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終戦8年で開業、都内最古のゴルフ練習場

課題と未来展望を考える 練習場・インドア 嶋崎 平人

都内で一番古くから現存しているゴルフ練習場は、1953年から70年近く経営を続けている東京・上目黒の「目黒ゴルフ練習場」。都心とは思えない閑静な住宅地にある、緑の深い3000坪の敷地に3階建て、約50ヤードの屋外施設だ。

打ちっぱなしのほかにゴルフスクール(コモゴルファーズアカデミー)と茶房のある別建ての3階・地下1階建てのゴルフ館、さらにアウトドアとインドアのテニスコートも併設するが、なぜ、この都心の地で70年近く練習場を続けてこられたのか? 特に都内ではアウトドアの練習場が次々と閉鎖する中で、興味深い事例といえる。練習場業界の未来を占うことを含め、「目黒ゴルフ練習場」の取締役で創業者の娘である三宅美知子氏の話を交えながら、これまでの経緯を振り返ろう。

70年前に練習場を始めた理由


「もともと浅草に居を構えていた父・小森正一郎が、戦争で疎開することになりましてね、この中目黒の地に疎開で移ってきたのです。竹藪が多い4000坪の土地でしたが、畑を作って野菜を育てたという話です。父は戦後、心豊かに働ける仕事を探す中で、スキー場やシャープペンシルなどの事業も手掛けますが、その中でゴルフ練習場は『心豊かな』『楽しく』にピッタリだと。それが創業の理由です。父は、『楽しく語らうスポーツとしてのゴルフ』を愛していました」

現存する都内最古の練習場は1953年、終戦後8年で産声をあげたことになる。ただしその2年前、今の上智大学のグラウンドに「四谷ソフェィアゴルフクラブ」が、当時としては珍しいアウトドアの練習場として開場していた。「目黒ゴルフ練習場」は、これに続く形での開業となる。当時、打席は平屋建てで、「四谷ソフェィアゴルフクラブ」が閉鎖してからは、財界の錚々たる人々が黒塗りの車で「目黒」に乗りつけ、運転手を待たせて練習に励んだという。

「創業当時、ゴルフは一部の裕福な人々が楽しんでいました。現在、テニスコートがある場所にショートコースがありましたけど、一般の人は長くそのことを知らなかったと思います」

環状7号線の内側で、山手通りにも近く、都心の目黒区にあるゴルフ練習場。だが、戦中は「田舎の疎開先」であったことが、時間の流れを感じさせる。

その後、現在に至るまで、いくつかのエポックを経験している。

「オイルショック(1975年)のときは厳しくて、廃業も考えましたけど、なんとか頑張って続けました。逆に、80年代後半のバブルの頃は、マンション、スポーツクラブ、老人ホームの建設などで売ってほしいと、多くの話を頂きます。でも、育った環境をそのまま守りたい気持ちが強くて」

手放さなかった。それどころか、バブル崩壊の前年に当たる1990年には、防球ネット及び打席を3階に建て替えて事業の継続を旗幟鮮明にした。

「今もお客様と対面していますけど、このお客様の為に続けなければ、と思っているんですね。お客様に支持して頂けることが、頑張るための原動力です。創業から70年近くたって、お客様も3世代にわたって来場されて、おじいちゃん、おばあちゃんと孫が一緒に来るんですね。父は創業時に、みなさんの『笑顔をみていたい』という気持ちではじめましたが、私もそれを引き継いでいるんです」

練習場はゴルファー創出の場であり、必要とされるなら続けたい、次の世代につなげたいと考えている。

「練習場は、採算をとるのがきびしい仕事だと思いますけど、お客様のニーズがある限り、続けたいです」

ゴルフスクールは四半世紀

目黒ゴルフ練習場創業時ショートコース
ゴルフスクールの開始は1996年だから、25年経つ。スクールを始めたきっかけは「健康」と「仲間づくり」に寄与するためだったという。

「ゴルフは生涯出来るスポーツです。でも、当時は『身体を痛めなければ上手くならない』というおかしな風潮がありましてね。私自身メディカル(薬剤師の免許保有)を目指したこともあって、きちんとしたやり方で『生涯ゴルファー』をつくりましょう、と。これを目標にしてスクールを始めたのです」

上達・健康・仲間づくりを掲げ、「何歳になってもゴルフを楽しめる」を目指すゴルフスクールは、トレーナーとプロがコラボして、ジュニア育成にも注力している。プロが技術を、トレーナーが身体を、さらにドクター(成形外科)の協力も取りつけている。

練習場業界の将来については、バーチャルゴルフなど新たな世界に侵食されることを予期しながらも、

「この練習場は、人と人のコミュニケーションツールとして、生涯にわたるQOL(クオリティーオブライフ)を体現していると思っています。それがあれば続けられる、そう確信していますし、それがみんなのやりがいなんです」

ゴルフ練習場は、ゴルフの練習やスポーツの場としてだけではなく、地域のコミュニケーションの場として大きな役割を担っていける。地域に必要不可欠な存在になれば、ゴルフ練習場事業は必ず継続できるはずだ。

ただ、都内の屋外型のゴルフ練習場は減少傾向であることも事実。目黒ゴルフ練習場も、当初は4000坪の敷地があったが、現在は3000坪である。先代からの相続の時に土地を売却して、事業を継承したためだ。ゴルフ練習場事業を継続するには、理念だけでなく、次の世代にゴルフ練習場をどう引き継げるかが大きな課題となっている。

この点については、事業承継に詳しい株式会社青山財産ネットワークスの執行役員・野口忠夫氏に話を伺った。ゴルフ練習場やテニスクラブが継続できなくなる一番の理由は、やはり「相続」とのことである。広い土地を使用するゴルフ練習場やテニスコートは相続では更地扱いとなり、その評価額の55%の相続税が課せられる。都内であれば、場所や面積によって異なるものの、億単位の相続税を覚悟する必要がある。

この相続税対策を含め、ゴルフ練習場を事業としてどのように継承できるか。次号で検証してみたい。


この記事は弊誌月刊ゴルフ・エコノミック・ワールド(GEW)2021年7月号に掲載した記事をWeb用にアップしたものです。なお、記事内容は本誌掲載時のものであり、現況と異なる場合があります。

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嶋崎 平人

嶋崎 平人

1951年生まれ。東京都立大学工学部機械学科卒業。ブリヂストン(タイヤ)入社後は主に製造技術畑を歩き、その後ブリヂストンスポーツでクラブ・ボールの企画開発等を担当。クラブ開発に携わり、特許を二十数件出願している。日本ゴルフジャーナリスト協会副会長。

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