どんなウエアでプレーするのが涼しいのか
<strong>7月の月間平均気温は史上最高、8月初旬の段階で「観測史上初」が多発</strong>
気象庁は、東京都心の2023年7月の平均気温が28・7度であり、1875年の観測開始以来、7月としては史上最高を記録したことを発表した。この原稿は8月6日に書いているが、8月に入ってからも経験したことのない暑さが次々と報告されている。例えば、8月2日には鳥取県倉吉市で37・9℃の観測史上最高気温を記録した。また、5日には長崎県佐世保市で38・0℃、青森県三戸で37・4℃を観測し、8月の観測史上最高を更新した。
同じく5日には、福島県伊達市梁川で40・0℃(県内観測史上最高)、福島市(39・1℃)や郡山市(36・6℃)でも観測史上最高となった。その他5日には京都府舞鶴市(39・0℃)、福井県坂井市(39・5℃)、兵庫県豊岡市(39・4℃)、6日には兵庫県淡路市(37・8℃)等々、8月初旬に史上最高気温を更新した地域を挙げればきりがない。
筆者は、少しでも暑さを和らげる服装について、ニュース番組で解説した(図1)。本稿ではその解説のもとになった研究<sup>1)</sup><sup>2)</sup>のエッセンスと暑熱環境とゴルフ場に関する話題を紹介したい。
<strong>先行研究にみるスポーツウエアや帽子に関する議論</strong>
スポーツ場面における着衣に関する研究は国内外で多数報告されている。蒸発や通気性ではポリエステル100%が理想的で、熱の伝導と吸収は綿100%が優れており<sup>3)</sup>、こうした特性を考慮した綿とポリエステルの混合素材を用いて、スポーツウエアが作成される場合が多いという報告<sup>4)</sup>がある一方で、薄くゆったりした綿の衣類は、発汗率を高め皮膚への空気の流れを増大させることにより蒸発と対流による放熱を増大させるという報告5)もある。
また、明るい色の綿の衣服を着ることが運動中の気流を増し蓄熱量を減らすことに役立つこと6)や、白い衣服は黒い衣服に比べて輻射熱の減少が大きいこと<sup>7)</sup>など衣服のカラーの重要性についても指摘されている。さらに、気温30℃の環境下において、綿およびポリエステルのウエアを着用し、ジョギングやウォーキングを実施した場合、直腸温、皮膚温、心拍数などには変化が見られなかったことや、着衣の素材を考慮したり、送風をすることによる相違などが検討されている。
このように、着衣の繊維や材質<sup>8)9)</sup>、あるいは厚さや色7)などの要因が体温上昇を抑制し、運動強度の維持や疲労の軽減に役立つことが検討されてはいるものの、様々な見解が見られ不明な点が多い。また、これらの研究は人工的に暑熱環境を再現した実験室内での検討が中心となっており、実際のフィールドで測定が行われ検証された研究はあまり行われていない。特に、帽子を用いた研究では実験室での検証が多く、フィールドでの検証は筆者らの研究の他にはあまり見られなかったことから、屋外での実際の直射日光下において、様々な色や素材の違いで帽子内温度上昇に違いがあるかを検証した。
<strong>猛暑に強い(涼しい)ウエアは「綿ポリ製の薄ピンク」</strong>
<img src="https://cms-backend-gew.com/wp-content/uploads/2023/09/image3-1.jpg" alt="" width="495" height="372" class="size-full wp-image-78611" /> 図2.猛暑下のグラウンドにおける実験風景(2019年8月17日実施)
筆者らは、東京都内の大学グラウンドで、一般的に市販されることの多い素材と色の帽子(同一形状)を準備し帽体内温度変化を調べた(2019年8月17日実施)。地面から約70センチの高さの台上に帽子を並べ、帽子内部に温湿度計を設置した(図2)。帽子内温度データは30分おきに記録した。実験時(午前9時~10時の間)の外気温は38・9℃、WBGT32・8℃であった。
60分の直射日光の暴露の結果、「ナイロン」、「レーヨン」、「絹」、「ポリエステル」、「綿」の各素材は全てのカラーにおいて帽子内温度が40℃を超えていた。また、「ポリエステル」製もグレー(39・9℃)を除いて全て40℃を超えた。
7つの素材のうち「綿ポリ」(ポリエステル65%+綿35%)製のピンクが最も温度を溜めなかった(表1)。
(この項の知見は、北 徹朗ら(2022)が「デサントスポーツ科学」に報告した『帽子の素材・色・形状が暑熱環境下でのスポーツ実施中の生理指標と帽子内温湿度に及ぼす影響』および、北 徹朗(2023)が「繊維機械学会誌」においてその論文を解説し概要を示した原稿を抜粋している。)
<img src="https://cms-backend-gew.com/wp-content/uploads/2023/09/hyou1_kita.jpg" alt="" width="1430" height="510" class="aligncenter size-full wp-image-78685" />
<h2>WBGTとゴルフ場</h2>
<strong>暑さ指数(WBGT)とは</strong>
<img src="https://cms-backend-gew.com/wp-content/uploads/2023/09/image5.jpg" alt="" width="636" height="321" class="size-full wp-image-78612" /> 出典:環境省「暑さ指数の詳しい説明」<br />図3.WBGTの測定方法
一般的に「暑さ指数」と言われるWBGTは【Wet Bulb Globe Tem perature】の略であり、日本語では【湿球黒球温度】と言う。このWBGTは、熱中症予防を目的とした指標として1954年にアメリカで提案されたもので、その単位は気温と同じ摂氏度(℃)で示されるが、その値は気温とは異なる。
WBGTは人体と外気との熱のやりとり(これを熱収支と言う)に着目した指標で、人体の熱収支に与える影響の大きい、①湿度、 ②日射・放射など周辺の熱環境、③気温、の3つを取り入れた指標となっている。WBGTの計測は、図3のような測定装置を用いて3種類の測定値、つまり、「黒球温度」、「湿球温度」、「乾球温度」をもとに算出される。
また、WBGTは熱中症リスクを判断する数値として、運動時や作業時だけでなく、日常生活での指針としても活用されている。図4は、人通りの多い休日の巣鴨・地蔵通り商店街のデータ収集をしている筆者の様子であるが、ハンディタイプのWBGT測定器を用いて簡単に計測することができる。
<img src="https://cms-backend-gew.com/wp-content/uploads/2023/09/image6.jpg" alt="" width="484" height="363" class="size-full wp-image-78613" /> 図4.賑わう商店街においてWBGTを測定する筆者 (2022年7月23日)
<strong>ゴルフ場の大半はWBGT測定器を保有していない</strong>
筆者は(公財)日本ユニフォームセンターの研究助成を得て、全国のゴルフ場225施設の支配人に対して無記名のアンケート調査(インターネット調査)を実施した(調査期間:2022年3月16日~4月17日)。その結果、81施設から回答を得た(回収率36・0%)。
「WBGT測定器の保有有無」について尋ねたところ、殆どのゴルフ場が「保有していない」(92・0%)と回答した(図5)。
<img src="https://cms-backend-gew.com/wp-content/uploads/2023/09/image7.jpg" alt="" width="712" height="267" class="size-full wp-image-78614" /> 図5. ゴルフ場にWBGT(暑さ指数)測定器を設置(保有)しているか
<strong>ゴルフ場支配人の半数近くが「職場における熱中症予防対策マニュアル」を読んだことがない</strong>
同じ調査において、厚生労働省「職場における熱中症予防対策マニュアル」についての認識を問うた。その結果、半数以上(57・7%)が「読んだことがある」と回答したが、半数近く(42・3%)は読んだことがなかった。32・2%の支配人は「読んだことがありゴルフ場運営の参考にしている」と回答した一方で、「このマニュアルの存在自体を知らない」と回答した支配人も22・0%存在した(図6)。
<img src="https://cms-backend-gew.com/wp-content/uploads/2023/09/image8.jpg" alt="" width="835" height="376" class="size-full wp-image-78616" /> 図6. ゴルフ場支配人の「職場における熱中症予防マニュアル」(厚生労働省)の認識
<strong>WBGTの指針に従うと夏場はゴルフができなくなる?</strong>
WBGTの指針には「日常生活活動に関する指針」と「運動・スポーツ活動に関する指針」がある。図7は、後者(運動・スポーツ活動)の指針である。運動やスポーツは骨格筋を動かすため暑くなくとも体温は上昇する。特に、真夏の暑熱環境下では厳しい環境要因が加わるため注意が必要である。つまり「今日は運動しても大丈夫なのか?」その日の環境がどのような状況なのかをWBGT値を活用して見極める必要がある。
WBGTが21℃未満の場合は「ほぼ安全」とされる。21℃~25℃になると「注意」となり、熱中症による死亡事故が発生する可能性も指摘されている。
25℃から28℃になると「警戒」、28℃から31℃になると「厳重警戒」となる。また、「暑さに弱い人」、これは図7枠外の米印の意味を枠外に示したが、暑さに弱い人とは、「体力の低い人」、「肥満の人」、「暑さに慣れていない人」などを指すが、暑さに弱い人またはその自覚のある人は、運動を軽減したり、中止することが必要とされる。
WBGT31℃以上の環境では「運動は原則中止」(危険)とされる。最近よく報道を耳にするように「運動中止」レベルに至る日は、7月から8月にかけて近年では頻発している。特に、ゴルフ場においてはWBGT31℃以上の環境は実のところ常態化している。
<img src="https://cms-backend-gew.com/wp-content/uploads/2023/09/image9.jpg" alt="" width="1356" height="606" class="size-full wp-image-78617" /> ※暑さに弱い人:体力の低い人、肥満の人や暑さに慣れていない人など(公財)日本スポーツ協会「スポーツ活動中の熱中症予防ガイドブック」 2019 )より出典:環境省「暑さ指数( について」</br>図7.WBGT の運動 ・スポーツ に関する指針
<strong>コースラウンドを如何に涼しく過ごすか、暑熱対策のアイデア創造と事業化が急務</strong>
例えば、筆者は7月末に北関東の某ゴルフ場でラウンドを行ったが、その時の計測では、午前9時6分のスタート時には、既にWBGT31℃を超えており、その後34℃以上にまでも上昇していた。このゴルフ場では、クラブハウスの出入り口に、ミストシャワーや大型扇風機を配置していたが、ハーフ2時間以上の時間を要するゴルフにおいては、出入り口のみの対応では、殆ど効果はないだろう。
ラウンド中、如何に身体に熱を溜め込まない状態を作り出し、ゴルフを楽しむ環境を作れるか。新たなアイデア創造と事業化が急務である。
<h2>急がれるキャディの安全対策</h2>
<strong>長袖・長ズボンにナイロン手袋、安全靴に重たいヘルメットでの重労働</strong>
キャディは真夏でも「長袖」、「長ズボン」に加えて「手袋」を付けている場合が多い。また、つばの広い帽子を被っている様に見えるが、あれは実は「ヘルメット」である。複数のゴルフ場でヒアリングと実地踏査を行ったが、ヘルメットには通気口は無く、手袋はナイロン100%であり、シューズも重い安全靴である。
「OBラインに飛んだボールを走って探す」、「クラブを両脇に抱えてカートを往復する」など、キャディの活動量はゴルファーよりもはるかに多い。図8はゴルフ場で働く人の業務従事中の歩数だが、キャディの歩数はかなり多いことが見てとれる。筆者による加速度計を用いた分析では、この歩数の内訳も、ゆっくり歩いているわけでなく、ゴルファーよりも先回りするために、小走りや早歩きが中心で構成されている。
<img src="https://cms-backend-gew.com/wp-content/uploads/2023/09/image10.jpg" alt="" width="1048" height="690" class="size-full wp-image-78618" /> 図8. ゴルフ場労働者における業務別の1日の歩数(GEW2021年10月号より)
<strong>キャディの業務従事時の衣服内温湿度と生理的応答(猛暑日における検証)</strong>
次に、筆者が2021年8月に収集したゴルフ場でのキャディの労働作業中のデータを紹介したい。
<strong>〈実験条件〉</strong>
◆測定日:2021年8月20日
◆測定場所:東京都内のゴルフ場
◆被検者:51歳、女性、キャディ歴14年
◆記録時間:9:24(スタート)~15:30(ホールアウト)
◆環境(ゴルフ場での実測):気温29・6℃~41・8℃、湿度38・7%~67・2%、WBGT:27・7℃~33・9℃、風速:0・10 m/s~3・49m/s(WBGT31・0℃を超える危険な暑さ)
<strong>実験結果①:キャディ業務実施前後の生理的応答</strong>
<img src="https://cms-backend-gew.com/wp-content/uploads/2023/09/hyou2kita.jpg" alt="" width="1213" height="430" class="aligncenter size-full wp-image-78684" />
ラウンドスタート前およびホールアウト直後に、心拍数、SpO2を測定した。また、深部体温の指標として鼓膜温を測定した(表2)。
心拍数がスタート前に高かったが、顧客前に出る前の緊張、この実験に対する緊張などがあった可能性もある。SpO2は安定していたが、深部体温(鼓膜温)の約3度の上昇が見られた。
気温や湿度が高い場合、身体から熱を逃がし難くなる。また、直射日光を浴びると外から熱が体に加わり、熱中症が起きやすくなる。さらに、キャディの場合、顧客と一緒に歩くことで、運動量も多いため、大量の熱が発生する。
熱中症の症状は暑さに晒されることで、脱水や塩分不足、循環の悪化、体温上昇によって生じる。一般的に、体温が異常に上昇する(深部体温40℃以上)と脳機能に障害が起こることが懸念され、高体温が続くと脳だけでなく、肝臓、腎臓、肺、心臓といった全身の臓器に障害が起き得、生命の危険の可能性も考えられる。このキャディの場合、その水準に近い状況であった。この結果から現状のままでは危険であると言える。
<strong>実験結果②:サーモグラフィカメラによるラウンド前後のユニホーム表面温度の計測</strong>
キャディ業務従事前後、ユニホーム表面温度をサーモグラフィカメラを用いて測定した。スタート前にはユニホーム表面の最高温度は33℃程度であったが(図9)、ホールアウト後は皮膚を露出している目元や額を中心に、38・9℃まで上昇していた(図10)。後述するが、着衣内はさらに高温になっていた。
<img src="https://cms-backend-gew.com/wp-content/uploads/2023/09/kitazu9.jpg" alt="" width="1556" height="1094" class="size-full wp-image-78676" /> 図9. ラウンドスタート前(9:20)のユニホーム表面温度
<img src="https://cms-backend-gew.com/wp-content/uploads/2023/09/zu10kita.jpg" alt="" width="1459" height="1076" class="size-full wp-image-78682" /> 図10. ホールアウト後(15:35)のユニホーム表面温度
<strong>実験結果③:キャディ業務従事中の着衣内(前胸部)の温湿度変化</strong>
<img src="https://cms-backend-gew.com/wp-content/uploads/2023/09/kitazu11_2.jpg" alt="" width="1267" height="470" class="size-full wp-image-78679" /> 図11.キャディの着衣内温湿度の経時的変化
<img src="https://cms-backend-gew.com/wp-content/uploads/2023/09/zu12.jpg" alt="" width="1268" height="477" class="size-full wp-image-78680" /> 図12.キャディの帽子(ヘルメット)内温湿度の経時的変化
サーモレコーダ(温湿度計)を着衣内(前胸部)に装着してもらい、15秒おきに温度・湿度のデータを収集した(図11)。赤いグラフが「温度」、黄色いグラフが「湿度」を示している。全体的にみると、ラウンド開始後、午前10時前後の約1時間に着衣内の高温状態(35℃程度)が継続し、昼食休憩時に最低値に落ち着いていることがわかる。
この日、このゴルフ場で観測された最高気温は41・8℃(11時13分)であった。外気温の上昇とともに、着衣内温度も最高温になっていたことがわかる。前述のように、この被検者においては、ホールアウト後、深部体温が39・2℃まで上昇した。先行研究(芳田ら,2001)では、活動時の皮膚温を低下させると、深部体温上昇を抑制できることが報告されており、着衣条件における皮膚温の変動は深部体温や体温調節反応に関係していることが示唆されている。すなわち、従業員の健康のためには、現状の着衣よりも、さらに通気性の高いユニホームに改善される必要があるだろう。
グラフの動きを見ると、午前中のラウンド(10時前後)では、常時、着衣内温度が33℃~35℃程度の高温となっている。このことからも、特に高温下での業務になりやすい午前中は特に注意が必要である。
<strong>実験結果④:キャディ業務従事中の帽子内(頭頂部)の温湿度変化</strong>
帽子内温湿度の収集のために、サーモレコーダは頭頂部にもセットし計測した。キャディ用帽子の形状の多くは、つばの部分が広く、涼しそうな印象を受けるが、実際は着衣内よりも高温になっている。
先行研究(北ら,2022)1)では、暑熱環境下に1時間暴露した帽子内温度で最も高温になったのがナイロン製帽子(42・8℃)であったが、午前中のラウンドではそれを上回る高温状態が続いていた。また、同じく北ら(2022)の研究1)において、前半9ホールラウンドにおいて、ゴルファーの帽子内温度が最も高温になった色が「黒」であり43・7℃であったことが報告されているが、この検証ではキャディの帽子内はそれを上回る温度となることがわかった。
この要因として、帽子ではなく実際にはヘルメットであることが考えられる。前述の着衣と同様に、午前中の業務は高温になっているため、特に注意が必要であるし、これを改善するための帽子(ヘルメット)の改良が急務であると思われる。
<h2>真夏のゴルフ場マネジメントにおけるエビデンスベースのアイデア提案</h2>
<strong>提案① 扇風機だけでは効果なし:「大型扇風機」+「打ち水」で路面温度はマイナス10℃以上低減</strong>
本誌先月号(2023年8月号)で、大型扇風機の稼働だけでは効果が低いが、「打ち水」を加えることで、少なくともその後1時間、打ち水無し(60℃以上)の場合と比較して10℃以上の路面表面温度の低下(50度未満)を維持したことを紹介した。
仮に「打ち水のみ」を実施した場合は、地表から熱い蒸気が立ち上るため、逆効果になる恐れがある。打ち水の際には、大型扇風機など湿度が高くならないように工夫することが必須である。
通常、ゴルフ場では14時前後には来場者の帰宅が始まる。その後、16時頃にかけて帰宅ラッシュとなるが、帰宅ピーク時間帯を、少しでも快適・安全に乗り切るために、本稿の検証データが参考になれば幸いである。駐車場に限らず、ホールアウト時のカートの降車場など、アスファルトで固められた部分には効果的と言える。14時に「打ち水」をすることに加えて「大型扇風機」を併用すれば、15時過ぎくらいまでは10℃以上の涼しさが持続する。15時以降は、通常は自然に徐々に涼しくなって行くと思われるので、14時頃の1回の業務対応だけで、暑さが大幅に軽減される。
<strong>提案② 「路面の色」を工夫すると20℃~30℃涼しい</strong>
GEW2021年9月号(特別寄稿)において、真夏のゴルフ場で高温になる場所として、カート道路やバンカーなどを挙げた。当時の実験条件は最高気温33℃程度での検証であったが、カート道路は50℃を越えバンカーもそれに近い高温になっていたことを報告した。
<img src="https://cms-backend-gew.com/wp-content/uploads/2023/09/image21.jpg" alt="" width="385" height="623" class="size-full wp-image-78623" /> 図13. 浅草寺参道における路面の表面温度(筆者撮影,2022年7月30日)
2023年7月号では、真夏の巣鴨・地蔵通り商店街のアスファルト表面温度が70℃近くまでに上昇していたことに加えて、定点観測をした、浅草寺参道の画像(図13)を紹介した。図13を見ると、最高温度は59・0℃となっているものの、参道側(右半分)が極端に低温になっていることがわかる。最高温度は59・0℃は、左側のグレーの路面のデータだが、右側の白っぽい路面は、それよりも、約20℃~30℃程度も温度が低いことが見てとれる。
また、8月の猛暑下において、様々な色の路面材(石)を並べ、表面温度を検証した実験(2023年7月号)でも、白系の石は猛暑下で3時間を経過しても温度を溜めないことを紹介した(図14)(図15)。
<img src="https://cms-backend-gew.com/wp-content/uploads/2023/09/image22.jpg" alt="" width="391" height="568" class="size-full wp-image-78624" /> 図14.検証開始後30分(午前9時00分)
<img src="https://cms-backend-gew.com/wp-content/uploads/2023/09/image23.jpg" alt="" width="369" height="552" class="size-full wp-image-78625" /> 図15.検証開始後3時間(午前11時30分)
路面の修繕や改修の際には、単にアスファルトで固めるのではなく「路面の色」を考慮することも、一考の価値があるのではないか。
<strong>提案③ キャディ用「温度スケール付きヘルメット」の製品開発</strong>
キャディの帽子内温度が40℃を超えたことがわかるようなスケール(温度計)を付属した製品開発ができないか。市販されている「温度シート」や「温度シール」、「温度インジケータ」などを付したキャディ用帽子(ヘルメット)の製品化である。
筆者の検証では、キャディ業務開始時の帽子内温度は20℃台後半であったことから、最低値の「30℃」、体温水準としての「35℃」、そして「40℃」、次に「45℃」など3段階~4段階程度の目視可能なスケール付きキャディ用帽子(ヘルメット)の開発を提案したい。
現在、市場が拡大している「ファン付ウエア」や「ファン付ヘルメット」については、顧客に対する印象からも、キャディにおいては普及に時間がかかると推測する。まずは、アナログ的なこのアイデアが製品化されることで、キャディ自身が目視で確認し、危険水準に達する前に帽子(ヘルメット)を一時的に脱いで通気する行為に繋げるだけでも、生体への負担を軽減できる可能性がある。
<strong>提案④ キャディ用「冷却機能付き手袋」の製品開発</strong>
キャディにナイロン製の手袋着用を義務付けるゴルフ場は多く存在する。顧客に対する丁寧さと日焼け防止の意図もあるかもしれないが、猛暑下においては現状の製品をそのまま着用させることは中止するべきである。
他方、暑熱環境下や運動時において、手を冷やすことで得られる効用について、近年、様々なエビデンスが示されている。手のひらには、体温を調整するAVA血管という特殊な血管があり、この血管を通る血液を冷やすことで冷えた血液が体内を巡り、身体の中心部の体温(深部体温)を下げることに貢献するとされている。
このことから、キャディ用手袋を単なるナイロン手袋ではなく、冷却効果のある製品に改良・効果検証して、ゴルフキャディ用手袋として販売されることが期待される。キャディには女性が圧倒的に多いことからも、素手の状態での労働は敬遠されることが考えられるため、「日焼け防止+冷却」の機能があり、なおかつ、従来のキャディ業務の支障にならない手袋の開発が望まれる。
<strong>提案⑤ ゴルフ場従業員向け教育キットや教材の開発</strong>
ゴルフ場支配人に対する調査結果を見ると、一般論として熱中症やその回避策については理解していても、真に、それに適応する知識や対策は乏しかった。
キャディユニホームの素材や構造を「知っている」とか、従業員教育についても「実施している」という回答が多かったものの、実際には、屋外労働者が大勢働いている職場であるにも関わらず「暑熱対策ガイドライン」やそれに類するものが存在しないゴルフ場が7割以上あり、9割以上がWBGT測定器さえも所有していなかった。
また、厚生労働省の「職場における熱中症予防マニュアル」を読んだことが無い支配人が4割以上いた。ゴルフ場労働者やキャディの暑熱対策に関しては「つもり」と「実際」に大きな乖離が見られる。
WBGT測定器を所有しているゴルフ場もごく僅かであったが、前述のように、日本スポーツ協会が示す指針(図7)で、「運動は原則中止」となる猛暑日が、ゴルフ場では多く発生する可能性が考えられる。
経営上の観点から、WBGT測定器を所持していること自体が藪蛇的になってしまうことと捉え、敢えて計測しないこともあるのかもしれない。来場者や従業員の健康と安全を守る上で、WBGT値を確認し、適切な対応がとられなければならない。しかしながら、WBGT値が日本スポーツ協会の定める「運動は原則中止」になったとしても、これはあくまでも注意喚起に過ぎない。単に、暑さ指数の指針に従うと言うだけでなく、それを凌駕するような工夫やアイデアが求められる。それを考え、商品化したり、実施していかなければ、来場者や従業員の健康のみならず、温暖化が進むにつれて今後ゴルフを楽しむことさえできなくなるかもしれない。
筆者の調査では、暑熱対策に関するゴルフ場支配人の認識があまり高くなかったことから、「職場における熱中症予防対策の基礎理論」、「ゴルフ場で特に暑くなる場所」や「キャディの着衣内温度が高くなる時間帯」、「通気性や温度を溜めないユニホームの形状や素材」等々、学習教材開発が必要であると考える。
<strong>提案⑥ 大型扇風機の風にあたると冷却されるキャディユニホーム開発</strong>
北ら(2022)1)は、温湿度を低減できる帽子開発として、「広口の通気口のある帽子」や、「1センチ四方の小窓が帽子全体にある帽子」のプロトタイプを作成し検証してきた。帽子においては、歩行により前から風が当たることで、ある程度の温湿度が除去できる。
同じような発想で、着衣の前方・側方・後方に通気口のあるウエアが開発できないか。このウエアは、大型扇風機の風を浴びると、前方から入った風が、側方と後方から抜けてゆき温湿度を除去する、というものである。3~4ホールに1ヵ所程度、大型扇風機を置くことができれば、かなりの効果が期待できるだろう。特に午前中のユニホーム内は高温状態になるため、瞬時に冷却できる方法として低コストで画期的なアイデアではないか。
筆者が実地踏査したゴルフ場のユニホームを見ると、いずれのゴルフ場のキャディユニホームにおいても通気口はなかった。少なくとも前方・後方に通気穴があり、前方から強力な風を浴びた際に、一気に風が抜けるような構造のユニホームがあれば、暑熱対策に貢献できると期待する。
<strong>提案⑦ 「涼しいカート」の普及</strong>
ゴルフ場で最も暑くなる場所は、実は「カート内のシート」であり、筆者らの検証では、カートのシートはアスファルトよりも高温になる。
送風やミスト噴霧機能のある「涼しいカート」は、既に複数の企業から開発・販売されているが、こうしたデータやエビデンスを示すことで、これらの新商品の有用性や価値の理解がより深まるだろう。
なお、「ゴルフ場で暑くなる場所」の実測データは、11月に開催される第33回日本ゴルフ学会(熊本県天草市)で、我が北研究室の大学院生が発表する予定である。
<h2>18ホール(4時間30分)のうち、打っているのは2〜3分</h2>
<strong>クラブハウスの出入り口だけに大型扇風機があっても意味がない</strong>
ハーフ2時間15分でのラウンドが一般的である。この場合、18ホールのトータルは4時間30分(270分)となるが、実際に打っているのは2〜3分に過ぎない。すなわち、267分は移動しているか、考えているか、他人のプレーを見ている時間である。
「自らのショットの時(2〜3分)だけは高温環境に晒されるが、それ以外は涼しくプレーできる方法」を考え出すことが、今後、真夏のゴルフを楽しむために、ゴルフ産業界が取り組むべき課題ではないか。前述したが、クラブハウスの出入り口に大型扇風機やミストシャワーがあっても、猛暑下のゴルフにおいては、殆ど効果はないだろう。
<h2>267分を如何に快適に過ごすか</h2>
『自分のショット以外の267分を快適に過ごす方法』を突き詰めて考え抜くことで、来年以降も続く猛暑下においても、安全に楽しくゴルフラウンドできる可能性がグッと高まるのではないか。最も効果的と思われる方法は、カートの改良である。下記に筆者のアイデアを披露したい。
<strong>〈北アイデア〉</strong>
【WBGT31以上でもゴルフを楽しむためのカート】
●カートを大型化(箱型化)
●空調によりカート内が涼しい
●手掌冷却や首筋などを冷やせる機能が搭載されている
●コース内に乗り入れでき、ボールの傍まで行けれるようになればなおよい
※本稿の内容には
・「公益財団法人日本ユニフォームセンター令和3年度ユニフォーム基礎研究助成」(研究代表者:北 徹朗)
・「公益財団法人交通エコロジー・モビリティ財団の研究助成」(研究代表者:北 徹朗)
・「デサントスポーツ科学振興財団 第41回公益財団法人石本記念デサントスポーツ科学振興財団・課題学術研究」(研究代表者:北 徹朗)
が使用されている。
1)北 徹朗(2022)帽子の素材・色・形状が暑熱環境下でのスポーツ実施中の生理指標と帽子内温湿度に及ぼす影響、デサントスポーツ科学Vol.42 37-51
2)北 徹朗(2023)帽子の形状・色の違いが帽子内温湿度に及ぼす影響―暑熱環境下における各種スポーツ実施中の経時的変化―、繊維機械学会誌Vol.76,No.4 199-205
3)芳田哲也(2018)スポーツウエアと温熱ストレス、臨床スポーツ医学35(7)684-688
4)Hassem M.(2012)Influence of sports fabric properties on the health and performance. Fibers Text Eastern Europe . 204. 82-88
5)Gonzalez R.(1988)Biophysics of Heat Transfer and Clothing Considerations . Indianapolis, Benchmark Press
6)Pascoe D.(1994)Clothing and exercise. II. Influence of clothing during exercise/work in environmental extremes. Sports Med 18. 94-108
7)Tortora P.(1992) Understanding Textiles . New York, NY: Macmillan Publishing Co.
8)Wickwire J, Bishop PA.(2007)Physiological and comfort effects of commercial “wicking” clothing under a bulletproof vest. Int J Ind Ergon. 37.643–651.(2007)
9)Gonzalez R.(1988)Biophysics of Heat Transfer and Clothing Considerations. Indianapolis, IN: Benchmark Press.
10)Gavin TP.(2001)Clothing fabric does not affect thermoregulation during exercise in moderate heat. Med Sci Sports Exer 33. 2124-2130.
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16)芳田哲也(2001)Perfusing a Tube-Lined Suitsのスポーツ現場応用に関する基礎的研究、デサントスポーツ科学第22巻、pp.41-47
17)北 徹朗(2021)真夏のゴルフ、少しでも暑さを避けるポイント、GEWウェブサイトhttps://www.gew.co.jp/news/g_68177(閲覧日:2023年8月7日)
18)北 徹朗(2022)ゴルフ場キャディのユニホームの実態と業務従事時の衣服内温湿度、公益財団法人日本ユニフォームセンター「ユニフォーム基礎研究助成」報告書
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この記事は弊誌月刊ゴルフ・エコノミック・ワールド(GEW)2023年9月号に掲載した記事をWeb用にアップしたものです。なお、記事内容は本誌掲載時のものであり、現況と異なる場合があります。
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