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    日本に降り注ぐ紫外線量が初めて「極端に強い/Extreme」の域に達した(2023年夏) 以前の連載において、「ゴルフをする人はしない人に比べて生涯の皮膚がん罹患率が2.4倍高い」(B Stenner et al.,2023)と言う研究を紹介した。この論文の著者らは、ゴルフを月1回以上行うオーストラリア人の皮膚がんの生涯罹患率の高さから、ゴルフの様な長時間の紫外線暴露を伴うスポーツにおいては特に予防策を講じる必要がある、と結論付けている。 気象庁が公開しているデータによれば、2023年の夏に日本に降り注いだUVインデックス値(紫外線が人体に及ぼす影響の度合い示す指標)が初めて、極端に強い(Extreme)という評価レベルにまで上昇している(図1)。2005年データと比較すると20年前は全体的なレベル自体が低い(図2)。 このように、近年、日本ではオーストラリアの夏並みの紫外線レべルに到達する日が出現するようになっている。過去20年間のデータを見ても、日本の紫外線量がこの域に達したことは一度もない。 <img src="https://cms-backend-gew.com/wp-content/uploads/2024/10/uvi_tsu2023-1.jpg" alt="" width="788" height="525" class="size-full wp-image-83358" /> 図1.2023年のUVインデックス値の推移 <img src="https://cms-backend-gew.com/wp-content/uploads/2024/10/uvi_tsu2005.jpg" alt="" width="788" height="525" class="size-full wp-image-83359" /> 図2.2005年のUVインデックス値の推移 <h2>着衣の色が紫外線透過に及ぼす影響(2024年7月28日、栃木県某ゴルフ場での実験)</h2> 一般的に黒など明度の低い色は紫外線を透過し難いとされている。だが、これらの色は日射吸収率が高く蓄熱し高温になりやすいため、猛暑時の着用は適切でないことはこの連載でも紹介してきた。 本稿では、2023年夏から新たに見られだした、極めて深刻な紫外線量の問題意識から、ゴルフプレー中における、紫外線透過量データを着衣の色別に収集することを試みた。実験方法・実験環境の概要は下記であった。 ・ 実験日:2024年7月28日 ・ 実験場所:栃木県のゴルフ場 ・ 実験開始時の気象環境:WBGT27.6℃、TA28.7℃、湿度81.2%、風速0.15 m/s ・ 実験終了時の気象環境:WBGT27.8℃、TA29.2℃、湿度83.1%、風速0.18 m/s ・ 被験者:スムーズなラウンドに支障ない技量の健康な成人男性4名。 ・ 着衣の色:被験者はそれぞれ、白・ピンク・濃紺・グレーのポロシャツを着用 ・ データ収集:9ホールプレー(9:28~12:36)中の着衣内紫外線量(mW/cm²)データを10秒おきに収集した。 <h2>ピンクが最も紫外線を透過させ、濃紺は全く通さなかった</h2> 実験の結果、紫外線検出量が最も多かったのはピンクであり、胸の内側に装着したセンサーからは、平均値0.017 mW/cm²、最大値0.095 mW/cm²が検出された。2番目に多かったのはグレーで、平均値0.003 mW/cm²、最大値0.019 mW/cm²であった。次いで3番目が白で、平均値0.002 mW/cm²、最大値0.013 mW/cm²が検出。そして、濃紺については紫外線透過を一度も検出しなかった(0 mW/cm²)(表1)。 <h2>「暑さ」と「紫外線」対策、効果的な色は真逆</h2> 実験当日は、高温多湿(最高気温29.2℃、最高湿度91.4%)であり、体感的には直射日光を感じ難い気候であった。着衣表面温度を一番上昇させたのは濃紺であったが、紫外線を全く通さなかったのも濃紺だけだった。北ら(2022)の先行研究では、蓄熱を抑えられる色として「ピンク」の有用性を示したが、紫外線透過の観点からは真逆の結果となった。 過去の観察では、猛暑下では薄いピンクと濃紺の表面温度の間には、20℃程度の温度差が生じることもあった。つまり、猛暑下に濃紺や黒系などを着用するのは、熱中症リスクを高める恐れがある。しかしながら、紫外線対策を考慮すると、ピンクや白では透過する矛盾が生じる。 <img src="https://cms-backend-gew.com/wp-content/uploads/2024/10/20241004kita.jpg" alt="" width="1000" height="457" class="aligncenter size-full wp-image-83383" /> <h2>「表面は白」で「裏地が濃紺」:急がれる蓄熱しにくい上に紫外線も通さないウエア開発</h2> こうした矛盾を解消できる、蓄熱しにくく紫外線を通しにくい帽子やウエアの新開発が望まれる。ハーフ2時間以上の時間を要するゴルフにおいては、オーストラリアでの研究報告に見られるように、紫外線対策についても真剣に考えられなければならない新たな問題である。 例えば、表面は白やピンクなど日射反射率の高いカラーとし、裏地やインナーに黒や紺など紫外線を通しにくいカラーを施したデザイン開発はどうか。日傘では、既にこの発想で製品化されているのものが多いように思われる。 <h2>UVカットスプレーの持続性、発汗量との関連など検証実験が必要なことは多い</h2> 裏地やインナーの工夫とは別に、UVカットスプレーなどを着衣表面に直接塗布した場合の持続効果はどうだろうか。この点についても一考の価値がある。着衣の素材との相性も考えられるし、色や素材によって効果的な組み合わせが見つかる可能性もある。また、発汗してシャツが湿っている場合や、雨などに影響を受ける可能性も考えられる。暑さ対策と紫外線対策においては不明な点が多いため、ゴルフプレーを想定した、こうした様々な環境での検証実験が必要な状況である。 「暑さ」と「紫外線」の両方に強い帽子やウエアの開発や、UVカットとして既に存在する製品をどのように活用すれば効果的かなど、フィールドでの実験検証が必要なことはまだまだ多い。画期的なアイデア創出とそのエビデンス検証が急がれる。 <h2>参考文献</h2> 1)Brad Stenner et al.,(2023)Golf participants in Australia have a higher lifetime prevalence of skin cancer compared with the general population,BMJ Open Sport &amp; Exercise Medicine, Volume 9, Issue 3 2)気象庁(2024)日最大UVインデックス(観測値)の年間推移グラフ,https://www.data.jma.go.jp/env/uvhp/link_daily_uvindex_obs.html 3)Kita et al.,(2024)Observation of Clothing Color and UV Transmission in Hot Environments:A Pilot Study on Playing Golf in Mid-Summer in Japan,The Conference of Digital Life vol.2 Proceedings 4)北 徹朗ら(2022)帽子の素材・色・形状が暑熱環境下でのスポーツ実施中の生理指標と帽子内温湿度に及ぼす影響,デサントスポーツ科学Vol.42,pp.37-51 北 徹朗|きた・てつろう 博士(医学) 武蔵野美術大学教授・同大学院博士後期課程教授 GMACゴルフ市場活性化委員会有識者委員(企業連携・交流部会副委員長) <hr /> この記事は弊誌月刊ゴルフ・エコノミック・ワールド(GEW)2024年10月号に掲載した記事をWeb用にアップしたものです。なお、記事内容は本誌掲載時のものであり、現況と異なる場合があります。 <a href="https://bt3.jp/url/ts/g/z9lenol2">月刊ゴルフ・エコノミック・ワールドについてはこちら</a>
    (公開)2024年10月04日

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