始めると、充足率は90%台まで急速に上がり始めます。なぜ、このような現象が起きるのでしょう。筆者はこう考えます。
予約をしないと受講できない→キャンセルすると次にいつ受講できるかわからなくなる→キャンセルせずに受講しようとする。このような気持ちが働くからです。
予約率を上げると充足率が上がり、受講者が増え、チケット売上が上がり、スクール売上が上がり、客単価が上がるという関係図になります。なお、チケットの購入キャンペーンを行っている例を見かけますが、これをやると割引などのキャンペーン特典が発生して客単価が下がります。
<h2>体験者獲得の方策</h2>
続いて生徒数の増加対策について考えてみましょう。生徒数は、
「前月末の生徒数+当月の入会者数+復会者数-休退会者数」
で表します。月会費を徴収しているスクールにおいては、月会費の支払いを一時的に止めることを休会と言い、もう戻りませんという意思表示が退会。もう一度スクールに戻ろうとすることを復会と称しています。
これを血液の循環に置き換えると、輸血が入会や復会であり、出血が休退会となります。いくら輸血しても出血が多ければ血液=生徒は増えませんね。だから輸血=入会/復会者を増やすと共に、出血=休会者を減らす動きが必要となるわけです。
次に、肝心な話。入会者を増やすには「体験者」を増やすか「入会率」を上げるかになります。入会の検討は体験レッスンの受講が一般的なので、体験者を増やすことが入会者増につながります。体験者獲得の主な媒体は場内での声掛け、SNSでの募集、生徒や一般客からの紹介ですが、フロントでチラシを配った場合の体験獲得率は2・5%程度です。1000人に配れば25人を獲得できます。
チラシ配布に慣れていない施設の場合は「体験何名獲得」を目標にするのではなく、チラシの配布枚数を目標にしましょう。
SNSで募集する場合は、自社のホームページが施設紹介中心ではなく、スクールの体験獲得中心となっていて、かつ、スクロール方式のスマホ対応型で、スマホから体験を申し込める仕様であることを確認して下さい。紹介チケットは既存の生徒中心に配布します。
入会者の30%程度はゴルフ未経験者なので、練習場との接点がありません。新たな接点を設けるためには、紹介チケットの配布とSNSの強化が最も有効です。一方で、紹介チケットからの紹介の多い/少ないが、レッスンプロに対する満足度のバロメーターにもなりえます。良いレッスンでないと紹介しようとしないからです。
紹介チケットを配布して、実際に受講するまでに1ヶ月のタイムラグがあります。このため、ゴルフシーズンの1ヶ月前から配布を開始することが大切です。年間入場者7万人の施設であれば、月平均の体験獲得者は40名程度が初期段階の目標となります。
体験者を獲得したら、次に重要なのが入会率の向上で、平均入会率は33%程度です。入会率向上対策として、体験を「2回受講」とする場合は、10日以内の2回受講率を上げること。2回受講率の目標は85%程度であり、体験申込み時に「体験レッスンは2回受講して頂くことになっておりますが、いつといつに致しましょうか?」という問いかけをします。
体験受講者と入会率の関係を見ると、体験1回目と2回目の間隔が「10日以内」の入会率は50%程度、10日以上だと25%程度に半減します。このため、10日以内の2回受講が大切になるのです。
<h2>生徒を6分類</h2>
次に「休会防止対策」です。休会率は「休会者÷在籍者数」ですが、夏場や冬場に休会率が上がり、ゴルフシーズンには下がります。
休会率は5%未満を年間目標としましょう。休会の多い属性は①入会して6ヶ月未満のビギナー、②初めて夏や冬を迎える新規入会者、③1ヶ月間一度も受講していない未受講者があげられます。
初心者を「ビギナー」と一括りにするケースが多いのですが、これでは雑な括りと言えます。我々のスクールでは、
ランク0:コース未経験者
ランク1:120以上
ランク2:110以上
ランク3:100以上
ランク4:90以上
ランク5:90以下
の6段階に分類しており、女性の場合はこれに10プラスします。ビギナーはランク「0」と「1」ですが、入会6ヶ月未満のビギナー対策として、月々の受講回数を調べ、回数が前月より減った場合はカウンセリングなどを行ないます。こうした対策を講じれば、入会して1年後の生存率が従来の45%から60%にまで上がり、全体の休会率改善にもつながります。
また、ビギナーだけのショートコースでのコンペやラウンドレッスン会などを開催して、ゴルフに親しむ機会を増やすことも大事。1ヶ月に一度も受講していない生徒を短期、2ヶ月を中期、3ヶ月以上を長期未受講者と呼びますが、「長期」になると電話やメールに無反応のケースが増えるので、未然に防ぐことが大事です。
上旬の時点で短期/中期/長期未受講者リストをレッスンプロ別に書き出し、レッスンプロから電話やメールの声掛けを行って、受講を促すことがポイントです。無反応の生徒には、ラウンドレッスンの誘いも一手でしょう。
特に大事なのが、休会率が高く復会率が低い傾向の「ランク1」への対応です。
復会者は休会して4ヶ月以内が大半であり、4ヶ月以上経つと復会率の減少が明らかです。そのため、休会防止対策をランク1の生徒に入念に行い、休会後は早めに復会の声掛けを行いましょう。
休会から復会に目を転じると、スクール在籍時に打席を自主練習で利用する生徒は、未利用の生徒よりも復会率が高くなっています。このため、スクール生の自主練習を我々は促進しています。
以上、駆け足で「数字」をベースにした運営方法を紹介しましたが、これだけでも大変な業務量になるかと思います。
このため筆者は、フロントに正社員を雇用し、接客をする傍らでデータ作成と体験獲得のための声掛けを行ってもらっています。
入会者が多い、入会率が高い、休会率が低いのは、レッスンプロの努力だけではなく、フロントの協力があってこそ達成できるのです。長々と説明しましたが、指標となる数字を数多く紹介しましたので、ご自身の数字と比較してみませんか?
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この記事は弊誌月刊ゴルフ・エコノミック・ワールド(GEW)2022年1月号に掲載した記事をWeb用にアップしたものです。なお、記事内容は本誌掲載時のものであり、現況と異なる場合があります。
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