「あの記事を読んだとき、コレ、面白いなと思ったんです」
日本ゴルフツアー機構(JGTO)の副会長に就任した石川遼は、そう話した。「あの記事」というのは、本誌が2月10日に配信した男子下部ツアー(AbemaTVツアー)のプレースタイルに関わる記事。「ノーキャディの『担ぎ』でやってほしい」という主旨で、キャディバッグを自分で担ぎながらのプレーは、視聴者にゴルフの過酷さを伝えられる。AbemaTVが今季から下部ツアーを放映することを受け、従来にない「見せ方」を提案したもの。
「新しい見せ方、伝え方については話し合う必要があると思います」
と、石川副会長は前向きな姿勢をみせた。
JGTOは3月19日、第6回定時社員総会を開き、役員の改選を行った。青木功会長が再選で2期目の舵取りを担うほか、副会長には選手会の石川会長と日本ゴルフトーナメント振興協会の蛇草真人専務理事が選ばれた。このほか、常務理事を含む理事16名が今後2年間の運営を行う。
この日、都内のホテルで開かれた記者会見で、青木会長は次のように抱負を語った。
「過去2年間会長をやってきて、色々と勉強しました。先ほど石川君と1時間話して、わたしの構想と一致することが多かった。2期目のほうが前に進める感触があり、賑やかなゴルフ界にしていきたい。スローガンは『発展に努める』というもので、見に来てよかったと思える選手を作ること、そしてスポンサーの評価が高まる施策を1、2年のうちに作りたい」
これを受けた石川副会長は、
「ゴルフ界、ファンやスポンサー、次世代の選手が盛り上がる施策を考えていきます。男子ツアーは女子に比べて試合数が少ないし、先が見えない部分もありますが、改善点はあると思います。ファンやメディアへの対応については、定期的に講習会を開いたり、スペシャリストに相談することも必要でしょう。
スポンサーへの営業も大事ですが、それよりもまず、なぜ試合数が減ったのかを知ることが先決。公の声と選手の声を聞けば答えは見つかると思いますし、ぼく自身も興味があります」
<img src="https://www.gew.co.jp/wp-content/uploads/2018/03/isikawa_ryo_1.jpg" alt="石川遼" width="640" height="426" class="aligncenter size-full wp-image-43045" />
改革を進める上での石川の強みは、他のプロゴルファーにはない圧倒的な知名度と米ツアーでの経験、そして十代から鍛えられたメディア対応の秀逸さだ。たぐい稀な「コメント力」について、父親の勝美氏は以前、本誌の取材にこう答えている。
「わたしが銀行で法人営業をしていたとき、融資を断るには先方にきちんと説明しなければならなかった。説明することの重要性を部下に伝える必要もあった。遼に対しても、そのように教育してきました」
諸事、ロジカルに物事を考える石川の思考法は、「男子ツアー低迷」というぼんやりしたイメージから問題点を洗い出し、きちんと言語化。課題と解決策を明示するのに役立つはず。
<img src="https://www.gew.co.jp/wp-content/uploads/2018/03/isikawa_ryo_2.jpg" alt="石川遼 青木功" width="640" height="426" class="aligncenter size-full wp-image-43046" />
組合と経営の両輪を担う
JGTOはある種、ユニークな組織といえるかもしれない。運営原資は会員の年会費(1万円)と選手が得た賞金の3%(昨年実績)をトップオフとして充てるなど、「選手の稼ぎ」に支えられる部分が大きい。その選手をとりまとめるのが「選手会」で、構成メンバーはファイナルQTの予選通過者以上の約200名。投票で選手会の理事(17名)を選出し、理事の互選で役員が決まる。その長が石川選手会長というわけだ。
重要な施策は「選手会理事会」(年5回予定)で話し合われ、その内容がJGTOの理事会に上程されて、これにスポンサーの意向等を擦り合わせながら決議される。つまり、選手会の同意を得なければ物事が進みにくい体質で、ボトムアップ型といえるだろう。双方の風通しをよくするため、現在は調整型の組織作りを目指しているが、前副会長の大西久光理事は以前、JGTO改革の難所を次のように話している。
「選手会の意見は、発言力が強い選手の声に引っ張られます。発言力が強い選手は必然的に賞金ランク上位者となるため、彼らは試合が減っても高額賞金が得られる現状について改革の意識が働きにくい。ですから、このあたりの意識改革をどうするかが重要なのです」
換言すれば、大局観といえるだろう。少ない試合で多額の賞金を稼げれば「労働効率」はよくなるが、それに甘んじることなく、5年後、10年後のゴルフ界についてどのような理想像を描けるのか。その青写真を示して賛同を得るのが選手会長の役割であり、同時にJGTOの副会長として具体的な事業に落とし込む。
労働組合と経営者の役割をまとめて担うようなもので、26歳の双肩は大きな重責を負うことになる。
<h2>土曜プロアマの実現</h2>
現段階で、どのような構想を持っているのだろうか。
「これから選手会の理事会に諮るので、具体的な話はできませんが」
と前置きして、石川副会長は一案を話す。
「ファンやスポンサーに感謝の気持ちを伝える方法は沢山あると思うんです。たとえば、プロアマを土曜日に開催する意向もあって、海外の試合では増えているんですね。27ホールのコースで大会を行った場合、使わない9ホールに予選落ちしたプロや参加できる女子プロを呼んで、より多くの方にプロアマを楽しんでもらうとか。このあたりを提案したい」
「プロアマ」は、大会前日にスポンサー企業の関係者を招き、参加プロと一緒にプレーを楽しむイベントで、主催企業がトーナメントを開くメリットのひとつ。いわば接待目的で、女子ツアーはプロアマ需要で試合数を増やした実績がある。企業にしてみれば、自社の宣伝と接待を同時に行えることが魅力。
その「接待」では、ぶっきらぼうな男子プロより可愛い女子プロに人気が集まるのは当然で、日本女子プロゴルフ協会はスポンサーの評価を高めるために接遇マナーやメイクアップ教室、「前夜祭でのビールの注ぎ方」まで教え込む。男女試合数の逆転は、このあたりにも起因するはずだ。石川副会長は、
「我々の職場を誰が支えてくれているのか。そのことを考えれば感謝の気持ちは大事だし、LPGAを参考にする面もあります」
と、プロアマ改革を当面の課題にする構え。
<h2>チャレンジで担ぎは面白い</h2>
同時に見せ方や伝え方にも工夫を凝らす考えで、それが冒頭の台詞、AbemaTVツアーを「担ぎでやるのも面白い」という発言につながる。JGTOは若手の選手育成を重要課題に掲げており、「試合経験」を積むためには下部ツアーの試合数増が不可欠。これを実現するには注目度を高めることだが、その一策として本誌は「担ぎ」の採用を提案している。
<strong>下部ツアーのAbemaTVは新しい中継方法を模索中だが、ゴルフの厳しさを伝えるには、ノーキャディの担ぎでやるのも一案ではないか。本誌はそう提案しています。</strong>
「あの記事を読んだとき、コレ、面白いなと思ったんです。本来、担ぎでやったほうがスポーツとして面白いし、ゴルフの厳しさが伝わると思うんです。実際、ぼくの友達が中国のツアーに参戦していて、ノーキャディの試合があるんですね。年をとった選手にはきついかもしれませんが、すべての試合ということではなく、一部であればいいと思います」
<strong>フラットなコースに限定して?</strong>
「逆に、アップダウンがきついところとか、過酷なほうが見応えあるし(笑)」
<strong>担ぎの大会はキャディバッグの露出が高まるため、これを1社独占で提供すればメーカーにもメリットがある。ナイキ、アディダス、スリクソンなど、協賛企業が現れるかもしれない。</strong>
「そうそう、ありですよね。新しい見せ方、伝え方があれば話し合う必要があると思いますし、是非、考えさせて頂きます」
<img src="https://www.gew.co.jp/wp-content/uploads/2018/03/isikawa_ryo_3.jpg" alt="石川遼" width="640" height="426" class="aligncenter size-full wp-image-43047" />
AbemaTVツアーは今季12試合を予定しているが、第10戦に「石川遼エブリワン プロジェクト チャレンジ」(10月4~6日、栃木県、ロイヤルメドウGC)が組み込まれている。ここで「担ぎ」が実現すれば、ゴルフの新たな魅力を訴求できるかもしれない。
無料のインターネットテレビを運営するAbemaTVは、全組のスタートからホールアウトまで「完全生放送」するなど、ゴルフ中継に新たな試みを導入し、コンテンツの価値を高める方針。下部ツアーはレギュラーツアーとは異なり制約が少なく、その分、様々なアイデアを盛り込みやすい。ここで「担ぎ」が注目され、視聴率が高まれば若手プロの価値も上がる。
ゴルフ場運営大手、PGМの田中耕太郎社長が話す。
「当社は若手プロの支援に積極的で、その一環としてチャレンジを年2試合行っています。ギャラリーもおらず殺風景ですが、下部ツアーがしっかりしないとゴルフ界は盛り上がらない。彼らの露出が高まれば、契約を考えるかもしれません」
同社は男女の若手プロ40~50名にゴルフ施設の無料利用などで支援中だが、レギュラーツアーへ昇格するとPR契約(企業ロゴ等)を交わすこともある。これが下部ツアー段階で交わせるとなれば、若い選手の励みになり、JGTOの命題である「選手育成」につながるはず。
いずれにせよ、改革は机上論ではなく、実証実験が不可欠だ。新しい試みにはトライ&エラーがつきものだが、持ち前の「説得力」で選手会の同意を得られるか。新副会長の雄弁に期待したい。