常磐自動車道を経由して柏ICから35分、国道16号線から少し入った千葉県柏市藤ヶ谷新田にガーデン藤ヶ谷ゴルフレンジはある。近隣に藤ヶ谷カントリークラブもあり、ゴルフには恵まれた環境だ。2階建て、全96打席、220ヤード、天然芝のアプローチ、パッティンググリーンもあり、広々と解放感が溢れている。訪れた際、受付スタッフの明るく丁寧な挨拶が強く印象に残った。ガーデン藤ヶ谷ゴルフレンジを運営する株式会社アラキ企画の荒木知太朗社長に取材した。
同レンジが開業したのは1994年2月で、今年でちょうど30年。荒木氏の父親で取締役会長の賢治氏が創業した。現在は長男の知太朗社長と2人の兄弟が経営に携わる。
荒木家はこの地で400年以上農業を営んでいた。ゴルフ練習場の敷地は1万2000坪だが、農業をやめた当時は土地の活用法を思案したという。賢治会長は婿養子で、
「相続問題を含めて大事な土地をどうするかを検討した中で、父の兄(石山和彦氏)が東京のアメ横でマグロ屋を営んでおり、大のゴルフ好きで『この土地はゴルフ練習場に丁度よいのでは?』とアドバイスされたそうです。その人脈で、ゴルフメーカーやアメ横のゴルフショップなどからの情報集め、他の練習場も視察して、システムや接客、設備、経営方法を学んでいきました」
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ガーデン藤ヶ谷ゴルフレンジ フィールド[/caption]
開業の4年前、賢治会長が50歳手前の1990年8月に法人を設立して練習場を建設。当時、重視したコンセプトは「清潔でゆったりした空間」だったが、それは他の練習場を視察して、汚れが目立ち、接客が良くない練習場が多く、そのようなイメージの払拭を優先した。結果「女性に優しいゴルフ練習場」を掲げ、その精神は今も引き継がれている。
「ガーデン藤ヶ谷ゴルフレンジ」の命名者は賢治会長で、
「地域のお庭のような感じで、皆さんに使ってもらいたい」
と、「ガーデン」にこだわった。
「今は枯れてなくなりましたが、フェンス沿に花桃の木が植えられ、フェンスにはバラがあり、本当に庭のような雰囲気でした。現在もガーデンの思想は残っています」
練習場の開業時、知太朗社長は大学生で、3~4年時にここでアルバイトをしていたが、当時はバスケットボールに夢中でゴルフに興味はなかったという。卒業後、信用金庫に入社、経営の勉強も兼ねて10年間勤めた。営業の必要上、26歳でゴルフを始めたごく普通のゴルファーである。2007年に家業に戻り、その約3年後に父親の後を継ぎ実質的な経営のかじ取りを行っている。
2018年に全面リニューアルで内装、打席、ティーアップ機、フェアウェイなどを改修。システムもプリペイドカードからICカードに変更して、更に「きれいで心地よい空間」の提供を続けている。
「特にこだわっているのが接客と清潔感。接客では特に挨拶や礼儀の所作に気をつけており、清掃も、お客様が常に気持ち良く使えるよう心がけています」
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ガーデン藤ヶ谷ゴルフレンジ トイレ[/caption]
女性社員が7割
このような姿勢を支えているのは正社員比率の高さだ。正社員14名、パート18名、インストラクター4名と、社員の多さが特徴的で、
「接客レベルを標準化するには、社員じゃないと難しいのです。教育も社員の方がしやすいし、人材不足にならないよう極力正社員化していこうと、6~7年前から取り組んできました。地域貢献の意味もあり、地元雇用を進めています。地域のお母さん方の中には埋もれた才能がたくさんあり、接客レベルや事務レベルが高い方を活用していきたい」
その結果、社員の女性比率は7割を超え、正社員14名のうち男性は4名だけとのこと。「女性に優しいゴルフ練習場」の推進にも役立っている。また、地域の中学生の職場体験を受け入れた時、一番印象に残った点について聞いたところ、全員「トイレの清潔さ」と答えたそうで、日頃の思いが結実している。
地域貢献で特筆すべきは、近隣の県立沼南高等学校の2~3年の体育授業に「ゴルフ」の選択肢があり、週1~2回、15打席を利用して授業を受けに来るという。この活動を20年近く続けており、新規ゴルファー創出に間違いなく貢献している。
「ずっと実施しているので、普通のことだと思っていました」
と笑うが、高校の体育でゴルフ授業は珍しく、知見が溜まれば、他の練習場での水平展開も期待される。
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ガーデン藤ヶ谷ゴルフレンジ 入門漫画[/caption]
ガーデン藤ヶ谷ゴルフレンジではスクールにも力を入れており、特に「はじめてのゴルフスクール」は10年前から実施、累計1500名以上が受講している。たった5分でゴルフデビューがスグわかるという、女性向け漫画小冊子も自社で発行。
「友人たちに声をかけて、地域のお店に配りまくりました。女性の取り込みに効果があると思います」
ゴルフスクールには400名以上在籍しており、女性比率は45%。ジュニアスクールにも190名が在籍し、ゴルフを始める4歳児からプロを目指すジュニアまで、技術に偏らず、マナーや「心を育てる」ゴルフスクールをコンセプトとしている。また、スクール運営の経験から身体のケアも大事だと考え、トレーニングジムを1年前から施設内に設置している。
「ゴルフスクールは自社運営ですが、将来的にはインストラクターに事業譲渡して、彼らのセカンドライフをサポートしたい。そんなことも考えています」
年間来場者は15万人を超える。2022年8月にはトップトレーサーレンジを導入し、他の練習場よりも1~2割高い価格設定だが、取材訪問時も打席待ちの人気ぶり。
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ガーデン藤ヶ谷ゴルフレンジ トップトレーサー[/caption]
「心地よい時間と空間を提供し、地域の人々が心も身体も【元気】になってもらうことを目指します」
明確なミッションを掲げ、サービス業としての質を高める。地域に愛される施設となった所以であろう。
この記事は弊誌月刊ゴルフ・エコノミック・ワールド(GEW)2024年3月号に掲載した記事をWeb用にアップしたものです。なお、記事内容は本誌掲載時のものであり、現況と異なる場合があります。
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