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練習場経営者「ゴルフ練習場は斜陽産業」発言の衝撃

小川朗の現場を照らす 小川朗
練習場経営者「ゴルフ練習場は斜陽産業」発言の衝撃

廃業。それは経営者にとって、断腸の思いが伴うものに違いない。

昨年秋の大型台風は、ゴルフ界にも大ダメージを与えた。強風で倒壊した複数の練習場や、冠水被害を受けた河川敷のゴルフ場など、いくつかのゴルフ施設が廃業に追い込まれている。

台風15号の突風によりネットごと鉄柱が倒壊した「市原ゴルフガーデン」は、その象徴的な存在だろう。倒壊という最悪の事態を回避する方法はなかったのか。現場を照らす。

廃業が和解への第1歩

鉄柱の倒壊被害に遭った被害住民が、これからも同じ場所に住み続ける条件。そのひとつが、練習場の廃業だった。

市原ゴルフガーデンの鉄柱倒壊は、ゴルフ練習場経営者に重い現実を突きつけている。

27世帯に上る被害者のなかで、最も深刻な被害を受けた坂本高志さんは、こう語った。

「確かに鉄柱が撤去され、オーナーが『もうゴルフ練習場はやらない』と宣言したことで元の家に住み続けよう、と考える方はいると思う。もう鉄柱は見ないで済むわけですから。でもウチは違う。鉄柱はなくなっても、心の傷が癒えない家族の事もあって、五分五分の気持ちです」。

廃業しても、その場所に住み続けることをためらい続ける。それほどこの被害は、坂本家に大きな痛みを与えたということだ。27世帯の被害者にも、類似した感情を抱く人は少なくないはずだ。

最長で41メートル、短いものでも30メートルはある鉄柱13本が約140メートルに渡り根元から倒壊。

住宅20数棟が損壊し、けが人も出た。この時、被害者である坂本高志さんの自宅では、大変なことが起こっていた。鉄柱の1本が天井を突き破り、寝ていた次女の上半身を斜めに横切る形で倒れ込んできた。

肺挫傷のケガを負った次女の救出には「1時間近くかかった」(坂本さん)。鉄柱をなぎ倒した暴風は依然として吹いており、冷たい雨にさらされたことから、低体温症にもなったという。

もう2度とこんな経験はしたくない。それは被害者たちに共通する感情だろう。オーナー側が練習場としての再生を決断すれば、いくら頑丈に立て直されたとしても、再び倒壊する恐怖を拭い去ることは難しい。

ゴルフ業界関係者には皮肉なことだが、被害者側が抱いていたオーナー側への怒りが幾分落ち着いた裏には、練習場廃業の決断が少なからずある。

練習場経営者「ゴルフ練習場は斜陽産業」発言の衝撃

鉄柱が取り除かれたことで、住民たちも安心して自宅に入ることができるようになった。これにより自宅の損傷状況も確認できた。11月2日に新しい代理人が就任したことで、被害者たちはようやく補償交渉のテーブルに着いた。

11月23日に最初の交渉が行われ、翌24日には新しい代理人の一人である秋野卓生弁護士と渡邉陽子オーナーがTKPガーデンシティ千葉(千葉市中央区)で揃って会見。席上、練習場の土地を売却し、住民への補償費用に充てる方針が明かされた。

事件は申立人が㈱市原ゴルフガーデンで、3件に分かれている。人身、建物被害(相手方21名)、ネット飛散被害(相手方6名)、車両被害(相手方8名)に対し、裁判外紛争手続き(ADR)による和解を目指し、これから詳細な被害額が算出され被害程度に応じて交渉が進められていく。

一方でオーナーである渡邉家には介護中の家族と入院中の家族もいる。ゴルフ練習場事業の断念により収入の道が完全に途絶えるため、生存中の生活資金を確保することを代理人は明らかにしている。そのため練習場の売却費がすべて被害者の補償費に回ることはないという。

行政は倒壊の危険を予測

神奈川県横浜市のある練習場経営者も、ドライビングレンジの閉鎖を決めた。

9月9日の台風15号から1か月あまり。10月12日夜、台風19号の強風により、打席から向かって左側のフェンスが倒壊した。だがこの鉄柱は「外側に踏ん張る形で建てられており、練習場側にしか倒れない構造」(経営者)。実際、倒壊はそうした形で起こっており、周辺の住宅への被害はなかった。

横浜市建築局建築企画課は、ネットが下りない練習場をリストアップ。台風19号の接近を受け地域の消防署に対し、状況の事前把握と被害発生時における緊急連絡先の確認を要請した。

これを受けて、台風前日の11日の午後、地元の出張所から職員が出かけこの練習場の経営者と接触。「外周をぐるりと状況を把握し、写真を撮らせていただき、(経営者の)連絡先もお聞きしています」(関係者の話)。

練習場の経営者は「消防署が安全確認に来たんだけどね」とぼやいたが、そもそも消防署は建築のプロではない。「我々はあくまで消防ですので、現場を見に行って、写真を撮って、その内容を連絡することしかできません。ただ(経営者から)『構造的にポール(鉄柱)は内側に倒れるので大丈夫です、と聞いた』との報告は受けていました」(前出の関係者)。

結果的に、鉄柱は経営者の説明通りに倒れた。横浜市の建築企画課も、練習場の危険度は十分に理解していたわけだ。

オープン後50年近いゴルフ練習場は、ネットを降ろすことができないものが多い。建築当時、それで認可が下りていたからだ。市原ゴルフガーデンも、この練習場もその時期に建てられている。

横浜の場合、ショートコースとパッティンググリーンも備えていて、売り上げも年間1億円程度あった。だがドライビングレンジの再建は、すでに断念したという。

「ゴルフ練習場は、斜陽産業となる入り口にいる。今、練習に来てくれているのは70歳前後の団塊の世代です。40、50代のゴルファーは確実に減っている。

再建するとなると2億とか2億5千万くらいはかかる。長年真面目にやってきた。腐食をふせぐために5〜6年に1度、ペンキの塗り替えもやった。それだけでも1回で600万~700万円かかるんです。でもこういう事態が発生して、自然の脅威を感じています。10年先を考えて、やめましょうと。ここで決断しました」。

横浜の場合は市原と違い、近隣に住宅もなく、練習場に対する反対の声はないという。だがそれでも、これから先の経営には自信がもてない。「全部で7000坪ありますから、固定資産税も大きな負担です。やはり他業種に転換するしかないでしょう」。

全日本ゴルフ練習場連盟(JGRA)は、国土交通省の調査チームによる報告をふまえ、全国のゴルフ練習場に注意喚起を行うという。

「ゴルフ練習場という施設が危ないと思われてはいけない」(横山雅也会長)ためだが、すでにマスコミで報道され、世間が抱くイメージはすでに大きくマイナスに振れている。

中途半端な方法では難しい。業界を挙げての一大キャンペーンが必要になる。このテーマでまとまることができなければ、東京五輪以降、ゴルフ業界は一気に没落していく。


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小川朗

小川朗

1960年山梨県甲府市生まれ。甲府一高→日大芸術卒。82年東スポ入社。「世界一速いゴルフ速報」の海外特派員として男女のメジャー大会など通算300試合以上を取材。同社で運動部長、文化部長、広告局長を歴任後今年9月に退社。

フリージャーナリストとして本誌を始め、週刊誌、ニュースサイトなど各方面に執筆中。㈱清流舎代表取締役COO。東京運動記者クラブ会友。日本ゴルフジャーナリスト協会会長。

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