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メーカーの契約発表からも垣間見える当世ジュニア事情

小川朗の現場を照らす 小川朗
メーカーの契約発表からも垣間見える当世ジュニア事情

高級ホテルの宴会場で、華やかに行われるプロゴルファーとメーカーの契約発表記者会見。しかしここまでの道のりには、多くの闇が潜んでいる。

保護者の体罰、スコア最優先の指導、メーカーによる洗脳工作、地区連盟関係者との大名旅行。周辺にはゴルフ振興金というブラックボックスも存在する。ジュニア育成の現場を照らすと、子供をスポイルする困った大人たちが、確かに存在する。

グリーン車で高級ホテル泊

「新幹線はグリーン車だったし、ホテルも豪華。食事もすごくおいしい焼肉でした」。

国民体育大会(以下国体)から帰ってきた高校生の教え子に、国体出場の感想を求めたインストラクターは、こんな返事を聞いて仰天した。

某県代表として、国体のゴルフ競技に出場した教え子の待遇は、まさにVIP級。移動の新幹線はグリーン車、宿泊は高級ホテル、夕食はチームで豪華な焼肉パーティーとくれば、高校生にとってはまさに天国の様な遠征だったに違いない。本人は嬉嬉として、ゴルフの師に報告したわけだ。

インストラクターのAさんは言う。「本当なら私が自ら告発すべきなのですが、教え子たちの今後を思うと、それもできない」と苦しい胸の内を明かした後、こう続けた。

「子供に贅沢させる必要はないですよ。引率する大人が大名旅行をしたいだけ。勘違いも甚だしい」。Aさんは憤りを隠せなかった。

この連載の第3回にも書いたのだが、国体はもともとゴルフ振興金と縁が深い。開催が決まった時点で、それぞれの都道府県では「○○国体を成功させよう」という内容のスローガンが掲げられ、インフラと選手の育成・強化プロジェクトがスタートする。

それには当然、金が要る。そこで一般ゴルファーに、1ラウンド数十円単位で負担してもらおう、という発想が生まれる。「国体準備協力金」という名目が、国体開催県のゴルフ場でプレーしたゴルファーの明細書に、さりげなく紛れ込むようになる。おらが国の国体のために、ゴルファーの皆様もひと肌脱いでよ、というワケだ。

問題はこの後だ。国体をうたい文句に「30円や50円ならいいだろう」とスタートして、開催後も制度自体が名称を変えて生き残るケースが多いのだ。せっかくこんなにおいしい集金システムができあがり、ゴルファーからも文句が来ないのだから、今更手放せるか、というわけである。

その結果、「国体準備協力金」は「ゴルフ振興金」などと名を変えて、存続し続ける。2016年のデータでは、47都道府県のうち実施していないのがわずか12団体。1ラウンドあたり70円から20円程度が徴収されていた。

だが、プレー代に占める割合が非常に小さいため、これに気付くゴルファーは多くない。単なる任意団体である県レベルのゴルフ連盟は、使途の配分をディスクローズしろとの指摘を受けることも、ほとんどなかった。

体協が交通費を負担

これに乗じて、やりたい放題の大人は確実にいる。こうした輩がはびこる裏には、行政の問題がある。

国体を開催する日本スポーツ協会(JSPO=旧日本体育協会、2018年4月1日から名称変更)は、同時に各都道府県の体育協会を統括する。国体への選手派遣に、各体育協会が深く関わるのは当然だ。ゴルフの場合、国体に派遣される都道府県代表の選手選考を直接行うのは該当する都道府県のゴルフ協会だ。県内の予選だけでなく地方レベルの2次予選もある。こういう場面で中学、高校生の部の代表候補を引率するのが、各県のゴルフ協会の面々だ。

実際に、大名旅行を行っていたとされる県のゴルフ協会に直接聞いてみると、こんな答えが返ってきた。「国体の派遣には、体協が交通費を負担してくれます」。単なる任意団体が多いゴルフ連盟にとっては頼れるスポンサーでもあるワケだ。

だがその金額にはバラつきがある。前年の成績が各競技への配分に反映されるからだ。ゴルフのライバルは約50競技にも上る。その場合、足りない分が振興金から補てんされてもいる。

それはいいとしても、情報開示が迫られず監視の目が緩いから勝手が許されるわけでもない。ゴルファーから徴収している以上、使途をハッキリ示す姿勢は必要だ。

モニター制度で「洗脳」されるジュニアたち

贅沢すぎる遠征の待遇だけでなく、ジュニアを取り巻く環境は健全とは言い難い。見逃せないのは、ジュニアに対するモニター制度だ。

有望選手たちは、総じてクラブの供給を早い段階で受けている。契約発表の場で「小学校の頃からA社のクラブを使っていましたから」と契約の理由の一つに挙げるのは、それほど珍しい話ではない。すでに小学校の段階で「青田買い」は始まっているのだ。

あるインストラクターが、こんな話をしてくれた。

「プロ入りした選手たちは、すでにジュニアの頃からクラブの供給を受けています。長い年月の中で『このクラブ以外を使ってはいけない』と洗脳されちゃっているんです。だから僕は他のメーカーのクラブも、プロ入り前に使ってみることを薦めています」。

小さいころからクラブの供給を受けているため、そのメーカー一筋でプロのレベルにまで達するゴルファーは少なくない。「だから他のクラブで打ってごらん、と言っても『私ごときがクラブのことは言えません』と尻込みするプロもいます」と明かした。

様々なクラブを試していないから、クラブに関する知識も、新しいものを試そうとする柔軟性もない。「実際打たせてみても、違いの分かる子と、分からない子がいる」というのが実態だ。

クラブを過剰に供給されることの弊害は別の形でも出る。感謝の気持ちをなくしてしまうのだ。あるジュニアは表彰式に遅れてきた挙句雑談を始め、仲間に「今のクラブ、気に入らないけど、頼まれたから使ってやってるんだ」とうそぶいたという。周囲にいる出来の悪い大人が、このジュニアを増長させてしまったに違いない。

そこに至る重要な要素として介在しているのが、親の存在であろう。インストラクターたちからは親たちが、スコアの悪かった子供に体罰を与えていたという目撃証言が多い。

あるツアープロの目撃談だが、結果的に実際のスコアカードを隠し、スコアを改ざんした別のスコアカードを親に見せる子供までいるという。

まずは人間教育から入るべきなのに、最初の段階で実績主義となるから、ゴルフを楽しみながら成長していくパターンにはならない。隆盛を極める女子プロゴルフ界でも、早々と引退する選手が多いのは「実はゴルフはそれほど好きではないんです」という本音の裏返しだと指摘する声は多い。

中学生の頃、ゴルフの試合で授業を欠席することが多くなると、それだけでいじめの対象になったという例も珍しくない。ある有望選手は平日でも練習場に通いつめ、登校していないという証言もあるほどだ。

国体会場に向かうグリーン車でふんぞり返る大人の姿を見て、一緒に移動している子供が、いい影響を受けるはずがない。豪華なホテルに泊まって高価な食事をすることも同様だ。

子ども達の姿は、世の大人の鏡だと、もう一度厳しく自覚すべきではないか。


この記事は弊誌月刊ゴルフ用品界(GEW)2020年3月号に掲載した記事をWeb用にアップしたものです。なお、記事内容は本誌掲載時のものであり、現況と異なる場合があります。

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※記事トップに使われている画像はイメージであり、本文中の内容とは関係ありません。


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小川朗

小川朗

1960年山梨県甲府市生まれ。甲府一高→日大芸術卒。82年東スポ入社。「世界一速いゴルフ速報」の海外特派員として男女のメジャー大会など通算300試合以上を取材。同社で運動部長、文化部長、広告局長を歴任後今年9月に退社。

フリージャーナリストとして本誌を始め、週刊誌、ニュースサイトなど各方面に執筆中。㈱清流舎代表取締役COO。東京運動記者クラブ会友。日本ゴルフジャーナリスト協会会長。

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