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    ハッシュタグ「西村國彦のゴルフ版経済敗戦」記事一覧

    本稿はゴルフ場関連の「事件」に詳しい西村國彦弁護士が、主にバブル時代、ゴルフ場を舞台に展開された経済事件を総括する「渾身の記」。計8回の連載の最終回だ。 前回までは、外資系ファンドによって海外流出した日本の資産等について、その手法と問題点等を洗い出した。「再建」という名の下に日本は莫大な富を失ったが、結局それらは何を教訓として残したのだろう。最終回で総括しよう。 記事は弁護士歴43年のN(西村弁護士)と、N事務所で修習中のA司法修習生によるQ&A形式とした。 <a href="https://www.gew.co.jp/attention/nishimura">連載の一覧はこちら</a> <h2>バブルピーク時と20兆円の差額</h2> <span style="font-weight: bold; color: #e74c3c;">A</span>:前回まで、ゴルフ場が大型倒産した内情を具体的な負債額を示して振り返りましたが、ピーク時の日本のゴルフ場評価額が36兆円でありながら、16・6兆円まで下がってしまった。その理由は何でしょうか? <span style="font-weight: bold; color: #1c4ca0;">N</span>:私は以前、それに関する本を出版しているけど、そこでバブルピーク時との「20兆円の差額」は、監督官庁の検査逃れの債権隠しや不良債権飛ばしの金額、さらには川奈やフェニックスのようなブランドに対する金額(「のれん代」とも言われる)の合計ではないかと書いている。 <span style="font-weight: bold; color: #e74c3c;">A</span>:つまり、その差額がファンダメンタルを超えたバブル(泡)の部分でないか、というわけですね。 <span style="font-weight: bold; color: #1c4ca0;">N</span>:そう。米国のペブルビーチは一時、日本の企業が所有したけど、これを米国資本が日本企業から買い戻した「ペブルビーチ・ストーリー」がある。 <span style="font-weight: bold; color: #e74c3c;">A</span>:2000年、タイガーがぶっちぎりで勝った全米オープンの舞台ですね。 <span style="font-weight: bold; color: #1c4ca0;">N</span>:そう、2019年の舞台でもあった。その舞台をつくるため、近隣のカーメル市長だったクリント・イーストウッドやアトランタオリンピックを仕切ったピーター・ユベロスが買い戻しに立ち上がったのだよ。 彼らは、タイガー、パーマーそしてニクラスも捲き込んで、ペブルビーチを取り戻す感動的なストーリーをつくったのだ。 <span style="font-weight: bold; color: #e74c3c;">A</span>:買戻し金額は1000億円くらいと聞きましたが、これはゴルフ場の収益では賄えませんね。 <span style="font-weight: bold; color: #1c4ca0;">N</span>:日本ではバブル崩壊後、ゴルフ場再調達価格を基準とする鑑定理論では説明がつかない状況、つまり大暴落相場になっていたと以前話した。そこではDCF法を含む収益還元価格をベースとする鑑定評価が主流とならざるを得なかったわけだ。 <span style="font-weight: bold; color: #e74c3c;">A</span>:だから浜野の評価が数百億円から数十億円に下がったのですね。 <span style="font-weight: bold; color: #1c4ca0;">N</span>:あのバブル紳士の小谷氏がたてこもった東相模GCですら、数百億円の鑑定書を日本不動産研究所が作成していたのだよ。 <span style="font-weight: bold; color: #e74c3c;">A</span>:そんな鑑定を要求したのは、わが国の銀行たちなのですね。 <span style="font-weight: bold; color: #1c4ca0;">N</span>:まさにその通り。 <span style="font-weight: bold; color: #e74c3c;">A</span>:でも、サブプライム問題とリーマンショックの震源地米国では、違ったのですね。 <h2>リーマンショックの総括</h2> <span style="font-weight: bold; color: #1c4ca0;">N</span>:米国では、リーマンショックの内幕も、ジャーナリストたちが徹底取材して、かなり真相に近いところまで肉薄して書きまくるのだ。その代表作が「リーマンショック・コンフィデンシャル」(早川書房)で、取材される方も政府機関の関係者を含めよく話をする。 <span style="font-weight: bold; color: #e74c3c;">A</span>:ケネディ大統領周辺の超優秀なスタッフたちが、ベトナム戦争への対応で、本当に愚かなことを繰り返し泥沼に陥った話を書いた「ベスト&ブライテスト」(二玄社)もありますね。日本では、そんな情報を官民の上層は隠そうとしますけど。 <span style="font-weight: bold; color: #1c4ca0;">N</span>:その意味では、1929年の大恐慌を経験した米国はツワモノだよね。他方、世間知らずの日本人は、お上がコントロールする情報を真に受けて、結果的に世界のしたたかなやり方に翻弄されるばかりなのだ。 <span style="font-weight: bold; color: #e74c3c;">A</span>:ペブルビーチでは、先の5人の呼びかけにかなりのお金持ちたちが協力したのですか? <span style="font-weight: bold; color: #1c4ca0;">N</span>:聞くところでは、お金持ちたちは、投資額の回収というよりは、世界に誇れるペブルビーチという貴重な宝物の出資者になれたということで満足しているという。 <span style="font-weight: bold; color: #e74c3c;">A</span>:日本では考えられませんが、それは投資への見返りではなく、ある種の「誇り」ということでしょうか。 <span style="font-weight: bold; color: #1c4ca0;">N</span>:そうだね。米国では、例えば毎年開催されるゴルフトーナメントが、スポンサーの意向で急になくなると、地元の資産家が数億円をポンと出してトーナメントを生き残らせることもある。 また有名ミュージシャンが、出身地のゴルフ場が破綻しそうになると、買い取るなどの話もあるほどだ。 <span style="font-weight: bold; color: #e74c3c;">A</span>:どちらも「収益還元法」の発想からは出てこない決断ですね。 <span style="font-weight: bold; color: #1c4ca0;">N</span>:桁違いのお金持ちと優遇税制の存在が、そのような美談を生み出しているのだろうね。 ペブルビーチの買い戻しも、2000年にタイガーが全米オープンで優勝したことで、出資者たちは充分「元」が取れた、つまりプライド的に報われたということだろう。 <span style="font-weight: bold; color: #e74c3c;">A</span>:先生も太平洋クラブでの闘いで、日本のペブルビーチ・ストーリーを目指していたと書かれてますが。 <span style="font-weight: bold; color: #1c4ca0;">N</span>:あの経緯では残念ながら、日本のお金持ち企業にはそのような発想がみじんもないことが判明したのだよ。 <span style="font-weight: bold; color: #e74c3c;">A</span>:それで会員たちは、マルハンに支援を依頼したのですね? <span style="font-weight: bold; color: #1c4ca0;">N</span>:マルハンは、会員とコースを守ってくれると固い約束をしてくれたからね。 <h2>ゴルフ版経済敗戦とは何だったのか</h2> <span style="font-weight: bold; color: #e74c3c;">A</span>:これまで8回にわたり、日本のゴルフ版経済敗戦と言われる経緯を説明していただきました。ぼくにとっては衝撃的なゴルフ界の内幕でしたが。 <span style="font-weight: bold; color: #1c4ca0;">N</span>:日本という国は本当に、まさに島国として、黒船やハゲタカ外資に襲われながらも、古き良き伝統を維持しつつ生き続けてきた国なのだよ。 でも今、グローバルな資本主義のマネー戦争の中で、生き延びる道を選択せざるを得ない岐路に差し掛かっている。 <span style="font-weight: bold; color: #e74c3c;">A</span>:銀行だろうと、不動産やホテルやゴルフ場だろうと、サービス業は激しい競争の中で、生き残る戦略が必要になったのですね。ぼくも弁護士になれば大丈夫だと甘く考えていたフシがありますが、それではいけないことがわかりました。 <h2>「西村コラム」 世界のペブルビーチ・ストーリー</h2> 太平洋クラブを購入したマルハンは、順調な発展を遂げたように見える会社である。しかし、その会長韓昌祐(ハン・チャンウ)氏のそれまでの生き様は、第5回に書いた通り、厳しいものであった。 そして、太平洋クラブの再建も、経済合理性を超えた次元のストーリーだった。 企業の再建には、ヒト、モノ、カネが必要と言われる。でも命がけで頑張るひとには、不思議とこれらが後からついてくるのだ。 アイルランドの西海岸、死ぬ前に一度はプレーしてみたいバリー・バニオンGC。ここもペブルビーチと同じく海岸浸食が激しく、オープン後しばらくして、護岸工事資金に窮した。 その時、すっくと立ち上がり資金を提供して会員の先頭に立ち、バリー・バニオンを救った男がいたという。「民主的」な議論などしている時間がないときに、決断できる人は美しい。
    (公開)2020年02月05日
    本稿はゴルフ場関連の「事件」に詳しい西村國彦弁護士が、主にバブル時代、ゴルフ場を舞台に展開された経済事件を総括する「渾身の記」。計8回の連載の7回目。 バブル崩壊後、日本の「富」は海外へ流出したが、その背景を米投資ファンドと米政府に手玉に取られた日本政府の愚行、さらには「草刈り場」となった国内ゴルフ場業界の惨状まで深掘りする。 記事は弁護士歴43年のN(西村弁護士)と、N事務所で修習中のA司法修習生によるQ&A形式とした。前回は、バブル崩壊に至るまでの「ハゲタカの仕掛け」を中心に記述したが、今回は、これによって生じたゴルフ場「転落の軌跡」を振り返る。 <a href="https://www.gew.co.jp/attention/nishimura">連載の一覧はこちら</a> <h2>ゴルフ界のマネー敗戦データ</h2> <span style="font-weight: bold; color: #e74c3c;">A</span>:前回のお話でハゲタカファンドの「仕掛け」がわかりましたが、結局、ピーク時2460コース(NGK集計)が2200コース前後まで減った日本のゴルフ場は、この間、いくつ倒産したのでしょうか? <span style="font-weight: bold; color: #1c4ca0;">N</span>:驚くなかれ、既に1000コース前後のゴルフ場が裁判所のお世話になっているのだよ。ちなみに、2019年R&A集計の世界のゴルフ場数では、日本のコース数は2227コースとなっている。 <span style="font-weight: bold; color: #e74c3c;">A</span>:すごい業界ですね。半分近くのゴルフ場が倒産して、しかもその多くが生き残っている。実に不思議な業界ですね。 <span style="font-weight: bold; color: #1c4ca0;">N</span>:そうなのだ。まさに、競争に敗れた企業が、再生によっていい条件で生きかえる。 そこまではよいのだけれど、再生ゴルフ場は、周辺ゴルフ場を安売競争に巻き込んで、ほかのゴルフ場も弱体化させるという悪循環の業界なのだ。 <span style="font-weight: bold; color: #e74c3c;">A</span>:経済の基本原則、自由競争による価格調整がきかない不思議な世界ですね。 <span style="font-weight: bold; color: #1c4ca0;">N</span>:まあ、会員という保護すべき人たちがいるため、優勝劣敗の原理を貫徹しにくい背景はあったよね。だけど、ここまで来ると、日本のゴルフ場を以前のまま残すことは、時代の流れに逆らうことになってしまう。 <span style="font-weight: bold; color: #e74c3c;">A</span>:元号も令和に変わったし…。 <h2>法的整理対象1000コース</h2> <span style="font-weight: bold; color: #1c4ca0;">N</span>:参考までに数字を確認しよう。ゴルフ場経営会社の法的整理件数と負債総額については、平成30年3月末までのデータがある。 それによると、破綻件数780件、破綻ゴルフ場数としては、既設961コース、建設中・認可未着工48コース、負債総額16兆7733億円だそうだ(平成30年5月14日ゴルフ特信情報)。 <span style="font-weight: bold; color: #e74c3c;">A</span>:未着工コースを含めると1009コースですが、そこから1年経過後の平成末期には、もっと増えているわけですね。 <span style="font-weight: bold; color: #1c4ca0;">N</span>:そう。まさか1000コースが法的整理の対象になるとは、誰も予想しなかっただろう。特信データでは、平成30年の1年間で、件数13件、ゴルフ場数15コース、負債総額539億円。 他方、帝国データバンクのデータでは、件数20件、負債総額923億円となっており、令和元年の数字はもうすぐ発表されるだろうね。 <span style="font-weight: bold; color: #e74c3c;">A</span>:過去の各年のゴルフ場破綻数を調べてみました。かなり興味深い状況がわかります。 ピークは2002年(平成14年)で、件数98件、コース数135コース、負債総額3兆239億円です(椿ゴルフの数字)。 一方最近の5年間を見ると、件数・コース数は10件台、負債総額は年平均500億円程度です。 <span style="font-weight: bold; color: #1c4ca0;">N</span>:年間の件数が50を超えたのは、2001年(平成13年)から2006年(平成18年)までだね。 この6年間で440件、595コース、10兆3919億円で、それぞれ1991年(平成3年)から2018年(平成30年)の28年間の半分以上の数字を記録している。 <span style="font-weight: bold; color: #e74c3c;">A</span>:まさにバブルの崩壊です! <span style="font-weight: bold; color: #1c4ca0;">N</span>:2001年(平成13年)は、3年前に150億円近い鑑定価格だった浜野GCの鑑定評価が、45億円に下落した頃だよ。9・11同時多発テロの年であり、小泉内閣発足の年でもある。 この年には、RCCがゴルフ場にたてこもって抵抗したオーナーを排除すべく、大宝塚CCに会社更生申立をした。また、会員たちがゴルフ場を競売されそうになった清川CCに会社更生法を申立し、開始決定をもらって競売を阻止した年でもある。 ゴルフ場法的整理は57件、総負債1兆4464億円だった。 <h2>ゴルフ場大型倒産の具体例</h2> <span style="font-weight: bold; color: #e74c3c;">A</span>:当時は、2000年に施行された民事再生法と、会社更生法のどちらが優先するのか、興味深い展開でしたね。 <span style="font-weight: bold; color: #1c4ca0;">N</span>:2002年(平成14年)はペイオフ解禁の年だったが、いきなりスポーツ振興グループの会社更生申立があり、その後、和議が2年前に認可されていた日東興業が民事再生申立をしている。 10月には総負債額4922億円のSTT開発の民事再生法適用申立もあり、大型倒産が続いた。ゴルフ場の法的整理82件、総負債3兆239億円で、ゴルフ場整理のピークと言える。 2003年(平成15年)は浜野GCの会社更生開始、清川CC更生計画成立のころだが、ゴルフ場の法的整理80件、総負債額2兆192億円。 翌2004年は大洋緑化の会社更生法の年であり、外資系ゴルフ場の数が200コースに近づいたころだ。 <span style="font-weight: bold; color: #e74c3c;">A</span>:2003年には会社更生法が改正され、イラク戦争勃発、2004年には、新潟で地震がありました。 <span style="font-weight: bold; color: #1c4ca0;">N</span>:2005~2006年は、ともに外資系のアコーディアとPGMが上場したほか、浜野GCの抵当権無効判決と会員中心の更生計画案成立が話題になったね。 2005年71件のゴルフ場法的整理、総負債1兆4004億円、2006年52件のゴルフ場整理、総負債5791億円。 <span style="font-weight: bold; color: #e74c3c;">A</span>:まさに、ゴルフ界のマネー敗戦だったわけですね。 <span style="font-weight: bold; color: #1c4ca0;">N</span>:2019年4月現在、わが国のゴルフ場数2235のうち営業中は2174コース(ゴルフ特信)との最新情報がある。 <h2>「西村コラム」 「深い溝」を超えるには?</h2> 社会を変えるには、結構大きなエネルギーが必要だ。 社会の現状を見ると、必ず「今」に満足しているように見えるひとが多数いる。正確には、自分で考えることがないため、満足していると錯覚しているひとが多いのかもしれない。 彼らは本能的に、現状を変えることに抵抗する。その意味で、彼らと変革者との間には「深い溝」がある。 戦後の日本では、社畜となって経済復興すれば明るい未来は約束されるとばかり、男は外で働き女は家庭をつくってきた。枠の中の方が、安全だし楽だったのだろう。 それが今、崩壊の危機にある。それに気づいたひとたちも、まだ自分たちの生活レベルを下げてまで、危機を共有したくはないようだ。まだまだ変革者と現状維持派の間には、越えるべき「深い溝」(キャズム)がある。
    (公開)2020年01月21日
    本稿はゴルフ場関連の「事件」に詳しい西村國彦弁護士が、主にバブル時代、ゴルフ場を舞台に展開された経済事件を総括する「渾身の記」。計8回の連載の6回目。 バブル崩壊からほぼ30年。低迷から抜け出せないゴルフ市場の今を、過去を振り返ることで整理し、今後の成長につなげるのが連載の主旨。なお、記事は弁護士歴43年のN(西村弁護士)と、N事務所で修習中のA司法修習生によるQ&A形式とした。 今回は国家的損失を来たした日本の「マネー敗戦」と、その中でゴルフ場業界が翻弄された生々しい事象を紐解いていく。 <a href="https://www.gew.co.jp/attention/nishimura">連載の一覧はこちら</a> <h2>マネー敗戦</h2> <span style="font-weight: bold; color: #1c4ca0;">N</span>:世間ではよく、わが国の「経済敗戦」とか「マネー敗戦」という言葉が使われているが、どんなことだか知っているかな。 <span style="font-weight: bold; color: #e74c3c;">A</span>:ハゲタカ外資にしてやられたことだと思うのですが……。 <span style="font-weight: bold; color: #1c4ca0;">N</span>:そのとおり。「ロッキード事件」で田中角栄が逮捕されて以降、日本市場からアメリカ市場に1000兆円規模の富が流出したという話もあるが、これは知ってるかな? <span style="font-weight: bold; color: #e74c3c;">A</span>:いえ、私たちの世代は知らないことです。 <span style="font-weight: bold; color: #1c4ca0;">N</span>:僕たちはその渦中、最前線で仕事をしていたので、あとから知ったことも多いんだけどね。1985年(昭和60年)9月22日、竹下蔵相時代の「プラザ合意」あたりが、対米経済従属の始まりだったと言われている。 日本の円安・ドル高是正のため、金利自由化と金融市場開放を米国から要求され、丸呑みさせられた。その会場がニューヨークのプラザホテルだった。 <span style="font-weight: bold; color: #e74c3c;">A</span>:戦後、政治的には対米従属のもと、日本は奇跡的な経済復興を遂げたと理解していますが……。 <span style="font-weight: bold; color: #1c4ca0;">N</span>:わが国は戦後の日本国憲法制定と冷戦下、非戦を前面に出したため、軍事的には米国支配を甘受した。その結果、朝鮮戦争で経済復興し、その後「ジャパン・アズ・ナンバーワン」と言われるような、米国もうらやむ成長があったけど、それがベトナムで深く傷ついた米国を刺激したのだろうね。 <span style="font-weight: bold; color: #e74c3c;">A</span>:そして、新生銀行をはじめとして、ハゲタカ外資のあくどい手口を招いたわけですね。 <span style="font-weight: bold; color: #1c4ca0;">N</span>:そうなのだ。一時、宮崎フェニックスを保有したリップルウッドは、ゴールドマン・サックス出身者たちの会社で、ゴールドマンの別働隊とも言われていたんだ。 <span style="font-weight: bold; color: #e74c3c;">A</span>:どんな話でしょう。 <span style="font-weight: bold; color: #1c4ca0;">N</span>:2000年頃、旧長銀(日本長期信用銀行)が破綻して、新生銀行として米国のファンド、リップルウッドに売却された。その対価は、たったの1210億円だったのだよ。 <span style="font-weight: bold; color: #e74c3c;">A</span>:確か日本政府は、7兆円の公的資金を破綻した旧長銀に投入していましたね。 <span style="font-weight: bold; color: #1c4ca0;">N</span>:あおぞら銀行(旧日債)分も含めると13兆円弱という話(紺谷典子)もある。そして新生銀行は、融資を選別し、旧長銀の貸出先のそごう、ファーストクレジット、第一ホテル、ライフ(信販)など、それなりの優良企業を倒産させたわけだ。 もちろん各社の内部は、バブル時代に腐っていたのだが、それはバブル時代の金融機関など他の企業と変わらないものだった。 <span style="font-weight: bold; color: #e74c3c;">A</span>:新生銀行は、回収不能で損もたくさん被ったのでしょうね。 <span style="font-weight: bold; color: #1c4ca0;">N</span>:いや、そこには、しっかりゴールドマン流の仕掛けがあったのだよ。 <h2>ハゲタカの「仕掛け」</h2> <span style="font-weight: bold; color: #e74c3c;">A</span>:どういったことでしょう? <span style="font-weight: bold; color: #1c4ca0;">N</span>:それはね、悪名高き「瑕疵担保条項」だ。 <span style="font-weight: bold; color: #e74c3c;">A</span>:損失補填されたのですか。 <span style="font-weight: bold; color: #1c4ca0;">N</span>:凄いだろう。ここが、企業再生ビジネスプロのアコギなところでね。彼らは、取得した債権のうち、3年以内に20%価値が下がった債権は、預金保険機構に買い取らせる契約をしていたのだ。 <span style="font-weight: bold; color: #e74c3c;">A</span>:ほんとですか? 再生ビジネスはリスクをとるから大もうけ出来るのだ、と思っていましたが。リスクがなければ超安全な取引じゃないですか? <span style="font-weight: bold; color: #1c4ca0;">N</span>:そう、リスクがあるギャンブル取引と見せかけて、まずはアコギなイメージやリスクを嫌う日本企業を排除する。でも最後にはリスクまでなくして、おいしい取引にしてしまうハゲタカの本性が表れているよね。 彼らは、実際のところ、預金保険機構に1兆円(あおぞら分含めると1兆6600億円)前後の不良債権を買い取らせている。 <span style="font-weight: bold; color: #e74c3c;">A</span>:でも儲けたら、税金払ってわが国に還元しているのでは……。 <span style="font-weight: bold; color: #1c4ca0;">N</span>:彼らは本当のプロだ。税金をしっかり払わなくていいように、2003年には、日米租税条約を「改正」させ、日本に課税権をなくすよう仕掛けていたんだ。 しかも彼らは、非課税のオランダの投資組合に出資という形をつくって、本当に課税を免れている。 <span style="font-weight: bold; color: #e74c3c;">A</span>:ということは、公的資金と瑕疵担保条項発動による不良債権の買い取り合計(新生では8兆円、あおぞら入れるとその倍額)は、日本国民の負担でハゲタカ外資がボロ儲けということですね。 <span style="font-weight: bold; color: #1c4ca0;">N</span>:小泉政権はその間数十兆円のドル買い支えを行い、その紙切れドルで米国債を購入した。つまり、日本の富がアメリカに流出し続けたわけだ。 <h2>破綻への「6ステップ」</h2> <span style="font-weight: bold; color: #e74c3c;">A</span>:この間の流れをまとめると、どうなるのでしょう? <span style="font-weight: bold; color: #1c4ca0;">N</span>:順番に言うとこんな感じになる。 ①プラザ合意で円高・ドル安とともに低金利が要求される(1985年9月) ②1986年の前川レポートで、米国が要求する構造改革が日本の改革になり、誰も反対しにくいムードが広がった。 ③1987年2月、ルーブル合意で、米国が低金利を要求し、日本は株価と地価が高騰。1989年12月29日、日経平均株価3万8915円と市場最高値を記録したが、これは外圧バブル。 ④バブルの崩壊が演出され、日本株が空売りされる(1990年1月、円株債券トリプル安。バブル崩壊の始まり) ⑤株と土地への資金流出を止める総量規制が実行される(1990年3月27日)。これは「日本の政策当局」が「意識的にバブルを叩き潰したこと」であり、「日銀と大蔵省の逆噴射」と、前記紺谷は断定している。 ⑥1997年、1998年金融危機(三洋、拓銀、山一、長銀、日債銀破綻)。ゴルフ界のトップ企業だった日東興業の破綻も1997年末だった。 <span style="font-weight: bold; color: #e74c3c;">A</span>:周到というか、恐ろしい筋書きですね。 <span style="font-weight: bold; color: #1c4ca0;">N</span>:その舞台に、日米政府のキモイリとして登場したのがハゲタカ外資というわけ。だから、日本の裁判所でさえハゲタカ外資をスポンサーして、彼らの大もうけを容認してしまったのだ。 <h2>「西村コラム」古き遺産としての「ジャパン・アズ・ナンバーワン」</h2> 戦後日本の高度経済成長を分析して、日本的経営を高く評価した本があった。1979年、ハーバード大学の社会学者エズラ・ヴォーゲルが、アメリカへの教訓という副題で書いた70万部のベストセラー。それが「ジャパン・アズ・ナンバーワン」だ。 1970年代、2度にわたるオイルショックを、技術力と勤勉さでしのいだ日本経済は、世界から驚きの目で見られていた。 日本のものづくりは世界に知られ、ウォークマン、VHSビデオ、ファミコンなど世界を席巻したが、平成が終わり令和となった今では、見事に過去のものになった。 日本のゴルフ界も、毎年同じようなことの繰り返しをやめて、欧米やアジアで起こっている、想像を超える変化に敏感になろう。 日本でも、この21世紀、旧来の社会を変えていく尖兵・先兵たちが、傷つきながらも増え始めているはずだ。 ■参考文献 ・村松岐夫/奥野正寛『平成バブルの研究(下)』(東洋経済新報社2002年) ・浜田和幸『ハゲタカが嗤った日』(集英社2004年) ・紺谷典子『平成経済20年史』(幻冬舎2008年)
    (公開)2020年01月06日
    本稿はゴルフ場関連の「事件」に詳しい西村國彦弁護士が、主にバブル時代、ゴルフ場を舞台に展開された経済事件を総括する「渾身の記」。計8回の連載の5回目だ。 バブル破綻後、日本のゴルフ市場はなかなか低迷から抜け出せないが、往時を振り返ることで現在のゴルフ界の成り立ちを知り、活性化のヒントを浮き彫りにしたい。なお、記事は弁護士歴42年のN(西村弁護士)と、N事務所で修習中のA司法修習生によるQ&A形式とした。 前回までは、ゴルフ場のバブル期とバブル崩壊後のそれぞれの価値等について話したが、今回は「消えた34兆円」と「誰が損をして誰が得をしたのか?」について踏み込んでいく。 <a href="https://www.gew.co.jp/attention/nishimura">連載の一覧はこちら</a> <h2>34兆円はどこに消えたのか?</h2> <span style="font-weight: bold; color: #1c4ca0;">N</span>:バブル期に、ゴルフ場に注ぎ込まれた資金の性質はどのようなものだったのか、理解しているかな? <span style="font-weight: bold; color: #e74c3c;">A</span>:会員の預託金と金融機関からの融資ですね。後者はゴルフ場に担保権をつけたものでしょう。 <span style="font-weight: bold; color: #1c4ca0;">N</span>:そう。本来は会員の資金で出来たゴルフ場を担保にとって、金融機関がお金を貸し付けるなんて全くおかしいことだよね。でも当時、金融関係者もゴルフ場会社も、正常な感覚を失っていた。だから、両方とも見事に不良債権化したわけだ。 <span style="font-weight: bold; color: #e74c3c;">A</span>:これらの不良債権額について、それなりの資料や根拠はあるのでしょうか?よくバブル期にゴルフ場が集めた預託金総額は10兆円などと言われますが。 <span style="font-weight: bold; color: #1c4ca0;">N</span>:うん、預託金については経産省の資料がある。1997年11月現在の預託金総額は10兆2055億円で、その7年後の2004年11月には5兆7756億円に減少しているんだ。 <span style="font-weight: bold; color: #e74c3c;">A</span>:消えた預託金は7年で4兆4000億円ですか? <span style="font-weight: bold; color: #1c4ca0;">N</span>:この金額に加え、その後法的整理されたゴルフ場の預託金が、裁判所によるカットの対象になった。つまり「会員の犠牲」と引き換えに、ゴールドマン・サックスほかのファンドに相応の利益が流れたと見るのが妥当だろうね。 まさに日本独自の預託金システムは崩壊し、会員権は紙くず化。外資系だったアコーディアとPGMが、日本のゴルフ場の1割以上を次々と買収したのだよ。 <h2>小泉改革の根深い罪</h2> <span style="font-weight: bold; color: #e74c3c;">A</span>:金融債権の方はどうですか? <span style="font-weight: bold; color: #1c4ca0;">N</span>:実は、こちらはよく分からないんだ。お役所が公表した不良債権金額は大本営発表みたいなものだし、金融機関は、みな不良債権飛ばしで真相を隠していたからね。 <span style="font-weight: bold; color: #e74c3c;">A</span>:本当にグレーですね。 <span style="font-weight: bold; color: #1c4ca0;">N</span>:しかも、外資系だった1割強のゴルフ場は、日本全体のゴルフ場売り上げの2割を稼ぐというのだよ。 ゴルフ場の貧富の差と言うべきか、格差と言うべきか。ゴルフ人口激減の世界的傾向の中で、日本の過剰ゴルフ場は、生き残りをかけ日々しのぎを削っている。 <span style="font-weight: bold; color: #e74c3c;">A</span>:先生と同じような考え方をしている人は、ほかにもいますか。 <span style="font-weight: bold; color: #1c4ca0;">N</span>:そのあたり、探していたのだが、最近見つけたんだ。 <span style="font-weight: bold; color: #e74c3c;">A</span>:どんな人でしょう。 <span style="font-weight: bold; color: #1c4ca0;">N</span>:NHKのNEWS WEBで平成時代を「とてつもない大転落」「転落と格差の30年」と形容した森永卓郎さんだよ。 <span style="font-weight: bold; color: #e74c3c;">A</span>:どんな話ですか? <span style="font-weight: bold; color: #1c4ca0;">N</span>:この20~30年で、人口も労働力もわずかだか増えているのに、日本の世界に対するGDPシェアが3分の1(18%から6%)に転落したらしい。 <span style="font-weight: bold; color: #e74c3c;">A</span>:それはどういうことですか? <span style="font-weight: bold; color: #1c4ca0;">N</span>:わかりやすく言うと、普通並みの経済成長をしていたら、この30年でわれわれの所得は今の3倍になっていたということらしい。 <span style="font-weight: bold; color: #e74c3c;">A</span>:その原因は何でしょうか。 <span style="font-weight: bold; color: #1c4ca0;">N</span>:小泉政権の構造改革による不良債権処理だ、と森永さんは言う。あの時メディアも一緒になって、つぶす必要が無い企業を軒並みつぶして、二束三文でハゲタカに売り渡したことが原因らしい。 <span style="font-weight: bold; color: #e74c3c;">A</span>:どうしてハゲタカに売り渡すと大転落になるのでしょう。 <span style="font-weight: bold; color: #1c4ca0;">N</span>:ハゲタカは利益を全部持っていき、労働者に分配しないから日本の格差がとてつもなく拡大したというのだよ。 <span style="font-weight: bold; color: #e74c3c;">A</span>:それはつまり労働分配率の話で、企業などが生み出した価値(付加価値)のうち人件費が占める割合の問題ですね。 <span style="font-weight: bold; color: #1c4ca0;">N</span>:ほう、君はよく勉強しているね。確かに、小泉さんは、失業や倒産を恐れずに断行するのが構造改革だと、かっこよく言っていた。 雇用維持は、戦後の日本では、絶対守るべき聖域だったわけだけど、その一方で、今の日本にはすぐ動かせるお金を1億1000万円以上持っている富裕層が300万人以上いるらしい。世界2位だそうだ。 <span style="font-weight: bold; color: #e74c3c;">A</span>:へー、その人たちは働かなくていい人たちですね。1億総中流社会ではなくなったのですね。 <h2>ハゲタカがスポンサーになったワケ</h2> <span style="font-weight: bold; color: #1c4ca0;">N</span>:不良債権処理の話をすれば、まさにゴルフ場はその代表的例だった。 <span style="font-weight: bold; color: #e74c3c;">A</span>:しかもハゲタカ代表のゴールドマン・サックスが登場しました。 <span style="font-weight: bold; color: #1c4ca0;">N</span>:あの時代、裁判所にも政府の圧力がかかっていた雰囲気を感じたね。大手の法律事務所が倒産部出身の裁判官や倒産村所属の有力弁護士を雇って、裁判所の倒産専門部によく出入りしていたからね。 <span style="font-weight: bold; color: #e74c3c;">A</span>:裁判所に限って、そんな政治圧力は無関係だと信じてましたが。 <span style="font-weight: bold; color: #1c4ca0;">N</span>:あの当時、例えばゴールドマン・サックスがスポンサーに名乗りをあげた案件に対立候補のスポンサーをつけると、東京地裁裁判長が対立候補に不利になるよう、意図的に手続を誘導していたフシがある。 <span style="font-weight: bold; color: #e74c3c;">A</span>:そんなことあるんですか。 <span style="font-weight: bold; color: #1c4ca0;">N</span>:僕も信じられなかったが、債権者集会という公の場で、裁判長が最高裁のつくったマニュアルを棒読みして、ゴールドマンを助ける場面すらあったのだよ。 マニュアルは会社更生法の申立がない民事再生用のものだったのに、それを会社更生がある事例で棒読みしたから、「民事再生が可決認可されないと破産になる」という、虚偽の脅し文句を裁判所が使ってしまったわけだ。 そもそも民事再生施行当初は、再生計画案の対案提出すら、裁判所は許さなかったのだよ。 <span style="font-weight: bold; color: #e74c3c;">A</span>:裁判所というのも、強力な権力機構なのですね。 <span style="font-weight: bold; color: #1c4ca0;">N</span>:裁判官の任命は内閣がするわけで、時の政治的な流れには敏感なのさ。政府がつくったRCC(整理回収機構)が事件を持ち込んでくれば、腰の引けた日本企業より、国策に沿ってリスクマネーをすぐ出してくれるハゲタカグループをスポンサーにした方が早い。 <span style="font-weight: bold; color: #e74c3c;">A</span>:ハゲタカのほうは「密約」に協力するわけだから、大もうけは約束されていたわけですね。 <h2>「西村コラム」債権譲渡のマジック</h2> バブル期の不良債権整理は、ヤクザ手法を国家が公認したことで、その後に多大な犠牲を強いた。 特に会員がたくさんおり巨額の抵当権がついているゴルフ場のような物件は、値段がつきにくい。そんな抵当権付債権を二束三文で購入する(債権譲渡を受ける)のは、回収のリスクをとれるものだけだ。 外資系ファンドやRCC(整理回収機構)は、会社更生法をやれば回収可能とサインを出し合い、お互いのリスクを減らし、超安値で金融機関から上記債権を購入。会社更生法の入札で高額でゴルフ場売却し、大もうけをした。 仮に、4億円で買った1番抵当が極度額40億円ついていると、何と40億円回収できたのだ。常識では理解しにくいマジックだが、債権譲渡の対価を問わない日本民法を逆手にとるやり方。これは本来、事件屋たちが裏社会でやっているヤクザ手法。そんなやり方を、裁判所は認めたのだ。 <a href="https://www.gew.co.jp/attention/nishimura">連載の一覧はこちら</a>
    (公開)2019年12月13日
    本稿はゴルフ場関連の「事件」に詳しい西村國彦弁護士が、主にバブル時代、ゴルフ場を舞台に展開された経済事件を総括する「渾身の記」。計8回の連載の4回目だ。 バブル破綻後、日本のゴルフ市場は低迷から容易に抜け出せないが、そもそもこの状況は何から始まっているのか、打開の糸口はどこにあるのか? 過去を振り返りながら浮き彫りにしたい。 記事は弁護士歴42年のN(西村弁護士)と、N事務所で修習中のA司法修習生によるQ&A形式とした。 前号は、狂乱物価に沸いたバブル時代のゴルフ場会員権が「紙きれ」になった背景や、建設コストの異常な高騰、金融機関の杜撰な融資などに焦点を当てた。本稿はその続編である。 <a href="https://www.gew.co.jp/attention/nishimura">連載の一覧はこちら</a> <h2>バブル崩壊後の売買事例</h2> <span style="font-weight: bold; color: #e74c3c;">A</span>:前回はゴルフ場会員権がバブル時代の4~5%にまで下落した話を伺いましたが、会員権相場の大底以降、今は多少持ち直しているみたいですね。現在のゴルフ場評価はどうでしょう? <span style="font-weight: bold; color: #1c4ca0;">N</span>:川奈やフェニックスなど半ば叩き売りに近い実例のほか、この間無視できない売買事例が登場しているんだ。 2014年の発表だけど、アコーデイアが所有90コースを100億円で売却した。あるいは太平洋クラブ(17コース、333ホール)のスポンサー金額である270億円の平均値を取ると、1コース・18ホールの場合12億円ないし16億円という評価も不可能ではないだろうね。 <span style="font-weight: bold; color: #e74c3c;">A</span>:それは高過ぎませんか。 <span style="font-weight: bold; color: #1c4ca0;">N</span>:そうだね。でも、千葉には、会員さんの預託金を全額返済させて、高額の買値で資産家が購入したという個人のためのゴルフ場が登場した話も耳にする。このゴルフ場は、隣のゴルフ場から見下ろされたくないから目隠しの木を植えるよう裁判所に訴えた、という話も聞いている。 <span style="font-weight: bold; color: #e74c3c;">A</span>:条件のいいゴルフ場には高い買いが入る時代になったのでしょうか? アラブやアメリカの超金持ちの世界みたい。 <span style="font-weight: bold; color: #1c4ca0;">N</span>:そう考えたいところではあるけど、アベノミクスのばら撒きによる、見せ掛けの景気回復にも乗れない大半の国内ゴルフ場の実態からすると、違うだろうね。 ゴルフ特信が毎年集計しているゴルフ場売買事例平均値(2013年3月期9億円。2017年前年比11%ダウンの7億5500万円。最高額西宮六甲GC19・5億円)からすると、1コース評価(平均値)は10億円が限界だと思う。 <span style="font-weight: bold; color: #e74c3c;">A</span>:すると、最新ゴルフ場数2238として、2兆2380億円となりそうですね。 <span style="font-weight: bold; color: #1c4ca0;">N</span>:ピーク時の6・2%、約16分の1だね。平均値だから、売れるゴルフ場の評価に引っ張られている印象がある。 実際には売れないどころか、価値を評価できない多くのゴルフ場があるわけだから、ピーク時の20分の1以下、つまり4~5%程度(総額1兆4400億~1兆8000億円)ではないだろうか。 <h2>「ゴルフ場数」の新しい情報</h2> <span style="font-weight: bold; color: #e74c3c;">A</span>:この連載で以前、日本の「正確なゴルフ場数」は定義やカウント方法を含めて難しいという話をされましたが、この点について新しい情報があるようですね。 <span style="font-weight: bold; color: #1c4ca0;">N</span>:そう。私も見落としていたのだが、NGK(一般社団法人日本ゴルフ場経営者協会)のデータのほかに、毎年ゴルフ特信が独自に発表しているゴルフ場数があったんだよ。 <span style="font-weight: bold; color: #e74c3c;">A</span>:これを読んでみると、基準が少しずれているようですが…。 <span style="font-weight: bold; color: #1c4ca0;">N</span>:うん。NGKは毎年、ゴルフ場利用税の課税状況から推計したゴルフ場数を発表していて、隣接都府県にまたがる19ゴルフ場が重複数になっている。 NGKの集計では、ピークが平成14(2002)年の2460コースで、その後は増えることなく減少し、平成29(2017)年は2257コースだとしている。 <span style="font-weight: bold; color: #e74c3c;">A</span>:NGK集計では、ゴルフ場の定義はあるのですか? <span style="font-weight: bold; color: #1c4ca0;">N</span>:今回よく調べたら、地方税法の関連通知というものに「地方税法の施行に関する取扱について」というのがあった。その第1章第一の一に定義されていたのが以下の内容だ。 ① 18ホール以上でホール平均距離が100メートル以上の施設(総面積10万平米未満は除く)。 ② 18ホール未満であっても9ホール以上であり、かつホール平均距離がおおむね150メートル以上の施設。 この基準をNGKは使ったらしい。 <span style="font-weight: bold; color: #e74c3c;">A</span>:他方、ゴルフ特信の定義はどうなっていますか? <span style="font-weight: bold; color: #1c4ca0;">N</span>:こちらは9ホール、2000ヤード、16・5ヘクタール以上をゴルフ場と定義している。 そしてバブル崩壊後、一時的に閉鎖するゴルフ場が多いことから、「既設数」から「暫定閉鎖数」を引いた数を「営業中」ゴルフ場としているわけだ。さらに5年暫定閉鎖が続くと、既設ゴルフ場数から削除する。 ゴルフ特信によるゴルフ場数のピークは平成16(2004)年で、既設2363コース、営業中2356コースだった。その後毎年、減少傾向は明らかで、平成29(2017)年には、既設2250コース、営業中2194コース、平成30(2018)年には既設2235コース、営業中2182コースとなっている。 <span style="font-weight: bold; color: #e74c3c;">A</span>:ピークから平成29年までの減少数は、NGKが203コース(2460-2257)で、ゴルフ特信の営業中では162コース(2356-2194)のマイナスと、いずれも減少ですね。 <span style="font-weight: bold; color: #1c4ca0;">N</span>:このズレは、ゴルフ場の定義が統一されてない以上やむをえないだろう。NGKが2つの県などにまたがる19コースを重複カウントしていることも原因だよね。 <h2>キャピタル・ロスはどこに</h2> <span style="font-weight: bold; color: #e74c3c;">A</span>:話をゴルフ場の「価値暴落」に戻しますが、ピーク時に総額36兆円あったものが、現在は2兆円にも満たない。その差額は約34兆円ですが、キャピタル・ロスは、いつどこに消えたのでしょう。 <span style="font-weight: bold; color: #1c4ca0;">N</span>:そう、そこが私の永年の宿題だった。5年前、一生懸命調べて考えた結論は、想定したとおりでね。会員たちの犠牲において、旧外資系ファンドと不良債権を処理して税逃れをした金融機関に利得が行ったのではないか、ということだ。 <span style="font-weight: bold; color: #e74c3c;">A</span>:わかりやすくお願います。 <span style="font-weight: bold; color: #1c4ca0;">N</span>:感覚的な表現を使うと、まさにバブルの泡で、ユーフォーリアという熱狂的陶酔がもたらした実体なき架空、そう言い切れれば簡単だろうね。でも、それではただの感想になってしまうので、次回はデータを使ってユーフォーリアの実体を説明しよう。 <h2>「西村コラム」統計マジック</h2> GEW片山社長の推奨で、ニュージャーナリズムの旗手D・ハルバースタム著「ベスト&ブライテスト」(2009年二玄社)を読み始めたら、止まらない。 ケネディ登場以降の「最良にして最も聡明な」人々が、何故にかくも愚かな決定を重ねたのかを詳細に明らかにした本だ。東西冷戦の緊張の中で、10万票の僅差で大統領選挙に勝利したケネディの側近たちが、ベトナム戦争の深みにはまっていく様子が生々しい。 巨大権力の力量の割には、内実が全く充実してないど素人判断の積み重ねでしかない現実を糊塗するため、さまざまな人たちが情報をコントロールしようとして、統計数字が利用されるのだろう。 その意味でジャーナリズムや弁護士は、「権力は腐敗する」「権力は愚行を繰り返す」という前提を信じて、権力と正面から対峙しないと真実というものは発見できないのだ、と思う。 <a href="https://www.gew.co.jp/?s=%E8%A5%BF%E6%9D%91%E5%BC%81%E8%AD%B7%E5%A3%AB%E6%B8%BE%E8%BA%AB%E3%81%AE%E8%A8%98%E3%80%80%E3%82%B4%E3%83%AB%E3%83%95%E7%89%88%E7%B5%8C%E6%B8%88%E6%95%97%E6%88%A6%E3%82%92%E7%B7%8F%E6%8B%AC%E3%81%99%E3%82%8B">過去の記事はこちら。</a>
    (公開)2019年11月26日
    本稿はゴルフ場関連の「事件」に詳しい西村國彦弁護士が、主にバブル時代、ゴルフ場を舞台に展開された経済事件を総括する「渾身の記」。計8回の連載の3回目だ。 バブル破綻後、日本のゴルフ市場は低迷から容易に抜け出せないが、往時を振り返ることで現在のゴルフ界の成り立ちを知り、活性化のヒントを浮き彫りにしたい。なお、記事は弁護士歴42年のN(西村弁護士)と、N事務所で修習中のA司法修習生によるQ&A形式とした。 紙屑となったゴルフ場会員権は膨大な金額にのぼる。それはどこに消えたのか?  前回は金融機関の貸出稟議書が公開されないこと、さらに最高裁判所も原則として、貸出稟議書の公開を認めないことを指摘。そのことが、ゴルフ場の「本当の価値」をうやむやにした一因でもあると説明した。本稿はその続編である。 <a href="https://www.gew.co.jp/attention/nishimura">連載の一覧はこちら</a> <h2>バブル時代のゴルフ場の価値</h2> <span style="font-weight: bold; color: #e74c3c;">A</span>:素朴な疑問ですけれど、裁判所の証拠開示を待たずに、バブル期のゴルフ場価値を算出できたのですか? <span style="font-weight: bold; color: #1c4ca0;">N</span>:確かに収益還元法(DCF法)や原価法・取引事例比較法とか言われると、わかりにくいよね。 <span style="font-weight: bold; color: #e74c3c;">A</span>:ええ。裁判所修習でも分厚い立派な日本不動産研究所の鑑定書が出てくると、裁判官もかなり信用しているみたいでした。 <span style="font-weight: bold; color: #1c4ca0;">N</span>:日本人が、自分で考えるより権威に従う傾向は、裁判所でもよく見られるけど、今の例も同様だね。ただ、私はこの間、バブルとバブル崩壊の大きな落差を間近で見てきた者として、不動産鑑定のいい加減さは指摘しておきたい。 <span style="font-weight: bold; color: #e74c3c;">A</span>:大丈夫ですか、そんなこと言って。 <span style="font-weight: bold; color: #1c4ca0;">N</span>:大丈夫だよ(苦笑)。真実の前では誰もそれに反論できず、沈黙を守るばかりだから。金融機関は口を閉ざし、バブル期のことは「先輩たちが勝手にやった」とノーコメントを貫く。その姿勢には疑問を覚えます。 <span style="font-weight: bold; color: #e74c3c;">A</span>:先生は以前、太平洋クラブが破綻したときに集会で、更生管財人に向かって「管財人がまずやることは、メインバンクに行って、会員に対する詫び状をもらってくることではないか」と迫ったそうですね。 <span style="font-weight: bold; color: #1c4ca0;">N</span>:管財人の返事は「非常に重たい発言です」と、そう返すのがやっとだった。結局、金融機関に対しては何もしなかったと思うけれど。 <span style="font-weight: bold; color: #e74c3c;">A</span>:当時のメインバンクは、売値を大幅に上回る担保権付き債権を持っていたわけだから、バブル期にはそのようなゴルフ場鑑定書が稟議書に継続的に添付されていたはずですね。 <span style="font-weight: bold; color: #1c4ca0;">N</span>:収益還元法(特にDCF法)で評価したら10億円の価値がつかず、中には1億円以下のものもあった。それでもゴルフ場は数百億円の評価を受けていた、そんな時代だったのだよ。 <span style="font-weight: bold; color: #e74c3c;">A</span>:銀行にいた父に聞くと、相場で1億円を超えていたゴルフ場会員権が、今は百分の1以下のものもあるみたいです。 <span style="font-weight: bold; color: #1c4ca0;">N</span>:要するゴルフ場会員権は、物的な担保のない「単なる紙切れ」に過ぎなかったわけだ。百分の1に下落したのは、紙きれであったことから生ずる当然の帰結かもしれないね。 <h2>会員権相場はピークの20分の1</h2> <span style="font-weight: bold; color: #e74c3c;">A</span>:日本では、ゴルフ場の開発規制は全くなかったのですか? <span style="font-weight: bold; color: #1c4ca0;">N</span>:平成5年(1993年)に「適正化法」を施行する形で募集規制が開始されただけなのだ。ゴルフ場事業そのものに規制はないので、数が増え、質はいまいちのゴルフ場ばかりになった。そのツケが回ってきたのが現状なのだ。 <span style="font-weight: bold; color: #e74c3c;">A</span>:バブル時代、いくらでゴルフ場がつくられていたのでしょう? <span style="font-weight: bold; color: #1c4ca0;">N</span>:1960年に5億円程度だったゴルフ場建設費が、バブルピークの1990年には200億円を超えていたという報告もある。 <span style="font-weight: bold; color: #e74c3c;">A</span>:それは凄いですね。父からも「1ホール10億円」という話を聞いたことがあります。先生は、数百億円の「ゴルフ場鑑定書」を実際に見たことがありますか。 <span style="font-weight: bold; color: #1c4ca0;">N</span>:もちろんだよ。旧東相模GCという山梨のゴルフ場は、旧埼玉銀行と蛇の目の巨大な担保がついていたのだが、バブル破綻後の鑑定書でも200億円以上の評価がなされていた。また、裁判例で明らかになったゴルフ場評価では、やはり旧埼玉系の濱野GCについて、平成4年(1992年)に321億4600万円という鑑定書が存在した。 <span style="font-weight: bold; color: #e74c3c;">A</span>:会員権の相場から見ると、どうでしょうか。 <span style="font-weight: bold; color: #1c4ca0;">N</span>:濱野GCのピークは7000万円で、今は300万円程度。小金井CCがピーク5億円で今や4500万円程度。旧外資系や、まだ預託金問題を解決できてないゴルフ場の評価は百分の1以下で、中には「ゼロ評価」もしくは閉鎖のゴルフ場も少なくない。 関東地区の会員権業者組合のデータ(約150銘柄平均)によると、関東ゴルフ場会員権相場はピークの1990年2月に4388・3万円をつけたあと下げ続け、大底と見られた2012年には187・4万円を記録している。 つまり、ピーク時の20分の1を切っていたわけだ。 その後、多少回復傾向にあったものの、株安の影響を受けたのか、最近の情報(2018年12月6日)では186万円になっている。なんと、ピーク時の4%まで落ち込んでしまったのだ。 <span style="font-weight: bold; color: #e74c3c;">A</span>:ゴルフ会員権の弱さ・回復力の弱さがはっきりしますね。 <h2>日本版チューリップバブル</h2> <span style="font-weight: bold; color: #e74c3c;">A</span>:ところで、バブルピークのゴルフ場数は1818コース(1990年)だったと思いますが、ホール数のデータはあるのでしょうか? <span style="font-weight: bold; color: #1c4ca0;">N</span>:実はそれを見つけたのだよ。1コースあたりのホール数は当時20・3だったようだね。 <span style="font-weight: bold; color: #e74c3c;">A</span>:すると、1990年当時の日本のゴルフ場ホール数は、3万6905ホールになります。もし1ホール10億円という評価なら、瞬間最大風速ですが、なんと36兆円の時価総額という計算も不可能ではないですね。 <span style="font-weight: bold; color: #1c4ca0;">N</span>:まさに日本版チューリップバブルだよね。金融機関は、虫食い土地だろうが、穴ボコだろうが、不動産であれば、何でも貸しまくる時代だった。ゴルフ場で言えば、宮崎のフェニックス、静岡の川奈、千葉の真名などに1000億円を超える資金が投入されていたのだ。 <span style="font-weight: bold; color: #e74c3c;">A</span>:小金井CCの会員権のピーク相場5億円も説明できますか? <span style="font-weight: bold; color: #1c4ca0;">N</span>:もちろん。住宅地の中にある20万坪をすべて宅地に出来るなら、小金井周辺でも坪単価最低1000万円で売れる時代だった。だから総額2000億円。それを会員株主数の400人で割ると、会員一人当たり5億円という計算になるわけだ。 <span style="font-weight: bold; color: #e74c3c;">A</span>:日本中に資金がばら撒かれた不思議な時代ですね。 <span style="font-weight: bold; color: #1c4ca0;">N</span>:ということは、それをバックアップした不動産鑑定書もたくさん作成され、貸出稟議書に添付されていた。これが公開されないことに忸怩たる思いを禁じ得ない。 <h2>「西村コラム」ジャズと魔法のパター</h2> 2012年、ライン・ギブソン選手がパー71のコースを55(16アンダー)で回り世界最少ストロークをマークした。この時の使用パターは、山田パターの「エンペラー」。手造りの削り出しだ。 その情報は世界中に広まり、2013年の日米首脳会談のとき、安倍首相がゴルフ好きのオバマ前大統領に送ったのも山田パターだった。 その製作者である山田さんとゴルフをする機会があり、「売れすぎて体調を崩した」と話されていた。山田さんはジャズ留学のため米国滞在中、LAで、TP.MILLS(初代)のパターを見て「何の躊躇いもないまま」削り出しパター造りを始めたらしい。「陶器のように滑らかで真黒の美しいパター」だったという。 私もゴルフ初心者時代、TPMのパターはいいと先輩に言われ、信じて20年以上使い続けた。やっぱり商品には「美しさ」が必要なのだ。女性、いや、人間も同じかな。 <a href="https://www.gew.co.jp/?s=%E8%A5%BF%E6%9D%91%E5%BC%81%E8%AD%B7%E5%A3%AB%E6%B8%BE%E8%BA%AB%E3%81%AE%E8%A8%98%E3%80%80%E3%82%B4%E3%83%AB%E3%83%95%E7%89%88%E7%B5%8C%E6%B8%88%E6%95%97%E6%88%A6%E3%82%92%E7%B7%8F%E6%8B%AC%E3%81%99%E3%82%8B">過去の記事はこちら。</a>
    (公開)2019年11月15日
    本稿はゴルフ場関連の「事件」に詳しい西村國彦弁護士が、主にバブル時代、ゴルフ場を舞台に展開された経済事件を総括する「渾身の記」。計8回の連載の2回目だ。 バブル破綻後、日本のゴルフ市場は長引く低迷に苦しんでいるが、往時を振り返ることで現在のゴルフ界の成り立ちを知り、活性化のヒントを浮き彫りにしたい。なお、記事は弁護士歴42年のN(西村弁護士)と、N事務所で修習中のA司法修習生によるQ&amp;A形式にした。 失われた34兆円はどこへ消えたのか? 当時の複雑な構造をわかりやすく説明したい。 <a href="https://www.gew.co.jp/attention/nishimura">連載の一覧はこちら</a> <h2>公開されない金融機関「貸出稟議書」のナゾ</h2> <span style="font-weight: bold; color: #1c4ca0;">A</span>:バブル時代、ゴルフ場の会員権は億単位の値を付けたところもありましたが、今はかなり下がっています。実際、当時のゴルフ場の評価はどのように査定していたのでしょう。 <span style="font-weight: bold; color: #e74c3c;">N</span>:実のところ、バブル時代にはあり得ない評価がまかり通っていたのだよ。あの頃の銀行含む全金融機関の貸出稟議書を全面公開すれば、本当のことがわかるはずだが、いろんな矛盾があったと思う。 <span style="font-weight: bold; color: #1c4ca0;">A</span>:どういったことでしょうか? <span style="font-weight: bold; color: #e74c3c;">N</span>:1枚の稟議書だけなら、見事に一貫した内容で矛盾なく仕上がっていたはずだ。でも、時系列的に同じ取引先の複数の稟議書を並べてみると、矛盾だらけで一貫性がまったくなかった、と証言するかつての金融関係者はたくさんいるのだよ。 <span style="font-weight: bold; color: #1c4ca0;">A</span>:真面目なはずの金融機関の人達が、なぜそんなことを貸出稟議書に書いたのでしょうか。 <span style="font-weight: bold; color: #e74c3c;">N</span>:それは競争相手の金融機関に大きな仕事を取られてしまうからだね。バブル当時、各銀行の支店長が、何でもいいから担保取って貸し付けろと旗を振って取引先訪問を繰り返していた事実がある。住友と富士銀行の「戦争」、つまり顧客の取り合いもあったと聞いているからね。 <span style="font-weight: bold; color: #1c4ca0;">A</span>:なんでそんな「戦争」が起きるのでしょうか? <span style="font-weight: bold; color: #e74c3c;">N</span>:今のマイナス金利ほどではないけれど、バブル期は金利が安くなり、金融機関がこぞって借り手を捜していた。借り手側も、目の前で今まで値段がつかなかった不動産がまとまると法外な値がつくことを知ると、心が揺れ始める。 そこに金融機関が必要資金を全額融資してくれるのだから、止まらない。そして、バブルに火がついた。金融機関が資金を供給しなければ、あんなバカ騒ぎは起きなかったはずだ。 <span style="font-weight: bold; color: #1c4ca0;">A</span>:そうですか。「戦争」をやりながら、その「戦争」に負けるような稟議書など書けないわけですね。 <span style="font-weight: bold; color: #e74c3c;">N</span>:そうなんだ。だから本当にバブルを総括するためには、当時の全金融機関の貸出稟議書を全部公開して、その原因を突き止めた上での総括が必要なのだ。 <span style="font-weight: bold; color: #1c4ca0;">A</span>:その総括ができてないので、スルガ銀行事件などがまた起こるのですね。日産ゴーン事件とか、ジャックス「悪徳融資」事件とか、日本の大企業は本当におかしいですね。 <h2>最高裁は原則、貸出稟議書の公開を認めない</h2> <span style="font-weight: bold; color: #e74c3c;">N</span>: ところが、そんな動きを阻止している役所があるのだよ。どこだと思う? <span style="font-weight: bold; color: #1c4ca0;">A</span>:財務省とか経産省ですか? <span style="font-weight: bold; color: #e74c3c;">N</span>:いや、なんとそれは最高裁判所なのだ。 <span style="font-weight: bold; color: #1c4ca0;">A</span>:本当ですか?真実を明らかにするのが裁判所の役目でしょうに。 <span style="font-weight: bold; color: #e74c3c;">N</span>:いや、裁判所も立派な国家機関なのだ。三権独立とは言え、最高裁裁判官は内閣(長官は内閣指名に基づき天皇が任命)が任命するし、高裁以下の下級裁判所裁判官の任命権も内閣が持っているよね。だから、普通の裁判官たちは、任命権者に盾突くことはしないのだよ。 <span style="font-weight: bold; color: #1c4ca0;">A</span>:なるほど。自分の出世を常に考えているわけですね。 <span style="font-weight: bold; color: #e74c3c;">N</span>:大企業は、最高裁の裁判官出身者をどんどん受け入れ(一種の天下り)、東大など大学教授を囲い込んで都合のいい論文を書かせ、自分たちの既得権が侵害されないようさまざまな工作をしているフシがある。 <span style="font-weight: bold; color: #1c4ca0;">A</span>:その結果は? <span style="font-weight: bold; color: #e74c3c;">N</span>:生きている金融機関の貸出稟議書は提出命令の対象にしない、という最高裁判断になるのだ。 <h2>大き過ぎて潰せない</h2> <span style="font-weight: bold; color: #1c4ca0;">A</span>:確かにありましたね。破たん金融機関の貸出稟議書だけは、例外的に提出命令の対象にするという判断が。その理由は、金融秩序が混乱しないから、という内容だったような記憶があります。 <span style="font-weight: bold; color: #e74c3c;">N</span>:正確には、専ら金融機関内部で利用される目的で作成された文書だから、「特段の事情がない限り」自己利用文書に該当する、と。つまり提出命令の対象にはできない、というわけだ。しかも、破綻しても再生するような金融機関だと、「看過しがたい不利益」が生ずる恐れありとして、「特段の事情」を認めないのだ。 <span style="font-weight: bold; color: #1c4ca0;">A</span>:そうでした。そうするとメガバンクに統合された金融機関の内部情報は、彼らが生きている限り出てこないわけですね。 <span style="font-weight: bold; color: #e74c3c;">N</span>:リーマンショックのときも、モルガンスタンレーやゴールドマンサックスが、その破綻懸念による資金流出が止まらずあと1週間持つかどうか、という危機がそこにあったのだ。でもその時点で、こらえ性のない日米両政府は彼らを救済してしまったのだ。 <span style="font-weight: bold; color: #1c4ca0;">A</span>:それは本当のことですか? <span style="font-weight: bold; color: #e74c3c;">N</span>:「リーマンショックコンフィデンシャル」上・下(2010年早川書房)にNYタイムズのトップ記者アンドリュー・ロス・ソーキンが書いているよ。 この本は私の愛読書。あの日本企業にえらそうにお金を貸しているゴールドマンが、実は倒産寸前で国家に助けられていたというのは、逆説的で笑ってしまうことだから…。 <span style="font-weight: bold; color: #1c4ca0;">A</span>:そういえばゴールドマンサックス出身の人々は、アメリカ政府の中枢にたくさん入り込んでいると聞きました。 <span style="font-weight: bold; color: #e74c3c;">N</span>:実は、この「大き過ぎて潰せない」ことが、一部の私企業を政府が救済してしまう一因になる。生き延びた資本主義の将来を議論するときに、大議論になっているところなのだ。 注目に値するこの論点については、また後日紹介することにして、次回は、いよいよバブル期と現在の日本のゴルフ場評価について話をしよう。 <h2>「西村コラム」日本は舐められてないか</h2> 日産自動車再建のキーマン、ゴーン氏の役員報酬の高さは、日頃から気にはなっていた。ふたを開けてみたらびっくり。公私混同の限りを尽くしたかのようなひどい話が、検察サイドから流れてくる。 代表者解任と言えば、古くは三越岡田氏、イトマン河村氏の退場ドラマがあった。今回は内部通報者を保護する司法取引が導入されたため、実現できたこと。 逆に言えば、わが国の株式会社法制、特に取締役会、監査役制度、株主総会はきちんと機能しないものだとして、外国人たちは捉えているということだ。もっと言えば、監督官庁もマスコミ・ジャーナリストたちも、記者クラブの存在とあいまって、企業広告費をばら撒く大企業の言いなりになっていたということ。そろそろ皆さん、自分で物事を考えようではないか。
    (公開)2019年10月02日
    本稿はゴルフ場関連の「事件」に詳しい西村國彦弁護士が、主にバブル時代、何がどのように行われたかをゴルフ場及び当時の経済環境を含めて総括する「渾身の記」。計8回にわたりお届けする。 バブル破綻後の約30年、日本のゴルフ市場は長引く低迷に苦しんでいるが、往時を振り返ることで活性化のヒントを浮き彫りにしたい。なお、記事は弁護士歴42年のN(西村弁護士)と、N事務所で修習中のA司法修習生によるQ&A形式とした。 失われた34兆円はどこに消えたのか? 当時の複雑な構造をわかりやすく説明したい。 <a href="https://www.gew.co.jp/attention/nishimura">連載の一覧はこちら</a> <h2>正確なゴルフ場数、実は「不明」</h2> <span style="font-weight: bold; color: #1c4ca0;">A</span>:N先生が書かれた本(ゴルフ場 そこは僕らの戦場だった2015年3月 ほんの木)を拝読しましたが、よくわからないところがいくつかあるので教えて下さい。 <span style="font-weight: bold; color: #e74c3c;">N</span>:もちろん。君はゴルフをしたことはないのかな? <span style="font-weight: bold; color: #1c4ca0;">A</span>:事務所の若い先生方からコンペのお誘いを受けますが、まだプレーしたことはありません。 <span style="font-weight: bold; color: #e74c3c;">N</span>:そう。最近は弁護士の数が増えているから、お客さんとの付き合いにもゴルフは必要だよ。パソコン仕事ばかりの弁護士には歩きを伴う運動になるので、ゴルフはお勧めだ。 <span style="font-weight: bold; color: #1c4ca0;">A</span>:はい、前向きに考えます。まず、日本のゴルフ場数がわからないので、このあたりからお願いします。 <span style="font-weight: bold; color: #e74c3c;">N</span>:実は、正確な数字は不明なのだ。所轄の経産省でも民間の数字を使って推定しているくらいだからね。さらに驚きなのは「ゴルフ場の定義」さえ統一されていないんだ。 <span style="font-weight: bold; color: #1c4ca0;">A</span>:本当ですか。経産省は優秀な役人の集まりだと思うのですが。 <span style="font-weight: bold; color: #e74c3c;">N</span>:僕もはじめはびっくりした。でも福島原発問題で、あの「優秀な」日本の「官庁」で、なんとこの間「放射能漏れ」がまったく想定されておらず、「放射能漏れ」を担当する役所がわからなかったらしいんだね。環境省の現役から聞いた話だけど。 <span style="font-weight: bold; color: #1c4ca0;">A</span>:まさに「安全神話」ですね。原発のような深刻な問題でその程度なら、命に関わらないゴルフ場問題は推して知るべしだと。 <span style="font-weight: bold; color: #e74c3c;">N</span>:「たかがゴルフ」のことだからね。一般には、18ホール以上でパー72前後のゴルフ場が想定されているのだが、6コース108ホールが同じ市町村にあるゴルフ場もあれば、12ホールしかないけどパー3、パー4、パー5があるコースや、ホール数は様々だが、ほとんどパー3ホールのいわゆるショートコースも多くある。 <span style="font-weight: bold; color: #1c4ca0;">A</span>:先日、NGK(一般社団法人日本ゴルフ場経営者協会)という団体が、毎年日本のゴルフ場数を発表している資料を見つけました。それによると、1957年116、1975年1093、1989年1722コースと増加の一途をたどり、2002年の2460コースがピークのようです。 <span style="font-weight: bold; color: #e74c3c;">N</span>:ほお、よく調べたね。君は将来、見込みがありそうだねえ(笑) <span style="font-weight: bold; color: #1c4ca0;">A</span>:恐縮です! <span style="font-weight: bold; color: #e74c3c;">N</span>:ただしNGKの発表数字は、ゴルフ場利用税の課税状況からゴルフ場数を推定しているため、1つのゴルフ場がダブルでカウントされるという話もある。 <span style="font-weight: bold; color: #1c4ca0;">A</span>:ダブルでカウント、ですか? <span style="font-weight: bold; color: #e74c3c;">N</span>:そう。19のゴルフ場が隣接都道府県にまたがるので、「実稼働のゴルフ場」は2018年3月末日現在、2238(2257マイナス19)だとNGKは発表している。いずれにせよ、太陽光発電のブームとゴルファー数の減少を受けて、確実にゴルフ場数は減っているわけだ。 <span style="font-weight: bold; color: #1c4ca0;">A</span>:元々36ホールや27ホールのコースが太陽光発電の設置で18ホールになっても、ゴルフ場数は減らないわけですね。 <span style="font-weight: bold; color: #e74c3c;">N</span>:その通り。いろんな店が日々閉鎖したり開店したりしているよね。つまり、生き物である企業の正確な数などは、リアルタイムでは把握できないのだよ。 <h2>日本は世界3位に転落?</h2> <span style="font-weight: bold; color: #1c4ca0;">A</span>:ちなみに世界のゴルフ場数はどうなっているのでしょう。 <span style="font-weight: bold; color: #e74c3c;">N</span>:正確性については不明だが、こんなデータ(月刊ゴルフマネジメント創刊300号)はある。2007~2008年米国1万5590、カナダ2300、イングランド1897、オーストラリア1500コース。 ただし、英国を連邦として合計すると2752あるので、事実上日本は世界3位で、カナダに抜かれつつあるのだろう。 <span style="font-weight: bold; color: #1c4ca0;">A</span>:日本は平地が少ない小さな島国なのに、世界有数のゴルフ場数なのですね。 <span style="font-weight: bold; color: #e74c3c;">N</span>:そう。お隣の韓国は、日本のゴルフ場が乱造され、多くの被害者が出たことを学んだ。そこで彼らはゴルフ場造りに厳しい法的規制をかけ、事実上国家管理にしたみたいだ。 <span style="font-weight: bold; color: #1c4ca0;">A</span>: だから韓国には300コースも出来ていないわけですね(2007~8年時点で234)。 <span style="font-weight: bold; color: #e74c3c;">N</span>:だから安い日本のゴルフ場を買いに来るわけだ。 <h2>バブル崩壊とその原因</h2> <span style="font-weight: bold; color: #1c4ca0;">A</span>:ところで、私が生まれる前のバブル期の日本のゴルフ場の価値はどうだったのでしょう? <span style="font-weight: bold; color: #e74c3c;">N</span>:いま東京の不動産の価格は、ミニバブルといわれるくらい、復活しつつあるようだね。銀座あたりには、バブル期の価格を超えたところもあるという。いわゆる「外人買い」が多いのだろうが、それでもバブルピーク時のマンションは1坪当たり2000万円とかの異常値がついたけど、今はそこまでいってないはずだ。 <span style="font-weight: bold; color: #1c4ca0;">A</span>:ワンルームマンション5坪で1億円とは…。 <span style="font-weight: bold; color: #e74c3c;">N</span>:バブルの起源は、オランダのチューリップ・バブルと言われているのだよ。チューリップの球根ごときに投機的な価値がついて、買えば値上がりするという雰囲気だけで毎日空前の高騰を続け、それをみんなで買いあさることでまた値段を上げたわけだ。 <span style="font-weight: bold; color: #1c4ca0;">A</span>:銀行員だった父から聞く日本のバブル経済の話や、サブプライム問題なども同じなのですね。 <span style="font-weight: bold; color: #e74c3c;">N</span>:ベルリンの壁崩壊による冷戦終結や共産主義・社会主義国家の崩壊を受けて「資本主義」は生き残った。その「資本主義」は、資本を投じて利益・利潤を生み出すことを否定するどころか、むしろこれを奨励する。 人間の欲望を否定しないで、むしろ社会発展の原動力としているわけだ。つまりバブルは資本主義に必然的に伴うもの、と言ってよいのではないか。 <span style="font-weight: bold; color: #1c4ca0;">A</span>:裁判官が、時々判決に「景気変動の一つとして想定可能」みたいなことを書くのは、そういう意味ですね? <span style="font-weight: bold; color: #e74c3c;">N</span>:弁護士のほうも、ろくに調べず安易に事情変更の原則など持ち出すから、そう切り捨てられるケースも多いわけだ。  (続く) 月刊ゴルフ用品界(GEW)2018年12月号掲載 <h2>「西村コラム」官僚組織の無責任</h2> 日本人は、素直である。中国人と異なり、島国の日本では、「長いものには巻かれろ」とばかり、「お上」のいうことを無条件に信ずる傾向がまだ続いている。 確かに、日本の官僚たちは優秀であった。でも彼らは、自分で物事を考えることを学んだ優秀な人たちではなかった。彼らの優秀さは、上から指示されたことについては、その是非など全く疑うことなく、それを要領よく記憶し実行する能力を重視する学校教育の上での優秀さに過ぎなかった。 原発を推進するにあたり、その被害についての責任について法律は制定したのに、いざ「放射能漏れ」の事態が発生したときに、どの官庁が担当すべき問題かがわからなかったという。本当に危機感が全くない国である。 そんな国の発表するデータには、「レジャー白書」も含め、常に裏があると考える必要がある。 日本ゴルフジャーナリスト協会Webサイトに寄稿している、西村國彦氏の記事一覧は<a href="https://jgja.jp/author/nishimura/" rel="noopener noreferrer" target="_blank">こちら</a>
    (公開)2019年09月10日

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