月刊ゴルフ用品界2018年6月号「地クラブの神髄」掲載。
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質朴剛健。
飾り気がなく素直で、心も体も力強く頼もしい様。豪雪地帯の富山県高岡市にあって、北東に富山湾を望み東南に立山連峰が聳え立つ。雪の閉じ込められながらも、必死に藻掻く姿は、飛距離を欲する使い手の如く。
其の心の機敏に即するように、今年六月、苦難を乗り越えて世に問われるのが、窒素充填の『TP-X Nitrogen』−。
そこには、中条からの想いがあった。
神髄一 爆発した成功体験
<img src="https://www.gew.co.jp/wp-content/uploads/2018/06/chujokamui.jpg" alt="中条カムイ" width="788" height="525" class="aligncenter size-full wp-image-45249" />
2001年―。中条は『カムイプロ320』の開発を手掛けていた。多くの試作を手掛けるのだが、その試作品では、ヘッドにガスを注入することで、内圧を十気圧、二十気圧、三十気圧と高めていった。
「練習場の280ヤード先のネット上段に面白いように当たる。こんなに飛んだクラブは見たことがない」。
中条佳市は当時をそう振り返る。ところが、当時、その構造は鍛造の4ピースで作られていた。打つ毎に、ヘッドの内圧が高まったのか、それとも、球のエネルギーによるものか。ヘッドが徐々に熱を持つようになる。その刹那、ヘッドが爆発し、シャフトにはホーゼルしか、残らなかった。
「これを売っていたら、会社が爆発していたかもしれない(笑)」
その技術が練りに練られ、現代の製造技術と相まって、形となった。それが、中条でなければ成し得ない技術。それが窒素充填型のドライバー。2011年に生を受け、多くの使い手の琴線を揺さぶった窒素充填型ドライバー『TP-07 Nitrogen』を進化させた。
飛び性能、感じる音、球の捉まり‥‥。それらの気がかりをひとつひとつと対峙して辿り着いたのが『TP―X Nitrogen』。
元来、窒素充填の基軸は、二十有余年前に独自開発に成功した。高反発ドライバーは当時、反発性能を高めるとフェースが凹んだ。その耐久性向上の対策としての考えとして窒素充填という方式が浮かんだ。そして、形となった。製造特許も認められた。
しかし、往時、R&英は窒素充填による飛距離伸長を規則違反としたのだ。
「ゴルフの伝統と慣習にそぐわない」。世に問われることなく、使い手に飛距離増大を給することが出来なかった。
しかし、2008年の高反発規制後に、許しを得た。
飛距離増大に寄与する構造が違反とされ、一転、認められた。その結実が2011年の『TP-07 Nitrogen』。そこで成し得なかった想いの結晶が、『TP-X Nitrogen』に映し出されている。
初代窒素充填型ドライバーから数えて四半世紀以上。『TP-X Nitrogen』には、これまでの中条の粋が集められた。
<h2>神髄二 飛びを司る重心</h2>
<img src="https://www.gew.co.jp/wp-content/uploads/2018/06/chujo2.jpg" alt="中条カムイ" width="788" height="525" class="aligncenter size-full wp-image-45167" />
四十有余年、中条を率いてきた中条佳市は繰り返す。
「飛ばなきゃ、ゴルフは面白くありませんよ」。
脇目も振らず飛距離を求める姿勢は、次世代の開発者である中条恭也に引き継がれ、『TP-07 Nitrogen』での気がかりを払拭していく。まずは、低回転を統べるともいえる重心。
「フェースの反発力を高めるには薄肉フェースが最も有効だが、薄くすれば割れる。だから、ゴルフ専用に作られた素材『DAT55G』を使う」
ただし、「DAT55G」は比較的、比重が高く、浅重心になりやすい。反発力は高いが、比重が重い。重心位置の設計には邪魔となる。低回転による飛距離増進には、二律背反の素材。
「個体としての軽量化もひとつの課題だった」
そう語る中条恭也は、ヘッド形状と構造に考えを巡らせ、フェースの編肉構造を改良して、クラウンを軽量化、加えて、ソール内側にリブを設けた。さらに、窒素充填の入口であるカートリッジを換えた。これまでにない低い位置に据えた。結果、フェース面上でのフェース高に対する重心位置の割合は、「低重心率55.02%を達成した」
一般的には低重心率が六割を下回るヘッドは、超低重心設計で、低回転といわれる。それを成し遂げた。
もうひとつ、低重心に寄与したのが、ショートホーゼルだ。
「ホーゼルが高い位置にあれば、自然とフェース面の重心は高くなる」。
この短いホーゼルは、低重心化に寄与した以外にも、中条の製品を愛して止まないゴルファーに向けた想いでもあった。
「使い手の年齢層が上がり、やさしさも必要となった」
競技者は面を意識して意図的に球を捉まえる技術を持ち合わせている。ゆえに、長い重心距離で面を速く返すことで飛距離を生み出していた。しかし、その競技者も齢を重ねて、捉まりすぎよりも許容性を高めることが求められた。
「引っかかりは嫌われるが、ドローは好まれる。競技者だけではなく、多くの使い手に満足してもらいたい」
その微妙な使い手の心の機微に応えたのがホーゼルの短さ。それが競技者の心の拠り処である中条の神髄でもある。
<h2>神髄三 軽さ、広さ、弾き均衡を保つ</h2>
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面倒事は、瞬時に片付けられたわけではない。軽さには、ボディ素材を従来の「6-4チタン」から、「811チタン」に換え、クラウンを薄肉化することで、3gを軽量化した。しかし、フェース素材は、「DAT55G」を用いたから、重くなる。
「フェース面の重量は、ヘッド全体重量の四割を占める」
つまり、反発性能を考慮した素材は重く、ゆえに、フェースの広さを狭めれば、有効打点距離が短くなりにおける低重心率は上昇して、低回転の弾道は生み出せない。さらにフェース面積が狭められれば、自ずと反発力は落ちる。二律背反の要素が満載なのだ。重量、反発性能、フェース面の広さ。この三要素の均衡を求める。
「異常に困難な作業」
そう中条恭也は顔をしかめる。経験を基に、予想して検証する。金型を三度修正して、反発性能を高める作業。そこに、窒素充填という、中条の十八番を継ぎ足す。
「実際の試作ヘッドがあがり、打ってみないと理解し得ないことが多い」
多くのパーツブランドが対峙する道程。ただ、重心や飛びを求める過程で得た軽さは、何ものにも代え難い。なぜなら、十八番の窒素の重さだけでも5gを取られてしまうからだ。そして、
「基本となる軽さが自由度を増してくれる。重量の組合せによる弾道は明確に差があり、多くの使い手に価値として認められるはず」
そして均衡の中で、フェース面を広く使うために、ソールの重量物の間隔は『TP‐07 Nitrogen』より、11mm広げた。さらに、フェース高は上下方向に6mm広げた。
軽さを求めることによって、面倒事は徐々に片付きつつあった。ただ、難題は残った。そこにも中条は挑み続けた。
<h2>神髄四 飛びの証と好まれる響き</h2>
<img src="https://www.gew.co.jp/wp-content/uploads/2018/06/chujo4.jpg" alt="中条カムイ" width="788" height="525" class="aligncenter size-full wp-image-45169" />
窒素充填は中条の十八番。規則を統制する団体からは過去、その性能ゆえに、否を唱えられた。ただし、中条にも体感以外に証がなかった。その窒素充填の証が遂に認められた。
「ヘッドスピード40でのロボットテストで、インパクト時と直後で、ヘッドスピードの減衰率が減少する証が得られた」
中条が居を構える富山県高岡市には、富山県産業技術研究開発センターというスポーツ用品を含めた研究施設が存在する。古くから中条は、拠り所としており、『TP-X Nitrogen』の試験を依頼した。
「内圧を高めることによって、ヘッドのヌケが向上して、打球後のヘッドの減速度合いを24%改善できたことが証明された」
窒素充填なしのヘッドがインパクト直後にヘッドスピードが減少する現象を起こすのに対して、窒素充填型はその減衰率が低い。つまり、インパクトでのインパクト効率も低減しづらく、飛距離伸長へ寄与する。三十有余年の血の滲む、そして苦難の道を経た技で、「飛び」が第三者によって裏付けられた。
そして残った課題は、響きだった。
「窒素充填の打音は、独特の響きがある」
中条のヘッドには、発泡剤仕様が備えられている。しかし、発泡剤を注入すれば、重量は2g上昇する。
「万人受けする音へ。少しでも多くの使い手に受け入れられる打音をなさねばならない」
その音は、甲子園球児の金属バットとも表され、
「初速が速く飛距離につながるが、高反発仕様かと、疑われることもあった」。
ソール内側にリブを配したのは、低重心化のためだけではなかった。
「ブレた、ビビり音がする」
雑味がない、余韻が短い音を求めた。中条が求める伝統的な形状は、円に近い、縦横比が限りなく1に近い形。それを求めながら、軽さを求め、重心を低め、飛ぶ。そして好まれる打音。それが、『TP-X Nitrogen』で改善された。
若き開発者・中条恭也は締めくくる。
「練習でも、ゴルフ場でも、飽きることなく打ち続けたいと思われるクラブを作りたい」
中条の粋を集めた『TP-X Nitrogen』に、その理想と神髄が映し出された。
中条・カムイ
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