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西村弁護士渾身の記 ゴルフ版経済敗戦を総括する(8)

ゴルフ版経済敗戦を総括する 西村 國彦
西村弁護士渾身の記 ゴルフ版経済敗戦を総括する(8)

本稿はゴルフ場関連の「事件」に詳しい西村國彦弁護士が、主にバブル時代、ゴルフ場を舞台に展開された経済事件を総括する「渾身の記」。計8回の連載の最終回だ。

前回までは、外資系ファンドによって海外流出した日本の資産等について、その手法と問題点等を洗い出した。「再建」という名の下に日本は莫大な富を失ったが、結局それらは何を教訓として残したのだろう。最終回で総括しよう。

記事は弁護士歴43年のN(西村弁護士)と、N事務所で修習中のA司法修習生によるQ&A形式とした。

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バブルピーク時と20兆円の差額

A:前回まで、ゴルフ場が大型倒産した内情を具体的な負債額を示して振り返りましたが、ピーク時の日本のゴルフ場評価額が36兆円でありながら、16・6兆円まで下がってしまった。その理由は何でしょうか?

N:私は以前、それに関する本を出版しているけど、そこでバブルピーク時との「20兆円の差額」は、監督官庁の検査逃れの債権隠しや不良債権飛ばしの金額、さらには川奈やフェニックスのようなブランドに対する金額(「のれん代」とも言われる)の合計ではないかと書いている。

A:つまり、その差額がファンダメンタルを超えたバブル(泡)の部分でないか、というわけですね。

N:そう。米国のペブルビーチは一時、日本の企業が所有したけど、これを米国資本が日本企業から買い戻した「ペブルビーチ・ストーリー」がある。

A:2000年、タイガーがぶっちぎりで勝った全米オープンの舞台ですね。

N:そう、2019年の舞台でもあった。その舞台をつくるため、近隣のカーメル市長だったクリント・イーストウッドやアトランタオリンピックを仕切ったピーター・ユベロスが買い戻しに立ち上がったのだよ。

彼らは、タイガー、パーマーそしてニクラスも捲き込んで、ペブルビーチを取り戻す感動的なストーリーをつくったのだ。

A:買戻し金額は1000億円くらいと聞きましたが、これはゴルフ場の収益では賄えませんね。

N:日本ではバブル崩壊後、ゴルフ場再調達価格を基準とする鑑定理論では説明がつかない状況、つまり大暴落相場になっていたと以前話した。そこではDCF法を含む収益還元価格をベースとする鑑定評価が主流とならざるを得なかったわけだ。

A:だから浜野の評価が数百億円から数十億円に下がったのですね。

N:あのバブル紳士の小谷氏がたてこもった東相模GCですら、数百億円の鑑定書を日本不動産研究所が作成していたのだよ。

A:そんな鑑定を要求したのは、わが国の銀行たちなのですね。

N:まさにその通り。

A:でも、サブプライム問題とリーマンショックの震源地米国では、違ったのですね。

リーマンショックの総括

N:米国では、リーマンショックの内幕も、ジャーナリストたちが徹底取材して、かなり真相に近いところまで肉薄して書きまくるのだ。その代表作が「リーマンショック・コンフィデンシャル」(早川書房)で、取材される方も政府機関の関係者を含めよく話をする。

A:ケネディ大統領周辺の超優秀なスタッフたちが、ベトナム戦争への対応で、本当に愚かなことを繰り返し泥沼に陥った話を書いた「ベスト&ブライテスト」(二玄社)もありますね。日本では、そんな情報を官民の上層は隠そうとしますけど。

N:その意味では、1929年の大恐慌を経験した米国はツワモノだよね。他方、世間知らずの日本人は、お上がコントロールする情報を真に受けて、結果的に世界のしたたかなやり方に翻弄されるばかりなのだ。

A:ペブルビーチでは、先の5人の呼びかけにかなりのお金持ちたちが協力したのですか?

N:聞くところでは、お金持ちたちは、投資額の回収というよりは、世界に誇れるペブルビーチという貴重な宝物の出資者になれたということで満足しているという。

A:日本では考えられませんが、それは投資への見返りではなく、ある種の「誇り」ということでしょうか。

N:そうだね。米国では、例えば毎年開催されるゴルフトーナメントが、スポンサーの意向で急になくなると、地元の資産家が数億円をポンと出してトーナメントを生き残らせることもある。

また有名ミュージシャンが、出身地のゴルフ場が破綻しそうになると、買い取るなどの話もあるほどだ。

A:どちらも「収益還元法」の発想からは出てこない決断ですね。

N:桁違いのお金持ちと優遇税制の存在が、そのような美談を生み出しているのだろうね。

ペブルビーチの買い戻しも、2000年にタイガーが全米オープンで優勝したことで、出資者たちは充分「元」が取れた、つまりプライド的に報われたということだろう。

A:先生も太平洋クラブでの闘いで、日本のペブルビーチ・ストーリーを目指していたと書かれてますが。

N:あの経緯では残念ながら、日本のお金持ち企業にはそのような発想がみじんもないことが判明したのだよ。

A:それで会員たちは、マルハンに支援を依頼したのですね?

N:マルハンは、会員とコースを守ってくれると固い約束をしてくれたからね。

ゴルフ版経済敗戦とは何だったのか

A:これまで8回にわたり、日本のゴルフ版経済敗戦と言われる経緯を説明していただきました。ぼくにとっては衝撃的なゴルフ界の内幕でしたが。

N:日本という国は本当に、まさに島国として、黒船やハゲタカ外資に襲われながらも、古き良き伝統を維持しつつ生き続けてきた国なのだよ。

でも今、グローバルな資本主義のマネー戦争の中で、生き延びる道を選択せざるを得ない岐路に差し掛かっている。

A:銀行だろうと、不動産やホテルやゴルフ場だろうと、サービス業は激しい競争の中で、生き残る戦略が必要になったのですね。ぼくも弁護士になれば大丈夫だと甘く考えていたフシがありますが、それではいけないことがわかりました。

「西村コラム」 世界のペブルビーチ・ストーリー

太平洋クラブを購入したマルハンは、順調な発展を遂げたように見える会社である。しかし、その会長韓昌祐(ハン・チャンウ)氏のそれまでの生き様は、第5回に書いた通り、厳しいものであった。

そして、太平洋クラブの再建も、経済合理性を超えた次元のストーリーだった。

企業の再建には、ヒト、モノ、カネが必要と言われる。でも命がけで頑張るひとには、不思議とこれらが後からついてくるのだ。

アイルランドの西海岸、死ぬ前に一度はプレーしてみたいバリー・バニオンGC。ここもペブルビーチと同じく海岸浸食が激しく、オープン後しばらくして、護岸工事資金に窮した。

その時、すっくと立ち上がり資金を提供して会員の先頭に立ち、バリー・バニオンを救った男がいたという。「民主的」な議論などしている時間がないときに、決断できる人は美しい。


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ライター紹介 ライター一覧

西村 國彦

西村 國彦

お酒は飲めないしカラオケも駄目の営業下手の弁護士。そんな男が40歳を迎える年、ゴルフを始めたことから人生も性格も激変。ゴルフ大好き仲間を求めるオデッセイになって、世界を放浪。ゴルフエッセイも書く傍ら、法的に弱いゴルフ場会員たちの権利を守るため、「新理論」を構築。ハゲタカ外資にも正面から闘いを挑み、撃破。最近、ジャズの世界も覗いている。日本ゴルフジャーナリスト協会理事。

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