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コロナがにくい。だけど、じっと我慢の子

満薗文博のPenぺん草紙 満薗文博

この記事は弊誌月刊ゴルフ用品界(GEW)2020年4月号に掲載した記事をWeb用にアップしたものです。なお、記事内容は本誌掲載時のものであり、現況と異なる場合があります。
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息苦しくて参った。データに目を通す老眼鏡が曇って困った。私は「マスク」の3文字とは、ほぼ無縁の人生を送ってきたが、そうもいかない事態になった。2020年3月1日、東京マラソンの記者席で、何度もさりげなくマスクを口、鼻からずらして、口をパクパクした。金魚のごとくである。数百人で埋まった大きなフロアの空気が清浄なわけがない。

話は前後するが、記者席の入り口で、女性係員に呼び止められた。「マスクをお持ちですか?」。「ノー」と僕。実際は、家を出るとき、「時が時だから」と、家人に持たされ、ラップでくるんだ2枚をバッグにしのばせていた。係員はすかさず「これをどうぞ」と、チャーミングな笑みを浮かべたから貰った。すべてはコロナウイルスの仕業である。

本来の「コロナ」には申し訳ないが、コロナがにくい。2020年は、待ってましたとばかりに、早々から中国由来のウイルスが大暴れである。これでもかと、日を追うたびに感染者、肺炎による死者の数が更新され、瞬く間に、南極を除く5大陸に感染の波が及んだ。

余談だが、コロナはラテン語。王冠を意味する。件(くだん)のウイルスは、丸い輪を囲むように突起が飛び出している様が王冠に似ていることから名付けられたと聞く。王冠には気の毒である。我々の知るコロナは、太陽の外側に燃えさかる炎。転じて「まぶしく、あこがれの存在の君」にも例えられる。

それが、あこがれどころか、忌み嫌われる不名誉。勝利の冠を目指して戦う者には、困った存在になった。大会の多くが中止、延期、規模縮小、会場変更、日程変更などで混迷を極めた。オリンピックは、代表選手が決まらない種目もある中で、7月24日の開幕が刻一刻と近づいている(本日現在2021年に開催予定)。

スポーツ界のみならず、予定されていたイベントが、次から次へと混迷の海に漂う。延期なら少しは希望も持てる。中止に泣いた人々の悲嘆を思うと、なんともやりきれない。選手、演者らの主役、準備に邁進した裏方の努力が、日の目を見ることがない。

そんな中、ここへきて、日本人がほぼ出くわしたことのない、言い方は悪いが「珍妙、異常」な形のイベントが、流行(はやり)となった。「無観客試合」である。疫病を理由にした無観客試合の例を聞いたことがない。スポーツは、選手と観客が悲喜こもごもを共有するのが普通である。それを、無観客で、というのだから、どう見ても「異常」な形の試合である。

はじめに書いた東京マラソンは、主催する東京マラソン財団や日本陸連が「沿道での応援自粛」を呼びかけて開催にこぎ着けた。オリンピックの花・マラソンの日本代表切符を懸けたレースは、何が何でも行いたい、背に腹は代えられない事情があった。

結果は、例年100万人以上で埋まる大東京の沿道に出たのは、主催者発表で10分の1以下の7万2000人。

同じように、1週間後の8日には、男子の最終選考レース「びわ湖マラソン」と、女子の最終選考レース「名古屋ウイメンズマラソン」が行われた。こちらも、東京同様「応援自粛」つまり「無観客」が呼びかけられて開催された。私は名古屋に出向いたが、ここでもマスクマンになった。普通に慣らされた人間に、マスク越しの呼吸、取材は、どうも息苦しい。

中止、延期、無観客…嗚呼

転じてゴルフ。私ごとだが、左肩の脱臼癖からプレーは断念したが、見るのは大好きである。特に晴れやかな女子ゴルフは、グリーン上に花が咲いたようで好きである。だが、この世界もコロナウイルスが悪さした。LPGAでは渋野日向子、畑岡奈紗らが開幕を彩るはずの「ホンダLPGAタイランド」(タイ)、「HSBC女子チャンピオンズ」(シンガポール)が中止。加えて、国内の開幕戦「ダイキンオーキッドレディス」が、一度は無観客試合から一転、中止に追い込まれると、2戦目の「明治安田生命レディスヨコハマタイヤ」、3戦目の「Tポイント×ENEOSゴルフ」も中止になった。嗚呼、コロナがにくい。

プロ野球のオープン戦は無観客試合を続け、揚げ句開幕が延期となった。大相撲大阪場所も無観客試合。サッカーのJリーグ、昨年のW杯で人気に火がついたラグビーのトップリーグはともに開催延期に追いやられた。私は、ここ10年ほど、毎年春・夏、甲子園の高校野球を取材するのを常にしてきた。この楽しみもコロナに奪われた。そして、私がライフワークとしているオリンピックも開催危機である。寂しい。

しかし、学校が休校に追い込まれるほどの状況下である。国を挙げてコロナと戦っている時、我一人我が道を行くことは許されない。当然のことである。ここは、じっと我慢の子である。やがて「普通」が戻る日もやってくる。

話は変わる。本音を明かせば、このコラムには、2020年2月15日の出来事をメーンに書くつもりでいた。その日、私は千葉県の佐倉市にいた。この地の市営陸上競技場が「小出義雄記念陸上競技場」に改称され、そのお披露目の式典が開かれたからである。高橋尚子、有森裕子さんらを、この競技場を拠点にオリンピック・メダリストに育て上げた小出さんとの交友は以前にも書いた。会場で、小出さんの次女、正子さんがしみじみと言った。

「父は最期、肺炎で苦しみながら逝きました。コロナウイルスが肺炎を引き起こします。あの、肺炎の苦しみを皆さんに味わってほしくありません」。

息苦しいだの、老眼鏡が曇るなどと言っている場合ではないのだ。ここは、じっと我慢の子。マスク姿で取材する日々である。


GEW VIRTUAL GOLF FAIR 2021

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ライター紹介 ライター一覧

満薗文博

満薗文博

1950年2月6日、鹿児島県いちき串木野市生まれ。鹿児島大学卒業。中日新聞東京本社(東京中日スポーツ)では88年ソウル、92年アルベールビル、同年バルセロナ、96年アトランタなどオリンピックを現地取材したほか、各種大会を取材。報道部長、編集委員を経て、現在スポーツジャーナリスト。大学講師。

著書に「オリンピック・トリビア」(新潮社)、「オリンピック面白雑学」(心交社)、「オリンピック雑学150連発」(文芸春秋社)、「小出義雄夢に駈ける」(小学館)、「ゴールへ駆けたガキ大将」(東京新聞)、「羽生結弦あくなき挑戦の軌跡」(汐文社)など。執筆協力作品に「見つける 育てる 生かす」(中村清著、二見書房)、「小出義雄監督の人育て術」(同)など。

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