保護者が最も心がける熱中症対策は「水分補給」と「帽子」
小学4年生から中学3年生の子どもを持つ全国の保護者870名を対象とした「子どもがいる家庭の熱中症・暑さ対策に関する実態調査」(2024年5月に株式会社明光ネットワークジャパンが実施)のレポートによれば、子どもが実施している熱中症対策として「こまめな水分補給」(73.5%)、「帽子の着用」(51.2%)、「室内を適切な温度に調節」(49.1%)の順に回答が多かったとされている。
同じく、筆者らが実施した、小学生の子どもを持つ保護者500名に対する調査(2022年5月実施)によれば、「子どもの熱中症対策について親として最も心がけていること」について、男性の66.8%、女性の74.4%が「水分補給」を挙げ、同じく「帽子による調節」(男性6.0%、女性9.2%)が続いている。筆者らが実施してきた先行研究においては、帽子の効用を高めるには、素材、色、形状を工夫することも暑熱環境下においては重要であるあることを明らかにしてきた(Kita et al.,2019)(北ら,2022)(北,2023)。
<img src="https://cms-backend-gew.com/wp-content/uploads/2025/08/kita250802.jpg" alt="" width="788" height="349" class="aligncenter size-full wp-image-89629" />
<h2>子どもの熱中症対策の盲点は「色」への配慮</h2>
筆者の調査(2022)では、「帽子」の「素材」「色」「形状」に関する意識についても調べている。調査結果を表1に示した。「帽子の素材」については、気を遣っている割合が男性42.0%女性46.0%、「帽子の色」については男性32.4%女性30.4%、「帽子の形状」については男性37.2%女性39.6%となった。このように、「色への配慮」が全項目の中で最も低い傾向であった。この調査では、ウエアについても同様の設問を設けたが、同じ傾向であった。この結果からは「帽子を被っていれば安心」と思い込みがちで、色への配慮は盲点になっている可能性が示唆される。
しかしながら、図1(撮影:北 徹朗)に見られるように、5月の気温においても赤帽は50℃近くにまで蓄熱し、白帽とは20~30℃もの差が生じている。黒髪をむき出しにしていると60℃を超える表面温度であることが観察できるので、高温になる赤帽であったとしても被らないよりはマシである。児童が履いているグレーのパンツも高温になっていることが見てとれる(北,2024)。
<img src="https://cms-backend-gew.com/wp-content/uploads/2025/08/zu1.jpg" alt="" width="788" height="525" class="size-full wp-image-89505" /> 図1.児童用赤白帽の屋外環境下での蓄熱の状況<br />(撮影:北 徹朗、撮影日:2023年5月27日)
<h2>大人と比べてプラス7℃:子ども特有の暑熱環境「こども気温」</h2>
サントリーとウェザーマップ社が2023年に行った共同検証実験において、子どもの背の高さで計測した温度が、大人と比較するとプラス7℃程度にもなった結果から、子ども特有の暑熱環境を「こども気温」と称し2023年より子どもの熱中症対策に関する啓発活動が行われている。
この検証実験においては、日向と最も涼しい日陰では、WBGTに4.2℃の差(熱中症警戒レベル2段階分の低減)があったとされ、その結果から、日陰に入ることで日差しを避け身体にかかる熱ストレスを大きく低減させることができるので「連続した日陰を歩くことによって熱中症リスクを有意に低減することが確認されている」としている。
<h2>起伏やカート道路、風の通りの善し悪しなど、ゴルフ場のWBGTは一定ではない</h2>
ゴルフ場におけるこの観点からの提言は、筆者がGMACセミナー2024において「急がれるゴルフ業界を挙げた暑熱対策」として具体的に述べている(図2)。
<img src="https://cms-backend-gew.com/wp-content/uploads/2025/08/zu2.jpg" alt="" width="788" height="525" class="size-full wp-image-89506" /> 図2.<br />暑さポイントに応じたマッピングとスコアカードの工夫(GMACセミナー2024発表スライドより)
特に起伏のあるゴルフ場ではホールごとにWBGT値にバラつきがあることが予想される。他方、河川敷の様な平坦なコースでは、前述の先行研究で述べられるように「連続した日陰を歩くことによって熱中症リスクを低減することができる」と思われる。特に起伏のあるコースでは、来場者の参考になるよう、目安となる数値データを収集し示しておくことも熱中症対策として有用であり、夏場のゴルフ場マネジメントには必須であろう。
参考文献
・株式会社明光ネットワークジャパン(2024)https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000178.000071552.html(2025年7月20日確認)
・北 徹朗(2022)子どもの暑さ対策における保護者の「帽子」に対する意識、未公刊
・Kita et al.,(2019)Changes in Temperature Inside a Hat During the Play of Golf -Comparison of Hats with Different Shapes-、International Journal of Fitness, Health, Physical Education & Iron Games, Special Issue Vol.6, No.2, pp.163-166
・北 徹朗ら(2022)帽子の素材・色・形状が暑熱環境下でのスポーツ実施中の生理指標と帽子内温湿度に及ぼす影響、デサントスポーツ科学Vol.42、pp.37-51
・北 徹朗(2023)帽子の形状・色の違いが帽子内温湿度に及ぼす影響-暑熱環境下における各種スポーツ実施中の経時的変化-、繊維機械学会誌Vol.76、No.4、pp.199-205
・北 徹朗(2024)人工暑熱環境下における児童用帽子の表面・内側温度の経時的観察-暑熱対策帽子の製品化に向けた赤白帽・黄白帽・桃白帽の比較検証-、日本運動・スポーツ科学学会第31回大会抄録集、p.24
・サントリー食品インターナショナル株式会社(2025)https://www.suntory.co.jp/softdrink/news/pr/article/SBF1594.html(2025年7月20日確認)
・北 徹朗(2024)「急がれるゴルフ業界を挙げた暑熱対策」(GMACセミナー2024:地球沸騰化時代、夏のゴルフを安全に楽しむには -ゴルフと環境とSDGsを徹底討論-、2024年3月9日発表資料
北 徹朗|きた・てつろう
博士(医学)
武蔵野美術大学教授・同大学院博士後期課程教授
GMACゴルフ市場活性化委員会有識者委員(企業連携・交流部会副委員長)
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この記事は弊誌月刊ゴルフ・エコノミック・ワールド(GEW)2025年8月号に掲載した記事をWeb用にアップしたものです。なお、記事内容は本誌掲載時のものであり、現況と異なる場合があります。
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