ダメージコントロールがシニアのゴルフ離れを救う
塩田正
昭和7年、千葉県生まれ。昭和31年東京教育大学(現筑波大学)体育学部卒業。体育心理学専攻。同年(株)ベースボールマガジン社入社。ゴルフマガジン誌編集長を経て独立。会社役員、短大講師を兼ねながらゴルフライターとし...
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「ストロークプレーは、全てのゴルファーにとって、さながら頭上に釣り下がるダモクレスの剣の下でプレーするようなものである」
これは作家の摂津茂和さんが「ゴルフ名言集」(1972年刊=鶴書房刊)に採り上げたバーナード・ダーウィンの言葉である。
ダモクレスの剣とは、ギリシャ神話に出てくる話で、現在のシチリア島を治めていたデオニシウス2世(紀元前430~367年)とその家来であるダモクレスが絡んだ逸話によるものである。
デオニシウス2世はある宴会で、彼の権力とその栄光を羨むダモクレスを呼び、王座に彼を座らせた。彼はそのとき、頭上に細い毛髪のような紐で吊るされた剣を発見する。
「王者はいつも幸福というわけではなく、常に危険と隣り合わせている」ということを、暗に家来のダモクレスにさとしたという古事にもとづくものである。
イギリスで最高のゴルフ評論家バーナード・ダーウィンが、なぜストロークプレーにこの言葉を使ったのかというと、1ホールごとに勝敗を決めていくマッチプレーと違って、ストロークプレーでは1ホールで二桁以上も打つことがあって、こうなるともう取り返しがつかなくなるというところから、ダモクレスの剣にたとえたのであろうと、摂津さんは説明している。
ゴルフが面白くなくなる
前説が長くなってしまったが、ゴルフも老齢の域に達してくると、1ラウンドに何回もダモクレスの剣が頭上に落ちてくる。 そのためにスコアカードには、8とか9といったスコアが何個も書き込まれるようになる。 最近の米ゴルフダイジェスト誌に、マリナ・アレックスさん(LPGAツアープロ)が「ダメージコントロール」と題して、一文を載せている。その書き出しにも「一つの曲って飛ぶショット、1回のショートパットのミス、そしてあるホールでの大たたきなどが、時としてそのラウンドを台無しにしてしまう」と書いている。 今の日本でのゴルフといえば、ほとんどがストロークプレーによる競技だ。もちろん塩ジイも所属クラブの競技会を敬遠するようになってから、マッチプレーのラウンドをしたことがない。それだけに、1ホールで二桁に近いスコアになる確率も高くなるわけだ。 さらに、高年齢層のゴルファーにとっては、運動能力や集中力の衰退により、一層、ワンホールでの大たたきの回数が多くなるのも当然である。 ゴルファーにも個人差があるが、さすがに80歳近くなると、ゴルフ場に姿を見せなくなる人が目立って多くなる。その理由は、疲れて18ホールを回れなくなったなどの健康面の問題。あるいは、「ボールも飛ばないし、自分でも考えられないようなスコアを叩く。ゴルフが面白くなくなった」といったのも多く聞く。 足腰が弱って1ラウンドを回れなくなったというのは、お気の毒というしかないが、問題は後者の「ゴルフが面白くなくなった」というケースである。 シニアゴルファーにとって、飛距離が落ちるのは仕方ないとして、スコアが悪くなるというだけで、長い間親しんだゴルフをやめてしまうのはいかにも惜しい気がする。 こんな話を聞くと、マリナ・アレックスさんが唱えるダメージ・コントロールこそ、70歳過ぎのゴルファーにとって、必須の研究課題のように思えてくる。もしここで高年齢ゴルファーが遭遇する多くの難ショットに、ダメージコントロールが働いて、二桁に近いストロークを少しでも減らすことができれば、ゴルフに興味を繋ぎとめておくことができるかもしれないからだ。ミスショット回避術
塩ジイは長い間ゴルフを続けてきたことで、なんとなくショットが悪くなったときには「こうすれば、このミスショットを修正できる」というコツをいくつか身につけている。塩ジイなりのダメージコントロールである。 今でもウッドやアイアンで、時々出るのがダックフック(通称チーピン)だが、これが出たときには、塩ジイ自身の方法で修正することがある。 具体的には前のホールでティーショットを左のOB地帯へ打ち込んでしまったときである。 ここで塩ジイはティーショットの前に、右肩をトップの位置にキープしたまま、両手をストンと落とすダウンスウィングを2、3度やってみる。それからボールに向かってアドレスに入るようにしている。 この一瞬右肩を止めて、両手を体の右サイドへ落下させる動きで、塩ジイの欠点であるダウンスウィングでの右肩の早い開きと、力の入りすぎた振り降ろしが矯正され、ダックフックの危険を回避できるようになるのである。 あるいはアイアンショットでも、トップ病に襲われたときは、構えたときの背骨を地面に対して垂直にし、左足荷重になるようにチェックする。これでボールの頭を叩く軌道から、ボールの先の芝を削り取るダウンブローへの軌道に修正することができる。 そんなことが分かっていれば、いつもそのように打てばいいではないかと思われるかもしれないが、老齢でアマチュアゴルファーの悲しさ、危険なホールや、ここが勝負といった場面になると、つい悪い癖が出てしまうのだ。 だがここへきて、有難いことにM・アレックスさんのいうダメージコントロールのお蔭で、これからもダモクレスの剣の下でのゴルフが続けられそうである。おすすめ記事
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