将来構想に施設の改修も視野 埼玉・武里ゴルフセンターの本気度 ~シリーズゴルフ練習場ビジネス44~ 嶋崎平人

将来構想に施設の改修も視野  埼玉・武里ゴルフセンターの本気度 ~シリーズゴルフ練習場ビジネス44~ 嶋崎平人
「武里ゴルフセンター」は埼玉県春日部市大枝にある2階38打席120ヤードの練習場である。東武スカイツリーライン・伊勢崎線「せんげん台」駅から歩いて10分、練習場の名前になっている「武里」駅から12分の距離にある。筆者は都内から電車で向かったが、スカイツリーのある「押上」駅から「せんげん台」まで35分で、駅から練習場のネットが見えるため、迷うことなく練習場にアクセスできた。 練習場は線路のすぐ横に位置している。同施設の歴史やコンセプトについて、練習場に併設された昭和の香りが漂う「喫茶しんまち」で、ワイ・エム・スポーツ株式会社・武里ゴルフセンター取締役山内善正氏、次男の副支配人山内帝法氏に取材した。社長は母親で、長男が支配人の家族経営である。 [caption id="attachment_86546" align="aligncenter" width="788"] 武里ゴルフセンター打席[/caption] 開場は昭和44年(1969年)11月11日。当時、この付近は田んぼや畑に囲まれる農業地帯で、山内家もこの地で300年以上農業を営んでいた。練習場を開業した理由について善正氏は、 「昭和41年、線路を挟んだ向こう側に武里団地ができ、東洋一の団地と呼ばれました。ピーク時には2万人以上が居住。せんげん台駅は団地の完成に合わせて昭和42年に開業しています。当時は比較的生活に余裕のある若い世代の入居が多く、団地にゴルフ会ができ、練習場を近隣に作ってほしいとの要望が多かった」 その要望に応える形で、善正氏の父親が現在の土地を活用してゴルフ練習場を開業した。 昭和38年の団地建設に合わせて土地を売却し、タクシー事業も始めたため、資金は比較的潤沢だった。 [caption id="attachment_86547" align="aligncenter" width="788"] 武里ゴルフセンター喫茶しんまち[/caption] 「練習場建設には3000万~4000万円かかりましたが、銀行との付き合いもあり、資金面での苦労はさほどありませんでした」 という。タクシー事業はバブル時代に多忙を極めたが、人員不足もあり、他社に売却している。善正氏の父親はタクシー事業や、ロータリークラブの関係でゴルフをする機会が多く、練習場事業への参入障壁は低かったとか。現在2代目の善正氏もゴルフに親しんでいた。 そんな家庭環境から、善正氏は一時プロを目指し、大学を中退して2年間栃木CCで研修したが、22歳で身体を壊してプロを諦め、家業のゴルフ練習場に専念した。プレーはアマチュアとして続け、輝かしい戦歴の持ち主でもある。スポーツニッポンの内閣総理大臣杯争奪第28回日本社会人ゴルフ選手権に優勝(1997年)、その翌年には日本アマチュア選手権の決勝にも進出。鴻巣CCのクラブチャンピオンに6回、他のゴルフ場でもクラチャンに。 若き日の中嶋常幸プロもアマチュア時代にこの練習場へ足を運んだ。中嶋プロは、当時日刊スポーツが開催していた練習場対抗のゴルフ大会に「武里ゴルフセンター」からエントリーしていたという。 「武里ゴルフセンター」の名前は、「武里」は武里団地が出来てその名前に親しみがあり、また昔は武里村だったことから地名を取った。ゴルフ練習場よりも「かっこいい」と考えて「ゴルフセンター」に命名している。同施設の特色やポリシーについて、善正氏と帝法氏は異口同音にこう説明する。 「楽しくゴルフをやってもらうことに徹しています。特にプレー料金は平日、土日祝日も同一料金で、2時間打ち放題1400円(税別)等で提供しています」 [caption id="attachment_86548" align="aligncenter" width="788"] 武里ゴルフセンター大枝公園サマーフェスタチラシ[/caption] 商圏について帝法氏は、 「武里団地も含めて半径3~5kmぐらいの範囲ですね。足立区からも車でバイパスを利用したアクセスが良いので、日曜日などに来場されています。顧客年齢は、団地の住人が老齢化していますが、若い世代も増えて50代が中心です」 酷暑対策も課題 「武里ゴルフセンター」は開業から55年が経過しており、地元での知名度も高く、近隣の武里南小学校の職場体験の場になっている。昨年、次男の帝法氏と支配人の長男が話し合い、地元を盛り上げようと「大枝公園2024サマーフェスタ」を地元有志、自治体と連携して開催した。地元企業の協賛を得、屋台やスナッグゴルフでゲームを体験してもらうなど、地元を盛り上げた。 今後の課題は、開場55年が経過して施設(鉄塔)等の老朽化が進んでいること。塗装等のメンテナンスは逐一行っているが、建替えを含めて検討中。異常気象の影響で竜巻のような突風が吹くこともあり、風速12mになると自動でネットが下がるが、急激に吹き始めることがあり、 「怪しいと思ったら、その前にネットを下げる必要があります」 取材時も、関東の空っ風が強く、ネットを少し下げて営業していた。また、酷暑対策も大きな課題で、 「35度を超えると来場者が極端に減ります。気温は記録していますが、猛暑日も増えて尋常ではなく、このままでは営業形態を変えるなどの工夫が必要かもしれません。将来のどこかで建替えが必要になると思うので、単に建替えるだけではなく、例えば屋内型の練習場も含め、楽しんでゴルフを続けてもらう施策が必要でしょう。ゴルフ界全体としても、ゴルフの魅力をもっとアピールして、新規ゴルファーを育てなければと思っています」 と、頼もしい。大掛かりな設備改修は、コストの償却に長い時間を必要とする。屋外練習場の閉鎖が続く昨今だけに、この事業に対する情熱と覚悟が伺える。 「武里ゴルフセンター」は、開場後すぐに会社組織とし、先代から相続対策を含めて周到に準備。55年の歴史を後世につなぐ構えである。 武里団地も、老朽化対策としてMUJIとコラボ、リノベーションするなど、若い世代を積極的に取り込もうとしている。地元に根付くこの練習場と団地の連携も、遠からず実現するかもしれない。
この記事は弊誌月刊ゴルフ・エコノミック・ワールド(GEW)2025年1月号に掲載した記事をWeb用にアップしたものです。なお、記事内容は本誌掲載時のものであり、現況と異なる場合があります。 月刊ゴルフ・エコノミック・ワールドについてはこちら