コロナ環境下で一時的にゴルフ人口が増えているという報道もあるが、人口減少や少子高齢化の推移を見ると、今後もゴルフ人口の減少傾向が続くことは間違いない。この連載では、筆者が提唱する「18−23問題」(2018年~2023年にかけてのゴルフ人口激減)に立ち向かうための改善策や基礎資料に基づく提言を述べさせて頂く。
NHKアーカイブスに所蔵される「ゴルフ場」の映像資料
<img src="https://www.gew.co.jp/wp-content/uploads/2022/03/image1.jpg" alt="" width="776" height="365" class="size-full wp-image-71330" /> 図1.NHK番組アーカイブス学術利用トライアルの採択状況等(2020年度末現在)
画像:NHKアーカイブスウェブサイト(https://www.nhk.or.jp/archives/academic/)より引用
「NHK番組アーカイブス学術利用トライアル」という制度がある。この制度は研究者を対象とした閲覧資格取得のための競争的公募である。採択された者は、研究テーマに沿った番組を選んで閲覧し、その成果を研究論文や学会発表などすることができる(図1)。
筆者は、2021年度後期枠の公募に採択され、現在『ゴルフ場を中心としたリゾート開発報道の検証−1980年代~2000年代のリゾート開発報道番組にみる「期待」、「過熱」、「反省」とゴルフ場の在り方の考察−』というテーマで研究に取り組んでいる。
NHKアーカイブスに所蔵される全番組を『ゴルフ場』のキーワードで検索したところ、ヒット総数は649件(2020年5月時点)であり最古のものは1962年放送の番組であった。『リゾート法』あるいは『総合保養地域整備法』などのキーワードも併せて検索したところ、延べ755件の番組が抽出された。
本号では、映像研究の一部としてリゾート法指定第1号の宮崎県での事例を紹介する。
<h2>リゾート法指定第1号「宮崎・日南海岸リゾート構想」</h2>
「バブル景気」は昭和時代末期を起源とする、資産価格上昇と好景気およびそれに付随して起こった社会現象とされる。一般的に1986(昭和61年)年12月から1991年(平成3年)2月までの期間を指す。
1991年2月をピークにバブル景気は終焉したが、バブル崩壊の直前(1991年2月23日)に『九州リポート 松林はこうして切られた~宮崎・リゾート開発の舞台裏~』(NHK総合・30分)という番組が放送されている。あらすじとしては、「宮崎・日南海岸リゾート構想」は国の総合保養地域整備法(通称:リゾート法)の指定第1号として期待されているが、その裏で、国有地である一ツ葉海岸で古くから守られてきた松林10万本が切られている、という内容である。
当時、一ツ葉地区には南北10キロあまりにわたって800ヘクタールもの松林が広がっていた。この半分が国有林であり、江戸時代から住民たちが植えてきた人工林だった。森林法が制定された明治30年、一ツ葉は防潮保安林に指定され厳しく開発が規制されてきたが、農作物などへの塩害や津波などの災害を防ぐだけでなく、市民の憩いの場としての機能も大きかったとされる。
松林の伐採は1991年2月16日から始まり、数カ月をかけて61ヘクタール、10万本の松林が伐採された。林野庁によれば、過去に国有防潮林の解除は、道路や農地トイレなど、1ヘクタール未満のものが殆どで、61ヘクタールもの解除はこれまで例がなかったという。この保安林解除が、開発における最大のハードルだったとされているが、解除申請に先立って環境アセスメントも行われた。その結果、被害が周辺に起こる可能性は低く特に問題はないとされ、これを受けて国は保安林の指定解除と伐採許可を出した。
<h2>リゾート法以前から開場していたゴルフ場事業者の当時の思い</h2>
別の企業で、このリゾート構想計画が動き出す10年以上前、同じ一ツ葉の防潮保安林を解除して、2つのゴルフ場を作った民間会社がある。開発した土地の殆どが、国有林ではなく民有の保安林だったが、解除にあたっては宮崎県から厳しい指導を受けたとされる。例えば、「全ての地元住民から同意書を得ること」、「伐採した本数と全く同じ本数の木を新たに植林すること」などの実行が求められた。このゴルフ場の当時の支配人は、番組のインタビューに以下のように述べている。
【今度(リゾート開発が)計画されている一ツ葉のあの松林と同じような条件の所ですから、以前に、是非ゴルフ場を作らせて下さいと、これは口頭だったんですがお願いしてみたんですよ。〝いやーあれはねぇ、国有保安林だから絶対だめだよ〟と(役所は)こうおっしゃるんですよ。ここの保安林の解除の難しさを身に染みて知っているものですから、やっぱりだめかなぁと。(このゴルフ場を建設するときは)代替植林をし、部落民の全員の同意も得ているわけですが、リゾートというやつになったら、地区住民の1人1人の同意もいらない、植林もせんでもいいのかと。これはねぇ、僕は7不思議だと思っているんです】
規制緩和が進められた背景には、当時の林野庁の苦しい台所事情(赤字)もあったことが番組内では紹介されているが、乱開発に歯止めがかからなくなったという批判が全国で高まり、1990年6月、保安林の解除を厳しくする通達が出された。それにより、国有林の乱開発にはストップがかかったが、一ツ葉の保安林の解除予定が決まったのは、通達の出る2か月前であり、滑り込みセーフの様相だった。
一ツ葉地区は都市公園法に基づいて公園として整備されることが昭和32年(1957年)に決まっていた。リゾート法を中心とした開発計画は「誰もがいつでも気軽に楽しめる公園」とは異なる姿のものであること、建設される予定の施設の殆どが有料であり、今までの公園のイメージとは全く異なるものになりつつある、と番組は締め括っている。
<h2>1993年7月に開業、2001年2月に経営破綻(会社更生法適用申請)</h2>
その後、一ツ葉地区に開業した大型リゾート施設は、わずか数年で会社更生法適用の申請をするに至った。当初、年間550万人の利用を見込んでいたが一度もその目標に達しなかった。第3セクターとして多額の公的資金も投入されてきたが、経営を引き継いだ米国のリップルウッド・ホールディングスによる買収価格は162億円(総事業費約2000億円の10分の1にも満たない額)でしかなかった。リゾートの象徴であった開閉ドーム式大型プールは2007年に閉館後、2014年に取り壊しが決定、2017年には撤去が完了し、現在は空き地になっている。ゴルフ場についてはリゾート内において人気の高いコンテンツとして現在も運営されている。
<h2>SDGsとゴルフ産業</h2>
本誌先月号で『ゴルフ産業とSDGs 周回遅れの現状を問う』の特集が組まれた。日本のゴルフ業界においても、SDGsの観点から主にエコを意識した様々な取り組みや活動が取り上げられている。
今号で例示した「10万本の松林伐採」と似たような乱開発はゴルフ場整備にあたり多く行われてきた。以前の連載でも紹介したが、学校教育教材(副読本)には、スポーツによる環境への悪影響の例として「ゴルフ」が今も挙げられている。
そもそも論として、ゴルフ産業は環境破壊の上に成り立ってきた部分が大きい。それを言い出すと都市化やモータリゼーション等、あらゆる文化的発展も当てはまるが、ゴルフの場合、一部の人たちの娯楽のために限りある野山を削り、ブームが去れば閉業、跡地が植林され元の自然に戻されるようなことはなく、多くがソーラー発電施設に変わっている。
日本国民のうちゴルフをするのは7%足らずと言われる。過去を総括し「ゴルフとSDGs」をもう少し真剣に考える必要はないだろうか。
参考文献
・北 徹朗(2018)ゴルフ産業改革論、株式会社ゴルフ場用品界社
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この記事は弊誌月刊ゴルフ・エコノミック・ワールド(GEW)2022年4月号に掲載した記事をWeb用にアップしたものです。なお、記事内容は本誌掲載時のものであり、現況と異なる場合があります。
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