コロナ環境下で一時的にゴルフ人口が増えているという報道もあるが、人口減少や少子高齢化の推移を見ると、今後もゴルフ人口の減少傾向が続くことは間違いない。この連載では、筆者が提唱する「18-23問題」(2018年~2023年にかけてのゴルフ人口激減)に立ち向かうための改善策や基礎資料に基づく提言を述べさせて頂く。
<h2>ゴルフと健康に関するシステマティックレビュー</h2>
シュプリンガー・ネイチャーが発行する「Sports Medicine」は、2022―2023年のインパクトファクター(impact factor:IF)が11・9を超える権威あるジャーナルである。IFとは学術雑誌を評価するための指標であり「論文がどれだけ他で引用されたか」の学術的な影響力を示す。すなわち、Sports Medicineはスポーツ科学分野の論文誌としては非常に高いIFであり、信頼できるジャーナルと言える。
2022年12月発行号に「ゴルフと健康」に関する最新レビュー(総説)が掲載された。アバーテイ大学(スコットランド)のグレアム・G・ソルビーらは、システマティックレビューにより、ゴルフと健康に関連する572件の論文を対象に分析している。
この総説(Golf and Physical Health: A Systematic Review, Sports Medicine, Volume 52, issue 12, December 2022)に掲載された先行研究では、ゴルフは身体活動量を増加させ、心血管疾患などの危険因子を改善することなど、既に「ゴルフと健康」の括りで多くの有用性が示されてきていることを前提としつつも、特に「ゴルファー」や「キャディ」を対象とした健康への有用性を調べた系統的レビューがこれまで存在しなかったことに着目している。
レビューに際しては、PubMed、SPORTDiscus、CINAHLのデータベースを用い2021年7月に行われ、筋骨格系、心血管系、代謝や体組成といった観点からまとめられている。
本稿では、この研究結果に示された内容のうち「ゴルフと健康」において有用性が高いことが読み取れた幾つかの点について、そのエッセンスを紹介したい。
<h2>ゴルフの筋骨格系への有用性の議論</h2>
安定性やバランス能力については、ゴルファー群の方がノンゴルファー群に比べて、有意に高い改善を示した研究が多く見られる。例えば、ステップテストによる検証をした研究(Du Bois AM et al.,2021)や、ゴルファーとノンゴルファーを比較した横断的な検証(Gao KL et al.,2021)(Tsang WWN et al.,2021)(Tsang WWN et al.,2011)などにおいて「バランス機能の改善」が見られている。
また、筋肉量や筋厚を検討した論文は少ないものの、結果は概ねポジティブであり、ゴルファー群では「腕の筋肉量の増加」(Dorado C et al.,2002)と「筋厚の増加」(Herrick I et al.,2017)などが認められている。
歩行速度に着目した研究では、ゴルファーとノンゴルファー、あるいはゴルフプログラム参加前後の数値に変化は見られなかった(Shimada H et al.,2017)が、タイムドアップアンドゴーテスト(椅子から起立後に数メートル歩行後、目印を折り返して着席する高齢者向けのテスト)での数値改善は観察された(Stockdale A et al.,2017)(Du Bois AM et al.,2021)とされる。
キャディを対象とした研究では、「アキレス腱の剛性が高い」(Hoshino H, et al.,1996)、「大腿四頭筋強度が高い」(Goto S et al.,2001)(Hoshino H et al.,1996)、「骨密度が高い」(Goto S et al.,2001)など、多くの指標でポジティブな結果が示されている。
<h2>ゴルフの心血管系や体格に対する有用性の議論</h2>
ゴルフプレーにより血圧の低下が認められた(Neumayr G et al.,2018)とされる論文が存在するものの、介入や観察条件、あるいは横断研究の単純比較だけでは、因果関係が不明な部分が大きいことが指摘されている。
また、ゴルファーのBMIはノンゴルファーよりも低い(Herrick I et al.,2017)ことや、20週間のゴルフシーズン後にBMIが有意に減少した(Parkkari J et al.,2000)という報告もあるものの、「ゴルフとBMI」について分析した研究の多くでは、横断的研究(Stockdale A et al.,2017)(Gao KL et al.,2011)(Müller-Riemenschneider F et al.,2020)(Stenner B et al.,2019)(Webb N et al.,2018)および介入研究(Neumayr G et al.,2018)(Neumayr G et al.,2021)のいずれにおいても、ゴルフプレーやキャディ業務がBMIに直接的な影響を与えない、と結論づけている。
ただ、BMIの変化を観察した研究は全体的には少なく、対象者の条件統制などゴルフとBMIを普遍的に示すにはエビデンスが明らかに不足していることも指摘されている。
<h2>「ゴルフ特異的な健康効果」は存在するか?</h2>
ゴルフは、筋骨格系、心臓血管系、代謝機能等において、健康にポジティブに作用する可能性がある。本誌(GEW)2021年9月号において『キャディ業務従事者の歩数の多さや骨密度の高さ』について筆者の研究結果を紹介したが、このレビューにおいても、キャディ業務の有用性が複数の研究で確認されている。
「ゴルフと健康」に関する研究は、英語で書かれた査読付き論文だけでも600件程度が存在する。今回紹介したレビューでは、サンプルの質、研究デザイン、介入の長さ、活動頻度などの条件や要因をさらに精査して検証される必要があるとされているが「ゴルフ特異的な健康効果」を見出す成果にはいずれの研究も至っていない。
過去に「ゴルフが認知症に効く」などと大きく報じられたことがあるが、これらの効用はゴルフに特化したことではなく、他のスポーツや日常生活の中でも体得できる場面が数多くある。他にはないゴルフの最大の特徴は「プレー時間の長さ」である。健康効果を探る研究にとどまらず、この観点からゴルフの在り方や魅力が再検証される必要がある。
参考文献
・Graeme G. Sorbie et al.(2022)Golf and Physical Health:A Sys-tematic Review,Sports Medi-cine,Volume 52, issue 12, December 2022,pp. 2943-2963
<hr />
この記事は弊誌月刊ゴルフ・エコノミック・ワールド(GEW)2023年4月号に掲載した記事をWeb用にアップしたものです。なお、記事内容は本誌掲載時のものであり、現況と異なる場合があります。
<a href="https://bt3.jp/url/ts/g/z9lenol2">月刊ゴルフ・エコノミック・ワールドについてはこちら</a>