キャロウェイとテーラーメイドは2月7日、その前日にピン。米国大手3社がニューモデルを同時発売。三役揃い踏みは初めてのことだけに、ゴルフショップの期待感は高まっている。
「毎年注目度が高まる2月の外ブラニューモデルに、今年はピンが入って三つ巴です。顧客を巻き込んだ業界の盛り上がりを期待します」
二木ゴルフ営業部の岡田泰明次長は、春商戦に気合を込める。一方、有賀園ゴルフの有賀史剛社長は1月初旬に始まった先行予約の状況を、こう説明する。
「26店舗とEC11サイトで予約を受けてますが、3社横並びの状況ですね。特にピンは去年の『10K』が前シリーズの追加モデルだったから、『G440』は2年半ぶりのニューモデル。注目度は高いです」
近年は、中古ショップも新製品の販売を手掛けている。中古チェーン大手のゴルフ・ドゥ商品本部、孫本瑞穂本部長も期待感を膨らませる。
「3社の同時発売は過去に例がありませんし、市場は賑わうと思います。いずれも魅力的なクラブなのでゴルファーは購入に悩むはず。販売員の知識が決め手になるでしょう」
ゴルフ流通最大手の座をゼビオグループと争うのがアルペンのゴルフ5。その責任者、岡本眞一郎常務はマーケットの初動を次のようにイメージしている。
「3社の大型商品が一度に店頭に並ぶだけに、ゴルファーは先入観なく、同時に試打できるメリットがあります。その分、接客時間が増えるのは悩ましい。近年は発売の1か月ほど前に先行予約が始まるので、販促に関わるメーカーとの協業がやりやすい。各メーカーとも、初速(発売直後の売上)にこだわる姿勢が強まっています」
このコメントにあるように、メーカーが「初速」にこだわるのはワケがある。毎春製品が登場するため、秋口にはマークダウン商戦が始まるからだ。
マークダウンは、メーカーが今年のクラブを大幅に値下げすること。これにより店頭在庫を一掃して、翌年の新製品を並べるスペースを確保する。ショップ側も次回作を仕入れるキャッシュを生み出せる。この流れを知っているゴルファーは「マークダウン待ち」をするために、夏場には当年モデルの売上が鈍る。鈍る前に少しでも高く売りたいのがメーカーの事情だから、発売直後の春商戦に勝負を賭ける。
岡本常務が指摘する「初速」は、その意味だ。
三者三様の性能特性
<img src="https://cms-backend-gew.com/wp-content/uploads/2025/02/Qi35.jpg" alt="" width="788" height="788" class="size-full wp-image-86275" /> テーラーメイド『Qi35』
ゴルフクラブの「華」はドライバー。他人より遠くへ飛ばせば優越感を味わえるため、ゴルファーは競って飛ぶドライバーを買い求める。メーカーにすれば、最初にドライバーで顧客をつかみ、その流れで自社のFW→UT→アイアンの販売につなげたい。そんなわけで米国3社の同時発売は激しい攻防が展開されそう。
以下、三つ巴の顔ぶれを紹介しよう。
<strong>■テーラーメイド『Qi35』</strong>
「自分史上、最も信じられるドライバーへ」 ヘッド4機種(税込9万9000円)。フェース面重心位置を低く設計してフェース上部の有効打点エリアを拡大。60層カーボンのツイストフェース、貫通型スピードポケットのほかヘッド前後2か所に13gと3gの可動式重量を搭載。
<strong>■キャロウェイ『エリート』</strong>
「これが、禁断を超えた未来だ。」 ヘッド4機種(10万7800円)。成形しやすく高精度で製造できるサーモフォージドカーボン採用。「Ai10ⅹフェース」等の性能で前作比最大8ヤードアップ。3Ⅾプリンターの導入でチタンボディを75回試作して、空力構造も向上させた。
<strong>■ピン『G440』</strong>
「ピンがブレた?」 ヘッド3機種(10万7800円)、『G440HL』ヘッド2機種(同)。過去の『G425』と『G430』は日米の発売時期がズレたが、『G』シリーズ20年目の今作は世界同時発売。飛距離追求のため重心ラインにこだわり、慣性モーメント(MOI)は『G440』3機種で9000g・㎠超。
三者三様のコメントを聞こう。テーラーメイドのハードグッズ担当・高橋伸忠ディレクターの話。
「基本的には『Qi10』の流れを汲んでますが、今回の『Qi35』はフレームの肉厚やヘッド形状、余剰重量を生み出して深・低重心設計を進化させた。フェース面上部の有効打点面積は非公開ですが、社内基準でその部分のCOR値を定めてます。飛び性能と寛容性が高まったモデルです」
キャロウェイの原哲史マネージャーも自信を見せる。
「今回の進化はフェースに集約されます。当社はAIによる設計を逸早く取り入れ、こうして話してる今も本社では『エリート』の試打データが間断なく蓄積されます。AI設計のソフトウエア、AIを使う人間の技術、コードを打ち込む速度を含めて進化は日々止まりません」
ブレた?ピンについて、プロダクトマーケティングの山崎力氏は、
「当社は一貫して低重心と高MOIを追求してきましたが、今回は飛距離追求型なので『ブレた?』と表現しています。こだわったのは重心ラインですね。このラインはフェースセンターから後方へ垂直に引いた線上のこと。今回は一気に重心を下げて、理想とする重心ラインに48%近づけることに成功しました」
以上のコメントで明らかなのは、訴求点が三者三様で異なること。違いを理解して接客する販売員の苦労は大変だろうが、各社の違いは製品性能に限った話ではなく、発表形式にも表れていた。
<h2>限られた経費をどこに振り向ける?</h2>
<img src="https://cms-backend-gew.com/wp-content/uploads/2025/02/ELYTE.jpg" alt="" width="788" height="788" class="size-full wp-image-86276" /> キャロウェイ『エリート』
派手好きのテーラーメイドは、今年も新製品の登場を力強く演出した。1月8日、都内の会場に約260名を集め、その8割がインフルエンサーを含むメディア関係者。生配信も行って、同時視聴は1700アカウント。そのステージで、毎年雄弁をふるうのが前出の高橋ディレクターだ。性能説明のパートを任され、時折会場の笑いを誘うなど、堂に入ったものである。同氏は記者発表会の重要性をこう話す。
「他社の事情は知りませんが、発表会はとても大事だと思っています。我々のメッセージを正確に、熱量を込めて伝えられる。たしかにコストは掛かりますが、報道資料だけでは共感を得られず、受け手によって様々な印象や解釈が生まれてしまう。ニューモデルの立ち上げには熱量と勢いが必要なので、同時に、同じ温度感で伝えたかったのです」
派手な映像と音響で演出するのが同社の十八番。米本社デビッド・エイブルスCEOの「グッド・アフタヌーン! 英語ではグッド・アフタヌーンと挨拶します」という、初級英語の「解説」で始まったイベントは、昨年6月に日本法人の社長に就任した比留間育洋氏の自己紹介を含むスピーチ、高橋ディレクターの製品説明と続き、契約プロの中島啓太、山内日菜子、新垣比菜のトークショーで計1時間半。その印象を前出の有賀社長は、
「アップルの社長が新商品発表のステージで、ヘッドマイクを付けてウロウロ歩く。そんな光景をテレビで見ますけど、テーラーメイドもまったく一緒。ハイテクメーカー並みの雰囲気が好印象でした」
一方、ピンは動画配信で発表したが、異彩を放ったのがキャロウェイだった。新ブランド『エリート』のデビューをプレスリリースの配信のみで済ませている。同社の喜田慎シニアマネージャーは、
「以前からアメリカで年始早々、先に情報が出ています。にも関わらず日本では、発表会終了まで情報開示ができない問題がありました。そのタイムラグをなくすことと、ゴルファーが既に知ってる情報を発表会のコストを掛けてやるべきなのか。そこの経営判断でしょう。今後もやらないということではなく、適宜適切な方法を模索します」
実は、発表に関わる「経営判断」は年々シビアになっている。長年、習慣的に行ってきた発表イベントのコストを見直すのは、他の予算確保を重視する各社の懐事情と無縁ではない。
今回の3商品は、いずれも税込10万円程度の価格帯に設定された。以前は住友ゴムのロングセラー『ゼクシオ』の「8万円」がハイエンドの基準だったが、コロナ禍でサプライチェーンが止まって品不足に陥り、材料原価の高騰と円安で、メーカーは徐々に値上げをしてきた。それでも利益の圧迫要因は解消が難しい。
世界最大のシャフトメーカー、トゥルーテンパースポーツ日本法人の伊能新吾社長によれば、
「大手クラブメーカーの米国価格は、ドライバーで1000㌦前後です。為替をそのままスライドすれば日本価格は15万円ほどですが、現状では10万円程度に抑えている。我慢する部分はあると推測します」
<h2>試打クラブの有償化</h2>
<img src="https://cms-backend-gew.com/wp-content/uploads/2025/02/G440-MAX2502.jpg" alt="" width="788" height="788" class="size-full wp-image-86277" /> ピン『G440』
当然、各社ともコスト配分を厳しく見直すことになる。記者発表は会場費のほかPR会社等のコストも掛かり、前出の高橋ディレクターが重視する「熱量の共有」も効果査定が難しい。どこに予算を振り向けるかは各社の経営判断で、その判断が売場での販促に直結する。
「現状、試打クラブの量はキャロウェイが一番多いんです。店頭では大手3社の打ち比べで、特定のブランドファンだったゴルファーが他社に移る可能性がある。ライバルの顧客を奪うチャンスだし、3社同時発売はそれが起きやすい。当然、豊富なスペックの試打クラブがカギになるはずです」(有賀社長)
発表会を見送ったキャロウェイの経営判断は、試打クラブの充実だった。そんな見方も成り立つだろう。
メーカーはかつて、取引先の専門店に無償で試打クラブを提供していたが、近年は有償化が進んでいる。コスト高の影響が大きく、住友ゴムの販売子会社ダンロップスポーツマーケティングの林浩行本部長によれば、
「試打クラブは有償ですが、格安で卸しているので当社の負担も無視できません。用意できる量は限られ、潤沢に用意できないスペック等は貸出しています。小売側は、後々試打クラブを中古で販売するかもしれませんが、その分在庫金額は上がるはず。試打クラブはフィッティング販売に必須だけに、量の確保は大事ですが、対応はなかなか難しい」
後述するが、試打クラブの供給を巡って小売サイドには悲喜こもごもの感情が漂っている。メーカーにすれば、大量に販売する大型店を優先したい。資本力の小さな専門店は3社同時発売で仕入れコストが一気に膨らみ、これに試打クラブの仕入れも載ってくる。市場が盛り上がる一方で、算盤勘定に頭を抱えるのだ。
「後編」は<a href="https://x.gd/pae0N">コチラ</a>