1. ゴルフとSDGs

ゴルフ場と3世代コミュニティが合体することで 超高齢社会にもSDGsにも対応

ゴルフとSDGs ゴルフ場 小川朗

コロナ禍は都市部への一極集中から、郊外分散型へのシフトを生んだが、千葉の「ブリック&ウッドクラブ」はとっくにその先を走っていた。ゴルフ場を中心に実現したコミュニティーは、2025年の構築が目標の「地域包括ケアシステム」の課題をクリア。さらに2030年がゴールのSDGsの諸条件にも多くがあてはまる。ニッポンが今目指すべき、理想の形がここにあった。

5月30日の日曜日、午前9時半。クラブハウスのテラスから見える練習グリーンでは、住民の子供たちが初夏の日差しを浴びながら、ジュニアクリニックに参加していた。初めてクラブを握る子も多い。所々から歓声が上がる。

ゴルフが生活の中に溶け込んでいる。クラブハウスやその周辺には犬が何頭もいて、のんびり昼寝を楽しんでいる。リード付きなら愛犬と散歩しながらのプレーもOKだ。住居エリアには共用のアプローチ練習場もある。所属プロもいて、レッスンも受けられる。

ブリック&ウッドのファウンダーでもある坂征郎顧問が、歓声を上げる子供たちに目を細めながら、こう語る。「当初は(テレビドラマの)『やすらぎの郷』のような高齢者施設になるのかと思いましたが、今は3世代が楽しめるコミュニティーとなっています。おじいちゃんとお孫さんがラウンドしたりね。世界ジュニアで優勝する選手までいますから。そういうレベルにあるお子さんが、5人くらいいます。プロたちとアプローチ合戦をして、勝ってしまう子供もいますから」。

子供たちにも絶好の練習環境が提供されている

敷地内にはすでに90棟の住宅が完成しており、近日中には130棟になる。ゴルフ場に付帯したテニスコート、プールもある。コミュニティーを構成する人々の平均年齢を聞いて驚いた。「おそらく、今は40代くらいになると思います」。親世代の70代、子世代の40代、孫世代の小中学生。こうした平均的な3世代同居も少なくない。

首都圏一極集中が当然だった時代なら、こうはならなかったはずだ。現役世代が郊外と都市部の2拠点居住という選択肢を視野に入れたことが大きい。長時間の通勤時間から解放されるばかりか、自然に囲まれた環境でのびのびと暮らすことができる地方移住が見直された。

企業側にも、都心に本社を構えていることのメリットが、薄まった。社員が出勤してこないのであれば、高いオフィス賃料を払い続ける必要はない。大規模災害への対策としても、郊外への移転は一つの選択肢。サザンオールスターズなどをマネジメントするアミューズが山梨へ、人材サービス大手のパソナが淡路島へと、郊外移転を選択するケースも珍しくなくない。これにより、職住接近が郊外移住と直結した。

すでに90棟の住宅が完成している

Aさんは木曜と日曜の休日を利用し、週に4日間はブリック&ウッドの自宅で過ごす。休日明けの月曜日、約1時間かけて自分が経営する都内へ。3日間勤務し水曜日の夜、ブリック&ウッドに戻り木曜日は休日を満喫。金曜朝に出勤し、土曜の夜にまた帰宅する。都内には月、火、金と3泊。千葉には水、木、土、日と4泊するバランスの取れた2拠点居住をを続けている。

リモートワークに振り替えやすい職種であれば、選択肢は増える。その一方で、30年後の日本は人口が8000万人まで減り、社会を支える現役世代は半分の4000万人となるといわれる。働き手が減り、1人が1人を支える異常な人間ピラミッドが出来上がる。介護・医療の分野で国の財政を圧迫されていく。介護崩壊・医療崩壊も現実味を帯びる。

そこで掲げられているのが「地域包括ケアシステム」。これは団塊の世代が75歳以上の後期高齢者となる2025年のシステム構築を目標にした厚労省が推進している支援・サービス提供体制のこと。要介護状態になっても住み慣れた地域で自分らしい暮らしを人生の最後まで続けられることが目標。「地域」とされる範囲は概ね30分程度で必要なサービスが提供される「中学校区」とされる。

現段階でも、ブリック&ウッドと地域医療の連携体制も築かれ始めている。「ここから車で10分の牛久の町には、夜番のお医者さんが白衣を着たまま待機してくれています。何かあった時には対応してくれることになっています」(坂さん)。住民に医師が増えれば、コミュニティー内における診療所の設置も現実味を帯びる。在宅医療と在宅介護。これは世界一のスピードで超高齢社会へと突き進む日本が取り組まざるを得ない最重要テーマだ。

コミュニティー内に訪問看護ステーションを設置する計画もあるという。「入居予定の家族の奥様が、看護師の資格をお持ちなので、ケアマネージャーの資格も取っていただけるといいですね」。医療と介護、両方の分野に強い人材がいてくれれば心強い。

坂さんが続ける。「去年の1月にインドに行った際、ナースの資格を持っていて注射も現に打っている方々の多くが、来日を希望してくれたんです。30~40人はいらっしゃいましたね。フィリピンなどからもレストラン、農業の仕事で来日を希望してくれています。こうした人材を確保して養成していくことができるかどうかも研究課題です」。

ブリック&ウッドの最も大きな特徴は「メンバーが運営するゴルフ場であることです。お金が足りなくなれば、メンバーが補填する、というのが目標値です。メンバーによるメンバーの為のクラブ」(坂さん)。現在約30人のメンバーによる理事会・役員会が中心となり、集団で経営を進めているという。

コミュニティ内にある養蜂場

注目すべきは経営基盤を支えるために会員が協力する「ミニマムユース(最低消費額負担制度)」だろう。会員は年会費と、1年間にゴルフ場で使う金額を「S」「A」「B」「C」の4コースの中から選択する。

たとえばSクラスを選択すると、年会費36万7000円を払い、年間「消費目標」は80万円になる。会員のプレー代は無料になり、ビジター3人を連れてきた場合でプレー代、食事代で1日5万円を使う計算なら、これを20回繰り返せばノルマ達成だ。

Aクラスになると普通会員の年会費15万2000円で消費目標は半分の50万円。Bクラス、Cクラスになると年会費も目標額も下がっていく。ノルマを達成できなければ不足金はメンバー自らが、優待チケットを購入する形で補填する。プレー代はAクラスが6350円、B・Cクラスが9400円となっている。

すでに民泊の設備もあり、ホテル建設の計画も進行中。ソーラーパネルによる大規模太陽光発電も行っている。家屋の建設資材も敷地内で切り出し、製材までしている。無農薬野菜も生産し、養蜂場まである。植栽部会は蜂が好む木々を植え、造成後の敷地全体が生物多様性につながる里山にもなった。国連加盟193か国が2030年にゴールを定めたSDGsの条件にも多くが当てはまる。

ゴルフ場を核としたコミュニティーは、地域社会にも大きな貢献ができる。

■取材後記
オーガニック野菜がクラブハウス内の販売スペースに並べられていた。無農薬で生産する野菜は手間も人手もかかる。坂さんは「赤字が出ます」と言ってから、こう続けた。「子供たちの健康のためには、この方がいい。市販されているものには、たいてい農薬が使われていますから」
▼プラスチック製品が生み出すマイクロプラスチックを食べた鳥や魚から、有害物質を人間が取り込む。生物多様性が叫ばれる中、廃プラがもたらす健康被害の連鎖は深刻だ。赤字でも、無農薬野菜にこだわる目線は、環境問題をゴルフ場というコミュニティーの中から改善していこうとする意欲の表れだ
▼特に印象に残ったのが「人の手が入った土地を、里山にしていきたいんです」という坂さんの言葉。住宅のすぐそばに、養蜂用の木製巣箱が、4つ、並んでいた。近くの住人が笑いながら言う。「大丈夫、刺しませんよ」。周辺には、蜂が好む木々が植えられるという。ゴルフ場の中で、多様な生物が共存する環境が整えられつつあるわけだ
▼SDGs17目標の中の、少なくとも5つの条件に合致するブリック&ウッド。まだまだ多くの可能性を秘めている。

■データボックス
ブリック&ウッドクラブ
▶2000年開場
▶コース設計 デスモンド・ミュアヘッド 18ホール・パー72
▶総面積32万平方メートル
▶〒290-0558 千葉県市原市山口
▶電話 0436-98-1330(火曜日・休場日を除く8:00〜18:00)
▶アクセス 車 東京から75分 品川から60分 横浜から60分
リムジンバス 羽田空港=市原鶴舞BS 50分
成田空港=市原鶴舞BS 60分
市原鶴舞BSから4km(10分)
圏央道木更津東ICから11km(15分)
小湊鉄道・上総牛久駅下車 タクシー15分
▶テニスコート 1面
▶プール
▶ウエディングチャペル
▶レストラン=120人収容可能なボードルーム
▶ラウンジバー/オープンテラス


この記事は弊誌月刊ゴルフ・エコノミック・ワールド(GEW)2021年7月号に掲載した記事をWeb用にアップしたものです。なお、記事内容は本誌掲載時のものであり、現況と異なる場合があります。

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ライター紹介 ライター一覧

小川朗

小川朗

山梨県甲府市生まれ。甲府一高→日大芸術卒。82年東スポ入社。「世界一速いゴルフ速報」の海外特派員として男女のメジャー大会など通算300試合以上を取材。同社で運動部長、文化部長、広告局長を歴任後独立。フリージャーナリストとして本誌を始め、日刊ゲンダイで「ホントにゴルフは面白い!」(毎週金曜日)を連載中。

終活ジャーナリストとして「みんなの介護」でも連載中。日本自殺予防学会会員。週刊誌、ニュースサイトなど各方面に執筆中。㈱清流舎代表取締役COO。東京運動記者クラブ会友。日本ゴルフジャーナリスト協会会長。

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