前回、当社の「比較分析」機能を使って練習場の「料金変更」に伴う来場者数や客単価の増減について分析しました。平日や土日の料金を、時間帯別に変更することで、概ね良い結果が得られたことを確認できました。そこで今回は、別の話題を考えていたのですが、珍しい成功例がありましたので、前回と似たような話題ですが紹介します。
同システムを導入する練習場に弊社スタッフが訪れた際、
「球単価を数年前に下げた効果が出てきて、売上が伸びています」
というコメントを得ました。その話を聞いた筆者は、
「ゴルフ業界でコロナ特需のピークと言われている2021年よりも売上が伸びたの? そんな練習場はなかなか聞かない!」
と驚き、実際にその様子をデータで確認してみました。
なお、この練習場はショートコースを併設していますが、過去からの経緯で、コースと練習場を「セット販売」で利用した来場者の回数がカウントされず、来場回数が実際よりかなり少なくカウントされます。2021年時点と2024年時点でも、その点は変わらないため、比較自体に問題はありませんが、来場回数の数値自体は意味がないため、数値はマスクし、グラフの様子だけを見ていこうと思います。
まずは前回紹介した「比較分析」で、2024年と2021年の様子を比較してみましょう。
図1のように2024年1月1日から同年12月31日の範囲を指定し、これと比較する対象期間を2021年1月1日と指定します。日数は自動で同じ期間になります。
図1
図2が2024年1年分と2021年1年分の「総来場回数」の様子です。青が2024年です。どの時間帯でも2021年よりかなり来場回数が伸びている様子が分かります。
図2
次に図3が「平均打球数」の様子です。先に説明したように、この練習場ではショートコースとのセット販売で打席に入った人の来場回数がカウントされないので、平均打球数は高くなってしまい、値自体は意味がないのですが、比較は一応できます。平均打球数はほぼ変わっていないという感じでしょう。
図3
図4の「総打球数」を見ると、総来場回数と同じ傾向が伺えます。1回当たりの打球数は変わらず、純粋に来場回数が増えた分、打球数も増えたと言えます。
図4
図5の「平均ボール利用額」を見ると、2024年の方が低くなっています。平均打球数が変わらないので、球単価を安くした分、利用額も下がったということです。客単価の下落はかなり嫌なデータですが・・・。
図5
図6の「総ボール利用額」を見ると2024年の方が上がっています。客単価が下がっても来場回数が増えた分で売上は伸びたということです。
図6
2021年は新型コロナウイルスの影響で三密の遊びが制限され、屋外のゴルフ練習場はほぼ安全ということからコロナ前に比べて来場が増え、そのピークが2021年でおよそ18%増えたと言われています。2021年のピークから徐々に来場は減り、2024年はコロナ前の106%まで戻ったと言われています。そんな中でこの施設の売上が伸びたのはすごいことです。もう少し他のデータも比較してみましょう。
図7は「年代別チャージ額」の比較です。20歳代〜60歳代でチャージ額が伸びています。
図7
図8は「年代別ボール利用額」の様子です。50歳代がかなり伸びています。
図8
図9の「年代別総来場回数」で見ても50歳代がかなり伸びていますが、それより若い世代もしっかりと伸びています。ゴルフ業界でのボリュームゾーンは50歳代〜70歳代ですので、球単価を下げて若い世代が特に増えたと言えるでしょう。
図9
「比較分析」だけでなく、「来場者分析」でも見てみます。図10のように期間を2024年と2021年の比較ができるように指定します。まずは図11の「総来場者」の様子を見ます。左が2024年、右が2021年です。全体的に増えていますが、特に若い世代が増えている様子が分かります。
図10
図11
続いて図12のように指定して「新規来場者」、つまり指定期間内に新しくICカードを作成した人の様子を見てみます。新規来場者で見ると、図13のようにさらに若い世代を中心に増えたことが分かります。
図12
図13
日本の人口が減少するため、ゴルフ業界に限らず集客はどんどん苦しくなる傾向です。そのため施設・設備を立派にしつつ、価格を上げて売上を確保したいと考える練習場は多いと思います。コロナ収束後、夜の来場が減ったので、夜にお得なプランを追加するなど部分的な値下げはあったとしても、全体を値下げするというのはかなり難しい判断だったと思います。この練習場では価格を下げ、すぐに売上増になったわけではないのですが、数年かけて売上増を達成しました。
もっとも、この練習場はもともと1階2階は全自動打席で快適な練習環境であり、立派なショートコースも備える魅力的な施設でした。単価を下げることで特に若い世代への敷居を下げ、来場してみたら快適な環境だったので常連化するという好循環が生まれ、来場回数をどんどん増やすことができたのでしょう。
練習場ごとに立地も設備も違いますので、成功例を真似れば同じ結果が得られるというわけではありません。とはいえ、しっかり現状を分析した上で手を打てば、コロナピークを上回る売上を実現することもできるという、素晴らしい成功例だと感じました。
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この記事は弊誌月刊ゴルフ・エコノミック・ワールド(GEW)2025年3月号に掲載した記事をWeb用にアップしたものです。なお、記事内容は本誌掲載時のものであり、現況と異なる場合があります。
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