創業1959年、老舗ゴルフショップの南海ゴルフがスマホのアプリを利用した面白いサービスを開始した。『オーダーグローブ』(iOS版のみ)というのがそれ。
「おそらく、業界初だと思います」
木内将仁代表はそう言って、新ビジネスへの期待を込める。本店所在地は徳島県、創業56年の老舗が「業界初」を口にするところに、IT社会の面白さがありそうだ。
このアプリ、携帯端末のカメラで自分の手を撮影すると、ジャストフィットのグローブができるという。注文の手順は、①手の大きさ→②グローブ素材→③グローブ色・その他→④グローブベルト→⑤サイズ計測→⑥オーダー内容確認→⑦支払い、と至って簡単。アプリビジネスは星の数ほどあるのだが、成功例は非常に少ない。それだけに同社の戦略が興味深い。木内代表の話を聞こう。
「構想は1年以上です。これまでオーダーメイドのグローブは、紙と鉛筆で手形をとるアナログ的な手法でしたが、我々はもっと手軽で便利にオーダーメイドを提供したかった。そこで、独自でアプリを開発したわけです」
その開発コストには約70万円を投じており、専門店としては多額の投資だろう。
「グローブで一番大事なのは、指の長さをきちんと合わせること。送信された手の画像をサイズ分析できるシステムを構築しましたが、この作業がもっとも大変でした。また、送信された画像に多少のゆがみがあったとしても、独自のソフトで調整できるので問題ありません。生地や色が指定でき、イニシャルも無料で入れますので、贈答用にも是非! 将来的には指一本ずつで色が選べるカスタマイズを提案するなどで、リピーター需要を刺激したいですね」
ところで、同社は徳島本店と高松店の2店舗を構えるほか、楽天市場などECサイトへも出店している。実店舗とECの売上構成比は7対3で、EC収益の3割強はスマホからの注文が占めるという。そう考えれば、今回のアプリ開発は、スマホ使用者へ興味喚起を促す狙いがあるのかもしれない。
商品名は『ジャストフィットグローブ』で、天然の羊革仕様が5400円(税込)、合成皮革は3780円(同)。香川県内の工場で製造し、注文から完成まで4週間ほど掛かるという。アプリ自体は無料、公開は3月末だった。
さて、ここで肝心な話である。同社は新ビジネスでどれくらいの収益を見込んでいるのだろうか? この点について木内代表は、
「当初の目標は、月間10枚ほどでしょうか」
と、意外にも弱気な答えが返ってきた。羊革仕様が10枚売れても税込み5万4000円だから、事業規模としての妙味も薄い。だとすれば、別の意図があるかもしれない。
「もちろん色々考えています。将来的にはパターヘッドの色や文字などでカスタム対応したり、シューズのオーダーシステムにつなげる可能性もあるでしょう。グローブに限った展開だと開発費とのバランスが取れないので、高額品を手掛けたいですね」(木内代表)――。
優れた発想と商品があれば、商圏は飛躍的に広がるのがITの世界。南海ゴルフの「おそらく業界初」の挑戦は、吉凶いずれ?