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河川敷ゴルフ場の負けない人々。再生まで、それぞれのドラマ

小川朗の現場を照らす 小川朗
河川敷ゴルフ場の負けない人々。再生まで、それぞれのドラマ

昨年の10月12日。過去最大級の勢力で上陸した台風19号の豪雨は、関東地方の河川敷で営業する多くのゴルフ場を壊滅寸前まで追い込んだ。荒川の水位は戦後3番目となる7m17cmを記録。ゴルフ場は川底に沈み、その上に大量のヘドロが堆積した。

水が引くにつれ惨状を目の当たりにしたゴルフ場の関係者たちは、その後どう動いたのか。悲喜こもごもの、現場を照らす。

消えてはならない「ゴルフ界の財産」

すでにほとんどのゴルフ場が冠水したコースを修復。営業を再開している中、最も深刻な状況に立たされているのが新東京都民ゴルフ場(足立区)だろう。

公式ホームぺージ上では昨年末をもって、営業が終了したと発表されている。

かつては日本オープンなどを制した林由郎が所属プロを務め、弟子である青木功が修行時代を過ごしてもいる。その青木が「日本のセントアンドリュース」と称した歴史あるコースには、9ホールながら年間2万2千人程度の入場者があった。

だが、台風19号のもたらしたダメージは、これまでの比ではなかった。

「今回の場合はコースに堆積したヘドロの量が比べものにならないほどあった。長期間クローズした場合、その分の収入がなくなる。来年以降も再び同じ災害に襲われる可能性だってある。ウチの場合、経営はそれほど楽じゃない。もう立ち上がれない」(同コースの取締役支配人を務めていた三島徹男氏)。

足立区から委託された施設管理棟の権利が返上され、通常であればゴルフ場は完全消滅する流れだが、ここに来て存続への可能性がわずかながら見えている。

「6つの業者が候補として浮上しました。うち2つはすでに断念していますが、残りの4業者は検討中だと聞いています。ヘドロや水が溜まりやすいコースに盛土をして、これまでのような被害を回避したうえでの再開を検討している2社と、現状のままコースを再整備して引き継ぐことを検討している2社がいます」(足立区都市建設部関係者の話)。

2月中に足立区新田エリア内の町会長などによる「第9地区新田まちづくり連絡会」の希望を聞き、今後の用途を検討。ゴルフ場の続行という方針が決まれば、管理運営業者をプロポーザルによって受け付けるという流れになる。

河川敷は国土交通省が管理しており、実際の所、ゴルフ場として河川敷の占用許可を、民間の業者が新たに得ることはまず無理な状況。足立区のような自治体や公益法人などに出されているのがほとんどだ。

新都民の場合は足立区が公園の一部となっているゴルフ場の管理を、指定管理者に委託している形。新たな管理者さえ決まれば、続行へのハードルは新規参入に比べればないに等しい。

何といってもその魅力は、23区内にある、数少ないゴルフ場であること。JR京浜東北線赤羽駅からタクシーや都営バスで15分。ゴルフ場を手掛けている業者なら、魅力的な物件に映ることは確かだ。

ゴルフ史においても、重要な存在だ。同コースの開場は1955年。チャールズ・ヒュー・アリソンの設計理論を廣野GCで受け継いだ名匠・上田治が設計した。

1932年、多摩川の東京側河川敷に六郷ゴルフコースを造り、東京ゴルフ倶楽部の前身となった秩父カンツリー倶楽部、京都ゴルフ倶楽部上賀茂コース、茨城ゴルフ倶楽部など多くのゴルフ場を手掛けたゴルフ界の巨人・安達貞市氏との関係も深い。

その安達氏が心血を注ぎ、一時は富士、筑波両18ホールを擁した東京都民ゴルフ倶楽部が、このコースの前身なのだ。

64年の歴史がここで途切れることは、日本のゴルフ界にとっても大きな損失となる。

経験を生かし、鮮やかに立ち直ったコースたち

国土交通省関東地方整備局荒川下流河川事務所は、東京湾の河口から30㌔遡った笹目橋までを管轄している。この間の河川敷に、廃業の危機に直面した新都民を含めた4コースがある。

その新都民に次いでダメージを引きずったのが川口パブリック(埼玉県川口市)。こちらも1954年オープンの老舗だが、台風19号のダメージは大きく、1月9日の取材時点でも「復旧工事はしているが、再オープンの時期は分からない」(コース関係者)という状況だ、

その少し上がった上流にある川口市浮間ゴルフ場(同)も、9ホールながらアウト・イン違うグリーンを回るスタイル。高麗グリーンが18面あり、そこにかぶったヘドロを可動式消防ポンプ10台で飛ばした。

それでも復旧は12月12日と最も遅い部類に入る。このコースは川口市内にある16の公園を管理している公益財団法人の川口市公園緑地公社が運営。「オープンが遅れても、完全にきれいにすることを最優先に考えた」(北川とも子事務局長)のは、休業が直接営業収入に響くため一刻も早く再開しなければならない民間業者とは少し趣を異にする。

4コースのうち、最も早いリスタートとなったのは赤羽ゴルフ倶楽部(東京都北区)。消防車3台、動力ポンプ1台を駆使してヘドロを飛ばしたが、新都民と同じ右岸側で距離もさほど離れていないため、被害状況も同様に酷かった。

「いつ終わるんだろう」(松澤淳二支配人)と苦しい思いを抱きながらの57日間。その末の、12月7日に再オープンへとこぎつけている。

しかし隣接する63打席240ヤードの戸田橋ゴルフ練習場のオープンは年明けどころか2月までずれ込んだ。その現実が今回の被害がいかに甚大だったのかを物語る。

荒川ではなく、利根川河川敷だが10月27日という、驚異的なスピードで再オープンを成功させたのが、セグウェイでラウンドできることで有名なアジア取手カントリー倶楽部(茨城県取手市)。冠水前に185台あるセグウェイを高台に上げ台風の襲来に備えた。

冠水後の対応が鮮やかだ。翌日からは水が引くのも待たずに「胴長を着けて、舟も使って」復旧活動をスタート。これはまだ滞留している水を効率的に使い、顔を出している砲台グリーンとティーイングエリアを洗っていくためだった。「オープン2日前の豪雨が余計でした」と齊藤喜栄子支配人は残念がるが、これまでの経験を見事に生かした再生オペレーションであったことは間違いない。

設備を迅速に撤収し、通過後は鮮やかに立ち直る。こうしてみると、どのゴルフ場も過去の経験を活かし、効率的に作業を行い再開へと結び付けたことが分かる。鮮やかな復活劇は、進化を続けるリバーサイドゴルフ文化の産物ともいえよう。

全日本ゴルフ練習場連盟の横山雅也会長は、昨年6月から多摩川ゴルフ倶楽部(神奈川県川崎市)の経営にも携わっている。

多摩川も台風19号での前日から11月20日までクローズした。いきなり大きな試練に見舞われたわけだが、経営者の立場からしみじみと、こう語る。

「(河川敷ゴルフ場の経営を)やり始めて感じるのは、ゴルファーにとって多くの方が住んでいるエリアで、簡易的にできること。ゴルフを始める人にとっては立地も良くて安価でできるから、最初のステップとして最適です」。

家からぶらりとやって来て、安い価格でのんびり回れるのが河川敷。ゴルフを始めるためには絶好の環境ということだろう。

河川敷コースの減少に歯止めをかけ、いかにして増やすか。ゴルフ界全体で考えるべき問題に思える。


この記事は弊誌月刊ゴルフ用品界(GEW)2020年2月号に掲載した記事をWeb用にアップしたものです。なお、記事内容は本誌掲載時のものであり、現況と異なる場合があります。

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小川朗

小川朗

1960年山梨県甲府市生まれ。甲府一高→日大芸術卒。82年東スポ入社。「世界一速いゴルフ速報」の海外特派員として男女のメジャー大会など通算300試合以上を取材。同社で運動部長、文化部長、広告局長を歴任後今年9月に退社。

フリージャーナリストとして本誌を始め、週刊誌、ニュースサイトなど各方面に執筆中。㈱清流舎代表取締役COO。東京運動記者クラブ会友。日本ゴルフジャーナリスト協会副会長。

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