2017年のゴルフ業界を振り返る。今年も色々なニュースがありました

2017年がそろそろ幕を閉じようとしている。
ゴルフ業界を騒然とさせたゴルフスタジアム問題は「被害者の会」が東京地裁に提訴して集団訴訟の幕を開けた。なぜプロ達は騙されたのか? アディダスがテーラーメイドを手放し分離・独立、ダンロップスポーツが住友ゴムへ吸収された。なぜ、クラブ長を46インチに規制するのか?「GBB EPIC」ロケットスタートの要因は?
ということを含めて、色々なニュースがあった今年のゴルフ業界を振り返る。
Contents
ダンロップ『ゼクシオ10』を発表
ダンロップが着目した芯食い体験とは
ダンロップスポーツは10月、シリーズ十代目となる『ゼクシオ10』の詳細を発表した。
キャッチフレーズは「芯食い体験」というもので、スイングとクラブの関係を研究した結果、ヒトはスイング中に遠心力で地面方向に引っ張られ、喉元のあたりに40㎏・fの負荷が掛ってしまう。この負荷を軽減すれば芯に当たる確率が高まり、そのためシャフトの手元側を柔らかく設計し、身体に巻き付くように振れることでナイスショットが増えるという。
ティーチングプロの永井延宏が解説する。
「ヒト、クラブ、スイングの関係は未知の部分が多かった。特に、スイング中のクラブと人間の関係は、柔道や相撲と似ていて、クラブが遠心力で外側に向かう力と、これに負けまいと頑張る人間の引っ張り合いみたいなやり取りがある。従来のティーチング理論はスイングプレーンやフェースコントロールに主眼が置かれ、この部分が見逃されてきた」
同氏によれば、今回の『ゼクシオ10』は双方の「やり取り」に注目したもので、頑張る力が減少する分、スイングの安定度が増すという。
ダンロップは反発エリアが34%広がったヘッドの効果と、打点のバラつきが28%減ったシャフトとの相乗効果で、ゴルファーが「芯食い感触」を得られる確率が前作の59%から73%に高まった主張。「芯食い確率」の上昇によって、平均飛距離は前作比で5.0ヤード伸びるという。
さらに詳しく↓
キャロウェイ『GBB EPIC』がロケットスタート
意表を突いた二本柱製造技術の飛躍的進歩
今年の春はキャロウェイゴルフの『GBB EPIC』が猛威を奮った。
フェース裏側の2本の柱を「監獄」(ジェイル)に見立て、「禁断のドライバー、解禁。」「ルールは破らない。常識を破る。」の文字を並べた。当時、快調に走っていたプロギアの『RS‐F』が高反発規制に抵触して回収となったが、その意味で「ルールは破らない」は挑戦的。
性能面では「初速」に特化したこともわかりやすかった。各社が訴求する反発係数はゴルファーの実感に乏しいが、初速は売り場の試打席で表示されるため、飛距離との因果関係を実感しやすい。
ティーチングプロ永井延宏が検証↓
ゴルフスタジアム問題
レッスンプロ数百名が破産?複雑な契約形態に翻弄
業界騒然ニュース「ゴルフスタジアム問題」は5月、「被害者の会」が東京地裁に提訴して集団訴訟の幕を開けた。
ゴルフ関連のIT事業を手掛けるゴルフスタジアムがレッスンプロや練習場向けにHPを制作・提供して、その後、数百万円のスイング診断ソフトを販売。ゴルフスタジアムが契約者のHPに広告費を支払ってソフト代金の返済を相殺するはずが、2月から広告が止まってしまい、当初は被害者1000人超、負債総額40億円規模と見られる前代未聞の大騒動が出来した。
ゴルフスタジアムの堀新(ほり・あらた)社長は我々の取材に対して、
「関係者に多大な迷惑をかけたことを深謝したい。ただ、信販会社と一体になって騙したという主張に対しては、そのようなことは絶対にありません。すべてはわたしの拡大主義が招いた結果です」
と話している。一連の「ゴルフスタジアム問題」は図らずも、業界関係者の契約意識の低さや社会常識の希薄さも浮き彫りにしたが、一方で、小口リース・ローン等に関わる巧妙な手口や「詐欺性」も解明されつつある。被害者が払った代償はあまりにも大きいが、今後への教訓としたい。
アディダスがテーラーメイドを売却
アディダスがテーラーメイド売却でゴルフ界の将来に黄信号
テーラーメイド・アディダスゴルフが10月、分離・独立を行った。今年5月、親会社のアディダスが、米ニューヨークの投資会社KPSキャピタルパートナーズに4億2500万ドル(約467億円)でテーラーメイドを売却し、10月を目処に分離する計画を発表した。
これによりテーラーメイドは投資会社傘下の独立事業体となり、ゴルフクラブとボール事業を中心に展開。アディダスゴルフはアディダス傘下でアパレル、シューズ、バッグ等の事業を継続することになった。事業再編についてテーラーメイド日本法人のマーク・シェルドン‐アレン社長は、
「各国の従業員は、9月末を目処にそれぞれの会社に残留もしくは転籍する形で進めました。また、倉庫、ITインフラ、カスタマーサービスなど共有していたアセットは、各国の事情に合わせて分離します」
日本では11月にアディダスゴルフが新オフィス(千代田区大手町)へ移転。2~3年後を目途にアディダスジャパンと合流する計画だ。
テーラーメイドの今後の事業像については、
「過去数年の事業再構築により、我々のビジネスはすべての品目で成長を加速できるポジションにあり、親会社のKPSとさらに強化していきます」
と話している。
住友ゴム工業がダンロップスポーツを統合
M&Aも視野に入れる
8月、住友ゴム工業がダンロップスポーツの統合を発表した。これによりダンロップ12月27日に上場廃止、来年1月1日に住友ゴムに吸収合併されるが、新体制では「スポーツ事業部」になるとみられる。
この報に接した業界関係者は一様に「なぜ?」と首を傾げたはずだ。同社はゴルフメーカーとして国内最大手であり、2003年7月に住友ゴムからSRIスポーツに分離・独立して以降、順調な歩みをみせてきたからだ。2006年10月には東証一部へ上場し、住友ゴムから60.38%の出資があったものの、独自の資金調達と独立性でフィットネス事業の買収など業容の拡大も遂げてきた。
「なぜ?」について、住友ゴムの池田育嗣社長はこう話す。
「戦略の詳細は詰めますが、従来はスポーツはスポーツ、タイヤはタイヤで分かれていた。統合で両社を有効に絡ませることでシナジーを生み出し、そのスピードを速めたい」
事業統合の背景には今年4月、スポーツ分野で『ダンロップ』の商標を全世界で使える権利を得たことも大きかった。これまで同商標のスポーツ用品は、販売を日本、韓国、台湾に制限される「日韓台条約」があったのだが、これが外れたことで世界展開できるようになった。
また、池田社長は住友ゴムの資金力や基礎開発力をスポーツ用品に直接投じることで、既存のゴルフ・テニス事業だけではなく、対応領域を広げる考えもある。住友ゴムは医療部品も手掛けることから、障害者スポーツの義足などに「ダンロップ」製品を投入する可能性も。ダンロップの木滑和生社長は、
「イメージ的にはそういったことです」
と、商域の拡大を肯定している。池田社長が強調する「シナジー効果」の本意は、このあたりにありそうだ。M&Aを含め拡大路線に転じるが、ナイキ、アディダスとのコントラストが興味深い。
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