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    ハッシュタグ「小川朗の現場を照らす」記事一覧

    ゴルフで健康寿命を延ばす。これが次のステップだ。コロナ禍で、再認識されたゴルフの価値。若い世代や女性層がインドアスポーツからゴルフにシフトしている。 一方で、ゴルフが認知症予防やうつ病予防などに効果があることも分かってきた。リモートワークの普及により首都圏一極集中から、地方への移住の流れがあることも、ゴルフの世界には追い風だ。最終回はトンネルの出口にある、希望に満ちた現場を照らす。 <h2>ゴルフは認知症の予防にも</h2> 2025年問題をご存じの方も多いだろう。団塊の世代(1947~1949年生まれ)が2025年に後期高齢者となり、65歳以上の高齢者も3677万人となって、日本の人口全体の30%を占めるようになると推計されている(内閣府のHPより)。 医療費、介護保険費などが増えることは自然の成り行きといえるが、そのままでは国の財政は大ピンチになる。そこで叫ばれているのが、健康寿命を延ばすことだ。 注目すべき情報がある。ウィズ・エイジングゴルフ協議会が公式ウェブサイトで「認知症の予防に、ゴルフは効果があるの?」という問いに「あります。ゴルフで記憶力が改善されます!」と言い切っているのだ。 代表研究者の国立長寿医療研究センター、評価・検査機関の東京大学と杏林大学の協力のもと、ウィズ・エイジングゴルフ協議会が男女65歳以上で習慣的に運動をしていない高齢者を募集。応募した135人から認知症、パーキンソン病、運動を禁止されている方を除外し、前出の2大学で認知機能、運動機能、QOL(クォリティ・オブ・ライフ=生活の質)などの事前審査を実施。研究に的確な106人を対象としてゴルフを開始するグループ(ゴルフ教室組)とゴルフをしないコントロール群(健康講座教室)を半々に分けた。 2016年の10月から翌年の4月まで日高カントリークラブ(埼玉県日高市)でゴルフ教室組の53人は様々なレッスンを受ける。その内容は、身体的・認知的・社会活動に焦点を当てた90分間の練習セッションを14回、120分間のコースセッションを10回、週1回のレッスンを24回となった。 練習前のウォーミングアップと練習後のクーリングダウンは10分ずつ。練習セッションではスナッグゴルフと本クラブで打撃練習。コースセッションでは本クラブで実際にコースをラウンド。検証期間中は指導者がゴルフ知識の学習と、自宅でできるゴルフ練習等を継続するように促し、教室を行っている時には参加者同士の積極的なコミュニケーションを促した。 一方のコントロール群は、期間中に健康促進をテーマにした90分の健康講座教室を2回受講したのみだった。 研究期間終了後にはゴルフ教室組の53人とコントロール群47人に認知機能検査やQOL、うつ傾向等を検査した。 その結果、文章を覚える検査において①覚えた後すぐ思い出す検査、覚えてから15分後に思い出す検査、それらの総合スコアがゴルフによって向上したという。 <h2>フレイル・サイクルも止められる</h2> 単純に、認知症予防に効果があるだけではない。最近、介護の現場でよく使われている「フレイル・サイクル」という言葉がある。「フレイル」とは「か弱さ」と訳されるが、ここでは健康状態から要介護状態へと向かう間にいる状態のこと。そこでのサイクルが起きてしまうと、要介護状態へと入ってしまう。 前出の長寿健康医療センター公式ホームページによれば、次の5項目のうち3つが該当すると「フレイル」と評価される。①歩行速度の低下②疲れやすい③活動性の低下④筋力の低下⑤体重減少。このうち1つか2つが該当する場合は「プレフレイル(フレイルの前段階)」と捉えられる。 この5つの特徴が互いに関連しあって悪循環を作っていくのが「フレイル・サイクル」。これに陥らないために対策を打つことが、健康寿命を保つ秘訣ともいえるのだ。 例えば③番目に挙げられた「活動性の低下」、これは人との付き合いを面倒に感じ、活動の機会が減っている状態を指す。コロナ禍での外出自粛要請がキッカケで出不精になり、そこから運動不足に陥るケースも少なくない。 朝から晩までパジャマ姿でインスタント食品を食べてばかり。そこが入り口となるケースもある。筋力・筋肉量の低下による基礎代謝量、エネルギー消費量のダウンを招き、そうした状態では食欲がわかないため食事の摂取量も減る。タンパク質を始めとした栄養の摂取不足が低栄養状態を招き、さらなる筋力低下を招いていくのが「フレイル・サイクル」のパターンだ。 少なくとも外へ出て、人との接触機会を作りたい。それに一役買っているのが、歩かなくても18ホールプレーできるゴルフシミュレーターだ。デイ・サービス施設などに導入され、それまでデイ・サービスを敬遠していた人々に、再度外出するきっかけを与えているという。 もともと団塊の世代は、現役時代にバブル真っ盛りでゴルフをやりまくっていた人も多い。それが体力の低下や、ゴルフ仲間のリタイヤがキッカケでゴルフから離れてしまったケースも少なくない。 再びクラブを握ったことで、練習場に行くキッカケにでもなればしめたもの。デイ・サービス仲間と再びコースに出ることだって夢ではない。 今、全長4000ヤードクラスのティーを増設するコースも増えている。このセッティングこそが、彼らをコースに呼び戻す条件の一つとなるはずだ。 2ホールの練習エリアを貸し切りにできるマグレガーCC(千葉)や、7ホールのゴルフ場のほか4種類のレンジがあるゴルフトレーニングフィールドPies(福島)など、手軽にできるゴルフ場も増えてきた。河川敷にも、治水工事の影響を受け数ホールのみの営業を強いられるコースも近い将来出現する。9ホールの概念が行政の要請、ゴルファーの高齢化や生活様式の変化など、様々な事情から崩れていく兆しも見える。 体力の衰えた高齢者にも優しいゴルフ場づくりを筆頭にした、環境整備。ゴルフは国民全体の健康寿命を延ばすことに、いくらでも貢献できるはず。それがコロナ後のゴルフ界の役割だろう。 〇…高齢化社会を支える若い世代にとっても、ゴルフは身近なレジャーになりつつある。ダーツやボウリングなどのインドア型から、屋外で楽しめるゴルフへのシフトが進んでいるからだ。 さらに追い風となるのが、テレワークの普及。どこに住んでいても仕事ができる職種の人々に地方移住の傾向が表れている。通勤地獄からも解放され、往復の時間を余暇に充てられる。 2025年を目標にして推進されている「地域包括ケアシステム」は地元で「住まい」「医療」「介護」「予防」「生活支援」の5つのサービスを一体的に提供できる体制のこと。在宅介護の現場において、職住接近は介護者の負担を軽くすることにもつながる。 ゴルフ場が近くにあり、短時間で楽しめる環境が整えば、介護者のメンタルヘルスを含めた健康維持に、大きなプラス効果をもたらしてくれるはずなのだ。 もうひとつ、見逃せないのがワーケーション。長野のサニーCCや山梨の小淵沢CCなどはネット環境を整えオンラインでの会議やテレワークにも対応している。長期間ゴルフ場に滞在しながら、仕事とゴルフを両立させる。感染リスクも減らせて一石二鳥だ。 <h2>■小川朗の目</h2> 高齢者が全人口の3割に達するのは2025年と言われている日本。この3割の人々がゴルフをしたくなる環境を作ることは、そのままビギナーを増やすことにもつながる ▼ゴルフを始めるならシミュレーターは最高だろう。後ろの組から急かされることもない。本文にも書いた練習フィールドは、初心者にとっても最高の環境だ ▼前述の実験で認知症予防の可能性があると言うデータが出たゴルフスクールも、初心者には有効だ。スクールの敷居を下げ、まずグリップとアドレスをしっかり教えてあげることが上達の早道。しかしその環境を作れずにいる練習場も少なくない。「握り方も分からない女の子が2人で来て困っていた」と練習場のスタッフから聞き「そこを何とかするのが君の役目だ」と思わず言いたくなった ▼コロナ禍で増えている若者や女性ゴルファーをつなぎ留め、シニアたちを呼び戻す。金銭的な面も含めたそのための努力を、コロナ禍の今こそ、やるべきだと、切に思う。 <h2>■プロフィール</h2> 小川 朗(おがわ・あきら) 山梨県甲府市生まれ。甲府一高→日大芸術卒。82年東スポ入社。「世界一速いゴルフ速報」の海外特派員として男女のメジャー大会など通算300試合以上を取材。同社で運動部長、文化部長、広告局長を歴任後独立。フリージャーナリストとして本誌を始め、日刊ゲンダイなどでも連載中。㈱清流舎代表取締役COO。東京運動記者クラブ会友。日本ゴルフジャーナリスト協会会長。「みんなの介護」にも連載し、終活ジャーナリストとしての顔も持つ。自殺予防学会会員。 <hr> この記事は弊誌月刊ゴルフ用品界(GEW)2021年4月号に掲載した記事をWeb用にアップしたものです。なお、記事内容は本誌掲載時のものであり、現況と異なる場合があります。 <a href="https://www.gew.co.jp/magazine">月刊ゴルフ用品界についてはこちら</a>
    (公開)2021年04月22日
    JGA(日本ゴルフ協会)ゴルフミュージアムをご存じだろうか。関西の名門・廣野ゴルフ倶楽部(兵庫県三木市)のクラブハウス脇に、ひっそりとたたずんでいる。ここにはゴルフファン垂涎の品々が所蔵されており、我々ゴルフジャーナリストにとっても貴重な資料が豊富にある。しかしながらその利用者はごくごく限られており、宝の持ち腐れになっているのが現実だ。60回での連載終了を前に、あえて声を上げることにした。 <h2>ゴルフジャーナリストには宝の山</h2> 日本におけるゴルフ文化のルーツは関西にある。ゴルフの歴史に触れたければ、まずは神戸に行かなければ始まらないのだ。 ゴルフ週刊誌で「ゴルフ場を造った男たち」というタイトルの連載が決まると、当然のことながら関西に出かけていく機会が激増した。 ご存知の通り、日本のゴルフ場第1号は1901年に4ホールでスタートした神戸ゴルフ倶楽部だ。前出の連載では2019年の4月24日号から4回に渡り同コースの創始者であるアーサー・ヘスケス・グルームについて掲載した。 その後1コース3~4回のペースで17コース取り上げた。東京GCの井上準之助、雲仙の倉場富三郎、門司の出光佐三、横屋のW・J・ロビンソン、鳴尾のクレーン兄弟、程ヶ谷の森村市左衛門、舞子の南郷三郎、茨木の廣岡久右衛門と加賀正太郎、京都・上賀茂の安達貞市、霞ヶ関の発智庄平、唐津の高取九郎、川奈の大倉喜七郎、三田の佐藤満、仙石の山口正造、宝塚の小林一三、廣野のチャールズ・ヒュー・アリソン、我孫子の加藤良……。 ゴルフ場の現地取材が最優先。これに加えて、事前の資料調べでJGAゴルフミュージアムを訪れる必要が生じた。 廣野ゴルフ倶楽部のコースからクラブハウスに向かって左側、2階建ての館内には、世界的にも貴重な展示品が約2000点も展示されている。ゴルフミュージアムとしては、世界で3番目の規模だと、同ミュージアムの公式ホームページで紹介されている。 展示品の中にはマッセルバラやセントアンドリュースで200年以上も前に使われていた「ロングスプーン」と呼ばれるクラブなども間近に見ることができる。 日本となじみの深い伝説のグランドスラマー、ジーン・サラゼンのクラブもある。クラブだけではない。ここに来ればゴルフボールの起源から発達の過程が一目で分かる。古いものから新しいものまで、すべての種類のボールが展示されているからだ。 1階には宮本留吉のゴルフ工房が再現されているコーナーのほか、廣野GCや川奈ホテル富士Cを設計したアリソンの流れを汲む井上清一、上田治が描いたゴルフコース設計図なども展示されている。将来ゴルフ場設計家を志す人にも、ぜひ来てもらいたい場所だ。 我々ゴルフジャーナリストにとって忘れてはならない存在である伊藤長蔵が発刊した日本のゴルフ雑誌第1号である「阪神ゴルフ」の創刊号(1922年4月25日号)も展示されている。ゴルフの記事で生計を立てている人間であれば、一度は訪れておかねばならない場所でもあろう。 日本のゴルフの潮流を造った巨人たちの紹介コーナーも圧巻だ。神戸の創始者・グルームが愛用していたクラブなども展示されている。鳴尾を造ったクレーン兄弟のコーナーもある。 赤星四郎・六郎兄弟などの愛用品も展示され、日英皇太子によるゴルフ対決のコーナーもある。先達たちのゴルフに対する情熱が、写真のパネルや展示品から見る者に伝わってくる。ゴルフの素晴らしさを再認識できる場所だ。 むしろゴルフを知らない人にこそ、来てほしい施設だということもできる。これをきっかけに、ゴルフを始めてみる気にもなってもらえるはずなのだ。 <h2>ショーケースから伝わってくる怒りの声</h2> まさしく宝の山で、機会を見て出かけては日がな一日、奥の資料室で調べものに没頭した。西村貫一コレクションを始めとする貴重な文献の数々には、ゴルフ週刊誌で60回に渡る連載を続けていく上で、大いに助けられた。 もともとオタク気質が強いから、新聞社に潜り込めた部分もある。自身にとっても、ミュージアムの奥にある資料室に座り、たった一人で資料を読み漁っては書き写す間が、まさに至福の時だった。 だが通い詰めるうちに、疑問を感じるようにもなった。一日中こもっていても、この素晴らしいミュージアムを訪れる方に、一度もお会いしないのだ。 館内はしんと静まり返り、物音ひとつしない時間が流れていく。仕事には集中できるのだが、この贅沢な空間を独り占めするうちに、なんだか申し訳ない気分になってくる。 さらに何度かミュージアムを訪ね、1人で過ごしていると、ゴルフの巨人たちから発せられている怒りの声を感じるようになった。 「なぜ誰も来ないのだ」。ショーケースに収まっている巨人たちは、おそらくそう感じているのではないか。 ここにあるのは、日本のゴルフ文化そのものである。ゴルフ好きなら、一度は見ておきたい逸品がいくつもある。ゴルフの歴史に興味がある方も、スポーツジャーナリストを志す方にとっても、ここにある資料は非常に大きな意味を持つものばかりであるはずだ。 しかし告知が足りないため存在そのものの認知度が低い。このミュージアムは1979年、JGA創立55周年の事業として、設立されたもの。 4年後の1983年には(当時の)乾豊彦JGA会長と摂津茂和史科委員長のテープ・カットにより盛大な開会式が行われたそうだ。その後のPR不足からか、このミュージアムの存在を知る人はゴルフ業界でも多くないのが現実だ。 足の便の悪さもネックとなっている。神戸・三ノ宮から電車で広野ゴルフ場前まで行こうとすれば、約1時間というのが通り相場。梅田からも約1時間半近くかかる。 敷居の高さも問題だ。廣野ゴルフ倶楽部の敷地内、入り口から見るとクラブハウスの向こう側、奥の方に位置している。気軽に入っていくには相当な勇気がいる。 そんなこともあって、昨年、このミュージアムを訪れた人は339人にとどまっている。あまりに寂しい数字ではないか。果たしてこの場所でいいのか。真剣に検討する時期が来ているように思う。 ■画像:JGAゴルフミュージアム(写真提供・清流舎) <h2>■小川朗の目</h2> 今、ゴルフ練習場に若者が増えている。スポーツジムやボウリング、ダーツバーなどのインドアレジャーから、密にならずオープンエアで楽しめるゴルフへと移行しているのが原因だそうだ ▼感染リスクを避けられるスポーツとしてゴルフが認められたことは、ゴルフ関係者にとっては喜ぶべきこと。しかしこれを一過性の物に終わらせないことが大事なのは明白だ ▼ゴルフに興味を持ってもらうために、文化的側面からアプローチすることは大事だろう。そういう意味では、ゴルフミュージアムが持つお宝の数々は魅力的だ。本文にも書いたが、ゴルフに触れたことがない人にこそ、来てほしい場所なのだ ▼それだけに2000点のお宝が持ち腐れの状態になってしまっているのは何とも惜しい。ここにあるお宝の10分の1でいいから、トレーラーに積んで全国を回り展示することはできないものか。手始めに3オープンの会場で展示してはどうか。 あるいはこのミュージアムから、動画配信などで情報を発信することはできないのか。それができないのなら、真剣に移転を考えるべきではないだろうか。 <h2>■プロフィール</h2> 小川 朗(おがわ・あきら) 山梨県甲府市生まれ。甲府一高→日大芸術卒。82年東スポ入社。「世界一速いゴルフ速報」の海外特派員として男女のメジャー大会など通算300試合以上を取材。同社で運動部長、文化部長、広告局長を歴任後独立。フリージャーナリストとして本誌を始め、デイリースポーツ、日刊ゲンダイでも連載中。㈱清流舎代表取締役COO。東京運動記者クラブ会友。日本ゴルフジャーナリスト協会会長。「みんなの介護」にも連載し、終活ジャーナリストとしての顔も持つ。自殺予防学会会員。 <hr> この記事は弊誌月刊ゴルフ用品界(GEW)2021年3月号に掲載した記事をWeb用にアップしたものです。なお、記事内容は本誌掲載時のものであり、現況と異なる場合があります。 <a href="https://www.gew.co.jp/magazine">月刊ゴルフ用品界についてはこちら</a>
    (公開)2021年03月24日
    埼玉県内の荒川流域で営業中の4コースが深刻な問題に直面している。治水事業により、借りている土地の占用許可が解除になってしまうからだ。今あるゴルフ場用地を国に返せというワケだ。治水も大事で、もはや解除は避けられない状況。ならば規模を縮小してでも存続の道を探ろう。首都圏には1~3ホールのミニゴルフ場が、もっともっとあっていい。 <h2>元々ゴルフは1ホール単位</h2> 日本の河川敷ゴルフ場第1号・岡山霞橋ゴルフ倶楽部のホームページに、こんな記述を見つけた。 「昔々、スコットランドではコースは1ホール単位で、同じホールのティーとグリーンを繰り返しプレイして遊んでいました。ふと隣を見ると、同じように遊んでいて、ふたつ繋いだらもっと面白くなり、3ホール、9ホールと繋いで9ホール単位となった話があります」。(原文ママ) 岡山霞橋の生い立ちも、それに似る。1930年(昭和5年)に高梁川の河川敷に、日本では12番目のゴルフ場として産声を上げた。 当時の名称は吉備ゴルフ場。3ホールでスタートしたのち翌年に3ホール、3年後に9ホールまで延長。岡山ゴルフ俱楽部に改称後、戦後18ホールに延長され現在の名称となっている。 岡山霞橋が3ホールなら、日本最古の神戸ゴルフ倶楽部が生まれた時は4ホール。岡山霞橋誕生からさかのぼること29年前の1901年、六甲山上に誕生しホールを増設していった。 関東に河川敷ゴルフ場ができるのは翌1931年。9ホールの学士会ゴルフ倶楽部が赤羽の河川敷に誕生する。諸説はあるが、ゴルフにはもともと18ホールの概念なんてなかったのだ。 これを踏まえた上で、河川ゴルフ場の問題をとらえたい。第2次大戦後の1954年に川口GC、1956年には学士会ゴルフ倶楽部の跡地に36ホールの東京都民ゴルフ場が誕生。設計は日本のゴルフ場設計の父、チャールズ・ヒュー・アリソンの流れを受け継ぐ上田治が手掛けた。 その後も続々とゴルフ場が誕生し、今や荒川の河川敷には12コース259ホールがレイアウトされ、ゴルファーたちを楽しませている。その中で今回、占用解除の対象となっているのは、以下の4コース。多くのゴルファーにとって、愛着のあるゴルフ場ばかりだ。 アコーディア・ゴルフグループのノーザンカントリークラブ錦ヶ原ゴルフ場(43ホール、パー173)、PGMの川越グリーンクロス(27ホール、パー107)、大宮カントリークラブ(27ホール、パー108)大宮国際カントリークラブ(45ホール、パー180)となっている。4コースのホールを合計すると、荒川の総ホールの5割。 この4コースに「荒川第二・第三調整池事業」の影響が出る。国土交通省から出されているコースの占用許可が、部分的に解除されることとなったからだ。 今回の事業の目的は、2019年2月28日に国土交通省荒川上流河川事務所が出している「平成30年度着手『荒川第二・第三調整池事業について』」という資料に詳しい。 「荒川流域は、東京都と埼玉県にまたがり、流域内には、日本の人口の8%が集中しています。特に埼玉県南部及び東京都区間沿川は人口・資産が高密度に集積している地域となっています。荒川の治水安全向上のための抜本的な対策として、広い高水敷(堤防と川が流れている間のエリアのこと)を活用した調整池の整備に着手しました」。 要するに、今あるゴルフ場の一部にカラの池を作っておき、増水した際にはここに溜め、氾濫の被害を減らすわけだ。 荒川はすでに平安時代から被害の記述があるほどの「荒れる川」。一昨年の台風19号の被害も、記憶に新しいところだ。 この時は岩淵水門が閉められたことで下流域が一気に増水。ゴルフ場やグラウンドなどの多くの施設が川底に沈んだ。 今後も予想される集中豪雨による被害を減らすことが、今回の目的。さいたま市、川越市、上尾市を流れる荒川の、河川敷の一部(760ヘクタール)に洪水の一部を流れ込ませる調節池を作り、洪水時の水位上昇と下流に流れる量を抑え、堤防の決壊リスクも減らす計画だ。 荒川にはすでに治水量3900万㎥の第1調整池があり、今回作られるのは第二・第三の貯水池。新たな二つの調整池の治水量は5100万㎥に達する。事業期間は2030年度までの13年間。総事業費も1670億円に上る。 この工事にゴルフ場の一部が使われるため、占用許可の解除がなされるわけだ。 <h2>影響を受けるのは38万人?</h2> ゴルフ場にとっては敷地の一部が使えなくなってしまう一大事。この先、使用できるホールは確実に減り、予約が取りづらくなる事態も予想される。 不便さを味わうことになるのは、河川敷のカジュアルなプレーを愛するゴルファーたちだ。それはかなりの数に上る。 年間の利用者を順に挙げてみよう。ノーザンCC錦ヶ原は13~14万人、川越グリーンクロスは7万5000人程度で、大宮CCが約7万人、大宮国際が約10万人(数字はいずれも推定)。いずれも首都圏の人気コースならではの数字だろう。合計すれば、その数は実に37〜38万人に及ぶ。 治水事業はもちろん大事。ゴルフ場の関係者からも「治水と言う大義名分の前には、占用許可の解除も致し方ない」という声も確かに聞いた。そもそもそういう契約であることもわかっている。 だが高齢化社会で健康寿命の大切さが浸透する中で、健康にプラスなゴルフの良さは、もっとアピールされるべき。コロナ禍ではメンタルヘルスも含めてなおさらその重要性が増す。 河川敷のゴルフには歴史があり、文化があり、雇用がある。多くのコースでジュニアの大会が開かれており、子供の頃から荒川のコースでプレーし、プロになった選手も少なくない。 あの青木功も、下流にある東京都民ゴルフ場で育ったプロの一人。金井清一もこのコースで修業し、トッププロの仲間入りを果たしている。 東京都葛飾区出身で名門日大ゴルフ部を経てプロとして活躍している牧野裕も河川敷で育った。「中学に上がる前の春休みに、初めてゴルフをしたのが江戸川ライン松戸ゴルフ場。中三の時に、ノーザン錦ヶ原で予選を勝ち抜き、日本ジュニアに初出場したことを、今でも思い出しますね」。 日大ゴルフ部出身で牧野の後輩にあたる松下健氏(マグレガーゴルフジャパン企画開発部課長)もこう語る。「学連の新人戦の予選は男子が大宮国際で女子がノーザンでした。河川敷には生活感があって、独特の雰囲気があるんですよね」。 女子プロゴルファーの馬場由美子は福岡県育ちだが「小学校1年の頃から河川敷で育ちました。100を切れるようになって、ようやくメンバーのゴルフ場でプレーできるようになったんです」。 河川敷に余剰スペースがほとんどなく、ゴルフ場を増やすことが絶望的な現状に照らせば、今ある財産を減らさない努力もまた必要だ。コロナ禍で密にならず太陽の下で健康的にプレーを楽しめるゴルフが見直されている今こそ、低価格でプレーできるムニンシパル(公営)のゴルフ場を増やしていくべきではないか。そのためにも国交省などだけでなく、地方自治体の協力を取り付け、並行してゴルフの底辺を拡大し、世論を盛り上げることが必要になる。 ■小川朗の目 取材の中で上滑りした会話の末に、最後はこんな話になった。 ―〇〇さん(国土交通省関係者)はゴルフをしますか? 担当者 以前はやっていましたが、やめました。 ―それは何か理由でも? 担当者 我々の立場ですと、業者の方などとゴルフをしてしまうといろいろと問題もありますので▼問題と聞いてこれは国家公務員倫理規定を指すのだと、ピンときた。もう20年も前の話だが「ノーパンしゃぶしゃぶ接待」やゴルフ接待などもふくめた国家公務員の不祥事が相次いだ。このことから公務員の倫理保持のためとして利害関係者とゴルフをすることの禁止等が条文化され、2000年4月1日から施行された▼霞ヶ関でもうすぐ定年を迎える友人はゴルフをするが、やはり相手を選ぶ。「一番つらいのは、ゴルフを勧めてくれた先輩が民間企業に天下ってしまうと、一緒にプレーできなくなることでした」▼この話を聞いて、そっけない対応をした担当者の気持ちが少しだけわかる気がした。自分が自由にプレーできないためにやめてしまったスポーツを、果たして心の底から応援したい気持ちになるだろうか。 ■プロフィール 小川 朗(おがわ・あきら) 山梨県甲府市生まれ。甲府一高→日大芸術卒。82年東スポ入社。「世界一速いゴルフ速報」の海外特派員として男女のメジャー大会など通算300試合以上を取材。同社で運動部長、文化部長、広告局長を歴任後独立。フリージャーナリストとして本誌を始め、デイリースポーツ、日刊ゲンダイでも連載中。㈱清流舎代表取締役COO。東京運動記者クラブ会友。日本ゴルフジャーナリスト協会会長。「みんなの介護」にも連載し、終活ジャーナリストとしての顔も持つ。自殺予防学会会員。 <hr> この記事は弊誌月刊ゴルフ用品界(GEW)2021年2月号に掲載した記事をWeb用にアップしたものです。なお、記事内容は本誌掲載時のものであり、現況と異なる場合があります。 <a href="https://www.gew.co.jp/magazine">月刊ゴルフ用品界についてはこちら</a>
    (公開)2021年02月17日
    移動に制限がかけられ、1か所に人を集めるイベントの開催も難しくなったウィズ・コロナの社会。毎年発表されている「都道府県魅力度ランキング」でも、観光意欲度が低下し、居住意欲度が上昇している。それはリモートワークの普及により、どこにでも住めるようになった証でもある。大都市への一極集中型から、地域分散型の社会に変化していくことも予感させる。郊外にあるゴルフ場に、さらなる追い風が吹く。 <h2>北関東3県の嘆き</h2> すでにご存じの方も多いだろうが、「都道府県魅力度ランキング」について説明しておこう。 民間調査会社のブランド総合研究所が年1回行っているのがこのランキング。「地域ブランド調査」によるもので、47都道府県と国内1000の市区町村を対象に行われている。 その内容は認知度や魅力度、イメージなど全84項目からなる。調査期間は2020年6月24日から7月20日。全国の消費者3万1734人から有効回答を得た。 トップは北海道で12年連続。2位は京都府、3位は沖縄県と続く。しかしマスコミを賑わすのはどん尻グループで起きるドラマの数々。今年は栃木県が最下位に転落。前年まで7年連続で最下位に甘んじていた茨城県がついに脱出。42位まで浮上した。 今年は栃木県の福田富一知事がブランド総研に出向き、田中章雄社長に抗議。茨城の大井川和彦知事、40位と低迷が続く群馬の山本一太知事の北関東3県の「恨み節」が、多くのメディアに取り上げられている。 魅力度ランキングは、ゴルフ場が置かれている状況にもピッタリと当てはまる。栃木・群馬・茨城は、コロナ前から最も厳しい条件にさらされているエリア。首都圏のゴルファーにとっては帰りの渋滞もマイナス材料の一つ。遠出となれば4人で相乗りしてもガソリン代と高速代もかさむ。 ネット予約全盛の中、プレー代の安値競争が過熱。スループレーやセルフプレーを取り入れ、18ホールで3000円を切るコースまで登場していた。 しかしここまで来るとチキンレースも限界だ。3000円の中から人件費や光熱費、コースの維持管理費、ゴルフ場利用税、諸経費を差っ引いたら、いくらも残らない。経営を圧迫し、閉場に追い込まれるコースも少なくなかった。 ドーム型ホテルに泊まり、隣接する練習場は天然芝の上から打てる環境が充実していたスーパーゴルフCC益子C(栃木)や、サファリパークに隣接しグリーン脇から「ライオンが見えるゴルフ場」として知られていた21センチュリー富岡(群馬)などの名物コースも、惜しまれながら相次いでクローズしている。 そこにコロナウイルスの感染拡大である。4月、5月のゴルフ場の売り上げは4割減少が当たり前。広島の仙養ヶ原ゴルフクラブが6月1日に廃業を決めると、6月26日に埼玉の小川カントリークラブが民事再生法の適用を申請。岡山の日本原カンツリー倶楽部も6月30日に廃業に追い込まれた。一部報道では、いずれもコロナ禍が原因の一つに挙げられていた。 <img src="https://www.gew.co.jp/wp-content/uploads/2021/01/upload_Img160.jpg" alt="" width="582" height="852" class="aligncenter size-full wp-image-65611" /> <h2>コロナが追い風になる</h2> しかしここに来て、ゴルフ業界のコロナに対する「耐性」が注目を集めている。三密を避けられ、開放的なゴルフ場という空間でリフレッシュできる安全なスポーツとして見直されたのが原因だ。 実はもうひとつ、見逃せないプラス要素がある。移動距離の短さと、脱中心都市の動きだ。4月から5月にかけて起きていたのが「他県ナンバー狩り」という新種の〝自粛警察〟。商業施設の駐車場施設で他県ナンバーの車が、車体に傷をつけられる被害が発生していた。 だがゴルファーたちがプレーしているのは9割近くが自宅から半径30キロ以内であるという。これは日本ゴルフ場経営者協会(NGK)が行ったアンケートにより判明したもの。県をまたぐような遠出がはばかられるようになると、もともと地域密着型のレジャーであるゴルフに注目が集まったというワケだ。 しかもゴルフ場のほとんどが、都市部ではなく郊外に位置していることも追い風になる。冒頭に登場した都道府県魅力度ランキングの発信元・ブランド総研の田中章雄社長がこう語る。 「テレワークの普及によって、これからは脱東京という動きだけでなく、脱中心都市という動きが出てきます。東北で一人勝ちと言われる仙台だけでなく、名古屋、福岡などから、もっとノンビリと、過ごしやすいところに行きたいという傾向が表れています」。 すでにレジャーと仕事を両立させるワーケーション(ワークとバケーションを合体させた造語)の設備を整えているゴルフ場も増えてきた。山梨の小淵沢CCや長野のサニーCC、三重県の津CCなどは、すでにネット環境も整えて好評を博している。 前出の田中氏は、「魅力度ランキングへの影響度は、観光意欲度が一番大きかったんです。居住意欲度がその7掛け8掛けくらいの度合いで続いていました。でも今回、その差が縮まりました」と分析結果の一端を明かしてくれた。 観光という、移動が基本のレジャーにブレーキがかかった。その一方で住まいそのものを郊外に移し、仕事とレジャーを両立させる考え方が、改めて注目されていることの証明だろう。 首都圏のゴルファーにとって、ゴルフ場が遠いのは悩みのひとつ。郊外に住むことは、それだけゴルフ場との距離が縮まるということ。早朝や薄暮、スループレーなど、平日でもゴルフに出かけられる日常は、ゴルファーたちにとって理想の形であるに違いない。 北関東に住まいを移す人々が増えれば、首都圏からは遠距離であることで二の足を踏んでいたゴルファーが、コースに足を運ぶはず。企業努力の末に提示している低価格は、十分に魅力的なのだ。 そうなれば厳しい立場に追い込まれているゴルフ場が、息を吹き返すキッカケにもなるはず。 知事の皆様、都道府県魅力度ランキングにケチをつけている場合ではない。そんなことよりも首都圏から人々を移住させるために、インフラ整備と情報発信に注力するべきだ。 <h2>■小川朗の目</h2> 20代の未経験者が来ている、という声を、ゴルフ練習場の関係者からここのところよく聞く。 「グリップもアドレスも分からないまま、来ている若い人が多いですね」。感染リスクが低いスポーツという認識が、若い人々の間に浸透した ▼しかしせっかくゴルフに興味を持ってくれても、基本を教えてくれる人がいなければ、ろくに当たらずギブアップということも十分ありうる。興味を持って来てくれた20代を引き留めるためには、初心者向けの無料レッスンなど、思い切ったサービスが必要だろう ▼その一方で「70歳以上のゴルフ場への来場者数は、確実に減っています」(NGK・大石順一専務理事)。いくら感染の心配は少なくても、重症化リスクが高い年齢層は慎重にならざるを得ない ▼2025年には、団塊の世代が後期高齢者(75歳以上)となる。ゴルフ界を支えてきたこの世代が、今クラブを握らず、家にこもっていることは、ゴルフ界全体にとって大きなダメージとなる。デイサービス施設などにゴルフシミュレーターを増やしていくことが、団塊世代を元気にする近道に思える。 ■プロフィール 小川 朗(おがわ・あきら) 山梨県甲府市生まれ。甲府一高→日大芸術卒。82年東スポ入社。「世界一速いゴルフ速報」の海外特派員として男女のメジャー大会など通算300試合以上を取材。同社で運動部長、文化部長、広告局長を歴任後独立。フリージャーナリストとして本誌を始め、デイリースポーツ、日刊ゲンダイでも連載中。㈱清流舎代表取締役COO。東京運動記者クラブ会友。日本ゴルフジャーナリスト協会会長。「みんなの介護」にも連載し、終活ジャーナリストとしての顔も持つ。自殺予防学会会員。 <hr> この記事は弊誌月刊ゴルフ用品界(GEW)2021年1月号に掲載した記事をWeb用にアップしたものです。なお、記事内容は本誌掲載時のものであり、現況と異なる場合があります。 <a href="https://www.gew.co.jp/magazine">月刊ゴルフ用品界についてはこちら</a>
    (公開)2021年01月23日
    男女プロゴルフツアーの大半が無観客で開催され、プロアマ大会がコロナ禍でバタバタと中止される中、異色の〝プロアマ〟イベントが注目を浴びつつある。プロといってもプロゴルファーではなく、野球のプロと、アマチュアゴルファーが一緒にラウンドする試みだ。 ものまねタレントがプロゴルファーの代役を務める形もすでに試された。ウィズ・コロナの時代、プロゴルファーたちも、うかうかしては、いられない。 プロ野球のレジェンドたちがゴルフ場に集結 完全試合男・八木澤荘六(元ロッテ)、西武ライオンズ第1期黄金時代のリードオフマン・石毛宏典、かつての巨人打線で中軸へのつなぎ役を担った川相昌弘、神宮の人気者・ギャオス内藤尚行(元ヤクルト)‥‥。野球ファンにとってはこたえられない豪華な顔ぶれが、目の前にいた。 その光景がスタジアムの放送席や記者席なら、誰も驚きはしない。だがここはゴルフ場。たまたま居合わせた人々が驚きの表情を浮かべるのも無理はなかった。 常に注目を浴び続けてきた選手達から放たれるオーラは、現役時代と変わらない。自然ににじみ出てくる明るさとさわやかさが、そこにいる人々を引き付ける。 野球ファンにとってみれば、そうしたスター選手たちとゴルフ場の緑の中で一日を共に過ごすことができるとなればどうだろう。まさに感動もの。実はそんな夢を実現する試みが進行中なのだ。 9月30日、静岡・レンブラントゴルフ倶楽部御殿場。ここでメディアに対し、テスト的に行われたのが「アスリートとファンラウンド!!」というドリーム企画だった。 アスリートとそのファンがつながり、きずなを深める仕組みを構築するSNSサービス「KIZUNA」とバリューゴルフが運営する「1人予約ランド」がコラボ。これに日本プロ野球OBクラブが協力し実現した。 本来は1人のOBと応募したアマチュアゴルファーが1日一緒に回るこの企画。ゴルフというスポーツは4時間を超えるプレーの中で、ショットやパットに要する時間は10分程度と言われる。残りの3時間50分は雑談にあてられるだけに、選手たちとじっくり話す余裕がある。 この日はメディア関係者向けの体験ラウンドのため特別にレジェンドたちが全組と3~4ホールずつスライドする形でプレー。さすが野球の世界で一流だっただけに、引退しても筋力と運動能力がハンパない。 桁外れのビッグドライブが飛び出す一方で、パットの時に発揮される集中力も人並外れている。プレーの合間には面白エピソードが次々に飛び出し、笑い声が絶えない。楽しいラウンドが実現した。 通のファンなら、レジェンドたちに直接聞いてみたい材料は山ほどあるはず。日本シリーズのあの場面は、実際どんな指示が送られていたのか? とか、完全試合のチームメイトたちの素顔やエピソードなど‥‥。もちろんオフレコはあるだろうが、聞いてびっくりの(秘)情報を得られるかもしれない。まさに夢いっぱいの企画と言える。 <h2>物まねタレントがプロの代役</h2> <img src="https://www.gew.co.jp/wp-content/uploads/2020/10/IMG_5574.jpg" alt="" width="788" height="525" class="size-full wp-image-64517" /> 当日参加したものまね芸人の皆さん(左から=こち亀子、白倉ヒサオ、ぺよん潤、<br />プリティ長嶋、葉月パル、アントキの猪木、リトル清原、まっちゃま) 実は昨年の9月5日、神奈川のレイクウッドGCで、これとは似て非なる企画が実現している。物まね芸人と一般ゴルファーのラウンドだ。 「第1回じゅじゅ苑カップ」と銘打って行われたこの大会には葉月パル、プリティ長嶋、アントキの猪木、ぺよん潤、リトル清原らが参加。7組すべてに、ものまね芸人が入って一般参加者と18ホールプレーする内容だった。 このコンペで何より楽しかったのは、表彰パーティー。芸人全員がものまねを披露し、参加者の爆笑を誘っていた。 参加費や収益の一部は世界の子供たちを支援するため、ユニセフに寄付された。ゴルフの楽しみだけでなく、一日笑って過ごせる上に、チャリティにもつながるコンペというのも、なかなかない。 コロナ禍のため今年の9月に予定されていた第2回は延期されたが、来年4月の開催に向け準備が進んでいるという。このイベントを企画したゴルフリサーチ㈱の代表取締役・長野豪洋氏は、11月11日に、千葉県のキングフィールズGCで「DREAM GOLF(ドリームゴルフ)」と題した一風変わったプロアマ大会も準備中だ。 「以前から『プライベートでプロゴルファーと回りたい』という声は多かったので、それを実現させる企画です。プロとのラウンド料金を入札していただき、落札した方がプレーできます」。 まず参加費2000円を払ってプロの氏名またはカテゴリーを記入する。2万円以上の金額を入札。落札できれば、一緒にラウンドした上、ホールアウト後に30分間、パターのレッスンとアドバイスが受けられる。ちなみにプレーフィーはキャディ付きで1万9800円がかかる。すでに賞金女王経験者と日本オープン歴代優勝者、PGAシニアツアー優勝者が参加することが決まっているという。 日本の男女レギュラーツアーは感染拡大防止の名のもとに、10月までプロアマ戦を開催することなく進んできた。しかしそれが正解なのかは、意見が分かれるところ。 協会の使命は選手たちに稼ぎ場所を提供すること。だが、今年はその使命をほとんど果たせていない。シーズン当初の開催中止続きの後、無観客やエキシビションで試合に出られるようになった選手たちはまだいい。プロキャディー、観客席やトイレなどの設備関係を請け負う業者などが食らっている打撃は大変なものだ。 そんな状況下、徐々に増えつつある野球選手やものまねタレントとラウンドできるイベントの数々。これが大きく育てば、プロゴルファーだけでなく、周辺の仕事をする人々も活路を見いだせる。 一方で、プロゴルファーといえどもコミュニケーション能力が低いと出る幕はますますなくなっていく。トッププレーヤーに求められているのは試合での素晴らしいプレーだが、ファンやアマチュアとのコミュニケーションも大切なプロアスリートの仕事の一つ。それを生かせる場を作れないのはツアーの責任だろう。 <h2>■小川朗の目</h2> 最近、夕刊紙の連載でタレントやスポーツ選手をインタビューする機会が多い。その現場で感じるのは、コミュニケーション能力の高さだ。例えば元ヤクルトの飯田哲也さんはベストスコアが69。その一方で、アウトが39、イン69という大波賞など、面白エピソードがよどみなく出てくる ▼関根勤さんのゴルフ愛もスゴイ。ずんの飯尾和樹さんなど、事務所の後輩にはクラブを惜しみなくプレゼント。タモリさんとの猛練習体験や明石家さんまさんとのラウンドエピソードなど、爆笑の連続だった ▼翻って、プロゴルファーはどうか。ゴルフは自分の稼ぎ場所であるにもかかわらず、プロアマなどで一緒に回っているアマチュアに対する接し方は褒められたものではなかった。それはかつて、ツアーに届いていたクレームの数が証明している ▼プロアマは、お客であるアマチュアのゲストがいかに楽しく一日を過ごせるかにかかっている。タレントたちの多くが、その達人であることは間違いない。野球選手がファンにサービスできることも、今回のイベントで証明された。ことプロアマに関しては、プロゴルファーが他のスポーツ選手やタレントから学ぶことは山ほどある。 <hr> この記事は弊誌月刊ゴルフ用品界(GEW)2020年11月号に掲載した記事をWeb用にアップしたものです。なお、記事内容は本誌掲載時のものであり、現況と異なる場合があります。 <a href="https://www.gew.co.jp/magazine">月刊ゴルフ用品界についてはこちら</a>
    (公開)2020年10月30日
    コロナ禍の中で生まれてきた芽を摘んではならない。今年の6月、20代の若者がゴルフ市場回復のけん引役に躍り出ていた。対前年比でゴルフプレー支出額が2343%、ゴルフ場入場者が150%。中部・関西の練習場では125%増と、すべて前年に比べてアップという驚きのデータが続々と届いた。次代を担うのは20代の若者と女性ゴルファー。そこで重要となるポイントも見えてきた。「オジサンゴルファー」の徹底改造だ。 <h2>体を持て余していた20代がゴルフ練習場へ</h2> 「オジサンゴルファーの徹底改造計画」をぶち上げたのは、日本プロゴルフ協会の倉本昌弘会長。9月7日に行われた理事会後の定例会見でのことだった。 話の流れを順に追っていくこととする。「中部・関西の特定のゴルフ練習場でのアンケート結果で、20代・30代の来場者数が120%増。これは若い人たちが『体を動かしたい。密にならない所に行きたい』ということでゴルフを選択してくれている。細かく言うと、20歳から24歳までが125%増、25歳から28歳までが60%増、逆に75歳から79歳までが50%減、60歳から64歳の層は44・4%減です。『コロナが恐い』という警戒感から出控えの傾向が強い」(倉本会長)。 実は、3月から20~29、35〜39歳の層は、すでに増加へと転じていたという。「多分リモートが始まったあたりから、若い世代は体を持て余していたのではないかなと。それが数字に表れたのだと思います」と倉本会長は解説した。 4月に始まったフジテレビ、テレビ朝日などのワイドショーによるゴルフバッシング。自粛要請の対象から外れているゴルフ練習場を、対象でありながら営業を続けるパチンコ店と同列に扱う偏向報道により自粛警察のターゲットとなった。営業していること自体を批判するSNSでの拡散などのいやがらせにより、複数の練習場がゴールデンウィークに臨時休業を選択せざるを得なかった。 そんな状況下でも、若者たちは練習場に足を向けていたわけだ。数字はほかの分野にも表れている。本誌前月号・山岸勝信氏の寄稿連載でも既に報じた通り、29歳以下のゴルフプレー支出額(ゴルフ練習場、ゴルフ場)が前年同時期(3~6月)に比べ2343%となっている事実もある。 また全国で134コースを運営するアコーディア・ゴルフの入場者(6月)でも、20代は前年同月比150%という驚きの数字が続々と弾き出されている。 だが問題は、ここで生まれた新しい芽を、今後しっかりと根付かせることができるかどうかだ。倉本会長も、そこに頭を悩ませている。「ゴルフをまったくやったこともない子たちが、見様見真似でやっている。せめて立ち方、握り方、クラブを飛ばさないためにはどうしたらいいか、くらいはウチ(PGA)の会員をうまく利用して基本を教えられたらいいなと思っています。実際、練習場でも無料のお試しレッスンなどをやっているところもあるわけですし」。 <h2>女性ゴルファーも増加</h2> 前出のアコーディア・ゴルフは以前から女性ゴルファーの集客にも妙味を発揮してきた。たとえば、おおむらさきGC(埼玉)。1995年に西武鉄道系のゴルフ場をオープンしたが、2007年にパシフィックスポーツアンドリゾーツに譲渡され、2012年にアコーディアが取得。同グループの運営ノウハウが注入されると年間7万5千人(推定)の来場者数を記録している。 特に2015年の12月から16年11月までの女性来場者数は全体の19・7%。当時同グループ135コースにおける女性比率は平均12・1%。グループの中でもトップだった。 この時採用していたのが「サービスキャプテン制度」。自薦、他薦で選ばれたフロント、レストラン、ショップなどの女性スタッフ6人ほどが月一ペースで会議。リーダー以外は毎回違うメンバーが出席していた。 スタッフたちは女性来場者の要望や不満を、ロッカー、大浴場、脱衣場、レストランなど敷地内の至る所でモニタリング。それを会議で検討し女性目線の企画を打ち出してきた。 それがチェックイン時におけるメーク落としなどが入ったアメニティグッズプレゼントや、ロッカールームの水素水サーバー設置、トイレのタッチレスサニタリーボックス、洗面台のマウスウォッシュなどのきめ細かいサービスにつながった。 最近では同グループの四街道ゴルフ倶楽部が女性から高評価。女性用のロッカー、トイレなどをリニューアルしパウダールームも新設した。シャンプーを変え、ドライヤーはダイソン、XXIO11のレンタル料金はわずか1000円と、女性に喜ばれるサービスが充実。今年の3月には女性比率25・8%という驚異的な数字が記録されている。 一方、140コース保有(他運営2コース)のPGMが全社的に行っているのが、ピンクティーの全コース設置。約3600ヤードと短く「初心者や女性でも気軽にゴルフを楽しんでいただけるようにしています」(同社広報)。その甲斐あって、8月は20代・30代女性の来場者数が、すべて前年同月比を上回っているという。 コロナ禍の中、密ではないスポーツということでゴルフに興味を持つ人は少なくない。特に伸びを示した20代や女性層は、ゴルフ界の将来を握っている。しかしこの層の市場参入の障害となっているのが、ゴルフ界を支え続けてきた男性の高年齢層だというから悩みは深刻だ。 <h2>オジサンゴルファーの大改造計画</h2> 倉本会長がそのショッキングな事実を明かす。「女性ゴルファー創造プロジェクトなどからは、辛辣な意見が出ています。練習場に行けば、知らない人が寄って来てレッスンするとか、会社にはゴルフをすることを報告したくないとか」。 練習場でよく見かける「教え魔」や「ヌシ」。頼みもしないのに上から目線でレッスンし、時にはセクハラまがいの言動まで。女性ゴルファーにとっては、うっとうしい存在でしかない。せっかくゴルフに興味を持ってくれたのに「練習場などゴルフに関するすべての施設が、女性に優しくないという意見も出た」(倉本会長)現実が、女性の参入を阻んでいる感は否めない。 コースに出られるまでに成長しても、会社には秘密にしている女性ゴルファーも少なくない。社内コンペへの強制参加や、プライベートなゴルフへの誘いを嫌がる向きも多い。各組に女性を入れてホステス役を強要しているのもその表れだ。オンオフの切り替えがつかなくなることも嫌がられる理由に挙げられる。 ある50代の女性は「私がゴルフを辞めた理由」をこう説明する。「始めたころは練習場にもよく行ったのですが、レッスンを受けた時に体を触られてイヤになっちゃいました」。 セクハラやパワハラの原因となっているのが中高年層。冒頭の「オジサンゴルファーの徹底改造」発言は、ここにつながる。 ここまでゴルフ場、練習場、用具業界に多大な貢献をしてきたオジサン世代は日本独特のゴルフ文化を作り育ててきた世代でもある。しかしその文化は、女性や若者に居心地の良いものでは決してない。むしろ嫌われている。 「今の若い子のゴルフに対する感覚は(オジサン世代とは)まったく違っています。だったら我々から歩み寄って行かないと。R&Aやアメリカですら変わっている。日本が一番変わっていないのではないか」(倉本会長)。 オジサンが、変わらなきゃ。日本ゴルフ界がV字回復を実現するための、最優先課題だ。 <h2>小川朗の目</h2> 介護業界の2025年問題をご存じだろうか。団塊世代が後期高齢者の75歳になるのがこの年。様々な問題が現実化することが予測される。そのため厚労省は地域で高齢者を支える「地域包括ケアシステム」を2025年までに整備することを提唱している ▼同省発表の簡易生命表によれば、男性の健康寿命は72.14歳で、女性は74.79歳。あくまで平均値だが、何らかの介助が必要となるのがこの年齢。健康でなくなったことを理由にゴルフ場から足が遠のくのはよく聞く話 ▼一方で平均寿命は男性が81.25歳で女性が87.32歳。男性で9.11年、女性で12.53年の開きがある。男女とも長期間介護が必要になることを覚悟した方がいい ▼健康寿命と平均寿命の差が開けば開くほど医療費、看護費などがかさみ日本経済を圧迫する。ゴルフに勤しみ、健康寿命を延ばすことが日本を救うと言っても大げさではない。 それと並行して、オジサンゴルファーの徹底改造も大事だ。今の感覚では、ますます立場は悪くなる。意識改革はオジサンたち自身のためでもある。 <hr> この記事は弊誌月刊ゴルフ用品界(GEW)2020年10月号に掲載した記事をWeb用にアップしたものです。なお、記事内容は本誌掲載時のものであり、現況と異なる場合があります。 <a href="https://www.gew.co.jp/magazine">月刊ゴルフ用品界についてはこちら</a>
    (公開)2020年09月25日
    久々に聞く朗報だった。ゴルフトーナメントの中止がドミノ倒しのように発表され、ゴルフ練習場が次々に閉鎖。新型コロナウイルスの感染拡大により自粛の嵐が吹き荒れた2020年の3月は、日本のゴルフ界がどん底へと突き落とされた時期でもあった。 そんなさなかに、差し込んだ一筋の光。昨年の暮れ、一度は廃業が発表されていた新東京都民ゴルフ場が復活するというビッグニュースだ。その舞台裏を、照らす。 <h2>白馬の騎士は巨大コングロマリット</h2> 暗い話題ばかりが続いていた3月。そこに明るいニュースが飛び込んできた。「新東京都民ゴルフ場、復活」の知らせだった。 一度は廃業が決まった新東京都民ゴルフ場に、再び息を吹き込んだのは医療法人社団・葵会グループ。病院を中核に介護施設・学校法人・ホテルなど、全国に130以上の関連事業所を展開。グループ内の医療機関・施設では1万人を超える職員が勤務している。 その傘下にはすでにゴルフ場も3か所ある。系列会社の㈱みずほが那須霞ヶ城ゴルフクラブ(栃木)、一関カントリークラブ(岩手)、千歳カントリ―クラブ(北海道)を保有している。新東京都民は同グループ4つ目のゴルフ場となるわけだ。 今回同グループから運営会社である㈱NIHON.TURF&GREEN(以下NIHON)の新社長として就任した河本貢司氏は「まずは8月のオープンを目指します」と宣言した上で、コンセプトをこう明かした。 「誰もが遠慮なく出来るゴルフ場にしたいですが、ある程度は高級感も感じられるように仕上げたいですね」。 <h2>昭和以降3番目の高水位</h2> <img src="https://www.gew.co.jp/wp-content/uploads/2020/07/ogawa1.jpg" alt="暗闇に差し込んだ一筋の光 新都民ゴルフ奇跡の復活劇" width="800" height="533" class="aligncenter size-full wp-image-63027" /> 昨年の10月12日まで、さかのぼってみたい。この日、大型の雨台風19号のもたらした豪雨は、荒川へ流れ込んだ。 その結果7m17cmという昭和以降では3番目の水位を記録。上流から想像をはるかに超える大量のヘドロが運ばれてきた。 土手よりも内側の川沿いに、ゴルフ場を守るために低い堤防を造っていたのも、今回ばかりは仇になった。平成2年に冠水して以来9年間、ある程度の増水には耐えてきたが、今回の大型台風には、歯が立たない。濁流はその堤防を軽く超えた。 耐えうる水位ならば効果は絶大なミニ堤防。しかしひとたび水が超えてしまうと、却って排水が難しくなる。新東京都民は地盤沈下によりコースが川よりも低くなっていて、ただでさえ排水がしづらい構造になっていた。 コースに造られていた、小さな水門もほとんど機能しない状況になった。多くの河川敷ゴルフ場は数日で水が引いたが、新東京都民の苦戦は際立った。 9ホールのゴルフ場ながら、年間2万2千人程度の入場者はあったという。「ただ、経営的には楽じゃない。今回のように長期間クローズした場合、収入がなくなる」と、前出の関係者は当時語っていた。 ゴルフ場は東京都足立区、北区、埼玉県の3つの自治体にまたがっている。条例により、これまで東京都と埼玉県に「占有料」も支払ってきた。コースに関する窓口となっている足立区都市建設部に取材したところ、年間で東京都に約947万円(休業中の減免措置あり)、埼玉には約272万円となっていた。 また台風の進路が、関東寄りになっている面もある。せっかく復旧にこぎつけても、短期間で次の台風でやられるようでは、たまったものではない。 冠水から早期に復旧するためには12万7000平米のエリアに盛り土をする必要がある。そのためには莫大な費用と時間を要するため現実的ではない。盛り土をせずに「これからも続けていくにはリスクが多すぎる」との理由も、事業継続が断念された理由の一つだ。 河川敷の持ち主は国。国土交通省が監督官庁だ。廃業となると新東京都民ゴルフ場が現状回復をしたうえで土地を国に返還。施設管理等の諸々の権利は足立区へと返上される流れになっていた。 一般紙やゴルフ専門誌、ウェブサイトなどが廃業を報じ、既成事実化されていく。通常であればこれを受け、ゴルフ場は完全消滅する一歩手前まで来ていた。 <h2>歴史の重みと地の利</h2> 一方でこのコースが、河川敷ゴルフ場史を語るうえで欠かせない存在であり、東京23区内にある地の利から首都圏のゴルファーの根強い支持を集めていたことで、廃業を惜しむ声も日増しに高まっていた。 かつて林由郎が契約プロとして在籍し、青木功や金井清一もこのコースで修業した。設計は日本のゴルフ場の父とも呼ばれるチャールズ・ヒュー・アリソンの流れを汲む上田治。日本のゴルフ場史でも重要な役割を果たす安達貞市翁が、一時は36ホールまで拡大した。 このコースが何度も冠水。昭和32年の台風で大打撃を被り、長期間クローズしたことが、安達翁が名門茨城GCを手掛けるキッカケにもなる。 歴史の重みと、都心に近い地の利に魅力を感じる業界関係者も少なくなく、存続を模索する数社が候補として浮かんでは消えた。そんな中、2月4日に行われた「まちづくり連絡会」で足立区側がゴルフ場として存続の方向性を示す。住民側から反対の声は出なかった。 この時点までゴルフ場の返還手続きをせず、存続の可能性をわずかながら残し続けていたことが、結果的には正解だった。その後盛り土をせずにコースを修復し、早期の再開を目指す方針を打ち出したのが前述の葵会グループ。同ゴルフ場を運営してきた株式会社NIHON.TURF&GREEN(以下、NIHON社)と資本提携したことで、存続の道が一気に開けた。 この結果、新規の候補者を募るプロポーザルも行われず、新東京都民ゴルフ場は、廃業のピンチを脱出した。 前出の河本社長はゴルフ場の存続に乗り出した理由について「だって(都心に)近いじゃないですか」と首都高鹿浜出口から2キロ、JR王子駅からタクシーで15分、都バスの新田一丁目バス停から徒歩3分という好立地を挙げている。 新東京都民の復活。それはコロナ禍で重苦しい空気に覆われていたゴルフ界に、唯一の明るい話題として受け入れられた。 廃業危機を見事に乗り越え、再建へとつなげた新都民。その生まれ変わった姿は、8月には見られるはずだ。
    (公開)2020年07月11日
    2016年の5月号で産声を上げた当連載が、今月号で節目の50回に到達した。そこで今回は論客である大宅映子さんをお招きして記念対談が実現。 新型コロナウイルスの感染拡大により、今年のゴールデンウィークはステイホーム一色となった。その流れの中で「自粛警察」が生まれ「3密」とは最も遠いところにあるはずのゴルフが標的とされた。一体その根底に何があるのか。じっくりとうかがった。 <h2>練習場が自粛警察の標的に</h2> <span style="font-weight: bold; color: #e74c3c;">小川</span>:5月1日にJGA(日本ゴルフ協会)とJGRA(全日本ゴルフ練習場連盟)が、民放連に申し入れを行いました。自粛要請に応じないパチンコ店の入店待ちの行列と、盛況だった屋外のゴルフ練習場が満席となっている風景を結び付けて流す番組が多かったためです。 <span style="font-weight: bold; color: #1c4ca0;">大宅</span>:それはおかしいですね。ゴルフは(お互いに)くっついたら、危なくてクラブを振れませんよ。練習場は打席の間もあいているし、屋外であれば感染リスクは少ない。 室内の練習場は密室でプロから目の前でレッスンを受けるような場合は難しいと思いますが、屋外であればパチンコ店と結びつけること自体無理があると思います。 <span style="font-weight: bold; color: #e74c3c;">小川</span>:それを似たようなものに見せるテクニックがあるんです。例えば打席で打っているゴルファーを手前から少しずらして撮影すると、ものすごく密集しているところで打っているように見えます。品川駅の映像もそうですよね。構内から出てくる通勤客を手前から取ると、前後の間隔は分かりませんから、ごった返しているように見えます。 練習場だけでなく、ゴルフ場の駐車場をヘリコプターから撮影して「満員です。こんなに来ています」とやってました。コースの方は上から見ればガラガラなのに。そもそもゴルフ場は自粛の対象から外れていますし、ゴルフ練習場も屋外であれば営業は可であるという判断が出ていました。一緒にすること自体に無理があるのは、制作する側も分かっているはずですが。 <span style="font-weight: bold; color: #1c4ca0;">大宅</span>:3月の頭でしたか、長女が「ゴルフに行くなんて、信じられない」って言いだしまして。うちの子供とは思えない(笑い)。オープンエアでやるんだし。お風呂に入らず、ご飯だってくっついて食べなければ、何の問題もない。そう言ったら「キャディーさんがクラブを何本も持って走るでしょ?」と来た。 <h2>霞ヶ関の会員が福井の感染第1号</h2> <span style="font-weight: bold; color: #e74c3c;">小川</span>:そのせいでセルフのスループレーが主流になりつつありますね。そういえばオリンピックの舞台となる霞ヶ関CC(埼玉)のメンバーさんが、福井県の感染者第1号になっています。福井県の上場企業の社長さんで、3月6日から8日まで出張で上京し最終日の8日に霞ヶ関でプレーしていました。その後12日に発熱して、出社もしていたのですが18日に新型コロナウイルスに感染していたことが判明。その日の夜に福井県知事が記者会見し、19日に霞ヶ関にも伝えられました。 3人の同伴競技者とキャディーさん1人が濃厚接触者として経過を観察されましたが体調を崩されるようなことはなかったとのことです。その後霞ヶ関は3月29日に雪でクローズしてからそのまま営業を見合わせていますが、コース側からは「これは感染者の発生とは関係がなく、あくまでこれからの感染者発生を防ぐための措置」と念を押されました。 名門の代名詞である関東7倶楽部(東京、程ヶ谷、霞ヶ関、相模、我孫子、鷹之台、小金井)はほぼ同じタイミングでクローズして行きました。 <span style="font-weight: bold; color: #1c4ca0;">大宅</span>:そういえば、夫も(霞ヶ関の)メンバーですが、ずっと行っていません(笑い)。そもそも世の中に100%安全というものはないわけです。危機管理というものは、リスクを最小限にするよう努力することです。ところがここのところ、蛇口を閉めてしまうようなことしかやらなかった。 これだけ共働きの人が多いのに、学校を閉鎖したらどうなるか、想像力が働かなかった? 子供が一日家にいることになったら、だれが面倒見る? 誰がご飯作るの? 給食やっている業者はどうするの? もう材料を仕込んでしまっていたのに。 <span style="font-weight: bold; color: #e74c3c;">小川</span>:確かにこれが、混乱の源でしたね。私が取材した訪問介護の現場でも、看護師の方々が子供の世話をどうするか、困り果てた人が多かったと聞きました。 <span style="font-weight: bold; color: #1c4ca0;">大宅</span>:私たちの時代はクラスに60人もいたから、2部授業というのがあったんです。午前と午後に分けていた時代。 今回は密にしないように3部制という考え方も検討できました。クラスを3つに分けて、窓を開け放って、オーバー着て、ダウンジャケット着て授業をすればいい。そういうことを一切考えようともせずに、「誰も文句言わないだろ」っていうことでやってしまった。科学的リテラシーの低さを感じます。 私もゴルフを堂々とやりたい気はする。でもそうなると「大宅映子がゴルフをしてる!」となるから「やめておくか」という話になってしまう。 <span style="font-weight: bold; color: #e74c3c;">小川</span>:難しいところですね。 <h2>一億総「仙人」</h2> <span style="font-weight: bold; color: #1c4ca0;">大宅</span>:人間が動かなかったら、経済が動かないに決まっています。人間の一番大事なニーズであるところの人に会うこととか、話をする、移動する。楽しく過ごすなどを、今回安易にみんな投げ出してしまった。そのうえ、さあもっと縛って下さいって…。 私は自由が最も価値があるものだと思っています。オンラインで帰省して、親に会うなんて、冗談じゃないですよ。 <span style="font-weight: bold; color: #e74c3c;">小川</span>:その通りですね。問題の根底にあるのは「外へ一歩も出るな」というところまで行ってしまったことのように思います。 <span style="font-weight: bold; color: #1c4ca0;">大宅</span>:これはもう、人間やめなさいって言っているのと同じこと。外もいけません、コンサートもいけません、映画に行ってもいけません、ゴルフしてもいけません、老若男女、1億総仙人。 コロナにならなくても、老人は家にいたら筋力落ちる一方ですよ。自宅の廊下を7万回、5キロ分歩いた方がいるそうですが…。そんなこと普通出来ないですよ。今の状況は「老人は早く死ね」と言われてるような気がしてなりません。 <span style="font-weight: bold; color: #e74c3c;">小川</span>:楽しく歩くのにはゴルフが一番いいはずなのですが、どうしてゴルフはこんなに嫌われるのでしょうか。 <span style="font-weight: bold; color: #1c4ca0;">大宅</span>:不要不急の最たるもの、というイメージが一部にあるのは事実です。元々、日本のゴルフ文化は「社用」でしたから。会社のお金をお互い交互に出し合って、名門コースでプレーするのが、当たり前でしたよね。 誤球したら目くじら立てて怒るのに、OBのボールを平気でプレーしたり。会員権を高額で購入した人がいるとタイの人に話したら、ゴルフ場を買ったと思われました。 <span style="font-weight: bold; color: #e74c3c;">小川</span>:ゴルフをやらない人には、そういうゴルフ文化が異様に映る。前に大宅さんも仰っていましたが、白いベルトをしたおじさんたちの、お金がかかるスポーツ、というイメージが根深いですね。 <span style="font-weight: bold; color: #1c4ca0;">大宅</span>:コードも緩くして、誰にでもできる身近なスポーツにしていく努力が必要です。もうちょっとアクセスが良い場所にあって、手軽にできるようにならないと。楽しいことだってわかってもらう努力をしないといけませんね。 <span style="font-weight: bold; color: #e74c3c;">小川</span>:今回悪者になった首都圏の河川敷が、その条件に合いますね。本日は貴重なお話、ありがとうございました。 <strong>訂正 6月12日7時50分</strong> <strong>関東7倶楽部の「安孫子」は誤り、正しくは「我孫子」です。</strong>  <hr> この記事は弊誌月刊ゴルフ用品界(GEW)2020年6月号に掲載した記事をWeb用にアップしたものです。なお、記事内容は本誌掲載時のものであり、現況と異なる場合があります。 <a href="https://www.gew.co.jp/magazine">月刊ゴルフ用品界についてはこちら</a>
    (公開)2020年06月11日
    高級ホテルの宴会場で、華やかに行われるプロゴルファーとメーカーの契約発表記者会見。しかしここまでの道のりには、多くの闇が潜んでいる。 保護者の体罰、スコア最優先の指導、メーカーによる洗脳工作、地区連盟関係者との大名旅行。周辺にはゴルフ振興金というブラックボックスも存在する。ジュニア育成の現場を照らすと、子供をスポイルする困った大人たちが、確かに存在する。 <h2>グリーン車で高級ホテル泊</h2> 「新幹線はグリーン車だったし、ホテルも豪華。食事もすごくおいしい焼肉でした」。 国民体育大会(以下国体)から帰ってきた高校生の教え子に、国体出場の感想を求めたインストラクターは、こんな返事を聞いて仰天した。 某県代表として、国体のゴルフ競技に出場した教え子の待遇は、まさにVIP級。移動の新幹線はグリーン車、宿泊は高級ホテル、夕食はチームで豪華な焼肉パーティーとくれば、高校生にとってはまさに天国の様な遠征だったに違いない。本人は嬉嬉として、ゴルフの師に報告したわけだ。 インストラクターのAさんは言う。「本当なら私が自ら告発すべきなのですが、教え子たちの今後を思うと、それもできない」と苦しい胸の内を明かした後、こう続けた。 「子供に贅沢させる必要はないですよ。引率する大人が大名旅行をしたいだけ。勘違いも甚だしい」。Aさんは憤りを隠せなかった。 この連載の<a href="https://www.gew.co.jp/attention/ogawa/g_31899">第3回</a>にも書いたのだが、国体はもともとゴルフ振興金と縁が深い。開催が決まった時点で、それぞれの都道府県では「○○国体を成功させよう」という内容のスローガンが掲げられ、インフラと選手の育成・強化プロジェクトがスタートする。 それには当然、金が要る。そこで一般ゴルファーに、1ラウンド数十円単位で負担してもらおう、という発想が生まれる。「国体準備協力金」という名目が、国体開催県のゴルフ場でプレーしたゴルファーの明細書に、さりげなく紛れ込むようになる。おらが国の国体のために、ゴルファーの皆様もひと肌脱いでよ、というワケだ。 問題はこの後だ。国体をうたい文句に「30円や50円ならいいだろう」とスタートして、開催後も制度自体が名称を変えて生き残るケースが多いのだ。せっかくこんなにおいしい集金システムができあがり、ゴルファーからも文句が来ないのだから、今更手放せるか、というわけである。 その結果、「国体準備協力金」は「ゴルフ振興金」などと名を変えて、存続し続ける。2016年のデータでは、47都道府県のうち実施していないのがわずか12団体。1ラウンドあたり70円から20円程度が徴収されていた。 だが、プレー代に占める割合が非常に小さいため、これに気付くゴルファーは多くない。単なる任意団体である県レベルのゴルフ連盟は、使途の配分をディスクローズしろとの指摘を受けることも、ほとんどなかった。 <h2>体協が交通費を負担</h2> これに乗じて、やりたい放題の大人は確実にいる。こうした輩がはびこる裏には、行政の問題がある。 国体を開催する日本スポーツ協会(JSPO=旧日本体育協会、2018年4月1日から名称変更)は、同時に各都道府県の体育協会を統括する。国体への選手派遣に、各体育協会が深く関わるのは当然だ。ゴルフの場合、国体に派遣される都道府県代表の選手選考を直接行うのは該当する都道府県のゴルフ協会だ。県内の予選だけでなく地方レベルの2次予選もある。こういう場面で中学、高校生の部の代表候補を引率するのが、各県のゴルフ協会の面々だ。 実際に、大名旅行を行っていたとされる県のゴルフ協会に直接聞いてみると、こんな答えが返ってきた。「国体の派遣には、体協が交通費を負担してくれます」。単なる任意団体が多いゴルフ連盟にとっては頼れるスポンサーでもあるワケだ。 だがその金額にはバラつきがある。前年の成績が各競技への配分に反映されるからだ。ゴルフのライバルは約50競技にも上る。その場合、足りない分が振興金から補てんされてもいる。 それはいいとしても、情報開示が迫られず監視の目が緩いから勝手が許されるわけでもない。ゴルファーから徴収している以上、使途をハッキリ示す姿勢は必要だ。 <h2>モニター制度で「洗脳」されるジュニアたち</h2> 贅沢すぎる遠征の待遇だけでなく、ジュニアを取り巻く環境は健全とは言い難い。見逃せないのは、ジュニアに対するモニター制度だ。 有望選手たちは、総じてクラブの供給を早い段階で受けている。契約発表の場で「小学校の頃からA社のクラブを使っていましたから」と契約の理由の一つに挙げるのは、それほど珍しい話ではない。すでに小学校の段階で「青田買い」は始まっているのだ。 あるインストラクターが、こんな話をしてくれた。 「プロ入りした選手たちは、すでにジュニアの頃からクラブの供給を受けています。長い年月の中で『このクラブ以外を使ってはいけない』と洗脳されちゃっているんです。だから僕は他のメーカーのクラブも、プロ入り前に使ってみることを薦めています」。 小さいころからクラブの供給を受けているため、そのメーカー一筋でプロのレベルにまで達するゴルファーは少なくない。「だから他のクラブで打ってごらん、と言っても『私ごときがクラブのことは言えません』と尻込みするプロもいます」と明かした。 様々なクラブを試していないから、クラブに関する知識も、新しいものを試そうとする柔軟性もない。「実際打たせてみても、違いの分かる子と、分からない子がいる」というのが実態だ。 クラブを過剰に供給されることの弊害は別の形でも出る。感謝の気持ちをなくしてしまうのだ。あるジュニアは表彰式に遅れてきた挙句雑談を始め、仲間に「今のクラブ、気に入らないけど、頼まれたから使ってやってるんだ」とうそぶいたという。周囲にいる出来の悪い大人が、このジュニアを増長させてしまったに違いない。 そこに至る重要な要素として介在しているのが、親の存在であろう。インストラクターたちからは親たちが、スコアの悪かった子供に体罰を与えていたという目撃証言が多い。 あるツアープロの目撃談だが、結果的に実際のスコアカードを隠し、スコアを改ざんした別のスコアカードを親に見せる子供までいるという。 まずは人間教育から入るべきなのに、最初の段階で実績主義となるから、ゴルフを楽しみながら成長していくパターンにはならない。隆盛を極める女子プロゴルフ界でも、早々と引退する選手が多いのは「実はゴルフはそれほど好きではないんです」という本音の裏返しだと指摘する声は多い。 中学生の頃、ゴルフの試合で授業を欠席することが多くなると、それだけでいじめの対象になったという例も珍しくない。ある有望選手は平日でも練習場に通いつめ、登校していないという証言もあるほどだ。 国体会場に向かうグリーン車でふんぞり返る大人の姿を見て、一緒に移動している子供が、いい影響を受けるはずがない。豪華なホテルに泊まって高価な食事をすることも同様だ。 子ども達の姿は、世の大人の鏡だと、もう一度厳しく自覚すべきではないか。 <hr> この記事は弊誌月刊ゴルフ用品界(GEW)2020年3月号に掲載した記事をWeb用にアップしたものです。なお、記事内容は本誌掲載時のものであり、現況と異なる場合があります。 <a href="https://www.gew.co.jp/magazine">月刊ゴルフ用品界についてはこちら</a> ※記事トップに使われている画像はイメージであり、本文中の内容とは関係ありません。
    (公開)2020年03月05日
    昨年の10月12日。過去最大級の勢力で上陸した台風19号の豪雨は、関東地方の河川敷で営業する多くのゴルフ場を壊滅寸前まで追い込んだ。荒川の水位は戦後3番目となる7m17cmを記録。ゴルフ場は川底に沈み、その上に大量のヘドロが堆積した。 水が引くにつれ惨状を目の当たりにしたゴルフ場の関係者たちは、その後どう動いたのか。悲喜こもごもの、現場を照らす。 <h2>消えてはならない「ゴルフ界の財産」</h2> すでにほとんどのゴルフ場が冠水したコースを修復。営業を再開している中、最も深刻な状況に立たされているのが新東京都民ゴルフ場(足立区)だろう。 公式ホームぺージ上では昨年末をもって、営業が終了したと発表されている。 かつては日本オープンなどを制した林由郎が所属プロを務め、弟子である青木功が修行時代を過ごしてもいる。その青木が「日本のセントアンドリュース」と称した歴史あるコースには、9ホールながら年間2万2千人程度の入場者があった。 だが、台風19号のもたらしたダメージは、これまでの比ではなかった。 「今回の場合はコースに堆積したヘドロの量が比べものにならないほどあった。長期間クローズした場合、その分の収入がなくなる。来年以降も再び同じ災害に襲われる可能性だってある。ウチの場合、経営はそれほど楽じゃない。もう立ち上がれない」(同コースの取締役支配人を務めていた三島徹男氏)。 足立区から委託された施設管理棟の権利が返上され、通常であればゴルフ場は完全消滅する流れだが、ここに来て存続への可能性がわずかながら見えている。 「6つの業者が候補として浮上しました。うち2つはすでに断念していますが、残りの4業者は検討中だと聞いています。ヘドロや水が溜まりやすいコースに盛土をして、これまでのような被害を回避したうえでの再開を検討している2社と、現状のままコースを再整備して引き継ぐことを検討している2社がいます」(足立区都市建設部関係者の話)。 2月中に足立区新田エリア内の町会長などによる「第9地区新田まちづくり連絡会」の希望を聞き、今後の用途を検討。ゴルフ場の続行という方針が決まれば、管理運営業者をプロポーザルによって受け付けるという流れになる。 河川敷は国土交通省が管理しており、実際の所、ゴルフ場として河川敷の占用許可を、民間の業者が新たに得ることはまず無理な状況。足立区のような自治体や公益法人などに出されているのがほとんどだ。 新都民の場合は足立区が公園の一部となっているゴルフ場の管理を、指定管理者に委託している形。新たな管理者さえ決まれば、続行へのハードルは新規参入に比べればないに等しい。 何といってもその魅力は、23区内にある、数少ないゴルフ場であること。JR京浜東北線赤羽駅からタクシーや都営バスで15分。ゴルフ場を手掛けている業者なら、魅力的な物件に映ることは確かだ。 ゴルフ史においても、重要な存在だ。同コースの開場は1955年。チャールズ・ヒュー・アリソンの設計理論を廣野GCで受け継いだ名匠・上田治が設計した。 1932年、多摩川の東京側河川敷に六郷ゴルフコースを造り、東京ゴルフ倶楽部の前身となった秩父カンツリー倶楽部、京都ゴルフ倶楽部上賀茂コース、茨城ゴルフ倶楽部など多くのゴルフ場を手掛けたゴルフ界の巨人・安達貞市氏との関係も深い。 その安達氏が心血を注ぎ、一時は富士、筑波両18ホールを擁した東京都民ゴルフ倶楽部が、このコースの前身なのだ。 64年の歴史がここで途切れることは、日本のゴルフ界にとっても大きな損失となる。 <h2>経験を生かし、鮮やかに立ち直ったコースたち</h2> 国土交通省関東地方整備局荒川下流河川事務所は、東京湾の河口から30㌔遡った笹目橋までを管轄している。この間の河川敷に、廃業の危機に直面した新都民を含めた4コースがある。 その新都民に次いでダメージを引きずったのが川口パブリック(埼玉県川口市)。こちらも1954年オープンの老舗だが、台風19号のダメージは大きく、1月9日の取材時点でも「復旧工事はしているが、再オープンの時期は分からない」(コース関係者)という状況だ、 その少し上がった上流にある川口市浮間ゴルフ場(同)も、9ホールながらアウト・イン違うグリーンを回るスタイル。高麗グリーンが18面あり、そこにかぶったヘドロを可動式消防ポンプ10台で飛ばした。 それでも復旧は12月12日と最も遅い部類に入る。このコースは川口市内にある16の公園を管理している公益財団法人の川口市公園緑地公社が運営。「オープンが遅れても、完全にきれいにすることを最優先に考えた」(北川とも子事務局長)のは、休業が直接営業収入に響くため一刻も早く再開しなければならない民間業者とは少し趣を異にする。 4コースのうち、最も早いリスタートとなったのは赤羽ゴルフ倶楽部(東京都北区)。消防車3台、動力ポンプ1台を駆使してヘドロを飛ばしたが、新都民と同じ右岸側で距離もさほど離れていないため、被害状況も同様に酷かった。 「いつ終わるんだろう」(松澤淳二支配人)と苦しい思いを抱きながらの57日間。その末の、12月7日に再オープンへとこぎつけている。 しかし隣接する63打席240ヤードの戸田橋ゴルフ練習場のオープンは年明けどころか2月までずれ込んだ。その現実が今回の被害がいかに甚大だったのかを物語る。 荒川ではなく、利根川河川敷だが10月27日という、驚異的なスピードで再オープンを成功させたのが、セグウェイでラウンドできることで有名なアジア取手カントリー倶楽部(茨城県取手市)。冠水前に185台あるセグウェイを高台に上げ台風の襲来に備えた。 冠水後の対応が鮮やかだ。翌日からは水が引くのも待たずに「胴長を着けて、舟も使って」復旧活動をスタート。これはまだ滞留している水を効率的に使い、顔を出している砲台グリーンとティーイングエリアを洗っていくためだった。「オープン2日前の豪雨が余計でした」と齊藤喜栄子支配人は残念がるが、これまでの経験を見事に生かした再生オペレーションであったことは間違いない。 設備を迅速に撤収し、通過後は鮮やかに立ち直る。こうしてみると、どのゴルフ場も過去の経験を活かし、効率的に作業を行い再開へと結び付けたことが分かる。鮮やかな復活劇は、進化を続けるリバーサイドゴルフ文化の産物ともいえよう。 全日本ゴルフ練習場連盟の横山雅也会長は、昨年6月から多摩川ゴルフ倶楽部(神奈川県川崎市)の経営にも携わっている。 多摩川も台風19号での前日から11月20日までクローズした。いきなり大きな試練に見舞われたわけだが、経営者の立場からしみじみと、こう語る。 「(河川敷ゴルフ場の経営を)やり始めて感じるのは、ゴルファーにとって多くの方が住んでいるエリアで、簡易的にできること。ゴルフを始める人にとっては立地も良くて安価でできるから、最初のステップとして最適です」。 家からぶらりとやって来て、安い価格でのんびり回れるのが河川敷。ゴルフを始めるためには絶好の環境ということだろう。 河川敷コースの減少に歯止めをかけ、いかにして増やすか。ゴルフ界全体で考えるべき問題に思える。 <hr> この記事は弊誌月刊ゴルフ用品界(GEW)2020年2月号に掲載した記事をWeb用にアップしたものです。なお、記事内容は本誌掲載時のものであり、現況と異なる場合があります。 <a href="https://www.gew.co.jp/magazine">月刊ゴルフ用品界についてはこちら</a>
    (公開)2020年02月19日
    廃業。それは経営者にとって、断腸の思いが伴うものに違いない。 昨年秋の大型台風は、ゴルフ界にも大ダメージを与えた。強風で倒壊した複数の練習場や、冠水被害を受けた河川敷のゴルフ場など、いくつかのゴルフ施設が廃業に追い込まれている。 台風15号の突風によりネットごと鉄柱が倒壊した「市原ゴルフガーデン」は、その象徴的な存在だろう。倒壊という最悪の事態を回避する方法はなかったのか。現場を照らす。 <h2>廃業が和解への第1歩</h2> 鉄柱の倒壊被害に遭った被害住民が、これからも同じ場所に住み続ける条件。そのひとつが、練習場の廃業だった。 市原ゴルフガーデンの鉄柱倒壊は、ゴルフ練習場経営者に重い現実を突きつけている。 27世帯に上る被害者のなかで、最も深刻な被害を受けた坂本高志さんは、こう語った。 「確かに鉄柱が撤去され、オーナーが『もうゴルフ練習場はやらない』と宣言したことで元の家に住み続けよう、と考える方はいると思う。もう鉄柱は見ないで済むわけですから。でもウチは違う。鉄柱はなくなっても、心の傷が癒えない家族の事もあって、五分五分の気持ちです」。 廃業しても、その場所に住み続けることをためらい続ける。それほどこの被害は、坂本家に大きな痛みを与えたということだ。27世帯の被害者にも、類似した感情を抱く人は少なくないはずだ。 最長で41メートル、短いものでも30メートルはある鉄柱13本が約140メートルに渡り根元から倒壊。 住宅20数棟が損壊し、けが人も出た。この時、被害者である坂本高志さんの自宅では、大変なことが起こっていた。鉄柱の1本が天井を突き破り、寝ていた次女の上半身を斜めに横切る形で倒れ込んできた。 肺挫傷のケガを負った次女の救出には「1時間近くかかった」(坂本さん)。鉄柱をなぎ倒した暴風は依然として吹いており、冷たい雨にさらされたことから、低体温症にもなったという。 もう2度とこんな経験はしたくない。それは被害者たちに共通する感情だろう。オーナー側が練習場としての再生を決断すれば、いくら頑丈に立て直されたとしても、再び倒壊する恐怖を拭い去ることは難しい。 ゴルフ業界関係者には皮肉なことだが、被害者側が抱いていたオーナー側への怒りが幾分落ち着いた裏には、練習場廃業の決断が少なからずある。 <img src="https://www.gew.co.jp/wp-content/uploads/2020/01/ogawa2.jpg" alt="練習場経営者「ゴルフ練習場は斜陽産業」発言の衝撃" width="788" height="525" class="aligncenter size-full wp-image-60678" /> 鉄柱が取り除かれたことで、住民たちも安心して自宅に入ることができるようになった。これにより自宅の損傷状況も確認できた。11月2日に新しい代理人が就任したことで、被害者たちはようやく補償交渉のテーブルに着いた。 11月23日に最初の交渉が行われ、翌24日には新しい代理人の一人である秋野卓生弁護士と渡邉陽子オーナーがTKPガーデンシティ千葉(千葉市中央区)で揃って会見。席上、練習場の土地を売却し、住民への補償費用に充てる方針が明かされた。 事件は申立人が㈱市原ゴルフガーデンで、3件に分かれている。人身、建物被害(相手方21名)、ネット飛散被害(相手方6名)、車両被害(相手方8名)に対し、裁判外紛争手続き(ADR)による和解を目指し、これから詳細な被害額が算出され被害程度に応じて交渉が進められていく。 一方でオーナーである渡邉家には介護中の家族と入院中の家族もいる。ゴルフ練習場事業の断念により収入の道が完全に途絶えるため、生存中の生活資金を確保することを代理人は明らかにしている。そのため練習場の売却費がすべて被害者の補償費に回ることはないという。 <h2>行政は倒壊の危険を予測</h2> 神奈川県横浜市のある練習場経営者も、ドライビングレンジの閉鎖を決めた。 9月9日の台風15号から1か月あまり。10月12日夜、台風19号の強風により、打席から向かって左側のフェンスが倒壊した。だがこの鉄柱は「外側に踏ん張る形で建てられており、練習場側にしか倒れない構造」(経営者)。実際、倒壊はそうした形で起こっており、周辺の住宅への被害はなかった。 横浜市建築局建築企画課は、ネットが下りない練習場をリストアップ。台風19号の接近を受け地域の消防署に対し、状況の事前把握と被害発生時における緊急連絡先の確認を要請した。 これを受けて、台風前日の11日の午後、地元の出張所から職員が出かけこの練習場の経営者と接触。「外周をぐるりと状況を把握し、写真を撮らせていただき、(経営者の)連絡先もお聞きしています」(関係者の話)。 練習場の経営者は「消防署が安全確認に来たんだけどね」とぼやいたが、そもそも消防署は建築のプロではない。「我々はあくまで消防ですので、現場を見に行って、写真を撮って、その内容を連絡することしかできません。ただ(経営者から)『構造的にポール(鉄柱)は内側に倒れるので大丈夫です、と聞いた』との報告は受けていました」(前出の関係者)。 結果的に、鉄柱は経営者の説明通りに倒れた。横浜市の建築企画課も、練習場の危険度は十分に理解していたわけだ。 オープン後50年近いゴルフ練習場は、ネットを降ろすことができないものが多い。建築当時、それで認可が下りていたからだ。市原ゴルフガーデンも、この練習場もその時期に建てられている。 横浜の場合、ショートコースとパッティンググリーンも備えていて、売り上げも年間1億円程度あった。だがドライビングレンジの再建は、すでに断念したという。 「ゴルフ練習場は、斜陽産業となる入り口にいる。今、練習に来てくれているのは70歳前後の団塊の世代です。40、50代のゴルファーは確実に減っている。 再建するとなると2億とか2億5千万くらいはかかる。長年真面目にやってきた。腐食をふせぐために5〜6年に1度、ペンキの塗り替えもやった。それだけでも1回で600万~700万円かかるんです。でもこういう事態が発生して、自然の脅威を感じています。10年先を考えて、やめましょうと。ここで決断しました」。 横浜の場合は市原と違い、近隣に住宅もなく、練習場に対する反対の声はないという。だがそれでも、これから先の経営には自信がもてない。「全部で7000坪ありますから、固定資産税も大きな負担です。やはり他業種に転換するしかないでしょう」。 全日本ゴルフ練習場連盟(JGRA)は、国土交通省の調査チームによる報告をふまえ、全国のゴルフ練習場に注意喚起を行うという。 「ゴルフ練習場という施設が危ないと思われてはいけない」(横山雅也会長)ためだが、すでにマスコミで報道され、世間が抱くイメージはすでに大きくマイナスに振れている。 中途半端な方法では難しい。業界を挙げての一大キャンペーンが必要になる。このテーマでまとまることができなければ、東京五輪以降、ゴルフ業界は一気に没落していく。
    (公開)2020年01月27日
    60万円など高額なチケットから売れて行った。中身に期待できれば、ファンはお金も時間も労力も惜しまない。米ツアー初の日本開催となった「ZOZO CHAMPIONSHIP」(千葉・習志野CC)は集中豪雨により最終ラウンドのプレーが月曜日までずれ込む関係者泣かせの展開となりながらも大ギャラリーを動員。 世界のトッププロによる真剣勝負が見られるなら、ファンは足を運ぶ。その舞台裏を、照らす。 「PGAツアー国内初開催」のうたい文句 仮にAさんとしておこう。30代の女性で、大会2日目のチケットを持っていた。 大会初日の木曜日は、平日にもかかわらず1万8536人という国内ゴルフイベントでは最大級のギャラリー動員を記録。朝の千葉ニュータウン中央駅ではギャラリーバスの待ち時間が2時間。印西牧の原駅からが1時間、などの情報がネット上にあふれていた。 SNSから流れ出る情報もAさんの心を掻き立てるものばかり。こんな状況を見たAさんは、木曜日の夜、一大決心をする。終電で北総線の「印西牧の原」まで向かい、徒歩でゲートまで行くという荒業に出たのだ。 駅からは暗い夜道の一人歩き。普段であれば相当危険な選択に思えるが、この日は前後にAさんと同じ選択をしたファンがいたため、怖い思いはせずにすんだという。 ゲートに着いたのは夜明け前。この時、すでに数名が先着していたというからスゴイ話だ。 雨の中、駅前にも続々とギャラリーが到着。大行列ができたが、朝6時半に豪雨のためこの日のプレーは順延となることが決定。Aさんにとっても、泣くに泣けない結果となった。 日本のトーナメントではめったにない現象。Aさんもそうだが、ふだんはゴルフトーナメントに見向きもしない人が観戦チケットを手に入れ、徹夜でゲートに並ぶという行動を起こしている。 大会の規模も国内で行われる通常のトーナメントとは比較にならない。ボランティアは1日500人。通常のトーナメントなら120人程度だから4倍以上だ。ガードマンは1日400人、メディアの登録者数は1日300人(うち日本人200人)。通常は多くても50〜60人だというから、すべての面で「大体4〜5倍の規模」ということは言えます」(メディア担当)。 <h2>「距離じゃないでしょ」</h2> 関係者によれば「ZOZO CHAMPIONSHIP」の習志野開催が決まったのが昨年の12月。36ホールから18ホールの使用ホールがピックアップされ本格的なコースセッティングに入った。 米ツアー側からコース管理の責任者として派遣されたのがデニス・イングラム氏。メジャー競技を含むゴルフ場のコース整備に携わり、東京五輪に向けて霞ヶ関CCのコースセッティングにも深く関わっているアグロノミスト(土壌と農作物の専門家)だ。 イングラム氏は2~3か月に1度のペースで来日。習志野CCを経営するアコーディアグループのエリアコースマネジャー・瀧口悟氏が率いるコース管理チームと連携しコースを仕上げて行った。 圧倒的な飛距離を持つ世界ランカーたちが来日するとあって、日本サイドは36ホールの中でも距離のタップリある18ホールの使用を考えていた。 だがPGAツアー側の返答は「距離じゃないでしょ」だった。 「条件はすべてのホールでいろいろなクラブが使えること、300ヤード先の着弾点が見えること。470ヤード取れても、木の上を狙っていくぐらいなら、レディースティーの320ヤードを使おうよ、という主張でした」(前出の瀧口マネジャー)。 選手には多彩なテクニックを求め、ルーリングのトラブルを減らすために着弾点を見えるようにする。スムーズな進行にも重きを置いているわけだ。 コースセッティングにも違いがあった。 「今回大変だったのが、フェアウエーを右に寄せてくれ、とか左に寄せてくれ、という注文。本来野芝が生えているラフが高麗のフェアウエーになる。またその逆もあるわけです。ランディングエリアは35ヤードの幅で、フェアウエーと池の間にラフは作らない。リスクを取って池を越えたのなら、そこはフェアウエーでなければ、という考え方です。」(同) 今回は18ホールのうち3ホールだけ芝種の違うサブグリーンを使用していた。その仕上がりも他の15ホールとほぼ同じにしてしまうのだから、日本の技術ここにあり、だ。 <h2>アコーディアのスケールメリット</h2> そんな作業が続く中、試練は次から次へと襲ってきた。9月9日の台風15号から台風19号の被害もあり、復旧作業も継続せざるを得なかった。 初日は滞りなく終わったものの、金曜日のプレーは中止。第2ラウンドは翌日に順延された。この後、一番低いところにある10番のフェアウエーに水が集中。池があふれ、フェアウエーは完全に水没した。コース内外で危険な場所が発生し、土曜日は観客の安全を考慮し無観客試合で行われることが決まった。 <img src="https://www.gew.co.jp/wp-content/uploads/2019/12/ogawa1.jpg" alt="金網越しに声援を送るファンたち" width="788" height="525" class="size-full wp-image-60090" /> 金網越しに声援を送るファンたち ここからがすごかった。土曜日の午前3時半。100人の応援が、グループのコースから集められ、総勢130人が作業を開始した。バンカーはポンプ12台を使って排水し修復。プレー可能な状況に仕上げてしまった。 10時スタートの45分前に1番から、カップ切りが始められた。130コースを擁するアコーディアのスケールメリットが、最大限に生かされた。 10番のパー4は、フェアウエーが冠水したため370ヤードから140ヤードに短縮。「米ツアーのスタッフは決断する際に、捉われないし、こだわらない。そういう姿勢が、10番の距離変更にも現れている」(瀧口)。 選手からも「今日できるとは思わなかった」と驚きと称賛の声が贈られた。 第3ラウンドと最終ラウンドが行われた日曜日は2万2678人の大ギャラリーが詰めかけ、PGAツアーの生のプレーを堪能。72ホールで試合を成立させたことに対しては、選手たち以外からも称賛の声が上がっている。 その一方で、第1回大会ならではの不備も目立った。「いただけないのはギャラリープラザ。屋根がないので、みんな傘をさしながら食べていました」(練習日に観戦したメーカー関係者の話)。 ギャラリー駐車場にも不満の声が多く聞かれている。舗装されていないため、雨のために泥沼となった。「泥だらけになったベンツが、SNSにアップされてました。駐車場付きで5万を超える入場券を買ったのに悲しいですよね」(ゴルフ業界関係者の話)。 月曜の朝7時30分から、最終ラウンドの残りが開始され、タイガー・ウッズが完全優勝で通算82勝目を飾り、サム・スニードのツアー最多勝記録に並んだ。 悪天候に見舞われ、試練に満ちたPGAツアー日本初開催。これを経験したことで、日本のツアー関係者周辺の経験値が上がったことだけは間違いない。後は、これをどう生かすか。いい試合ならギャラリーが集まることがわかった今、やるべきことは山積している。
    (公開)2019年12月06日
    JGTO(日本ゴルフツアー機構)への批判記事が、目に付くようになってきた。8月9日に都内のホテルで行われた理事会では、選手への説明に追われ終了予定時間を大きくオーバー。 組織内に大きな亀裂が入っていることが、隠しきれなくなっている。またもや「かつて来た道」に逆戻りしつつあるJGTO。関係者へのインタビューを通して、理事会の現場を照らす。 <h2>無策より愚策のほうがマシ</h2> 平日の昼下がり、一流ホテルのゆったりしたスペースを静寂が支配していた。そこに響き渡ったのが、上田昌孝専務理事の、怒声にも似た大声だった。 声のトーンが一段と高くなったのは、JGTOがこの春から行っている女性ファン獲得を狙った「ゴルフFAN!プロジェクト」に話題が及んだ時。 <blockquote> 上田理事の話=「愚策って、タケ小山に書かれたんだよね。他にもいろんなことを書かれてるけど、そういう人たちに僕が言いたいのは『愚策と無策とどっちがマシですか』と。僕は去年の9月から来たけど、それまでの20年間、JGTOは何もやってこなかったんだから」 </blockquote> JGTOの20年を全否定するのも驚きだが、週刊ゴルフダイジェスト誌に掲載されたタケ小山氏の発言には、よほど悔しかった様子。しかし「無策より愚策の方がいい」というのも、今後物議を醸しそう。 それよりも現在のJGTOに必要なのは、ISPSの半田晴久氏を激怒させ、消えてしまった3試合のマイナスを1試合でも多く取り戻し増やすこと。 8月のなかばになって、ようやく来年の7月、ゴルフパートナーがスポンサーのプロアマ形式のトーナメントが1試合新設されると報じられた。賞金総額はツアー最少の5000万円。それでもまだ、スケジュールはスカスカだ。 現実には厳しい逆風が吹き続けている中、3月19日に行われた定時総会とその後の理事会で起こった「定款の変更」と「役員の報酬決定」が騒動の発端となる。 この定款変更により、それまで実費精算と日当だった報酬のシステムが変更され、上田専務理事、宇治重喜理事、村田一治理事ら青木ファミリーと言われる新理事に対し、新たに固定給が支払われることになった。 この件が選手間に不信感を生み、JGTOバッシングにもつながっていく。 <blockquote> 上田理事の話「定款変更?しましたよ。でもそれは一般の会社と同じことをしたに過ぎないんです。元々僕は、ガバナンスの専門家で、こういうことをするために来たんですから」。 </blockquote> 上田理事がこう話している時に、宇治理事も合流。正当性を力説した。 <blockquote> 宇治理事の話=「僕の収入(360万円)なんて、去年までのシステムだったらこの倍は行ってる。定款の変更により上限が決まり、むしろ出費が抑えられる形になっている」。 </blockquote> こうした言い分が3月19日の理事会で選手に十二分に説明され、理解が得られていれば、混乱はなかったはず。しかし開幕前の時期は海外に出ている選手も多く、出席そのものが難しい時期。 委任状を出しているとはいえ、定款変更という一大事をあっさり実行に移されて、選手たちは不安になった。 <h2>肖像権ビジネスが騒動の火種に</h2> それでなくても、上層部は青木人脈が色濃い。このことだけで組織内では猜疑心が広まっており、職員が退職するなど、さらにムードは悪くなった。 これに追い打ちをかけたのが、JGTOが常に頼り続けてきたゴルフ写真家協会に対する「裏切り」ともいえる行為だ。公式ウエブサイトの強化を目指し、JGTOは写真家協会に「相場の半値」で協力させてきた。 ところが昨年末になり、それとは別に宇治理事が主体となってフリーカメラマン宮本卓氏と単独の契約を推進。契約は4年、金額は年間2000万円プラス経費1000万円との噂が流れた。 合計1億2000万円という大きな支出、しかも4年という長期契約だ。これに反発が広がり、石川遼選手会長や前会長池田勇太らが中心となってこの契約を直前で留保させたこともZAITEN誌に報じられた。 本誌の取材では、交渉の末この金額が経費込みで2000万円の4年契約へとダウン。理事会も通っていることで、順調に契約の運びとなるはずだった。だが直前に選手たちが説明を求め、結局契約は保留された。 この問題が組織内をさらに混乱させた。そこで宮本氏を直撃してみたが、口は重かった。 <blockquote> 宮本氏の話=「今は理事会に諮っている状態で待っている立場。公式にはこれ以上話せない」。 </blockquote> 当事者としては守秘義務もあり話せないのも無理はない。では、ここまで舞台裏が大混乱となった最大の原因はどこにあるのか。辿っていくと、機構内における上層部とスタッフとのコミュニケーション不足に突き当たった。 以前は理事会に部長クラスの出席が許されていた。上層部の方向性が中間管理職から下に直接伝えられ、情報が共有されていたという。 だが現在理事会は「密室」で行われ、上層部と現場の一部しか情報を得ていない。そのため、現場の士気も著しくダウン。組織内に亀裂が起こっているという。そこが原因だと、指摘する関係者は多い。 上田理事のようにこれまでの実績を全否定し、新しい物を目指すのはいいが、周囲からは現在の企画内容と告知の弱さに批判が集中。8月9日の理事会まで、結論は持ち越されることになってしまったのだ。 定款の変更やウエブサイトの写真の問題も選手たちに充分な説明がなされていれば、ここまでこじれることはなかった。大きな原因のひとつが閉鎖的で説明責任を怠っている上層部にあることは間違いない。 <h2>石川選手会長は態度を軟化</h2> 一方、選手会長であるため、自動的にJGTOの副会長にも就任している石川遼も、2か月前までは疑心暗鬼に陥っていた。 だが理事会の終了がズレ込んだため、後半を中座する形で会議室から出てきた石川の表情からは、わだかまりが消えていた。 <blockquote> 石川の話=「僕らが思っていたよりも進み方が速かったこともあって、噂が噂を呼んでしまうような形になってしまった。つい2か月前、1か月前までは、選手に聞かれても、説明できるような状態ではなかったんです。でも話を聞けて、納得できた。全日空(ANAオープン)の週の火曜日(9月10日、札幌GC輪厚C)の選手会で説明できると思います」。 </blockquote> 選手が説明を聞いて納得するかどうかで今後の動向が定まりそうだ。広報担当理事の佐藤信人も、理事会終了後は穏やかな表情。 <blockquote> 佐藤の話=「写真がいまどき売れるのか、という声もあったり、悪いうわさも耳にした。でも騒動によっていったんストップがかかって、もう一度説明を丁寧に聞けたことで、もやもやしたものは取れた感じはあります」。 </blockquote> 選手会での説明により、選手たちが納得するのか。まずはここが大きな分岐点となりそうだ。 (金額はいずれも推定)
    (公開)2019年09月13日
    2020東京オリンピックゴルフ競技日本代表の女子コーチに服部道子(50)が決まった。代表のヘッドコーチ・丸山茂樹(49)とともに、地元開催の五輪でメダル獲得を目指すことになる。 だがコーチの役割を具体的に問われると「スポークスマン」だという。それならコーチなどと言わず広報官とでもいえばいいはずだが…。迷走が続く現場を照らす。 <h2>宮里藍の辞退から1年がかりでようやく決定</h2> 迷走。東京五輪・ゴルフ日本代表の女子コーチ選びは、この言葉通りの経緯を辿った。 宮里が候補に挙がったのは、2017年の引退直後。日本ゴルフ協会(JGA)オリンピックゴルフ競技対策本部の強化委員会委員長の倉本昌弘が、宮里に女子コーチ就任を要請すると明かしている。 ところが宮里は即答を避け、結局昨年の7月3日に辞退を表明。 「引退したばかりでコーチ経験がなく、まずはコーチングについて深く学んでいきたいと考えているところでの要請だった。今回はまだ難しいと判断するに至った」とその理由を説明している。 それから実に1年近く、女子コーチは決まらないまま時は過ぎた。6月26日になってようやく服部に決まり、正式に就任発表となったわけだ。 実は服部自身は、宮里のように返事を引き延ばしていたわけではない。小林浩美会長から要請を受けた翌日の夕方には、受諾を伝えている。 <blockquote> 服部道子の話=小林会長からお電話をいただいて本当にびっくりして、内容を聞き返したくらいです。私で本当に良いのかと…。1日お時間をいただいたうえで、お返事をさせていただきました。コーチの役割は「スポークスマン」だと聞いております。しっかりとコミュニケーションを取って、選手がプレーしやすい環境を作りたい。 </blockquote> コーチがスポークスマン。それはコーチとは呼ばないのではないか?という素朴な疑問が湧く。 広報官でいいではないか。しかもこれ、宮里がコーチ就任を拒否した理由とも矛盾する。広報官でいいのなら、宮里がコーチングの勉強をするまでもない。だが男子の丸山ヘッドコーチまでが、同じようなセリフを口にするのだ。 <blockquote> 丸山茂樹の話=リオの時と変わりなく、広報として、選手に求められることがあれば、即座に答えられるようにしたい。僕のモットーである、チームを明るく楽しく導くことだけは、頑張りたいと思っています。 </blockquote> 実は女子コーチの必要性は、メダルゼロに終ったリオ五輪の大会中から、丸山が提唱していたことだという。女子選手と丸山のコミュニケーションは、ほとんど取れていなかったと、丸山自身が明かしている。 <blockquote> 丸山茂樹の話=リオでは女子のコーチもやらせてもらったが、女性に対して、どこまで言ったらいいのか分からず、選手とのコミュニケーションが難しかった。リオでは小林さんに助けていただいたのですが、見きれない部分もあって、女子コーチが必要だと思いました。服部さんなら実績と言い、語学力の面でも問題なく、イチオシの存在だと思います。 </blockquote> つまりリオでは女子に対するコミュニケーション不足が露呈していたわけだ。その教訓を生かして女子コーチ探しを続けていたが、本命の宮里に逃げられ、実質五輪の開幕まで1年と迫った所で服部に落ち着いた。 <h2>実質的にコーチは必要ない構造</h2> ゴルフは他の競技と違い、団体戦がない。個人戦でメダルを狙いにいくスタイルはリオと同じ。国としてメダルを争うという意識をほとんど持てない状況であることは確かだ。 しかも世界ランキングによって代表が正式に決まるのは大会の1か月前。世界の各ツアーが毎週のように行われるため、順位が大きく変動、代表選手がようやく絞られてくるのは来年の3月。 ポイントが僅差であれば、直前まで選手が入れ替わる可能性もある。五輪に対する準備期間など、ないも同然で、コーチが選手にできることなど、ほとんどない。この辺りの苦しい事情を、倉本強化委員長はこう明かす。 <blockquote> 倉本の話=リオの時も沖縄で強化合宿を開いたが、そこに参加した選手の中から代表に選ばれてこなかった。選手には精神面とか、現場での対応でサポートして行くしかないと思っています。 </blockquote> 結局のところ広報担当として機能していくしかない、というのが本音なのだ。 <blockquote> 丸山の話=海外にいる松山(英樹)選手や代表に選ばれそうな選手とコミュニケーションを取るために、そう多くの時間を取れるわけではない。彼らを(五輪の会場の)霞ヶ関に呼んで、一緒にゴルフをするのは困難な状況。ぼくがテレビの解説などで海外に行ったときなどに、少しずつコミュニケーションを取る。それ以外の事をするとなると、相当キチッとしたスケジュールを立てないといけないので、難しいと思う。 </blockquote> 地元開催で地の利を生かしてのメダル獲得が期待されるゴルフ日本代表チーム。だが結局のところは松山や畑岡奈紗をはじめとする選手たちの実力頼み。リオの二の舞にならないという保証は、どこにもない。 もしそうなった時、誰が責任を取るのか。その所在は、ハッキリしていない。実はリオの時も、メダルゼロの責任は、誰も取っていないのだ。 <hr> この記事は弊誌月刊ゴルフ用品界(GEW)2019年8月号に掲載した記事をWeb用にアップしたものです。なお、記事内容は本誌掲載時のものであり、現況と異なる場合があります。 <a href="https://www.gew.co.jp/magazine">月刊ゴルフ用品界についてはこちら</a>
    (公開)2019年08月23日
    難病と闘いながら、真相解明に立ち向かう一人のレッスンプロがいる。ALS(筋萎縮性側索硬化症)で闘病中の阿部進さん(49)がその人だ。 1000人を超えるレッスンプロや練習場関係者らがだまされ、40億円を超える被害が出た「ゴルフスタジアム(以下GS)問題」が発覚したのは2017年の春だった。 「被害者の会」が結成され、集団訴訟も次々に提起されたが、事件の風化も懸念されるところだ。GS問題の今を追った。 <h2>発病と事件発覚が同じタイミング</h2> 3月26日、GS社の破産手続きに伴う最後の債権者集会が東京地裁で開かれた。この時、ひときわ目を引いたのが、車いすで参加した阿部進さんの姿だった。 これまで開かれた公判や債権者集会などに、阿部さんが参加したことはなかった。それは他の被害者とはまったく違う、特別な事情があるからだ。 阿部さんはちょうどこの事件が発覚した時期から突然、異常なほど疲れやすくなった。整形外科で検査を受けたが、原因が分からない。「最初は体がだるくてどうしようもなくて、それからどんどん動けなくなった」(阿部さん)。 1年になろうとする頃、ようやくALS(筋萎縮性硬化症)だと分かった。 ALSは、手足、のど、舌の筋肉や呼吸に必要な筋肉がだんだん痩せて力がなくなっていく難病。新たにこの病気にかかる人は1年間で10万人あたり約1~2.5人といわれている。 阿部さんが被害者の活動よりも闘病生活を優先させたのは当然の選択。それでも「みんなに協力できなくて、ホント申し訳なく思っています」と最後となった債権者集会への参加を決断。 さいたま市の自宅からタクシーとヘルパーも頼んで駆け付け、GSの堀新(あらた)社長に対し直接、経営者としての責任を追及した。 <h2>GSとは10年以上のつきあい</h2> もうひとつ、阿部さんにはほかの被害者とは違う事情がある。短期間のセールストークで騙されたケースも多い中、阿部さんは10年以上ゴルフスタジアム社と付き合いのある、いわば「お得意様中のお得意様」だった。 中学時代からゴルフを始め、埼玉栄高、日体大と進みツアープロを目指した2001年の全日空(現ANA)オープンはマンデーから本戦へ。2003年の日本オープン(栃木・日光CC)は予選から出場し、決勝ラウンドにも進出している。 だが「参戦経費で借金が600万円までふくらみ」ツアープロの道をあきらめた。2004年にレッスンプロに転向。最初は個人で始めたが、ラウンドレッスンがウケて2年目にはお客が1000人を超えた。 2006年に会社組織にして、仕事は軌道に乗った。「10年間は毎年5000万円以上の売り上げがあった」。 GSとの付き合いは10年近い。 「初めのモーションアナライザーとホームページは、レッスンにも活用していました。お客さんはホームページ上で、今日のレッスンの動画を見ることができましたから。ウチはホームページも週2、3回頻繁に更新していましたから『GSさんに手間をかけさせているな』と申し訳ない気持ちもありました。 当時はスマホとかiPadがない時代。レッスンを(再生して)すぐに見られる機械がなかったんです。『お客さんが見られるのがいいな』という私の判断で、モーションアナライザーというスイング分析器(1台250万円)を2台買いました。 ホームページの制作費とともにローンを組んで、返済額は300万円程度でした。GSにとっては、いいお客だったと思います。それが済んでから『新たなローンを組んでくれ』と(事件発覚の2年位前から)言い始めたんです」。 後に大問題となるモーションアナライザー2の購入ローンと言う名目だった。 「10年近くトラブルなく来ていたし『いろいろとやってくれたんで、今回は(ホームページ制作費を実質)無料とさせていただきます』という話だったので契約した。800万円と聞いた時にはちょっとためらいましたが、長年つきあってきた仲だけに、まさかこんなことになるとは思ってもいなかった」。 <h2>債権者集会は厳しい結果</h2> その阿部さんが出かけた最後の債権者集会だが、結果は厳しいものだった。会社に残された財産はほとんどなく、被害者の配当はゼロ。期待されていた事件の全容解明も、GSの堀社長個人が破産手続きの対象外であることから、難航している。 それでも「ゴルフスタジアム事件被害者の会」の面々は、この事件を風化させないために地道な努力を続けている。 昨年の12月14日には、被害者たちが東京・大手町の三菱UFJ銀行の本店を訪れ、担当者に平野信行CEO宛ての嘆願書を手渡した。 というのも、被害者たちが最も多く契約を結んでいるのが、三菱UFJファイナンシャルグループ(MUFG)のジャックスであるからだ。1月18日にはオリエントコーポレーションがグループに属しているみずほFGにも同様の嘆願書を出した。 国会議員へのアプローチも積極的だ。立憲民主党の初鹿昭博、阿久津幸彦両衆議院議員にも議員会館まで出かけて事情を説明している。 初鹿議員は昨年の12月6日の消費者問題に関する特別委員会、阿久津議員は2月27日の衆議院予算委員会第7分科会でゴルフスタジアム問題に関する質問を行っている。 さらに経産省、クレジット協会へも1万人を超える署名を提出。ゴルフスタジアム問題の現状を訴えた。 これから秋にかけてリース・クレジット会社との訴訟が本格化。法廷の場で新たな事実が出てくることも十分ありうる。 阿部進さんを始め被害者たちの戦いが、ようやく本格化する。 <dl> <dt>ゴルフスタジアム事件</dt> <dd>レッスンプロやゴルフ練習場などにGS社の営業が訪問し、「HPを実質無料で作成・運営できる」と説明。ゴルフスイング解析ソフトのローンを組ませ、月々の返済はHPへの広告掲載料を振り込むことで相殺していた。しかし2年前の3月、掲載料の振り込みがストップ。被害者は1000人以上、被害額も約40億円に達している。</dd> </dl> <a href="https://www.gew.co.jp/?s=%E3%82%B4%E3%83%AB%E3%83%95%E3%82%B9%E3%82%BF%E3%82%B8%E3%82%A2%E3%83%A0">ゴルフスタジアムに関する記事の一覧はこちら</a> <hr> この記事は弊誌月刊ゴルフ用品界(GEW)2019年6月号に掲載した記事をWeb用にアップしたものです。なお、記事内容は本誌掲載時のものであり、現況と異なる場合があります。 <a href="https://www.gew.co.jp/magazine">月刊ゴルフ用品界についてはこちら</a>
    (公開)2019年06月07日
    「JAPAN GOLF FAIR2019」(パシフィコ横浜)の2日目(3月23日)に、「現役大学生による『ゴルフ座談会』」が開催された。 主催は大学の体育授業へ積極的にゴルフを導入、コースデビューへと導く「Gちゃれ」などを展開している「一般社団法人大学ゴルフ授業研究会」。18人の現役大学生が本音で語る座談会は、現在の日本のゴルフが抱える様々な問題を浮き彫りにした。 壇上にずらりと顔を揃えたのは、慶応、法政、武蔵野美術などの現役大学生たち。そのネームプレートの右下には緑、青、赤のマル印が付けられていた。 この3色はまったくゴルフに触れたことのないグループ(赤)、体育でゴルフ授業を履修しているグループ(青)、体育会系ゴルフ部などでどっぷりゴルフをしているグループ(緑)が一目で分かるようにしたものだった。 <img class="aligncenter size-full wp-image-57203" src="https://www.gew.co.jp/wp-content/uploads/2019/05/1905_ogawa.jpg" alt="現役大学生がズバズバ指摘した 「日本のゴルフのダメなところ」" width="788" height="525"> <h2>ゴルフをしない若者たちの目に、日本のゴルフとはどのように映っているのか</h2> 法政大のS君(赤色)は率直にこう語った。 「僕の中でのゴルフは、道具に依存性が高く、その値段も高そうで、お金がかかるスポーツ。2番目に(ゴルフ場が遠くて)その場所まで行かなきゃいけない。3番目に大人の男性、お父さんの世代のスポーツで、自分とは距離がある」 道具にも交通費も、プレー代にもお金がかかり、身近には感じられないスポーツであるということだろう。 慶応大のKさん(赤色)は交通の便がネックだと指摘した。 「中学、高校とハイキング部で山登りは好きです。ゴルフも自然の中でできるけど、どうしても車が必要になるじゃないですか。それで友達と行こう、とはならないですね」 家業がゴルフ練習場であり、3歳からゴルフを始めながら、すでにやめてしまったという法政大のMさん(赤色)のケースは、ゴルフ業界にはもっと深刻と言えるかもしれない。 「最初、3歳の時に親が小さなクラブを作ってくれて10年くらいやったのですが、結局好きになれずやめてしまいました。おじさんたちから優しくされて『将来の宮里藍ちゃんだね』なんてほめられるのは好きなんですが、妹が上達して、比べられるようになったんです。それがイヤで、やめちゃいました。私は一人で練習するのが好きだったので」 日本の練習場の問題点としてよく指摘されるのが、教え魔の存在。 筆者は仕事柄、著名人のゴルフ人生を伺う機会が多いが、その多くが打ちっ放しの練習場を頻繁に変えている。 あるタレントは「教え魔につかまり、その練習場のヒエラルキーの中に組み込まれるのがイヤで、しばらくすると新しい練習場に移った」と告白しているほどだ。 「被害者」は有名人に限らない。一人で練習したいのに、雑音が多すぎてゴルフを辞めた、というケースはMさんの例を挙げるまでもなく多い。 <h2>経験者たちは問題点をズバリ指摘</h2> 海外でのゴルフを経験している慶大生、Wさん(青色)の指摘は痛烈だ。 「両親がゴルフをやっていて、近所のスポーツセンターでキッズスクールがあったので、そこに1年間通って基本を学びました。でも、日本ではゴルフ場に行くのに、都心からだと2時間くらいかかる。海外ではダウンタウンから20分もあればゴルフ場に着きますし、スループレーの折り返しで食べるハンバーガーがおいしい」 ゴルフ場まで2時間もかかる不便な日本と、20分で行ける海外のゴルフ場。絶望的に過ぎる環境の差を、Wさんは知っている。 東工大のHさん(緑色)は高校の時に父親に練習場に連れて行ってもらい、ゴルフを始めた。大学ではゴルフ部に入部している。 「ラウンドは月2回くらい。18ホールで8,000円程度の安い所を探してプレーします。それでも交通費は往復2,000円かかります。引っ越しのアルバイトで朝から夕方までやって、1日1万円のバイト代が飛んでしまいますね。合宿も1回4万円かかるので、年間50万円は必要だと思います」 一橋大のY君(青色)は親頼み。「年3回の合宿と合わせて30~40万円はかかります。親に将来返します、と言って借ります」 <h2>ゴルフのファッションについて</h2> もうひとつ、問題となっているのが、ゴルフファッションのイケてないところ。武蔵野美大のHさん(青色)はグローブのデザインに不満をため込んでいた。 「グローブのデザインが謎です。指の所にタイツの網目みたいのが入っていたりして、ビミョーだな、とよく思います。レディースものは買い替える時も白とか、黒とか、柄もほとんどない。デパートでも紳士服コーナーの横にある、というのもどうかなと思います。ゴルフに1回くればハマる人が多いと思うので、ファッションは大事だと思います」と語った。 シャツをパンツに「インする」ドレスコードにも抵抗感は強い。 「ゴルフ自体は好きなんですけどそれ(ドレスコードというルール)があるのが一番おっくうなので、シャツだけでも出せるようになれば、もっと行きやすくなると思います」 つまりは、カジュアルではなく、コストも高く、ファッション的にも問題があるため、ハードルを越える気が起こらないのが現実。ドレスコードを思い切って緩くした吉川インターMECHA(兵庫)やベルビュー長尾(静岡)のようなゴルフ場がどんどん出て来ない限り、若者たちはなかなかその気にならない。 法政大学のSさん(赤色)は、今後もゴルフをするつもりはないという。もしゴルフに使うお金があったら何に使うか、という問いには、こう答えた。 「やっぱり、旅行ですね。旅行が好きなんで」。ほとんどの大学生たちは、使うべき月々の予算が決まっている。スマホは絶対に手放せないし、好きな遊びも多様化している。「ゴルフ」のライバルは数多い。ゴルフを身近な存在にするには、初心者にまずクラブを握ってもらう努力をすることが大事だろう。 打開策は、あるのか。「野球のバッティングセンターのようなものがゴルフにもあれば」(慶応大・S君=赤色)という発言は印象に残った。「ゴルフ場は遠い」ということがハードルになっているという声も多く聞かれたからだ。 打ちっ放しの練習場は相続税の問題で都市部から姿を消す一方。それを埋める代役は、今のところシミュレーションゴルフしかなさそうだ。 <hr /> この記事は弊誌月刊ゴルフ用品界(GEW)2019年5月号に掲載した記事をWeb用にアップしたものです。なお、記事内容は本誌掲載時のものであり、現況と異なる場合があります。 <a href="https://www.gew.co.jp/magazine">月刊ゴルフ用品界についてはこちら</a>
    (公開)2019年05月30日
    2月25日、2020東京オリンピック・パラリンピックゴルフ競技の会場となる霞ヶ関カンツリー倶楽部(埼玉県川越市)が報道陣に公開された。 競技対策本部強化委員会の倉本昌弘委員長、小林浩美副委員長、企画準備委員会の中嶋常幸委員が東コースの3ホール(10、11、18番)をプレー。 組織委員会の担当者やグリーンキーパーらが出席して記者会見も行った。開催まで1年半を切った五輪ゴルフ競技。その現場を照らすと、様々な問題点が浮かび上がってきた。 頼みの綱は007 2月下旬ながら、この日の霞ヶ関は小春日和。倉本、小林、中嶋のベテランプロにとっては、暑からず寒からずの絶好のコンディションとなった。 わずか3ホールながら、3人は約100人の報道陣を前に「模範プレー」を披露。細葉高麗芝(ヒメコーライ)のフェアウェーに007(ダブルオーセブン)のグリーンも素晴らしい仕上がり。 かつて赤星四郎が設計陣の一人として名を連ね、名匠チャールズ・ヒュー・アリソンが改修したコースを惜しむ声が一部にはあるが、この日はそれが完全に封じられた。トム&ローガン・ファジオ親子が共同改修した東コースの仕上がりの素晴らしさばかりが、コース関係者からは強調された。 しかもIGF(国際ゴルフ連盟)の指示を受け、西コースの18番は大会用の練習場に改造された。東コースと同じヒメコーライの芝から打てる打席は横60ヤード、奥行き40ヤードもある。350ヤードのドライバーショットが練習可能だというからスゴイ。そのため従来の西18番は、現在パー3となっている。 すべては順調に進んでいるように見えるが、本番に向けて不安がないと言えば、それはウソになる。大会が行われるのは8月。間違いなく気温は40度超えとなるはずで、コース管理部のスタッフにとってこれが最大の敵となることは間違いない。 2017年7月23日付日本経済新聞サイエンス面に、埼玉県川越市が暑さ日本一の可能性があると報じられた。日本の最も暑い時期に、最も暑い場所で行われるのが五輪ゴルフだ。 品種改良が進み日本の猛暑にも耐えられる洋芝が育っているが、相手は生き物。自然との闘いに「絶対」はあり得ない。 コース管理部長で統括グリーンキーパーである東海林護氏の「期待半分、不安半分」の言葉がすべてを物語っている。残されている実践テストの場はひと夏のみ。厳しい戦いが待っている。 <h2>日本ジュニアがプレ五輪!?</h2> 運営サイドにとっては様々な実戦へのテスト、選手にしてみれば貴重な情報収集の場として、各競技に用意されるのが、俗にプレオリンピックと呼ばれるテストイベント。 自転車ロードレースのプレ五輪コースは一部短縮されたものになるが、それでも十分にタフなコースだという。リオでも同様のイベントが開催され、日本を含む15チームが参加。有名選手の多くが出場した。 屋外で行われる競技もマラソンは本番よりも約1か月遅れの9月15日、明治神宮外苑発着のマラソンGCで、トライアスロンは開催同時期の8月15~18日にお台場海浜公園での五輪予選大会がプレ五輪として行われる。 ところがゴルフは8月の14~16日とほぼ同じ時期ながら、日本ジュニア選手権がテストイベントとなるという。これには早くもブーイングが上がっている。実戦のテストにならないからだ。 芝に関してはテストイベントになるかもしれないが、もっと大事なものが試せない。対策を練らなければならないのは、酷暑の人体への影響だ。競技に携わる選手、キャディー、ギャラリー、ボランティアの健康いや命すら、確実に危険にさらされる。 特にギャラリー整理や駐車場の誘導など、過酷な条件で働くことが多くなりそうなのはボランティア。年齢層も幅広くなりそうで、よほどうまく暑さ対策をしないと、熱中症へまっしぐらだ。 しかし日本ジュニアがテストイベントとなると、はるかに規模が小さく、様々な問題をクリアするための参考になりようがない。 こうなってくると、酷暑の影響を表に出さないためにわざと大規模なイベントを回避したのではないか、と勘繰りたくもなって来る。この日、大会関係者はリオの時と違い、ほとんど欠場選手は出ない、とみていたが、本当にそうなのだろうか。 もしプレ五輪がここで行われ、その猛暑を体験したら、プレーを回避する選手が続出する可能性が高い。マスコミ関係者もその暑さを実感したら、こぞってその問題点を書き立てることだろう。 <h2>子供たちが危ない!</h2> <img class="size-full wp-image-56396" src="https://www.gew.co.jp/wp-content/uploads/2019/04/tokyo2020_golf1.jpg" alt="子供たちが危ない!" width="788" height="525" /> 写真と本文は関係ありません。 猛暑といえばもう一つ、大きな問題がある。このクレージーな炎天下でのプレーを何年もの間、子供たちに強いている現実だ。 すでにシニアになっている日本ジュニア出場経験者もいる。倉本委員長はその代表だ。しかし当時と一つだけ違うことがある。地球温暖化が進行した今とは暑さが著しく違うことだ。 女子プロの辻梨恵などを育てた三觜喜一プロは自らのブログに「誰か死なないと分からないのか?」と題して、ジュニアゴルフの大会運営について批判の声を上げている。 「実は昨年、私の教え子がラウンドの途中で熱中症になり救急車で運ばれるという事がありました。日本ジュニアはカートを導入しているとのことですが、多くの大会で当たり前のように担ぎのプレーが行われています。毎年真っ赤な顔をして、汗だくで上がって来る現実を、協会のトップの人たちは分かっていない」と怒りを隠せない様子だった。 2015年8月5日に、60人が参加した霞ヶ関でのあるコンペでは、3人が熱中症で倒れた。この確率を当てはめれば当初関係者が語っていた1日2万5000人のギャラリーが入った場合、単純計算で1250人が発症することになってしまう。 そんな状況下、データも満足に取れないプレイベントを開催する意味はあるのか?
    (公開)2019年04月23日
    ZOZO CHAMPIONSHIPの開催が好意的に報じられている中、意外に注目されていないのが日本選手には50%の賞金が加算されること。 高額大会だけに、優勝でもしようものなら、この大会で獲得した賞金だけで賞金王となる可能性もある。 一方、6月のリランキング後に、衝撃的な女子プロのトーナメントが誕生することが明らかになった。出場資格は33歳以上100歳までの女子プロゴルファー。若手中心のLPGAツアーの問題点を世に問う大会になりそうだ。 <h2>賞金王はホームラン王</h2> 賞金王。米ツアーでは「リーディング・マネー・ウイナー」と呼ばれる。スーパースターであるパーマーの名を冠し「アーノルド・パーマー・アワード」と呼ばれる重みのあるタイトルだ。 試合ごとに賞金額にはバラツキがあるため、むしろバードン・トロフィー(米男子)やベア・トロフィー(米女子)のような、平均ストローク第1位の方が、実力評価のものさしとしては正しい、という主張が一部にある。 だがゴルファーには「ハスラー」と呼ばれる賞金稼ぎの一面もある。賞金王がもてはやされる背景には、とんでもない額が1打にかかり、その重圧をはねのける強さも要求されるからだろう。 JGTO(日本ゴルフツアー機構)の青木功会長は、日本の賞金王に過去5回輝いているが、絶頂期の頃、よくこんな解説をしていた。「もちろん賞金にはバラツキはあるが、高いレベルで安定した平均ストロークをマークしていれば、相応に賞金額も増えて来るもんだよ」。 当時青木は日・米・欧・豪と飛び回りながら好成績をマークし続けるという、ある種超人のような生活をしていた。日本では尾崎将司、中嶋常幸を加えたAONが活躍しており、賞金王争いはシーズンを通しての関心事となっていた。 野球でいえば賞金王はホームラン王、平均ストローク第1位は首位打者ということになりそうだが、ゴルフの場合平均ストローク第1位の評価が、野球の世界ほどには高くない。 いずれにせよ、プロゴルフの世界では長い間賞金王という地位がそれなりの威厳を持ってきた。1987年にアメリカ女子ツアーの賞金女王となった岡本綾子に対する評価が高いのもその証明だろう。 しかしその評価が、今年の日本男子ツアーでは何の意味も持たなくなるかもしれない。今年の10月24日から4日間、千葉・習志野カントリークラブで開催される米国のPGAツアーの大会である「ZOZO CHAMPIONSHIP」の賞金が桁外れであるからだ。 <h2>ZOZOの1勝だけで賞金王?</h2> 主催者発表によると、賞金総額は975万ドル(約11億円)。 優勝賞金は18%で、2位から10.8、6.8、4.8、4%と配分されていく。優勝すれば19万8000ドル(約2億2374万円)が転がり込む。2位でも10万5300ドルだから、1億530万円が用意されている。 昨年、日本の賞金王に輝いた今平周吾の獲得賞金は1億3911万円あまり。2位のショーン・ノリス(南ア)で1億394万円となっている。 ZOZOの大会には10人のJGTO枠が与えられており、賞金額の50%が国内のランキングに加算されることが決まっている。優勝すれば、これ1発で1億1187万円が加算される。 <img class="aligncenter size-full wp-image-54625" src="https://www.gew.co.jp/wp-content/uploads/2019/03/onishi-hisamitsu.jpg" alt="大西久光" width="788" height="525"> 昨年までJGTOの副会長を務めていた大西久光氏が、問題点を指摘する。「意外に関係者間で問題になっていないのが、この大会(ZOZO CHAMPIONSHIP)に優勝しただけで、賞金王になってしまうことが数字上ではありうることです。 そうなると他のトーナメントスポンサーにとっては、高額賞金を負担している意味そのものが、非常に軽いものになってしまう」 昨年の国内最高額はISPSハンダマッチプレー選手権で2億3000万円、優勝賞金は半分の5200万円。しかもこの大会は今年行われないことが決まってしまった。ナショナルオープン、日本オープンを始めとする2億円大会の存在もかすむ。 これは明らかにマイナス要素だろう。そもそも10人しか出られない試合を加算すべきなのかどうか。という議論も当然ある。 <h2>女子プロ界に画期的な新設大会</h2> JGTOの不手際から、今季予定していた3試合をキャンセルしたISPS会長半田晴久氏が、仰天プランを実行に移す。7月上旬、賞金総額3000万円の女子プロゴルフトーナメントを開催する。 「6月のリランキングの後に、開催する予定です。30歳以上で試合に出られないプロがたくさんいますので、そうした選手たちのために。賞金額は、ステップアップツアーの最高額に合わせました」(半田氏)。 出場資格者は33歳以上100歳までと幅広い。女子には下部ツアーとして「ステップアップツアー」があり、45歳以上の選手には「レジェンズツアー」があるが、この2つだけでレギュラーに出られない選手に出場の場を提供できているとは言い難い。 本来は日本女子プロゴルフ協会(LPGA)が考えるべきことだが、選手たちと協会上層部の距離が離れていることは多くの関係者が認めるところ。一昨年から放映権の問題で協会とテレビ局との対立が露見しているが「説明がない」と多くの選手が不満をもらしている。 LPGAが、試合への出場機会が少ない選手たちの受け皿すら用意できない現実を見るに見かねて、半田氏が乗り出した格好だ。 2020年東京五輪の前年。日本プロゴルフ界の問題点が一気に吹きだし、大改革へと向かう動きが加速している。 <hr> この記事は弊誌月刊ゴルフ用品界(GEW)2019年3月号に掲載した記事をWeb用にアップしたものです。なお、記事内容は本誌掲載時のものであり、現況と異なる場合があります。 <a href="https://www.gew.co.jp/magazine">月刊ゴルフ用品界についてはこちら</a>
    (公開)2019年03月06日
    ピンを抜くべきか、抜かざるべきか。それが問題だ。平成31年元旦。ルール大改正の初日が始まった。各ゴルフ場では新年早々、新春杯など多くの競技が開催された。 予想された通り、変化とともに混乱は起こった。ドロップを肩の高さで行ってしまい、修正せずにペナルティー。膝の高さでドロップを行おうとして腰を痛めたなどという笑えない話も。平成31年、ルール大改正の現場を検証する。 <h2>シーン1・東京湾カントリー倶楽部</h2> 新春早々、グリーン上で2人の意見は真っ二つに分かれた。 「私はピンフラッグを抜かずに打つ方がいい。ピンに当てて入れたいから」と語ったのは、一般社団法人終活カウンセラー協会の武藤頼胡代表理事(写真右)。 一方で同協会の上級インストラクターで行政書士の川崎直美さん(同左)は「抜きます。カップが小さく見えるから」と言い切った。 これは1月6日。同協会ゴルフ部の初打ちで起きた1シーン。参加者には、新ルールに則ってプレーしてもらった。 規則13.2の <blockquote>プレーヤーは旗竿をホールに残しておくこと、または取り除かせること(誰かを旗竿に付き添わせて、球がプレーされた後でそれを取り除いてもらうことを含む)ができるが、ストロークを行う前にそれを決定しなければならない。動いている球が旗竿に当たっても罰はない。</blockquote> という新ルールに早くも問題が生じた。 セルフプレーの場合、ピンのところまで行かずに乗った人からロングパットがどんどん打てるため、プレーはスムーズになる。 問題はショートパットだ。全員がピンを抜かないのであれば、間違いなくプレーはスピードアップする。しかし1人が差して、1人は抜く、となれば改正前よりプレーは遅くなる。 同コースでは2階のロビーでルール改正の映像を流し続けている。また新ルールブックの売り上げも好調だというが、この日のプレーでスピードアップしたという実感はなかった。 <h2>シーン2・マグレガーカントリークラブ</h2> <img class="aligncenter size-full wp-image-53545" src="https://www.gew.co.jp/wp-content/uploads/2019/02/rule1.jpg" alt="" width="394" height="525"> 一方で、旗竿を立てたままプレーすることを、ローカルルールにより禁止したゴルフ場もある。千葉のマグレガーカントリークラブは新ルールの施行を受け、追加のローカルルールを掲示した。 その1項目にあるのが次の一文。 <blockquote>ルール改正によりグリーン上ではピンを立てたままパッティングができるようになりましたが、コースの特性上グリーンが見えないホールが多い為、グリーン上では必ずピンを抜いてプレーしてください。(打ち込み防止、危険防止のため)</blockquote> 同コースは打ち上げでグリーン上のプレーヤーが見えないホールが多い。打ち込みを防ぐため、ピンを抜くことでプレー中であることを後続プレーヤーに知ってもらう必要があるわけだ。 <h2>シーン3・湘南カントリークラブ</h2> 一方、キャディーが付くメンバーシップでは新ルールの認知度が一気に高まっているようだ。プレーヤーがキャディーから、新ルールの導入と、その内容を聞かされるからだ。 そうした会員制ゴルフ場の中でも、今回のルール改正に最も早くから対応していると思われるのが神奈川の湘南カントリークラブ。 R&amp;AとUSGAが遠球先打ではなく、準備が出来た者から打てる「レディ・ゴルフ」を推奨したのは一昨年。この年の10月から導入しスピードアップに成功している。 さらに昨年9月から競技委員会がR&amp;Aのホームページをベースにして、新旧対照表を作成して新規則の正式適用に対応。会報誌の11月号でルール改正の主たる変更点を紹介した。 11月1、7日と開かれた関東ゴルフ連盟主催の新ルール説明会にもルール部会の2名が出席。中旬からは新ルールリーフレットをフロントの外、各プライベートコンペでも300部配布した。 11月28日、競技委員会内でルール変更点の確認とクラブ競技規定及びローカルルールの見直しを行った。12月8、12日の2回に分けて行われた勉強会には全キャディーが出席。講師役は競技委員会のルール部会のメンバーが務めている。 年が明けると3、4日の新年杯で新ルール開始のメモをフロントで全参加者に配布。また特に注意を要する内容(目的外グリーンからの救済)をキャディーマスター室横に掲示した。 その結果、新年杯では新ルールに関わる疑義はなく「無難なスタートが切れた」とコース関係者も語っている。 レディ・ゴルフの時もそうだったが、このコースの特長はキャディーに対する情報共有の意識が高いこと。プレーヤーにとっても、新ルールに慣れるまでの頼れるナビゲーター的役割を果たしている。 <h2>シーン4・千葉の某老舗ゴルフ場</h2> メンバー数も多く、千葉県内でも上位に入る歴史を持つ某カントリークラブでは1月2、3日に新春杯、4日に平日新春杯とビジターオープンコンペが開催された。 実はこのビジター向けコンペでは全参加者40人に新しいルールブックが無料でプレゼントされた。 そこで何が起こったか。参加者たちはピンを抜くか抜かないかで意見が分かれ、キャディーの仕事が増えることになってしまった。 また体に染みついているせいか、頭では分かっているのに体が勝手に動いて肩の高さからドロップしてしまうケースが続出した。 ちなみにJGAのウェブサイトでルールブックを購入する場合、個人と倶楽部団体の窓口は別になっているが、料金は同じ。いくら大量購入しても割引はなく、一冊648円だ。 「もうちょっと安くしてもらえれば、賞品にしたり、積極的におススメすることができるのですが」とこのコースの関係者も不満をもらしている。 関東7倶楽部に属する某コースでの話。1月2日、初打ちに訪れたビジター3人とも、すべて名門コースのメンバーながら、全員が「ルールが変わるの?知らなかった」という反応だった。 各クラブとも新ルールの告知に努めてはいるものの、ゴルファーの認知度はいまひとつなのが現状だ。 <h2>小川朗の目</h2> 早速新ルールでプレーしてみた。レディ・ゴルフは安全性さえ確保できれば、スピードアップにかなり有効だ。手前からは奥までアプローチをしに行く同伴競技者を待たずに打てる。 グリーン上でも、乗った順にピンを立てたままどんどん打っていける。マークせずに「お先に」と全員ができればもっと速くなる。 一緒に回った美女2人の意見はピンを「立てる派」と「抜く派」に真っ二つ。筆者は「立てる派」。気分的に強く打て、いくつか長いパットも決められた。 ドロップの方法に関しては「うっかり肩の高さから」が頻発している。修正できればいいが、そのまま打ってしまい1打罰を食らうケースも少なくない。「最初からひざまずいて花を渡す『王子様ポーズ』でドロップすりゃあいいんです」と力説するコース関係者もいた。 とはいえ、レディ・ゴルフなどでいくら自分たちがスピードアップできても、コース全体が渋滞状態では意味がない。詰め込み過ぎのゴルフ場はそれがゴルフ離れの元凶となっていることを自覚し、新ルールを来場者に根気よく告知してもらいたいものだ。 <hr> この記事は弊誌月刊ゴルフ用品界2019年2月号に掲載した記事をWeb用にアップしたものです。なお、記事内容は本誌掲載時のものであり、現況と異なる場合があります。 <a href="https://www.gew.co.jp/magazine">月刊ゴルフ用品界についてはこちら</a>
    (公開)2019年02月18日
    月刊ゴルフ用品界2018年9月号掲載 <hr /> 安倍政権が「骨太の方針」を180度転換、単純労働に従事する外国人を受け入れる政策に舵を切った。ゴルフ場の人手不足が、深刻な状況に陥っている今、この決定を一筋の光明とみる向きもある。しかしキャディーやコース管理においても、求められるのは語学力。外国人を取り込むには多くのハードルが存在している。 ゴルフ場内に保育所設置 船橋カントリー倶楽部は8月1日から、企業内保育施設「どんぐり保育園」をスタートさせた。生後6か月から就学前までの子供をゴルフ場の敷地内で保育のプロに預けキャディーなどの仕事に専念できる。 定員は12人で、保育料は週5日以上の勤務なら無料。週1~4回勤務は1日500円となる。この他に日用品や教材費が年間6000円かかるが、月換算で500円程度の負担だ。 キャディーの日給は実働6時間半で8000~1万1000円。契約社員、常勤パート、非常勤パートがあり、週一回からの勤務が選択できる。実働時間についても相談に応じてくれるという。 <img src="https://www.gew.co.jp/wp-content/uploads/2018/10/181019.jpg" alt="船橋CCの「どんぐり保育園」(写真・清流舎)" width="788" height="525" class="size-full wp-image-50810" /> 船橋CCの「どんぐり保育園」<br />(写真・清流舎) 船橋CCの場合、昭和37(1962)年開場と歴史もあり、年配のメンバーが多くキャディーつきへのこだわりは強い。 一方で今年の4月から55台の乗用カートを導入した。メンバーの高齢化もあるが、キャディーの体力的負担もこれで大きく軽減された。これも見方によっては職場環境改善の一手とも言える。 小倉義雄社長は、長期的な人材確保を見据えての投資であることを強調する。「キャディーの確保は年々厳しくなっています。ウチは若いキャディーが多いので、その子たちの先々のことを考えて、保育所を導入しました」。 週一回シフトのキャディーもおり、トップシーズンは研修生も駆り出され最大80人体制となる。人員確保は重要なテーマ。保育所の設立は、待機児童問題に出した名回答と言えそうだ。 しかしより深刻なのは、キャディーよりもコース管理スタッフという見方もある。 ゴルフ場の多くがそうしているように、キャディー不足はセルフプレーへの移行で解消できるからだ。その典型例は南栃木ゴルフ倶楽部だろう。 <h2>徹底した人員カット</h2> 月~木は18ホールスループレー。正面玄関でキャディーバッグ以外の荷物を下ろし駐車。乗用カートを車の後ろにつけキャディーバッグを積み替える。これらの作業をゴルファー自身が行いスタートする。米国のパブリックコースなどではごく当たり前のスタイルだが、日本ではまだ少ない。 ロッカー、大浴場は無料開放(タオルは持参)。完全前金制だからプレー終了後は駐車場に直行。バッグを積み込んでクラブハウスに戻り、入浴し、ロッカーにキーを付けたまま帰路につける。 この結果、月~木のハウス内運営はフロント・カート・ロッカー浴室担当の3人でまかなっている。徹底した省力化の原因は、求人が困難であること。「都市部でも求人に苦労している状況下、山奥に向かう人はいないのが現実です。ゴルフ場の先には、猿しか住んでいませんから」と関係者は冗談交じりに話してくれた。 キャディー問題はセルフ化という切り札があるわけだが、一方、コース管理の業種には、それに代わる方法がない。 今回取材したコースで、グリーンキーパーなどコース管理業務の平均年齢は60歳に近かった。21センチュリークラブ 富岡ゴルフコースの石井年晴社長は、苦しい現状をこう語る。 「ハローワークにも求人を出していて、3カ月に1人程度は面接に来ます。でも外の仕事に慣れていない方が多くて、冬の寒さ、夏の暑さは肉体的に辛いと音を上げてしまう。4人のうち1人くらいですかね。続くのは」。 一口にコース管理と言っても、機械の刃を研磨するなどのメンテナンス係、機械に乗って芝を刈る係、その他の作業の係などに分業体制を敷いているコースが多い。アウトとインの2チームに分かれ、総勢10人程度というのが平均的だ。 応募も少なく、定着率も悪い。バブル期のグリーンキーパーは花形商売で、1ホール1人が担当するのが常識だった。今は単純計算でも倍以上の仕事をこなし、1人欠けてもローテーションに支障をきたす事態になっている。 そうなった場合にはすでに引退したOBに連絡し、ピンチヒッターを頼むケースもあるという。「お掃除ロボットのような芝刈り機が出現してくれればいいんですが、そうもいきませんしね」と苦笑交じりにため息をつくしかないのが現実だ。そんな中、安倍政権が6月15日に決めた「骨太の方針」(経済財政運営と改革の基本方針2018)に、単純労働に従事する外国人労働者を受け入れる政策を盛り込んだ。 外国人労働者は「出入国管理及び難民認定法」により次にあげる5つの形態で国内での仕事に就いている。 【専門的・技術的分野】 大学教授や弁護士、医師、パイロットのほか昨年9月から介護福祉士も。(23.8万人) 【身分に基づき在留する者】 定住者(主に日系人)、日本人の配偶者、永住者と認められた者。(約45.9万人) 【技能実習】技能移転を通じた開発途上国への国際協力が目的(約25.8万人)  【特定活動】EPA(経済連携協定)に基づく外国人看護師・介護福祉士指導者、ワーキングホリデー、外国人建設就労者等(2.6万人) 【資格外活動】(留学生のアルバイト等)本来の在留資格の活動を阻害しない範囲内(1週28時間以内等)で報酬を受ける活動が許可。(約29.7万人) 注目すべきは、3番目にある技能実習制度だ。昨年の12月6日時点で77職種139作業が移行対象職種とされ、ゴルフ場のコース管理業務にリンクする作業がある。耕種(畜産以外)農業の職種の「施設園芸」における建設機械施工なども近いが、ぴったりと当てはまるものではない。 厚生労働省は9月以降、対象職種を79種に広げる方針を固めた。外国人への依存度が高まり、技能実習生の数はこの5年で2倍に。全体では127万8000人。派遣で働く人(約130万人)の数に迫っている。 6月の有効求人倍率は1.62倍と44年ぶりの高水準。売り手市場の傾向により、給与水準の低い地方は人材が集まりにくくなる。こうした声を、政府も無視できない。国際貢献はあくまで建前。人手確保のための一手だろう。 しかし、そのためには外国人の語学研修制度の整備がまず重要になる。特にグリーンキーパーらが使う機械の前部では、鋭利な刃物が高速で回転している。意思の疎通が十分に図られないと安全を確保できない。 資格認定制度の導入も必要となる。現在は特定非営利法人の日本芝草研究機構が3級から1級までの認定制度を実施。日本ゴルフ協会もこれを平成19年8月から公認している。 だがこの制度は座学が中心で、グリーンキーパーのステータスを上げる機能を発揮していないことは現実を見れば明らかだ。 昨年から日本ゴルフ経営者協会(NGK)が、最も問題意識を持って取り組んでいるように見えるが、経済産業省、厚生労働省との折衝など、越えるべきハードルはいくつもある。 すでに現場は、待ったなしの状態にあるのだが。
    (公開)2018年11月21日