このままでいいのか? JGAゴルフミュージアム
小川朗
山梨県甲府市生まれ。甲府一高→日大芸術卒。82年東スポ入社。「世界一速いゴルフ速報」の海外特派員として男女のメジャー大会など通算300試合以上を取材。同社で運動部長、文化部長、広告局長を歴任後独立。フリージャー...
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JGA(日本ゴルフ協会)ゴルフミュージアムをご存じだろうか。関西の名門・廣野ゴルフ倶楽部(兵庫県三木市)のクラブハウス脇に、ひっそりとたたずんでいる。ここにはゴルフファン垂涎の品々が所蔵されており、我々ゴルフジャーナリストにとっても貴重な資料が豊富にある。しかしながらその利用者はごくごく限られており、宝の持ち腐れになっているのが現実だ。60回での連載終了を前に、あえて声を上げることにした。
この記事は弊誌月刊ゴルフ用品界(GEW)2021年3月号に掲載した記事をWeb用にアップしたものです。なお、記事内容は本誌掲載時のものであり、現況と異なる場合があります。 月刊ゴルフ用品界についてはこちら
ゴルフジャーナリストには宝の山
日本におけるゴルフ文化のルーツは関西にある。ゴルフの歴史に触れたければ、まずは神戸に行かなければ始まらないのだ。 ゴルフ週刊誌で「ゴルフ場を造った男たち」というタイトルの連載が決まると、当然のことながら関西に出かけていく機会が激増した。 ご存知の通り、日本のゴルフ場第1号は1901年に4ホールでスタートした神戸ゴルフ倶楽部だ。前出の連載では2019年の4月24日号から4回に渡り同コースの創始者であるアーサー・ヘスケス・グルームについて掲載した。 その後1コース3~4回のペースで17コース取り上げた。東京GCの井上準之助、雲仙の倉場富三郎、門司の出光佐三、横屋のW・J・ロビンソン、鳴尾のクレーン兄弟、程ヶ谷の森村市左衛門、舞子の南郷三郎、茨木の廣岡久右衛門と加賀正太郎、京都・上賀茂の安達貞市、霞ヶ関の発智庄平、唐津の高取九郎、川奈の大倉喜七郎、三田の佐藤満、仙石の山口正造、宝塚の小林一三、廣野のチャールズ・ヒュー・アリソン、我孫子の加藤良……。 ゴルフ場の現地取材が最優先。これに加えて、事前の資料調べでJGAゴルフミュージアムを訪れる必要が生じた。 廣野ゴルフ倶楽部のコースからクラブハウスに向かって左側、2階建ての館内には、世界的にも貴重な展示品が約2000点も展示されている。ゴルフミュージアムとしては、世界で3番目の規模だと、同ミュージアムの公式ホームページで紹介されている。 展示品の中にはマッセルバラやセントアンドリュースで200年以上も前に使われていた「ロングスプーン」と呼ばれるクラブなども間近に見ることができる。 日本となじみの深い伝説のグランドスラマー、ジーン・サラゼンのクラブもある。クラブだけではない。ここに来ればゴルフボールの起源から発達の過程が一目で分かる。古いものから新しいものまで、すべての種類のボールが展示されているからだ。 1階には宮本留吉のゴルフ工房が再現されているコーナーのほか、廣野GCや川奈ホテル富士Cを設計したアリソンの流れを汲む井上清一、上田治が描いたゴルフコース設計図なども展示されている。将来ゴルフ場設計家を志す人にも、ぜひ来てもらいたい場所だ。 我々ゴルフジャーナリストにとって忘れてはならない存在である伊藤長蔵が発刊した日本のゴルフ雑誌第1号である「阪神ゴルフ」の創刊号(1922年4月25日号)も展示されている。ゴルフの記事で生計を立てている人間であれば、一度は訪れておかねばならない場所でもあろう。 日本のゴルフの潮流を造った巨人たちの紹介コーナーも圧巻だ。神戸の創始者・グルームが愛用していたクラブなども展示されている。鳴尾を造ったクレーン兄弟のコーナーもある。 赤星四郎・六郎兄弟などの愛用品も展示され、日英皇太子によるゴルフ対決のコーナーもある。先達たちのゴルフに対する情熱が、写真のパネルや展示品から見る者に伝わってくる。ゴルフの素晴らしさを再認識できる場所だ。 むしろゴルフを知らない人にこそ、来てほしい施設だということもできる。これをきっかけに、ゴルフを始めてみる気にもなってもらえるはずなのだ。ショーケースから伝わってくる怒りの声
まさしく宝の山で、機会を見て出かけては日がな一日、奥の資料室で調べものに没頭した。西村貫一コレクションを始めとする貴重な文献の数々には、ゴルフ週刊誌で60回に渡る連載を続けていく上で、大いに助けられた。 もともとオタク気質が強いから、新聞社に潜り込めた部分もある。自身にとっても、ミュージアムの奥にある資料室に座り、たった一人で資料を読み漁っては書き写す間が、まさに至福の時だった。 だが通い詰めるうちに、疑問を感じるようにもなった。一日中こもっていても、この素晴らしいミュージアムを訪れる方に、一度もお会いしないのだ。 館内はしんと静まり返り、物音ひとつしない時間が流れていく。仕事には集中できるのだが、この贅沢な空間を独り占めするうちに、なんだか申し訳ない気分になってくる。 さらに何度かミュージアムを訪ね、1人で過ごしていると、ゴルフの巨人たちから発せられている怒りの声を感じるようになった。 「なぜ誰も来ないのだ」。ショーケースに収まっている巨人たちは、おそらくそう感じているのではないか。 ここにあるのは、日本のゴルフ文化そのものである。ゴルフ好きなら、一度は見ておきたい逸品がいくつもある。ゴルフの歴史に興味がある方も、スポーツジャーナリストを志す方にとっても、ここにある資料は非常に大きな意味を持つものばかりであるはずだ。 しかし告知が足りないため存在そのものの認知度が低い。このミュージアムは1979年、JGA創立55周年の事業として、設立されたもの。 4年後の1983年には(当時の)乾豊彦JGA会長と摂津茂和史科委員長のテープ・カットにより盛大な開会式が行われたそうだ。その後のPR不足からか、このミュージアムの存在を知る人はゴルフ業界でも多くないのが現実だ。 足の便の悪さもネックとなっている。神戸・三ノ宮から電車で広野ゴルフ場前まで行こうとすれば、約1時間というのが通り相場。梅田からも約1時間半近くかかる。 敷居の高さも問題だ。廣野ゴルフ倶楽部の敷地内、入り口から見るとクラブハウスの向こう側、奥の方に位置している。気軽に入っていくには相当な勇気がいる。 そんなこともあって、昨年、このミュージアムを訪れた人は339人にとどまっている。あまりに寂しい数字ではないか。果たしてこの場所でいいのか。真剣に検討する時期が来ているように思う。 ■画像:JGAゴルフミュージアム(写真提供・清流舎)■小川朗の目
今、ゴルフ練習場に若者が増えている。スポーツジムやボウリング、ダーツバーなどのインドアレジャーから、密にならずオープンエアで楽しめるゴルフへと移行しているのが原因だそうだ ▼感染リスクを避けられるスポーツとしてゴルフが認められたことは、ゴルフ関係者にとっては喜ぶべきこと。しかしこれを一過性の物に終わらせないことが大事なのは明白だ ▼ゴルフに興味を持ってもらうために、文化的側面からアプローチすることは大事だろう。そういう意味では、ゴルフミュージアムが持つお宝の数々は魅力的だ。本文にも書いたが、ゴルフに触れたことがない人にこそ、来てほしい場所なのだ ▼それだけに2000点のお宝が持ち腐れの状態になってしまっているのは何とも惜しい。ここにあるお宝の10分の1でいいから、トレーラーに積んで全国を回り展示することはできないものか。手始めに3オープンの会場で展示してはどうか。 あるいはこのミュージアムから、動画配信などで情報を発信することはできないのか。それができないのなら、真剣に移転を考えるべきではないだろうか。■プロフィール
小川 朗(おがわ・あきら) 山梨県甲府市生まれ。甲府一高→日大芸術卒。82年東スポ入社。「世界一速いゴルフ速報」の海外特派員として男女のメジャー大会など通算300試合以上を取材。同社で運動部長、文化部長、広告局長を歴任後独立。フリージャーナリストとして本誌を始め、デイリースポーツ、日刊ゲンダイでも連載中。㈱清流舎代表取締役COO。東京運動記者クラブ会友。日本ゴルフジャーナリスト協会会長。「みんなの介護」にも連載し、終活ジャーナリストとしての顔も持つ。自殺予防学会会員。この記事は弊誌月刊ゴルフ用品界(GEW)2021年3月号に掲載した記事をWeb用にアップしたものです。なお、記事内容は本誌掲載時のものであり、現況と異なる場合があります。 月刊ゴルフ用品界についてはこちら
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