1. 「視聴者不在のテレビ中継」なぜゴルフは生放送をしないのか

「視聴者不在のテレビ中継」なぜゴルフは生放送をしないのか

小川朗の「現場を照らす」 
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視聴者不在のテレビ中継

月刊ゴルフ用品界2018年5月号掲載


日本ゴルフジャーナリスト協会主催のタウンミーティングがゴルフフェアの初日(3月23日)パシフィコ横浜で開催された。

この日のテーマは「ゴルフを普及するための中継スタイル~曲がり角に来たゴルフ中継! 次の主役はインターネットTVなのか?~」。前JGTO(日本ゴルフツアー機構)大西久光副会長、AbemaTVの編集制作 スポーツ局古川雄太部長、JGA(日本ゴルフ協会)の山中博史専務理事というメンバーが激論を戦わせた。

結果、一つの答えが見えてきた。次代の主役はインターネットTVだ。

地上波の限界

昨年行われたJGTO全試合の視聴率データは前年比1.8ポイント減の平均3.6%。最高が日本オープンと日本シリーズの6.4%と低迷ぶりに歯止めがかからない。その最大原因とみられているのは、多くの試合が録画による放送であること。ライブの緊張感がないことであるという指摘は、以前からあがっていた。

なぜ生中継が実現しないのか。日本のプロゴルフツアーを立ち上げた存在であり、昨年まで副会長の立場で今回のAbemaTV進出に尽力した大西氏はこう指摘する。

「ツアーを立ち上げた頃、アメリカのトーナメント事情を視察したんですが、土地に余裕があり広大な駐車場を用意できるアメリカのようなやり方は(日本では)できないことが分かった。そこでスポンサー方式で、日本独自のやり方を作り上げたんです。

でも、例えば野球にしても、ラグビーやサッカーにしても、一つのボールを追っていればいいわけですが、ゴルフの場合は一回の中継で常時16個くらいのボールを追うわけですね。その分金がかかる」

確かにゴルフの中継はスタジアム内という限られた空間の中で、一つのボールを追う他のスポーツ中継とは明らかに違う。15番、あるいは16番から18番までの広大な空間で、ティーグラウンド、セカンド地点、グリーン上などで2人から3人がそれぞれのボールをプレーしている。カメラ台数もそれなりに必要になり、大型クレーンやヤグラも組む。中継車も入るからスタッフの人員もかさむわけだ。

そうしたリスクをスポンサーがすべて背負い込み、テレビや運営会社に分配するのがこれまでの仕組み。当然スポンサーの発言力は増す。優勝者に主催者のトップがトロフィーや賞金を手渡す場面が放送されるのも、その力関係を如実に表している。そこに「忖度」が生まれる。

大西氏「社長が優勝者にカップなどを手渡すシーンを映したい、という気持ちもあるでしょうが、それによって生中継の醍醐味がなくなるのはどうなんでしょう。生でやって、結果的に放送枠に入らなくても、それは仕方ないと思うんですよ。ファンが望んでいるのが生中継であることは、分かり切っているわけですから」

JGJAタウンミーティング

実は今回JGAの専務理事として登壇してくれた山中氏はJGTOの専務理事も経験している。それだけに両方の組織の裏事情にも詳しい。

山中氏「実は2001年の東建、2006年のアコム、2013年のHEIWA PGMでもインターネットでの放映は行っているんです。で、僕も8時間、9時間しゃべり続け、支配人やグリーンキーパーの方など、いろいろなゲストを呼んでやりました。でもホストテレビ(放映局)との兼ね合いから、放送時間中にやるのはいろいろと難しい点がありました。そこであくまで放送前にやり、テレビ放送につなぐという形でした」

一部の関係者を除き、これほどまでにインターネット放送の試みが行われていたことは知られていない。派手に告知できなかった原因も、スポンサーとテレビ局という「権力者」に対する「忖度」が働いていたのではないだろうか。

トーナメントを放送する「ホストテレビ」に対する「忖度」といえば、最も顕著な例は、トーナメントの録画放送が始まると同時に、ツアーのオフィシャルWebサイトの更新がストップする現象だろう。結果が分かってしまうと視聴者の興味が半減し、放送を見なくなってしまうとの配慮からだ。

しかし、SNSの時代に情報をシャットアウトすることは不可能だ。観客は自由に試合経過を配信できるし、一部のネットメディアは情報を更新している。

山中氏「私もよく海外に行き、日本のツアーのホームページが一定時間更新されないことについて説明しますが、まず理解されません。テレビの事情を説明するのですが、それでも難しい」

情報は早いほどいいのが原則だ。だがキー局の制作サイドがいくら生中継を希望しても、ローカル局にはそれぞれの事情がある。放送時間枠の後に、すでに別番組が組み込まれており、スポンサーもついている。放送延長ができない環境が出来上がってしまっているのだ。

こんながんじがらめの事情を、海外のゴルフ関係者に説明してもチンプンカンプン。結局スポンサーとのしがらみのないNHKが放送するJGAの試合である日本オープン、日本女子オープンなどが、長時間の生中継を実現させている。

そんな中、今年のサイバーエージェントレディスで画期的な試みが行われる。テレビ東京の録画放送中、インターネットで生中継が行われるというのだ。ネット上で先に結果が分かる。

古川氏「サイバーエージェントレディスは弊社が特別協賛という形で関わってきました。で、今回放送されるテレビ東京さんのご理解もあり、放送時間中の生中継が決まりました」

jgjaタウンミーティング

インターネットTVの可能性

各方面から非難の的だったテレビ最優先の状態にようやく風穴が空くわけだ。では、今年から始まるAbemaTVは、具体的にどんなことができるのか。それはまず、NHK以外の地上波がなかなかできないライブ配信だ。

古川氏「1番でスタートしていく全選手のティーショットを放送し、その後最終組を追ってから、17、18番の上がり2ホールの模様を中継します。でもこのスタイルで固定化するわけではなく密着するカメラなどいろいろなやり方があると思います」

従来のトーナメント中継とはかなり違うものになるのは確かなようだ。さらに長時間の放送だけに、挟み込める情報もかなりのものになる。独自の取材映像などで、選手のプライベートタイムや、個人の情報などを伝える試みもあるという。

古川氏「開幕戦は横峯さくら選手に出場をしていただきましたが、この後も『AbemaTV・チャレンジャーズ』と呼ばれるいろんな選手に出ていただきます。JGAの協力をいただき、アマチュアの選手も参加します」

さらに視聴者が直接意見を画像上に掲載できるコメント機能も魅力だ。これはニコニコ動画のような画面いっぱいに流れるスタイルではなく、画面の隅に置かれるという。

古川氏「ゴルフは静かに見なきゃいけないスポーツと思われているかもしれませんが、ネット上ではそういう気兼ねは必要ありません。誰かと一緒にトーナメントを観戦している感覚で、視聴者同士で楽しんでほしい」

視聴者が抱いてきた不満を解消できそうなインターネットTV。離れていったファンが戻ってきてくれるのか。ネット社会で新しいファンを発掘できるのか注意深く見守りたい。

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小川 朗

小川 朗

1960年山梨県甲府市生まれ。甲府一高→日大芸術卒。82年東スポ入社。「世界一速いゴルフ速報」の海外特派員として男女のメジャー大会など通算300試合以上を取材。同社で運動部長、文化部長、広告局長を歴任後今年9月に退社。

フリージャーナリストとして本誌を始め、週刊誌、ニュースサイトなど各方面に執筆中。㈱清流舎代表取締役COO。東京運動記者クラブ会友。日本ゴルフジャーナリスト協会副会長。

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