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    ハッシュタグ「地クラブの神髄」記事一覧

    月刊ゴルフ用品界2018年10月号「地クラブの神髄」掲載。 <hr /> 出藍の誉れ――。 六十年を超える共栄の技。匠達が、合力を求める者達の願いを叶えるために、磨き、培われてきた業。 其の黒子の心意気を、秘められた巧手を使い手の為に施したのが匠ジャパン。先代・坂本環は鍛造場を造り、研磨場を造り、そして鍍金場を造った。 そして鍛造で背中の抉れた鉄も作った。越えられない壁。そして超越する思考。引き継ぐべき技。青は藍より出でて藍より青し――。 坂本環が成し得た礎に、新たな息吹を吹き込む坂本敬祐。三代目と目される坂本翔琉に伝承されると想い。そして決意。故に、二〇一七年七月十一日、歩み始めたTK2。 其の新たな歴史に、二〇一八年秋、新たな想いが共鳴する。其処に作り手の神髄があった。 神髄一 超えられぬ史実に挑む二代目の覚悟 <img src="https://www.gew.co.jp/wp-content/uploads/2018/10/takumi2.jpg" alt="共栄ゴルフ 外観" width="788" height="525" class="aligncenter size-full wp-image-50967" /> 六十年に渡り重ねられた史実は、変えようがない。 「何せ、若者の仕事場ができる。そのことが近所の若者の希望の光となった」――。 共栄ゴルフ工業の創始者である坂本環を知る現会長・坂本みち代は、創業当時をそう語った。 兵庫県神崎郡市川町。国産アイアン発祥地の最古参である共栄ゴルフ工業には、単なる鍛造工場だけに非ず、働き場という使命をも負った。故に、歩みは止まらない。坂本環は鍛造場を造り、研磨場を造り、鍍金場を造った。そして血気盛んな若者の生きる場を興した。其の物語は、日本のゴルフを支えてきた。 <img src="https://www.gew.co.jp/wp-content/uploads/2018/10/takumi1.jpg" alt="共栄ゴルフ 二代目社長 坂本敬祐" width="788" height="525" class="size-full wp-image-50966" /> 共栄ゴルフ 二代目社長 坂本敬祐 礎を築いた者への想いは、敬愛でもあり、されど、伝えられた者へは重圧であり、超えられぬ歴史。故に、二代目・坂本敬祐は腹を決める。 「先代が創り上げた礎石には、刻まれていないものがある。それは世に知らしめること。そして匠達に誇りを持たせること」――。 共栄の歴史は黒子の歴史である。故に、合力を求める者達の嗜好の中で、技は磨かれ、其れを持ち合わせながら日の目を見ないものがある。 「白日の下にさらされなければ、作り手の想いは届かない」 <img src="https://www.gew.co.jp/wp-content/uploads/2018/10/takumi11.jpg" alt="匠ジャパン" width="788" height="525" class="aligncenter size-full wp-image-50976" /> 継ぐ者の覚悟は、二〇一七年七月、匠の技を世に問う「匠ジャパン」、そして其れを知らしめるTK2を設立する。 「今日より、共栄は黒子に徹し、TK2は売り手となる」 腹をくくり、共栄が自らを表現した銘「ゼステイム」は、海の向こうに託した。それは過去、「VEGA」を欧州の売り手に託した経緯と似ている。 「黒子が自らの銘を持ち続ければ持ち続けるほど、現場は意識を削がれ、自らが何者かを忘れ、手が止まる。それが工場としての機能を低下させる」 銘を外に出せば、工場は黒子に徹することができる。手は止まらない。斯様な想いも見え隠れした。殊更に、日本の物作りでは職人が蔑まされる。 「この世界で一番高い給金を渡したい。それが匠達の誇りにもつながる」 誤解を恐れずに言えば、坂本敬祐は商人。匠達が魂を込めた商物を、俎上にのせて喝采を呼び込む。其れが二代目の務めであり、さもなければ作り手が浮かばれない。 其の想いが「匠ジャパン」、そして新たに興したTK2の意義と成る。超える想いが突き動かす。そして、海を渡る。 <h2>神髄二 遠い異国の地で与えられた値打ち</h2> <img src="https://www.gew.co.jp/wp-content/uploads/2018/10/takumi12.jpg" alt="匠ジャパン" width="788" height="525" class="aligncenter size-full wp-image-50977" /> 二〇一八年四月。坂本敬祐は、「匠ジャパン」のウエッジを携えて、遠く職人文化が根底に流れるイタリアの地を踏む。ゴルフを生業にする者達に、その値を付けさせるために。 「この国は至る所にプロフェッショナルがいる。幼少期から街角の服屋に通い、着合わせを学ぶ。その繰り返しで、物作りの何たるかを知り、感性が磨かれる」 跳ね馬の紋章、時を経て馴染む革の履き物――。それらを生んだ風土が「匠ジャパン」を味わい、作り手の想いを分かち合った。 「腹がきまった」 異国への旅は、二代目の勝手な想いのみでは到底辿り着けない境地への道標となった。 「遠い異国の地で、わかり合える友がいる」 坂本敬祐の背中を押すに十分足る確証を得た。同地を地盤にして、欧州全土のわかり合える使い手のもとに「匠ジャパン」をあずけ、作り手の誇りを熟成する。そして、国産アイアン発祥の地で生きる作り手達を世界へ誘う。 「其れが先代が我々に残してくれた宿題。黒子の技を知らしめたい」――。 時代に即して出来ることがある。創業者・坂本環は場を造り、故に、 「追いつけない」 と、坂本敬祐は本音を吐露する。しかし、TK2は環の「T」、敬祐の「K」、翔琉の「K」を社名に込めた。伝承され、伝承する。其れに似た風土で、喜ばれた故に、新たな一歩が踏み出せる。そして、其の新たな一歩が、想いを市川町と遠い異国の地でつなげ、一方で時を同じくして、坂本敬祐は新たな男との出逢った。男の名は、片倉寛文――。趣味はパターデザインという金属加工を生業とするプロフェッショナルだった。 <img src="https://www.gew.co.jp/wp-content/uploads/2018/10/takumi4.jpg" alt="片倉寛文" width="788" height="525" class="size-full wp-image-50969" /> 片倉寛文― 「往時、彼は精密な金属加工のグリーンフォークを人知れず造り、売っていた。それが美しかった」 坂本の片倉に対する初見だ。そして言葉を交わす中で、片倉が生んだ道具の存在を知る。其れこそが、『2in1PUTTER』だった。そして二人の挑戦が始まった。 <h2>神髄三 転がるとは何ぞやゴルフは物理</h2> <img src="https://www.gew.co.jp/wp-content/uploads/2018/10/takumi6.jpg" alt="2in1パター 設計" width="788" height="525" class="aligncenter size-full wp-image-50975" /> 片倉は学生時分、金属材料工学を学び、そして生きる道を金属加工に求めた。一方で、四半世紀前にゴルフにふれ、以来、例に漏れず使い手として苦悩に嘖まれる。 「狙った線に打てない」――。 同じ金属業仲間の工場を借り、「板切れに棒」のパター作りに精をだす。されど、玄人崩れが球転がしの道具ひとつ、容易に形に出来ない。金属を学び、物理を会得した男は、何故に、球が転がるかに考えを巡らせた。 「材質、重さ、形状。それが玉の運動、転がりに通じる。そして『順回転』と『転がり』は違う」 例えば、煙草の箱と同じ大きさの均一素材の金属がある。当然、重心は高さ、幅、奥行きを等分した処にある。その下を突けば、物体は上部が手前に倒れる。逆に重心より上部を突けば、上部は前方に倒れ、換言すれば上部が前方に転ぶ。つまり、球は重心より上を突くことで、前へ転び、前へ転がる。順回転とは似て非なるもの。 片倉は静かに口を開く。 「転がりとは芯に接して、前に倒れ込む。其れを起こす機能を形にした」 <img src="https://www.gew.co.jp/wp-content/uploads/2018/10/takumi7.jpg" alt="2in1パター" width="788" height="525" class="aligncenter size-full wp-image-50971" /> 球を転がす頭は、基本的に直進する。故に力の伝達は直進方向。しかし、頭の顔部には角度があり、下から上へ力は伝達される。その異なる方向の力は合成され、顔の角度より低い方向へ伝わる。芯より低いところへ。それが、逆回転を起こす事象となる。 「故に、如何に逆回転から順回転へ移行させるかが課題となる。しかし、顔の傾斜の上に傾斜を付ければ、合成された力は芯の位置に近づき、球は前へ転ぶ」 施したのは、ロフトのついたフェース面に、直角三角形を溝と溝の間に形づくった。 「この顔は大手のクラブ屋に持ち込んだ。ところが、結果、認められなかった」 <img src="https://www.gew.co.jp/wp-content/uploads/2018/10/takumi8.jpg" alt="2in1パター フェース" width="788" height="525" class="aligncenter size-full wp-image-50972" /> 其の道の職人とは言え、数多存在する金属加工屋のひとり。世界が変われば、誰も耳を貸さない。しかし、顔へのこだわりではなく、形状へのこだわりに琴線を揺さぶられたのが、新たな道を求めていた坂本敬祐だった。 <h2>神髄四 二つを一つに追いつける「初」</h2> 片倉にはもうひとつの苦悩があった。 「短い距離に恐れがある」 パッティングにおける感性の所作が、ゴルファーとしての片倉を苦しめた。感性と自動化――。道具でいうところの、鋭い形状と凡庸とした弁当箱。それをひとつの中に収める。それが、ピン型とマレット型を1本の、そして不可変重量で成す。何も足さず、何も引かずに。鍵は、 「格納する」――。 <img src="https://www.gew.co.jp/wp-content/uploads/2018/10/takumi9.jpg" alt="2in1パター 形状" width="788" height="525" class="aligncenter size-full wp-image-50973" /> 形状は、いまでも報道を賑わせている米国海軍所属の輸送機「オスプレイ」。リトラクタブルなシステムを持ち、羽翼部が縦に格納される。一方、「F14戦闘機」は水平に羽翼部が格納される。 <img src="https://www.gew.co.jp/wp-content/uploads/2018/10/takumi10.jpg" alt="2in1パター 形状" width="788" height="525" class="aligncenter size-full wp-image-50974" /> 「45度に反転すれば、ピン型とマレット型がひとつの塊で成る」 東日本大震災直前、素人の片倉寛文は、其のことに気が付く。 往時、坂本は形状に対して、 「興味を掻き立てられた。『匠ジャパン』は、超えるべき歴史がある。そこに『初』というものが必要だった」 先代が築いた場。同じ事では追いつけない。そこに表れたのが、ひとつでふたつを成す片倉のパターだった。 <img src="https://www.gew.co.jp/wp-content/uploads/2018/10/takumi5.jpg" alt="2in1パター 設計図" width="788" height="525" class="aligncenter size-full wp-image-50970" /> 「其処から坂本氏と一緒に何度も設計図を書き直した」――。 片倉の生業はゴルフではない。しかし、坂本は、 「故に、その発想たるや、いまの我々に必要なもの。自らのために道具を造る。其れが自らを離れ他の者の苦しみに共鳴する。それは長年我々が苦しんできた物作りに通底する」 さすれば、片倉の生業に異を唱えることは無い。 <img src="https://www.gew.co.jp/wp-content/uploads/2018/08/takumi2.jpg" alt="匠ジャパン 2in1パター" width="788" height="525" class="aligncenter size-full wp-image-48152" /> 「物作りには終着点がない。僅かな進歩でも使い手の利益を考える。其の上で、『2in1PUTTER』は『初もの』であり、御客様に恩恵を与える。其れを造る為の匠の集団が『匠ジャパン』でもある」 二人の男が、異なる苦悩を共有した。商売気がないといえば、語弊がある。されど、匠は何故に生きるのか。その解が、『2in1PUTTER』であり、其れを受け入れるのが匠ジャパン。青は藍より出でて藍より青し――。其れが匠ジャパンの神髄でもある。 <img src="https://www.gew.co.jp/wp-content/uploads/2018/10/takumi13.jpg" alt="匠ジャパン 2in1パター" width="788" height="525" class="aligncenter size-full wp-image-50978" />
    (公開)2018年10月31日
    月刊ゴルフ用品界2018年6月号「地クラブの神髄」掲載。 <hr /> 質朴剛健。 飾り気がなく素直で、心も体も力強く頼もしい様。豪雪地帯の富山県高岡市にあって、北東に富山湾を望み東南に立山連峰が聳え立つ。雪の閉じ込められながらも、必死に藻掻く姿は、飛距離を欲する使い手の如く。 其の心の機敏に即するように、今年六月、苦難を乗り越えて世に問われるのが、窒素充填の『TP-X Nitrogen』−。 そこには、中条からの想いがあった。   神髄一 爆発した成功体験 <img src="https://www.gew.co.jp/wp-content/uploads/2018/06/chujokamui.jpg" alt="中条カムイ" width="788" height="525" class="aligncenter size-full wp-image-45249" /> 2001年―。中条は『カムイプロ320』の開発を手掛けていた。多くの試作を手掛けるのだが、その試作品では、ヘッドにガスを注入することで、内圧を十気圧、二十気圧、三十気圧と高めていった。 「練習場の280ヤード先のネット上段に面白いように当たる。こんなに飛んだクラブは見たことがない」。 中条佳市は当時をそう振り返る。ところが、当時、その構造は鍛造の4ピースで作られていた。打つ毎に、ヘッドの内圧が高まったのか、それとも、球のエネルギーによるものか。ヘッドが徐々に熱を持つようになる。その刹那、ヘッドが爆発し、シャフトにはホーゼルしか、残らなかった。 「これを売っていたら、会社が爆発していたかもしれない(笑)」 その技術が練りに練られ、現代の製造技術と相まって、形となった。それが、中条でなければ成し得ない技術。それが窒素充填型のドライバー。2011年に生を受け、多くの使い手の琴線を揺さぶった窒素充填型ドライバー『TP-07 Nitrogen』を進化させた。 飛び性能、感じる音、球の捉まり‥‥。それらの気がかりをひとつひとつと対峙して辿り着いたのが『TP―X Nitrogen』。 元来、窒素充填の基軸は、二十有余年前に独自開発に成功した。高反発ドライバーは当時、反発性能を高めるとフェースが凹んだ。その耐久性向上の対策としての考えとして窒素充填という方式が浮かんだ。そして、形となった。製造特許も認められた。 しかし、往時、R&amp;英は窒素充填による飛距離伸長を規則違反としたのだ。 「ゴルフの伝統と慣習にそぐわない」。世に問われることなく、使い手に飛距離増大を給することが出来なかった。 しかし、2008年の高反発規制後に、許しを得た。 飛距離増大に寄与する構造が違反とされ、一転、認められた。その結実が2011年の『TP-07 Nitrogen』。そこで成し得なかった想いの結晶が、『TP-X Nitrogen』に映し出されている。 初代窒素充填型ドライバーから数えて四半世紀以上。『TP-X Nitrogen』には、これまでの中条の粋が集められた。   <h2>神髄二 飛びを司る重心</h2> <img src="https://www.gew.co.jp/wp-content/uploads/2018/06/chujo2.jpg" alt="中条カムイ" width="788" height="525" class="aligncenter size-full wp-image-45167" /> 四十有余年、中条を率いてきた中条佳市は繰り返す。 「飛ばなきゃ、ゴルフは面白くありませんよ」。 脇目も振らず飛距離を求める姿勢は、次世代の開発者である中条恭也に引き継がれ、『TP-07 Nitrogen』での気がかりを払拭していく。まずは、低回転を統べるともいえる重心。 「フェースの反発力を高めるには薄肉フェースが最も有効だが、薄くすれば割れる。だから、ゴルフ専用に作られた素材『DAT55G』を使う」 ただし、「DAT55G」は比較的、比重が高く、浅重心になりやすい。反発力は高いが、比重が重い。重心位置の設計には邪魔となる。低回転による飛距離増進には、二律背反の素材。 「個体としての軽量化もひとつの課題だった」 そう語る中条恭也は、ヘッド形状と構造に考えを巡らせ、フェースの編肉構造を改良して、クラウンを軽量化、加えて、ソール内側にリブを設けた。さらに、窒素充填の入口であるカートリッジを換えた。これまでにない低い位置に据えた。結果、フェース面上でのフェース高に対する重心位置の割合は、「低重心率55.02%を達成した」 一般的には低重心率が六割を下回るヘッドは、超低重心設計で、低回転といわれる。それを成し遂げた。 もうひとつ、低重心に寄与したのが、ショートホーゼルだ。 「ホーゼルが高い位置にあれば、自然とフェース面の重心は高くなる」。 この短いホーゼルは、低重心化に寄与した以外にも、中条の製品を愛して止まないゴルファーに向けた想いでもあった。 「使い手の年齢層が上がり、やさしさも必要となった」 競技者は面を意識して意図的に球を捉まえる技術を持ち合わせている。ゆえに、長い重心距離で面を速く返すことで飛距離を生み出していた。しかし、その競技者も齢を重ねて、捉まりすぎよりも許容性を高めることが求められた。 「引っかかりは嫌われるが、ドローは好まれる。競技者だけではなく、多くの使い手に満足してもらいたい」 その微妙な使い手の心の機微に応えたのがホーゼルの短さ。それが競技者の心の拠り処である中条の神髄でもある。   <h2>神髄三 軽さ、広さ、弾き均衡を保つ</h2> <img src="https://www.gew.co.jp/wp-content/uploads/2018/06/chujo3.jpg" alt="中条カムイ" width="788" height="525" class="aligncenter size-full wp-image-45168" /> 面倒事は、瞬時に片付けられたわけではない。軽さには、ボディ素材を従来の「6-4チタン」から、「811チタン」に換え、クラウンを薄肉化することで、3gを軽量化した。しかし、フェース素材は、「DAT55G」を用いたから、重くなる。 「フェース面の重量は、ヘッド全体重量の四割を占める」 つまり、反発性能を考慮した素材は重く、ゆえに、フェースの広さを狭めれば、有効打点距離が短くなりにおける低重心率は上昇して、低回転の弾道は生み出せない。さらにフェース面積が狭められれば、自ずと反発力は落ちる。二律背反の要素が満載なのだ。重量、反発性能、フェース面の広さ。この三要素の均衡を求める。 「異常に困難な作業」 そう中条恭也は顔をしかめる。経験を基に、予想して検証する。金型を三度修正して、反発性能を高める作業。そこに、窒素充填という、中条の十八番を継ぎ足す。 「実際の試作ヘッドがあがり、打ってみないと理解し得ないことが多い」 多くのパーツブランドが対峙する道程。ただ、重心や飛びを求める過程で得た軽さは、何ものにも代え難い。なぜなら、十八番の窒素の重さだけでも5gを取られてしまうからだ。そして、 「基本となる軽さが自由度を増してくれる。重量の組合せによる弾道は明確に差があり、多くの使い手に価値として認められるはず」 そして均衡の中で、フェース面を広く使うために、ソールの重量物の間隔は『TP‐07 Nitrogen』より、11mm広げた。さらに、フェース高は上下方向に6mm広げた。 軽さを求めることによって、面倒事は徐々に片付きつつあった。ただ、難題は残った。そこにも中条は挑み続けた。   <h2>神髄四 飛びの証と好まれる響き</h2> <img src="https://www.gew.co.jp/wp-content/uploads/2018/06/chujo4.jpg" alt="中条カムイ" width="788" height="525" class="aligncenter size-full wp-image-45169" /> 窒素充填は中条の十八番。規則を統制する団体からは過去、その性能ゆえに、否を唱えられた。ただし、中条にも体感以外に証がなかった。その窒素充填の証が遂に認められた。 「ヘッドスピード40でのロボットテストで、インパクト時と直後で、ヘッドスピードの減衰率が減少する証が得られた」 中条が居を構える富山県高岡市には、富山県産業技術研究開発センターというスポーツ用品を含めた研究施設が存在する。古くから中条は、拠り所としており、『TP-X Nitrogen』の試験を依頼した。 「内圧を高めることによって、ヘッドのヌケが向上して、打球後のヘッドの減速度合いを24%改善できたことが証明された」 窒素充填なしのヘッドがインパクト直後にヘッドスピードが減少する現象を起こすのに対して、窒素充填型はその減衰率が低い。つまり、インパクトでのインパクト効率も低減しづらく、飛距離伸長へ寄与する。三十有余年の血の滲む、そして苦難の道を経た技で、「飛び」が第三者によって裏付けられた。 そして残った課題は、響きだった。 「窒素充填の打音は、独特の響きがある」 中条のヘッドには、発泡剤仕様が備えられている。しかし、発泡剤を注入すれば、重量は2g上昇する。 「万人受けする音へ。少しでも多くの使い手に受け入れられる打音をなさねばならない」 その音は、甲子園球児の金属バットとも表され、 「初速が速く飛距離につながるが、高反発仕様かと、疑われることもあった」。 ソール内側にリブを配したのは、低重心化のためだけではなかった。 「ブレた、ビビり音がする」 雑味がない、余韻が短い音を求めた。中条が求める伝統的な形状は、円に近い、縦横比が限りなく1に近い形。それを求めながら、軽さを求め、重心を低め、飛ぶ。そして好まれる打音。それが、『TP-X Nitrogen』で改善された。 若き開発者・中条恭也は締めくくる。 「練習でも、ゴルフ場でも、飽きることなく打ち続けたいと思われるクラブを作りたい」 中条の粋を集めた『TP-X Nitrogen』に、その理想と神髄が映し出された。   中条・カムイ <a href="http://www.kamuipro.co.jp" rel="noopener noreferrer" target="_blank">http://www.kamuipro.co.jp</a>
    (公開)2018年06月29日
    月刊ゴルフ用品界2018年4月号「地クラブの神髄」掲載。 <hr /> 精度道――。 斯様な言葉は存在しない。敢えて、存在するとするならば、精度の道を究めし男・ゴルフギャレーヂ代表の中井悦夫のための言葉。 本物の“クラブチューンナップ・メンテナンス・リペア・オーダーメイド”を求め、辿り着いたのが測定器の開発。 基準が在ってこそ調整が可能となる。開業から四半世紀を経て、漸く時代が追いついた。その想いには「計る」ということに対する神髄があった。   <h2>神髄一 計るということの定義</h2> <img src="https://www.gew.co.jp/wp-content/uploads/2018/05/golfgarage_1.jpg" alt="ゴルフギャレーヂ" width="788" height="525" class="aligncenter size-full wp-image-43919" /> 不幸にして計ることの意義は、クラブ販売の不振によって見直された感がある。ゴルフ人口が減少し、趣味志向の広がりが、ゴルフから人々を遠ざけて、ゴルフ用品の販売がままならなくなった。メーカー各社は、それぞれの試行錯誤の中で、クラブ販売に工夫を凝らす。しかし、メディアやSNSの普及によって、消費者が工業製品としてのゴルフクラブの製造精度の低さを認識している。 ゴルフギャレーヂの中井悦夫は、 「クラブ販売の低迷が、チューンアップやカスタマイズなどの優良なサービスに業界全体の目を向けさせたが、そこに必要なのが、まず、クラブを測定するということと、その基準となる『計る』ということの定義」―。 その原風景は1995年に遡る。R&amp;AのA・J・コクラン技術顧問が来日。英国大使館でR&amp;A用具関係改定規則セミナーが開催された。1996年からの規則変更についての連絡や新規則の条文の説明、図面の解説やR&amp;Aの解釈、見解が配布された資料にもとづき順次進められた。 その中で、中井が注目したのは、「規則第4条第1項のパターのロフトは10度を超えてはならない。またライ角度は80度を越えてはならない」という項目。 中井は、その測定基準について、 「クラブの設計上、持ち合わせる角度即ち、ロフトやライ角度の規制を今回訴えるうえで、角度そのものをR&amp;Aではどのような測定器、計測器を使い判定しているのか?」 ということを問いかけた。しかし、R&amp;Aの見解は、 「オフィシャルなゲージはR&amp;Aには存在しない。有るのは大きなテーブルに載せた大きなプロトラクターで、テーブルの上で提出されたクラブにプロトラクターをあてがい、ルール上超えて違反しているならダメとし、よほど超えていなくてもスコアに影響し、その差が出そうであるものもダメとする」 というものである。ゴルフ規則を統括するR&amp;Aですら曖昧。中井の疑問は、基準となる測定器が存在しない状況で、「パターのロフトは10度を超えてはならない」という規則自体が画餅に期すということにほかならない。 中井が強調する。 「数値がなければ、クラブの管理すらできない。基点があるからフィッティング、チューニング、アジャストができる。経験といわれるが、経験は伝承できず、技を教えるにも数値化が背骨となる」―。 計ることの意義は、クラブが工業製品として、そして調整できる道具として、基準なくしては、調整すらできないということを表している。 基準器がなければ、作るしかない。それがゴルフギャレーヂの求めたクラフトマンシップの原点となる。   <h2>神髄二 シャフトは平行に非ず軸線を据える意義</h2> ゴルフギャレーヂの測定器開発は、初期バージョンの『オリジナルクラブアングル測定器』の開発まで、十余年を要している。 <img src="https://www.gew.co.jp/wp-content/uploads/2018/05/golfgarage_2.jpg" alt="ゴルフギャレーヂ" width="788" height="525" class="aligncenter size-full wp-image-43922" /> 「私は図面を書けない。しかし、どの様に計れば、正確なのか把握していた。だから、台湾メーカーの測定器を元に、機械屋に依頼して試行錯誤を繰り返した」 ゴルフギャレーヂの隅にいままで試行錯誤した測定器が、無造作に佇んでいる。 奇しくも、1988年1月、日本ゴルフ用品協会は「ゴルフクラブの基準」を制定。中井は、その「基準」に対して文字通りに計測できる機器の開発を目指した。肝は、ライ角。 「ヘッドの角度は、ライ角、ソール、フェースアングルの3次元で動くと考えなければならない。現代のクラブは、パーシモンと異なり、ソール形状が複雑だから、それをクラブ構造の理論に沿うよう、ライ角を固定することからクラブの測定は始まる」 しかし、それまでの測定器と呼ばれる機材はシャフトの側面に分度器をあてて、ライ角などを計測していた。 「特にスチールシャフトは、ステップのあるシャフトとノンステップでテーパーのついたシャフトがある。シャフト軸線と端面は平行ではない。そこには角度があって、軸線との誤差が生じる。その誤差はライ角やフェースアングル、ソールに大きく影響する」 既存の計測器では、ステップ付のシャフト、ノンステップのシャフトにそれぞれ、同じヘッドを装着しても、シャフト側面に分度器をあてる測定方法では、ヘッドの測定値は異なる。だから、シャフト軸線上を基準として、測定器にクラブを装着する。 理に適っている。そして生まれたのが、初代の『オリジナルクラブアングル測定器』である。その測定方法は特許が認められ、発売後20年弱で120数台を販売。アイアンだけが計測可能でウッドやパターは測定できない機器や、左利きのクラブは測定出来ない機材はあった。しかし、シャフト軸線を基準として測定可能な機器はなかった。 「思うような弾道にならない。それは一流プロが悩むクラブに対する不安の根源です。しかし、クラブが曖昧な測定基準を元に調整されている。それでは、幾ら調整しても意味がない。だから、理に適った測定器が必要なんです」 一般アマチュアゴルファーなら尚更だ。標記ロフトから掛け離れたヘッドのクラブを使い、その標記の間違いに気付かなければ、いつまで経ってもゴルファーは自己の技術力の低さを上達しない理由だと思い込んでしまう。ゴルフが上達せず、プレー継続の妨げとなる。 <img src="https://www.gew.co.jp/wp-content/uploads/2018/05/golfgarage_5.jpg" alt="ゴルフギャレーヂ" width="788" height="525" class="aligncenter size-full wp-image-43923" /> その意味でも、正確な、そして論理の破綻を来さない測定器の存在意義は業界全体において、有意義であるといわざるを得ない。それはヘッドの測定だけではなく、シャフトに関しても同様である。 今般、日本ゴルフ用品協会は「ゴルフクラブの『スペック測定』に関するガイドライン」を改定、開示しているが、そのガイドラインに基づいた測定を可能とする機材は、特許商材であるゴルフギャレーヂ製「オリジナルクラブアングル測定器」以外にない事実がある。 それに加え、ガイドラインとして測定方法が明文化されたにも関わらず、測定器のオフィシャル化を推奨しないことに対して、中井の疑問は残るばかりである。   <h2>神髄三 統一基準があれば規格に惑わされない</h2> インターネットが世界を繋ぎ、SNSが個人をメディア化する。その中で、多くのゴルファーがクラブを評価し、ゴルファーに情報を提供している。しかし、それは誰しもができることがゆえに、ゴルファーを惑わせることに成りかねない。そこに警笛を鳴らすのが中井である。 「クラブやシャフトの試打インプレッションをネットやSNSで掲載される人が多くなっています。しかし、製品個々の測定値を元にしておらず、リベラルな印象ではない場合が多い。それゆえに、一般ゴルファーが惑わされるケースがある。間違ったフィッティングに繋がることも散見される」 <img src="https://www.gew.co.jp/wp-content/uploads/2018/05/golfgarage_4.jpg" alt="ゴルフギャレーヂ" width="788" height="525" class="aligncenter size-full wp-image-43920" /> それに加え、特にシャフトは大量生産の弊害によって、製品の直線性に大きな公差があると中井は指摘する。さらに、シャフトメーカー各社の計測方法は異なっており、ゆえに一元的にシャフトの挙動を比較検討することが実質不可能となっている。 「そこで開発したのが、センターフレックス値・剛性値がシャフト軸周り360度方向で測定可能な『マルチシャフトアナライザー』という計測器」―。 シャフトを360度、シャフト軸線を基準に回しながら、各所の剛性値、スパインなどの検出も可能。左右のシャフト固定部が直線上、自在にスライドして中央のシャフト圧縮部分が水平に動くのでシャフトの全長にわたり、先部分・中部分・元部分の圧縮剛性値がシャフト軸全周方向、規格幅の中で測定できる測定器だ。 「特にシャフトの測定基準がメーカー各社で異なるなか、『マルチシャフトアナライザー』によって、シャフトの曲がり特性や捻れ特性を数値化して一元管理ができる。複数のシャフトブランドのモデルでも、同じ基準で比較ができる。ひいてはメーカーのスペックや試打インプレションに惑わされることなく、シャフトの特性を理解し、フィッティングに生かすことができるのです」 シャフトに関して中井が警笛を鳴らすことが、もうひとつある。それがシャフトの曲がりである。先に中井が述べるように、クラブが規格通りに製造されていなければ、ゴルフの腕前は向上しない。その最たるものが、シャフトの曲がり。 「工業製品である以上、公差は必ずある。そしてシャフトは公差以上に大きく曲がっている事も多い」 そこで開発したのが、『シャフト軸直線性検査器』。シャフトのみならず48インチ460㎤のドライバーからパターまでの完成品クラブでのシャフト直線性が測定可能で、ダイヤルゲージを使用する事で直線性が目の当たりになる。 「曲がったシャフトでは本来の挙動が制限されて上達しない」 それはゴルファーへ、そしてクラブを組み立てる工房のクラフトマンへのメッセージである。その言葉には、クラブへの熱い想いが垣間見られる。 もちろん、「オリジナルクラブアングル測定器」「マルチシャフトアナライザー」以外にも、同社では稚拙な機材が多い中で「正にプロ用チューンアップ機材」を多く取り揃え、長年多くの工房やメーカーに機材を販売していることが、何よりも高精度な基準の必要性を証明している。   <h2>神髄四 造り手ではなく使い手を満たす</h2> <img src="https://www.gew.co.jp/wp-content/uploads/2018/05/golfgarage_6.jpg" alt="ゴルフギャレーヂ" width="788" height="525" class="aligncenter size-full wp-image-43921" /> 近年、地クラブ・工房ビジネスが注目を浴びている。中小メーカーから独立して、地クラブメーカーを興す者。それに呼応するように研修生やゴルフ好きが高じて工房を開く者が後を絶たない。活性化をいう論点では、喜ばしい事だが、ゆえに工房間で技術格差が叫ばれている。 「最近では、ヘッドとシャフト、そしてグリップを装着する作業自体が簡単にできると誤解され、誰にでもできると思われている。ただ、そこに基準もなければ資格もなく、それが問題であることは周知の事実。その問題をクラフトマンとして解決したい」 米国には、プロフェッショナル・クラブメーカーズ・ソサエティー(PCS)なる団体が存在した。現在は、その代わりとなるインターナショナル・クラブメーカーズ・ギルド(ICG/米国ゴルフクラブ技師協会)が存在する。 共に工房を意味するクラブメーカーのクラフトマンの技術向上や情報共有化などを目的に、統一基準の制定、クラブ組立方法やフィッティングに関するノウハウを一元化して、ゴルフ産業の底上げに尽力している。 そのような中立的且つ基準となる知識、測定方法、作業工程などを一元化して地クラブ・工房ビジネスの健全な成長に寄与したいと考えるのが中井である。 「クラフトという仕事の重要性を説いていきたい。どのような考えで、そのクラブを組み立てるのか? それが重要であることは間違いない」 中井の夢は、日本版PCSの構築である。そのために、基準となる、そして理に適う測定器を作る。もちろん、自ら工房マンとしての疑問が、それらの測定器を世に生み出した。 中井に師事した門下生は10人を超え、業界で独立し盛業中の組織化した実績もある。しかも、確固たる技術を有した店にゴルファーが集約される傾向も顕著だ。そこで重要なのは、 「組み立てるクラフトマンの満足度よりも、信頼してクラブをクラフトマンに預けてくれるゴルファーの満足度を優先しなければならない」 中井が生み出した様々な測定器は、4つの特許、2つの意匠が登録されている。原点は理に適う測定方法であり、そして測定可能な機器の存在が、ゴルファーの満足度を高めていくと信じて止まない。 「計る事の重要性」―。 大阪のいち工房店主が、長年想い、そして辿り着いた境地。それが理に適った計測。その神髄に漸くゴルフ業界が追いつきそうな気配である。 〈敬称略〉 <hr /> <strong>株式会社ゴルフギャレーヂ</strong> 大阪市北区長柄東2-1-21-103 TEL:06-6353-6383 FAX:06-6353-6414 <a href="http://www.golfgarage.jp/" rel="noopener noreferrer" target="_blank">http://www.golfgarage.jp/</a>
    (公開)2018年05月17日

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