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ゴルフ場、農産物を作る

ゴルフ場 小川朗

シイタケ、バナナ、コーヒーに有機野菜…。ゴルフ場から農作物が出荷される時代がやってきている。松山シーサイドCC、ABCいすみGCではシイタケを栽培。鳳凰GCではバナナ、パイナップル、マンゴー、コーヒーなどを作っている。ブリック&ウッドCも関連施設で有機野菜を生産。津CCはクラインバルテン(共同農園)の設立を視野に入れている。

シイタケ、やがてはカブト虫も

原木シイタケ「べっぴんさん」(写真:松山シーサイドCC提供)

きっかけは、たまたま目に留まった新聞記事だった。そこには「シイタケ農家が激減」との活字が躍り、ショッキングな内容が書かれていた。

今から4年前の2018年。松山シーサイドCC(愛媛県今治市)の藤井より子専務は大きな悩みを抱えていた。「1977年のオープン時から、手つかずの飛び地があったのです。ここに9ホールをレイアウトする予定でしたが、18ホールのコースとの間にあるミカン畑を譲ってもらえず(飛び地になってしまい)27ホールへの拡張が難しかった。何かほかに活用できるものはないかと、頭を悩ませていたのです」。

遊休地の活用に迫られると同時に、閑散期となる冬場の余剰人員に対応する必要にも迫られていた。そんな時、藤井専務が手に取った新聞には県内でシイタケ農家が減り続けている理由として、生産者の高齢化が書かれていた。

「ふーん、シイタケか…。山あるし、木あるし、ウチできるやん。でも、シイタケって、いつ、どうやって作るんやろ」。

ゼロからのスタート。「日本きのこセンター」(鳥取)に問い合わせ大洲市の出先機関からスタッフに来てもらい、原木シイタケ栽培の指導を受けた。

コース内の約2000平米の土地に、ナラやブナの原木80トンが運び込まれた。「何もわからない中、一から教えていただいた。ドリルで穴開けて、トンカチで1個ずつ(菌を)植えていきました」。

シイタケ栽培の収穫繁忙期は11月から翌年4月と、ゴルフ場の閑散期とピッタリ合致する。人手が余っていた状況は一変した。スタッフが入れ代わり立ち代わり、シイタケ栽培の作業にやってくる。「人手には困りませんが、何しろ寒い時期の作業。苦労も多かったと思います」。

原木シイタケは3~6か月で収穫できる菌床シイタケと違い、収穫まで2年を要する。独自のブランド「べっぴんさん」は昨年に続き2シーズン目の収穫期を迎えた。

「今年は乾燥がひどく、必要な湿気が不足しているため今のところ去年の3分の1程度の量しか収穫できていません。自然を相手にする難しさを感じています。ただ、ここにきて雪と雨が降ったんで、これからに期待しています」(藤井専務)。

すでに500キロ収穫されている「べっぴんさん」のおいしさに、藤井さんも絶対の自信を持っている。「普通の菌床シイタケとは違います。生でトースターに入れて、バター焼きもおいしいですし、塩胡椒だけというのもおすすめです。うちのレストランではアヒージョ、肉詰めフライ、のほか、おでんにも入っています」。

乾燥、生の商品に加え、レトルトの製品も開発中で、3月の発売を目指しているという。

今年は福祉施設からも人手を借りるなど地元への貢献も確実に進みつつある。日陰で湿気の多い、シイタケが好む環境が、このゴルフ場にはタップリあった。

シイタケが育った後の、お楽しみもある。「すでに中がスカスカになった原木が増えてきました。これが土に帰ろうとするとき、カブトムシがやってきます。それも楽しみですね」。

シイタケとカブトムシ。2大人気土産が、ゴルフ場の集客にも貢献しそうだ。

実は関東にも、シイタケ栽培で入場者の支持を集めているゴルフ場がある。千葉県のABCいすみGCだ。

こちらは3番から4番に向かうインターバルの道路わきに、原木がズラリと並ぶ。「しいたけ街道」としてゴルファーには知られた存在だ。

ゴルフ場でバナナやコーヒー栽培

奥がバナナ、手前がコーヒー。このほかにもパイナップル、マンゴーなども栽培されている(写真:清流舎)

2年前にレタスの水耕栽培を始めて以来、大きく農産物の生産に舵を切ったゴルフ場が群馬にある。鳳凰ゴルフ俱楽部だ。

ここに一見、行政機関の農産物試験場かと思わせる、巨大なビニールハウスが建てられている。幅8メートル、奥行き45メートル、高さ6・5メートルの巨大なビニールハウス3棟が接続された姿は、非常に目立つ。

案内役の同コース農産事業部・中神洋二部長に促されてハウスの扉をくぐった瞬間、息をのんだ。目の前にあったのは、バナナの森。南国そのものの、密林が立ちはだかっていたからだ。

歩を進めながら天井を見上げると、この3棟に仕切りはなく、ハウス内に巨大な空間が広がっていることがわかる。

約1080平米に及ぶ敷地に120本のバナナのほか、コーヒー、パパイヤ、パイナップルの苗木がそれぞれ40本、マンゴー10本などが植えられていた。

バナナの葉の大きさにも圧倒される。「花をきれいに咲かせるために」と中神部長がバナナの葉を切ると、それ1枚で中神部長の体がすっぽり隠れてしまった。

このコースもご多分に漏れず、4年前に預託金の償還問題で民事再生の道を歩んだが、新たなスポンサーとなったのが砕石や産廃処理を手掛ける祥和コーポレーション。

中神部長は満面に笑みを浮かべてこう言った。

「この下に砕石をまず敷き詰めて土盛りして、植木屋さんが持ち込んだ生木や建築廃材をウッドチップにして撒いています。ウッドチッパーを持っているのは業者の強みです。育成のカギを握るのは水はけですが、土壌の状態は素晴らしいと思います。私の経験でもここまでの生育を示したことは初めてです」。

いよいよ出荷の日も近づいてきた「ほうおうバナナ」。

すでに南国ムードいっぱいのチラシも出来上がった。「コンペの賞品にもいい。レストラン、売店など売る場所があるのが強みです。バナナジュースもレストランや売店でもお出しします」と大澤順支配人も笑みを見せる。

グータッチする2人の笑顔が、「ほうおうバナナ」の快進撃を予感させた。

また三重の津カントリー倶楽部でもクラインバルテン(共同農園)の設立に向けて動き出している。「まだテスト段階での生産ですがコース内に会員制クラインガルテンを計画しています」(小島伸浩副社長)。

ゴルフ場は用意すべき土地が容易に調達でき、土壌の改良や植物の育成法などで農業に生かせる経験値が高い。SDGsの観点からも、ゴルフ場と農業は親和性が多い。

取材後記

あるキャンプ用品メーカーの関係者が「ゴルフ場は農薬を使っておりそれが漏れ出して周辺の農家に甚大な被害を与えている」としたり顔で語っていたという。このような説を唱える人がまだまだ多いという事実に、いまさらながら暗澹たる気持ちにさせられた▼本誌では2021年9月号で「全国1435か所のゴルフ場の農薬検査結果を発表、延べ3万8927検体で水濁指針値を超過した事例はなかった」という環境省のデータを記載している。もはやゴルフ場が周辺の農家に迷惑をかけるようなことがないことは、前出のデータの示す通りだ▼しかし、まだまだそうした事実が世間に浸透していないことを、冒頭の言葉が物語っている。同じ号で大西久光氏がゴルフ緑化促進会で大学に依頼して得た調査結果として「国内のゴルフ場森林が年間400万トン以上のCO2を吸収固定していることを明らかにしている。だがこの事実もまた「ほとんど知られていない」と大西氏自身が語っている▼ゴルフ場が生物多様性に満ちた空間になっていること。今やゴルフ場こそが、農作物を生産し、都市部における里山の役割も果たしている事実を、辛抱強く、持続的に訴え発信していくことが大事だ。


この記事は弊誌月刊ゴルフ・エコノミック・ワールド(GEW)2022年3月号に掲載した記事をWeb用にアップしたものです。なお、記事内容は本誌掲載時のものであり、現況と異なる場合があります。

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ライター紹介 ライター一覧

小川朗

小川朗

山梨県甲府市生まれ。甲府一高→日大芸術卒。82年東スポ入社。「世界一速いゴルフ速報」の海外特派員として男女のメジャー大会など通算300試合以上を取材。同社で運動部長、文化部長、広告局長を歴任後独立。フリージャーナリストとして本誌を始め、日刊ゲンダイで「ホントにゴルフは面白い!」(毎週金曜日)を連載中。

終活ジャーナリストとして「みんなの介護」でも連載中。日本自殺予防学会会員。週刊誌、ニュースサイトなど各方面に執筆中。㈱清流舎代表取締役COO。東京運動記者クラブ会友。日本ゴルフジャーナリスト協会会長。

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