ゴルフ規則を統括する英R&Aは先頃、日本のクラブメーカーに「高反発クラブ」の規制(SLE規則)に関わる新たな解釈を通達。来年1月1日から発効する旨を明らかにした。
これにより業界では、規制がさらに強化されるのではないかとの憶測が飛んでいるが、実際のところはどうなのか? 日本ゴルフ協会(JGA)の解説を交えて説明しよう。
<h2>SLE規則とは何か?</h2>
まず、スプリング効果(SLE)を規制するいわゆる「高反発規制」について簡単に振り返ってみよう。
この規則が施行されたのは2008年1月1日だった。それ以前、チタン合金を主素材とするドライバーヘッドは、各社とも大型化と薄肉化を追求する開発を進め、その結果、フェース面に「スプリング(バネ)効果」がみられるようになった。
ゴルフ規則は以前から、スプリング効果を認めていなかったが、数値による上限値が示されていなかったため、これをSLE規則によって明確化した。
付属規則Ⅱ4-c(スプリング効果と動的特性)には、ゴルフクラブは「ペンデュラムテストプロトコル(R&Aテスト内規)に定められている上限を超えるスプリング効果を持ってはならない」と記述される。
では、テスト内規とは何か。具体的にはこういったことだ。
計測方法は、専用の試験機(ペンデュラム試験機)で、金属製の球をフェースのインパクトエリア(センターを中心に横42.67mm、縦は上下のフェース面縁に沿って幅6.53㎜の範囲を除く)に複数個所当て、その特性時間(CT)で合否を決めるもの。
制限値は239μs(百万分の1秒)で、許容誤差18μsを加えた257μsまでが許容の上限となる。つまり、これを超えたものが違反クラブとなるわけだ。
クラブメーカーは、R&Aにサンプルヘッドを送り、適合となったものはR&Aのホームページに「適合リスト」として掲出される。一般ゴルファーはこれを見て、マイクラブが適合か否かを確認できるという仕組みである。
ところが、新品クラブの購入時に適合であったものが、使用頻度が高まるとフェース面が摩滅して、規制値の上限を超えるケースが生じてしまう。この点についての対応を具体的に示したのが、今回通達された「新解釈」というものだ。
これを受け、業界関係者の間には「R&Aが使用中のクラブも厳しく規制するのでは?」との憶測が飛びはじめた。仮にそうなら、市場の混乱は必至だが、実際のところはどうなのだろう。
<h2>「摩滅」と「損傷」を明確に分ける</h2>
JGAの大久保裕司部長(規則及び外交担当)は、使用中のクラブに検査の枠を広げるのでは、との憶測について、
「そのような内容は一切記されておりません」
と前置きして、次のように続ける。
「今回のリリース文は、新品のときにSLE規則に適合していたヘッドが、『通常の使用』によってSLEの上限を超えていることが判明した場合、それは『摩滅(規則4-1b)』ではなく、『損傷(規則4-3)』として扱うという解釈の通知です。
たとえば、新品時に適合していたグリップが、『通常の使用』を通じて表面が目減りして、指が一定の場所に据えられるように変形しても、引き続き適合グリップとして使用が認められます(規則4-1b)。
この解釈をSLEに当てはめると、新品時に適合だったクラブが『通常の使用』を通じてフェース面が目減りして、上限値を超えたとすると、そのクラブは上限値を超えたままでの使用が認められてしまう。
その点について今回のリリースでは、フェースの目減りは『摩滅(規則4-1b)』ではなく、『損傷(規則4-3)』として扱うことで、次のラウンドから使用できないという解釈になります」
要するに、使用頻度が高くなってフェース面が薄くなり、反発性能が規制の上限値を超えた場合、それは継続使用が認められる「摩滅」ではなく、使用が認められない「損傷」であると定義して、合否の判断基準を明確化したわけだ。
ここで、R&Aの通達文を要約しよう。
「(前略)『摩滅』とは、個体表面からの素材の目減りと定義されます。『損傷』とは、1回の負荷、あるいは繰り返し与えられた負荷によって引き起こされた物質の構造的な弱体化と定義されます。(中略)
2018年1月1日から発効する解釈では、中古クラブが競技現場でテストされ、257μsを超える結果となった場合、そのクラブは新品時に適合リストに掲載されたときは適合していたと仮定して、そのクラブは損傷して不適合状態になったとみなされます。(中略)
その『損傷』は、その前の正規のラウンドを始めた後に生じたものとみなされ(中略)、過去に遡っての罰の適用はありません」
<h2>検査対象はツアーレベル</h2>
以上が「新解釈」の概略だが、問題はこれを厳格に運用する場合、どのレベルの競技まで検査対象を広げるのか。その際、競技会場にCT値の計測器を用意しなければならないが、ゴルフ場が開催する月例競技でも計測器を購入する必要があるのかなど、様々な点が懸念される。
日本ゴルフ場経営者協会の大石順一専務理事は、
「仮に150人規模の競技会を行った場合、毎回、すべてのドライバーを検査するのは不可能です。高額の計測器を購入することで生じる資金的な負担を考えても、現実的ではありません」
と指摘する。この点について大久保部長は、
「一般的に、競技現場でSLEのテストをすることはないので、主にツアー競技で計測するような機会がないと、プレーヤーが自分のクラブのCT値を知ることはありません。
従って、今回の通達は、主にプロツアーにクラブを提供するメーカーに対して告知の意味合いが強いのではないか、と推察されます。一般プレーヤーにつきましては、メーカーに問い合わせたり、適合リストに照会することで適合性を確保できると思います」
極論すれば、一般ゴルファーにとっては従来と何も変わらないことになる。近年、国内男子ツアーでも「高反発規制」の違反例が目立っているため、このレベルの競技に対して警鐘を鳴らし、定義の明確化を図ったものと解釈できそうだ。
なお、本誌(月刊ゴルフ用品界)の11月号で、この件に関して一般ゴルファーにまで検査対象を広げるのではないか、との趣旨の記事を掲載したが、その後の取材で上記のJGA見解が得られたので、訂正したい。