グループ会社の強み生かす ベストゴルフ水戸の経営ポリシー ~シリーズゴルフ練習場ビジネス~

グループ会社の強み生かす ベストゴルフ水戸の経営ポリシー ~シリーズゴルフ練習場ビジネス~
ベストゴルフ水戸は、那珂川沿いの茨城県水戸市水府町にある、180ヤード160打席のゴルフ練習場。那珂川に向かって打つ打席配置で、県内最大級のフィールドが持ち味だ。筆者は都内から車で取材に行ったが、都心から2時間の距離であった。水戸駅からも2㎞圏内だから、車で5分のロケーションである。 商圏は北側のひたちなか市、日立市、南側は水戸市内、西は笠間市と車社会ならではの広さである。そのため駐車場は打席数と同じ160台分用意されている。同練習場の成り立ちやコンセプトなどについて、株式会社ベストゴルフ水戸の大内智充支配人に取材した。 ベストゴルフ水戸の親会社は、茨城トヨタ自動車株式会社である。茨城トヨタグループ18社の中の一つで、茨城トヨタ100%出資の関連会社だ。練習場の代表者は、茨城トヨタの幡谷浩史会長である。 茨城トヨタは1943年、茨城県自動車配給株式会社として設立され、1948年に茨城トヨタ自動車株式会社に社名変更、現在に至る。1955年、経営不振に陥っていた同社を先々代の幡谷仙三郎氏に経営委譲している。 [caption id="attachment_82925" align="aligncenter" width="1000"] ベストゴルフ水戸 外観[/caption] 幡谷仙三郎氏は1893年、現在の東茨城郡小川町幡谷に生まれた。幡谷家は当時、醤油醸造などの事業で財をなし、仙三郎氏は早稲田大学卒業後、家業を継ぎ、様々な事業を興したという。茨城県商工信用組合(現茨城県信用組合)の設立や、地元の小川町町長、茨城県議会議員も務めている。 自動車産業の将来を早くから見抜き、茨城トヨタの経営に乗り出した。1981年に他界、2代目の浩史社長(現会長)が継承し、2004年に3代目の史朗社長となった。ベストゴルフ水戸は茨城トヨタグループの一員であり、関連会社の全体会議(月1回)に大内支配人も出席している。その茨城トヨタグループの基本は自動車関連事業だが、ゴルフ練習場と他1社だけが異業種となる。なぜ、自動車ディーラーが練習場事業に乗り出したのか? ベストゴルフ水戸の前身は、同じ場所で営業していた練習場・水府ゴルフであった。およそ60年前の開業だが、経営不振に陥っていた。その立て直しを前オーナーから頼まれたのが、当時茨城トヨタの社長だった浩史氏である。同氏が練習場の経営を引き受けたのは、ゴルフ好きだったことも理由の一つで、近隣のゴルフ場の役員なども務めていた。 練習場経営に本腰を入れるため、1987年2月に株式会社ベストゴルフ水戸を設立。以前の水府ゴルフは、那珂川と平行に打つ打席配置であったが、フィールド、打席、クラブハウスを新築し、1988年7月に新規開業した。 [caption id="attachment_82927" align="aligncenter" width="1000"] ベストゴルフ水戸 打席間隔3m[/caption] 大内支配人は、茨城トヨタで県内の店長などを歴任。4年前に現職に就いたが、歴代の支配人も同様であった。同氏は自動車営業で培ったのか、物腰のやわらかい紳士的な雰囲気で、ゴルフ業界人とはどことなく違う。同氏の話。 「以前は、営業の一環としてゴルフに親しむ程度でしたが、自動車ディーラーが経営する練習場ならではの使い方として、駐車場で自動車の展示・販売会などもしています。ゴルフと自動車は親和性が高いので、このあたりはグループの強みを生かしています」 練習場が開催するコンペには、練習場のスクール生だけではなく、グループ関連の顧客も参加するため、ゴルフ場を借り切って、自動車を展示することもある。

ふれあい第一主義

[caption id="attachment_82929" align="aligncenter" width="1000"] ベストゴルフ水戸 創業当時の航空写真[/caption] ベストゴルフ水戸の名前の由来は、NHK教育テレビのスポーツ講座で「ベストスキー」「ベストゴルフ」などの番組があり、初心者も含めて親しみやすい名前であること。事業を引き継ぎ、ベストを目指そうとの思いで浩史会長が命名した。 調べてみると、「ベストゴルフ」は教育番組の「趣味講座」で1982~1996年まで10期にわたって放送されていた。杉本英世、杉原輝雄、倉本昌弘、岡本綾子ら錚々たるプロが講師となり、ゴルフの楽しさやスイングの基本、コース攻略法まで、初心者がゴルフを学べる内容であった。 ベストゴルフ水戸の特長について、大内支配人がこう話す。 「特長は、アナログなことです。人と人のつながりを大事にしているので、自動チェックインは考えていません。打席の案内は、必ずフロントでカートリッジを手渡します。『いらっしゃいませ』で始まり『ありがとうございます』で終わる。心のこもった挨拶を大切にしています」 [caption id="attachment_82928" align="aligncenter" width="1000"] ベストゴルフ水戸 打席球貸し[/caption] 筆者が取材で訪れた時も、フロントの挨拶が心地よかった。ベストゴルフ水戸のポリシーとして、挨拶を含めたコミュニケーションを大事にする。顧客一人ひとりを大切にする自動車ディーラーならではの経営理念かもしれない。 「特に初心者は、初めての練習場で緊張するそうです。そこのシステムがわからないことも多く、スタッフがいなければ悩んでしまう。フロントで『いらっしゃいませ』と声をかければ、わからないことも訊ねやすい。安心できると思います」 施設の特長は広々とした練習環境で、浩史会長は開業時から、クラブの長尺化を予測して打席間隔を3mにした。2階建て各階80打席の180ヤードで、フィールドは天然芝。ゆったりとした開放的な雰囲気が持ち味である。ただし、今後に課題はあるという。 [caption id="attachment_82931" align="aligncenter" width="1000"] ベストゴルフ水戸 バンカー[/caption] 「人の確保です。年々難しくなっており、インストラクターも高齢化しています。施設も徐々に経年劣化しており、保守・修繕が引き続き必要です。練習場業界全体の課題としましては、団塊の世代のリタイアが見えており、幅広い裾野と次世代の育成が急務だと思っています」 企業が経営する練習場も、経営環境の変化から近年は閉鎖が目立ちはじめた。茨城トヨタが経営する同施設には「顧客目線」の精神が息づいており、地域に愛される練習場として末永い継続を期待したい。
この記事は弊誌月刊ゴルフ・エコノミック・ワールド(GEW)2024年8月号に掲載した記事をWeb用にアップしたものです。なお、記事内容は本誌掲載時のものであり、現況と異なる場合があります。 月刊ゴルフ・エコノミック・ワールドについてはこちら